198 / 337
67・初冬のあれこれ
第198話 キノコがこっちまで来た
しおりを挟む
かなり肌寒くなってきて、いよいよ冬だなあと思う頃合いになってきた。
アーランは普通に雪が降る。
街が真っ白に染まると、かなり綺麗なんだよね。
で、コゲタが喜ぶ。
いいことだ!
そして初冬と言える頃合いのアーランに、新たな食べ物がやって来た。
キノコである……!!
瓶詰めになったキノコ、乾物になったキノコ、様々なキノコが来た。
瓶詰めキノコは中の時間を止めてあるような状態なので、まあまあ美味いキノコが食べられる。
乾物は戻す過程で凄まじい量の旨味を吐き出すので、色々な料理に使えるだろう。
僕がいた時には乾物キノコの話は出てなかったと思うから、これは恐らく後から発見したのだろうな。
間違いない輸出品だ。
瓶詰めキノコはそのままスープの具材として流行り、あるいは僕がざく切りにしたものをかき揚げにしたメニューを巷に流したので、サクサクほくほくのキノコ天ぷらが大流行した。
いいことだ。
そしてそんな事をしていると、お呼びが掛かるのである。
今僕は、第二王子殿下の家に来ている……!
「キノコのかき揚げ、美味いね!」「殿下もべた褒めだったよ!」「だが殿下は、ナザルならではの工夫が食べてみたいと仰ってるんだ」「無茶振りだと思うが……やれる?」
シェフたちが心配してくる。
「ははは、任せてくれ。かき揚げは何と合うと思う? 麺類だよ……!!」
僕は蕎麦切りを茹でて、醤油だしを作った。
そしてキノコのかき揚げを別皿で用意する。
「別皿で……!? いや、確かに載せたらふやけてしまうが」「何を企んでいるんだ……」
「これは、そのまま食べてよし、載せてふやかしてよし、蕎麦と一緒に頬張ってよしという組み合わせで……」
「なるほどー!!」
シェフたちにはご納得いただけたようだ。
無論、デュオス殿下も大いに気に入って下さった。
「塩味と旨味のあるスープが、油を帯びてなんとも言えぬ美味さになっている! そして蕎麦切りとキノコのかき揚げの組み合わせがまた堪らん……! サクサクで食べてもいいし、ふやかしてつゆを吸わせても美味い! キノコそのものの滋味も深い……。これはいいな。体が温まる……」
にっこり殿下。
良かった良かった。
奥方も大いに気に入ってくださったのだった。
なお、育ち盛りのお嬢さんは別メニューで、フレンチトーストにベーコンとチーズをたっぷり挟んだやつを出した。
むちゃくちゃ喜んでくれた。
「普段食べているパンがこんなに美味しくなるの!? あーん、これスキスキ! 私ずっとこれだけ食べる~!!」
パンとバターと卵とチーズ、ベーコン。
既にこの屋敷で使われている食材を、普段とは違う組み合わせにすることで生まれるメニューだ。
こってり大好きな若者には最高でしょうねえ……。
こうして、僕はまた第二王子の信頼を得て、出資を受けることができるのだった。
殿下たちの部屋から出てきた僕を、シェフが迎えてくれる。
「やったな!」「常勝じゃないか……」「割と今あるメニューの組み合わせの違いで作れるものばかりだから助かる」「毎日食べるものが違うなんて、本当に凄い時代になったもんだ」
うんうん、アーランは一昨年までは食にそこまで興味がなかったから、ずっと同じものばかり食ってたんだよな。
パンと野菜のスープと、ゆで卵とかチーズとか。
乳製品はそこまで一般的ではなかったから、本当に食生活が貧しかった。
あ、ちょこちょこ魚は出たな。
干し魚だが。
あの灰色の食生活がまるで遠い昔のようだ。
入口近くに設けられた部屋では、シャザクがコゲタとお喋りしていた。
いつも世話を任せてしまってすまんね。
「いや、気にするな。しかし話す度にコゲタは賢くなっていくな。ナザルの知識を吸収していっているようだ。そろそろコボルドとしても成人なのだろう?」
「多分。背もちょっと伸びてるし。なーコゲタ」
「コゲタ、ちょびっとおおきくなった!」
「いいものだなあ。私もコボルドを飼うかなあ……。こう、ともに生きて成長を喜びたい」
「シャザクは普通に結婚して子どもを持ったらどうだ……?」
「うーむ……! 親族から勧められて見合いはしているのだが……」
していたのか!
