俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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67・初冬のあれこれ

第200話 雪が降ってきた

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 エリィのお見合い、成る!!
 このニュースは、冒険者ギルド下町支部を駆け巡った。
 みんな娯楽に飢えているからね。
 他人のゴシップってのは大変好まれるのだ。

 だが!
 僕としては全然盛り上がる話題ではない!!

 他人の色恋の話で腹は膨れないのだ。

「エリィのお見合いの席で出た料理がさ、全部知ってる料理で」

「ふーん」

 ギルド内の酒場で、僕の話に相槌を打つリップル。
 本日マスターが作ったケーキは、果実酒を染み込ませたドライフルーツたっぷりのパウンドケーキだ。
 大人の味である。

 この世界、マスターに限りケーキのレベルが日本と遜色ない気がする。
 何気にこのマスター、スイーツのチートなのではないか。

「む? なんで君がエリィのお見合いの席で出た料理のことを知っているんだい……?」

「僕の友人がエリィの旦那になる男だからだ……。シャザクだよ」

「あ、彼かあ。世界は狭いな……。ケーキ美味しい」

「本当に美味い。甘さとお酒のほろ苦さに、果実酒の香りが物凄い。これレベル高いよ」

「喜んでもらえて何よりですよ」

 マスターがニヤリと笑った。
 僕とリップルのケーキ食レポを聞いて、ギルドの女性職員たちがプルプル震え始めた。
 食べたいんだな……!
 だが、休憩時間までダメだからね。

「大人の味だね。だがしっかりと甘い……。口の中いっぱいに広がったケーキの味をお茶で中和する……今日のお茶も美味しいねえ」

「マスター、酒は全くやる気ないのに異常にお茶淹れるの美味いよね」

「日々鍛錬を積んでますからね」

 普通にアーランで一番美味しいケーキと美味しいお茶がここにある……。
 なんだこのマスター。
 なんで冒険者ギルドで酒場なんかやってるんだ……!?

「それでナザル。エリィ嬢が結婚するとして、君はなんとも思わないのかい? 仮にも君にモーションを掛けてきた女性じゃないか」

「いやあ、若者は若者同士仲良くしてもらうのが一番いいよねえ」

「ああ、そういうスタンスねえ……ふんふん、エリィ嬢かわいそうになあ」

 何がかわいそうなんだ。
 そんな話をしていたら、昼休憩の時間になったようだ。
 女性職員たちが一斉に立ち上がった。

 総勢五名!
 すごい勢いで酒場のカウンターに並ぶ。

「マスター!」「パウンドケーキ!」「私も!」「お茶もちょうだい!」「お砂糖たっぷり!!」

 鬼気迫るとはこのことであろう。
 座ろうとしていた男性冒険者が圧倒され、すごすごと立ち去っていく……。

「あっ、僕はもう出るからここに座ってくれ」

「いいの? ありがとう! 俺甘いもの好きなんだよね……」

 いそいそと空いた席に座る冒険者なのだった。
 ということで、外に出た僕。

 本日は空全体を覆う真っ白な雲。
 薄暗いわけでもなく、曇っているのに明るい……と思ったら。

 はらはら~っと白いものが降ってくる。

「おっ!」

 空を見上げると、僕の顔めがけていくつも落ちてくる。
 雪だ。
 アーランに本格的に冬がやって来たのだ。

「温かいものが美味しくなる季節だなあ……」

 街を行く間にも、雪は少しずつ勢いを増して降ってくるのだった。
 これは、明日には街は真っ白になってしまうことだろう。

 商業地区の辺りで、子どもたちが作業の手を休めて歓声をあげている。
 この世界だと、子どもも労働力だ。
 日本なら小学校に上がれるくらいの年齢なら、それなりに仕事ができるものとして軽作業を任されるのだ。

 だが今日ばかりは、降ってくる雪の前ではしゃぐ彼らを、大人たちは許してあげることにしたようだ。
 アーランは去年と比べて、精神的に余裕が出てきたような気がするな。
 あれか。美味しいものが街に満ちたからか。

 たくさんのグルメを得たアーランだったが、屋台や食堂はそんなに多くのメニューを常に準備することなど出来ない。
 必然的に、そこの店主が得意とする数種類のメニューに収斂していくのだが。

 これがもう、いい感じでバラけたのだ。
 毎日、どの屋台か、どの食堂か。
 どこで食事をするか選ぶのが楽しい。

「なにっ、雪か!? よっしゃ、じゃあスープを仕込まにゃならんな!!」

「うちのスープはにんにく効かせてあるからあったまるよー!!」

「なんの、うちは味噌だ! 寒い日はしょっぱいものに限るぜー!!」

 屋台の主人たちが争うように、寒い日用のメニューにし始めている。
 いいねいいね。
 コゲタを連れ出して、二人でどこのスープにするか迷うのもいい。

 あちらこちらから、美味しそうな匂いが漂い始めた。
 この時間から、たっぷりとスープを仕込んでおくんだろう。

 スープと言うか、アーランの汁物は既に鍋料理みたいなものだ。
 ちょっと前のカッスカスな野菜スープが嘘みたいに、具沢山でお腹の膨れるスープが当たり前になっている。

「味噌もいいな……。だがにんにくも……」

 ぶつぶつ言いながら帰宅なのだ。
 そうしたら、コゲタとアララちゃんが宿の外に出て、二人で空を見上げていた。

「おーい、二人ともー」

「あっ、ごしゅじーん!」

「コゲタのご主人!」

 わーっと手を振る二人。
 どうやら、降ってくる雪を口を開けて受け止めていたらしい。
 近くの軒下では飼い主氏とおかみさんがニコニコしている。

 コボルドを愛する二人だ。

「雪が降ってきて、あちこちでスープの用意をし始めた。客の取り合いで、今日は豪勢なのが出るぞ! 一緒に行かないか?」

「なるほど、それは楽しみだなあ」

「コゲタいく!」

「アララもいく!」

 ということで。
 夕方は、四人で体の温まるものでも食べに行こう。

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