ちなみに、シャザクとコゲタがいた部屋は、実はコゲタのために設けられた待合室なのである。
玄関の一角だったところに壁を作り、絨毯を敷いて椅子と明かりを取り付けてある。
うーん、僕の特別扱いが分かる!
王族の屋敷にコボルド待機室を作らせてしまうとは。
「ナザル、今度アドバイスをしてくれ。私は男爵ではあるのだが、領地を持たない文官貴族だ。結婚によって己の立場を強めていく形になるのだが……」
「ふむふむ」
「とある有力な商人の娘との見合いに望むことになっている」
「ほうほう」
「今、商人たちの間で名を挙げている君の友として、名を貸して欲しい」
「僕の友人ということで箔をつけてお見合いを有利に進めるんだな? いいぞいいぞ。幾らでも名前を貸そう。そしてアドバイスとは」
「女性はどういう話題で盛り上がるのだろうな」
「それは僕に聞くな」
全く分からん。
だが、今度シャザクの見合いについていくことになったのだった。
成り行きで話がどんどん転がっていくな……。
まあ、彼はコボルドを飼うよりは家庭を持つほうが良かろう……!
そして我が子の成長を楽しむのだ。
アーランは普通に雪が降る。
街が真っ白に染まると、かなり綺麗なんだよね。
で、コゲタが喜ぶ。
いいことだ!
そして初冬と言える頃合いのアーランに、新たな食べ物がやって来た。
キノコである……!!
瓶詰めになったキノコ、乾物になったキノコ、様々なキノコが来た。
瓶詰めキノコは中の時間を止めてあるような状態なので、まあまあ美味いキノコが食べられる。
乾物は戻す過程で凄まじい量の旨味を吐き出すので、色々な料理に使えるだろう。
僕がいた時には乾物キノコの話は出てなかったと思うから、これは恐らく後から発見したのだろうな。
間違いない輸出品だ。
瓶詰めキノコはそのままスープの具材として流行り、あるいは僕がざく切りにしたものをかき揚げにしたメニューを巷に流したので、サクサクほくほくのキノコ天ぷらが大流行した。
いいことだ。
そしてそんな事をしていると、お呼びが掛かるのである。
今僕は、第二王子殿下の家に来ている……!
「キノコのかき揚げ、美味いね!」「殿下もべた褒めだったよ!」「だが殿下は、ナザルならではの工夫が食べてみたいと仰ってるんだ」「無茶振りだと思うが……やれる?」
シェフたちが心配してくる。
「ははは、任せてくれ。かき揚げは何と合うと思う? 麺類だよ……!!」
僕は蕎麦切りを茹でて、醤油だしを作った。
そしてキノコのかき揚げを別皿で用意する。
「別皿で……!? いや、確かに載せたらふやけてしまうが」「何を企んでいるんだ……」
「これは、そのまま食べてよし、載せてふやかしてよし、蕎麦と一緒に頬張ってよしという組み合わせで……」
「なるほどー!!」
シェフたちにはご納得いただけたようだ。
無論、デュオス殿下も大いに気に入って下さった。
「塩味と旨味のあるスープが、油を帯びてなんとも言えぬ美味さになっている! そして蕎麦切りとキノコのかき揚げの組み合わせがまた堪らん……! サクサクで食べてもいいし、ふやかしてつゆを吸わせても美味い! キノコそのものの滋味も深い……。これはいいな。体が温まる……」
にっこり殿下。
良かった良かった。
奥方も大いに気に入ってくださったのだった。
なお、育ち盛りのお嬢さんは別メニューで、フレンチトーストにベーコンとチーズをたっぷり挟んだやつを出した。
むちゃくちゃ喜んでくれた。
「普段食べているパンがこんなに美味しくなるの!? あーん、これスキスキ! 私ずっとこれだけ食べる~!!」
パンとバターと卵とチーズ、ベーコン。
既にこの屋敷で使われている食材を、普段とは違う組み合わせにすることで生まれるメニューだ。
こってり大好きな若者には最高でしょうねえ……。
こうして、僕はまた第二王子の信頼を得て、出資を受けることができるのだった。
殿下たちの部屋から出てきた僕を、シェフが迎えてくれる。
「やったな!」「常勝じゃないか……」「割と今あるメニューの組み合わせの違いで作れるものばかりだから助かる」「毎日食べるものが違うなんて、本当に凄い時代になったもんだ」
うんうん、アーランは一昨年までは食にそこまで興味がなかったから、ずっと同じものばかり食ってたんだよな。
パンと野菜のスープと、ゆで卵とかチーズとか。
乳製品はそこまで一般的ではなかったから、本当に食生活が貧しかった。
あ、ちょこちょこ魚は出たな。
干し魚だが。
あの灰色の食生活がまるで遠い昔のようだ。
入口近くに設けられた部屋では、シャザクがコゲタとお喋りしていた。
いつも世話を任せてしまってすまんね。
「いや、気にするな。しかし話す度にコゲタは賢くなっていくな。ナザルの知識を吸収していっているようだ。そろそろコボルドとしても成人なのだろう?」
「多分。背もちょっと伸びてるし。なーコゲタ」
「コゲタ、ちょびっとおおきくなった!」
「いいものだなあ。私もコボルドを飼うかなあ……。こう、ともに生きて成長を喜びたい」
「シャザクは普通に結婚して子どもを持ったらどうだ……?」
「うーむ……! 親族から勧められて見合いはしているのだが……」
していたのか!
ちなみに、シャザクとコゲタがいた部屋は、実はコゲタのために設けられた待合室なのである。
玄関の一角だったところに壁を作り、絨毯を敷いて椅子と明かりを取り付けてある。
うーん、僕の特別扱いが分かる!
王族の屋敷にコボルド待機室を作らせてしまうとは。
「ナザル、今度アドバイスをしてくれ。私は男爵ではあるのだが、領地を持たない文官貴族だ。結婚によって己の立場を強めていく形になるのだが……」
「ふむふむ」
「とある有力な商人の娘との見合いに望むことになっている」
「ほうほう」
「今、商人たちの間で名を挙げている君の友として、名を貸して欲しい」
「僕の友人ということで箔をつけてお見合いを有利に進めるんだな? いいぞいいぞ。幾らでも名前を貸そう。そしてアドバイスとは」
「女性はどういう話題で盛り上がるのだろうな」
「それは僕に聞くな」
全く分からん。
だが、今度シャザクの見合いについていくことになったのだった。
成り行きで話がどんどん転がっていくな……。
まあ、彼はコボルドを飼うよりは家庭を持つほうが良かろう……!
そして我が子の成長を楽しむのだ。
42
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある
セントクリストファー・マリア
ファンタジー
日本の東京に店を構える老舗のラーメン屋「聖龍軒」と、ファルスカ王国の巨大ダンジョン「ダルゴニア」の地下第7階層は、一枚の扉で繋がっていた。


どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「異世界に転生してくれぇえええええええええ!」
事故で命を落としたアラサー社畜の俺は、真っ白な空間で謎の老人に土下座されていた。何でも老人は異世界の賢者で、自分の後継者になれそうな人間を死後千年も待ち続けていたらしい。
賢者の使命を代理で果たせばその後の人生は自由にしていいと言われ、人生に未練があった俺は、賢者の望み通り転生することに。
読めば賢者の力をそのまま使える魔導書を五冊もらい、俺は異世界へと降り立った。そしてすぐに気付く。この魔導書、一冊だけでも読めば人外クラスの強さを得られてしまう代物だったのだ。
賢者の友人だというもふもふフェニックスを案内役に、五冊のチート魔導書を携えて俺は異世界生活を始める。
ーーーーーー
ーーー
※基本的に毎日正午ごろに一話更新の予定ですが、気まぐれで更新量が増えることがあります。その際はタイトルでお知らせします……忘れてなければ。
※2023.9.30追記:HOTランキングに掲載されました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます!
※2023.10.8追記:皆様のおかげでHOTランキング一位になりました! ご愛読感謝!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる