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66・一杯引っ掛けながら南国談義
第197話 南の島到達計画
しおりを挟む「これを見てくれ。なに? 酒で酔って頭が回らない? ギルボウ、果汁を絞ってくれ! 酔醒ましだ!」
「よしきた!」
大変酸っぱい果汁が絞られたカップが出てきた。
ちなみにこれ一杯でもいいお値段がするものだぞ。
船主にグーッと飲んでもらう。
「ウグワーッ!! す、酸っぱいーっ!!」
ぎゅーっと顔をしかめてじたばたする船主だった。
だが、果汁パワーは凄い。
酒で真っ赤だった顔からスーッと血の気が引いていった。
「おお、頭がスッキリする……」
「なんかよく分からないが、アルコールを狙い撃ちにして分解する果汁だ。こいつで果実酒は作れないだろうな……」
「実は結構な魔力を含んだ果実なんだよ。ラムイというんだけど」
「ライムみたいだな……」
「お酒に絞り入れて爽やかな香りにしようとした人がいてね。その人物のお酒がただのお酒味の清涼な飲料水になってから、ラムイの魔力が明らかになったんだ。常時、アンチドランクの魔法が掛かっている」
リップル、知っていたのか……!
高価な果実だが、貴族や大商人などはこれをギリギリのところで飲んで酔いを醒ますものらしい。
なるほどなあ。
「では話は戻るがこいつを見てくれ、船主」
「なんだなんだ? 本……!? その装丁、恐ろしく高価なものなんじゃないか?」
そう、この世界の本は高い。
三冊で家が建つぞ。
現代日本の価値にすると、一般的な家一件が五百万くらいで建つから……。
普通の本は一冊二百万弱といったところだろうか。
ハードカバーが当然で、一冊オリジナルを作ったら、写本師たちがこれを量産する。
そんな量産型で二百万弱なんだから、恐らくオンリーワンである古代魔法王国時代のこの一冊はとんでもないことになるだろう。
「幾らくらい?」
リップルに聞いてみたら、彼女は首をひねった。
「オリジナルの本が家二軒分くらいの価格だから」
一千万円ね。
「その十倍くらいかなあ」
一億円ね。
一億!?
「な、なあナザル。この本を譲ってもらうわけには……」
いかん!
中身に触れる前に、本そのものの価値で船主の目がお金マークになっている!!
「これは理由があってね……。持ち主は国なんだ」
「なんだって!? じゃ、じゃあ国宝なんじゃないか……。汚さないようにしないとな……」
「あっ、じゅーす!」
コゲタが果汁を受け取ってからよろけた。
ジュースの雫が飛ぶ!
「う、うわーっ!!」「うおわーっ!!」
僕と船主で、大慌てで本をかばった。
一億円の本だぞ……。
汚すなんてとんでもない。
「ま、まあいい。船主、ちょっとめくってもらっていいだろうか。これは、垂れ耳コボルドが住む島の記録なんだが……。ここにお米も同時に存在しているようなんだ」
「米……? 確かに、そのままで粥にして食べる作物を育てている民がいたな。グラスマンと我々は呼んだが」
「ほうほう……。コボルド以外にも現地の人間がいるんだな。コボルドは、芋を使ってパンを作っているらしい」
「芋でパン……!? あ、ああ! 確かにあの島に立ち寄った時、グラスマンと物々交換でやり取りをしたんだった! そこで芋のパンをもらった。旅の途中で食べてしまったが、パンなのにずっしりと腹に溜まって……実にうまかった!」
いいなあ!
「ナザル、あの島に行きたいのか……?」
「私もだぞ」
「むむむっ、ほうほう……。男ばかりの船にうら若い乙女が乗るのは」
「乙女!? ふふふふ、身の危険かな」
リップルがなんかご機嫌になり始めたぞ!
まあ、ここで彼女の嬉しみに水を差す必要はあるまい。
「お嬢さんは僕の連れなので、僕が守ろう。船賃は払う。連れて行ってもらえないか?」
「それは構わないが……。普通の冒険者からすると、目玉の飛び出るような値段になるぞ?」
「ふふふ……。僕は今、このアーランに流通する美食のための食材の卸をやっていてね……。ここまで出せる」
「な、なにーっ!? サウザンド大陸まで行ける金額ではないか。船員たちの給料にも十分だ……。よし」
すぐに船主は頷いた。
決裁権を持っている人だから、決断してしまえば話が早い。
「これだけの大金を使って何をしようというのか、なんていうのは愚問だな。ナザル、あんたは新しい食材を持ち帰り、アーランをさらなる美食の都に変えようというんだな」
「その通りだ。手を貸して欲しい!」
「なるほど……。その生涯を美食のために捧げる男……。アーランに現れた、美食の革命児……! 噂通りの傑物……!!」
なんだなんだ、その呼び名は。
「君、知らないのか。世の中では君が神格化されていっているぞ」
リップルまでとんでもないことを言う!
やめてくれやめてくれ、僕はただ、美味しいものが食べたいだけなのだ!
だが、このネームバリューがあるからこそ色々な取引が上手くいくのならば利用しない理由はない。
船主が僕の要望をすぐ受け入れてくれたのも、世の中に流れる僕の噂があるのかも知れないからな。
「ご主人、おふねのるの? コゲタも?」
「もちろん! 海は広いぞ、大きいぞー」
「おふねたのしみねー!」
「ダイフク氏もいるからな」
「おさかなも!」
コゲタの中で、ダイフク氏は完全におさかなということになってしまったな。
こうして、僕は大いなる目的へ向かう、着実な一歩を踏みしめることができたのだった。
大いなる目的……米の飯だよ!
「よしきた!」
大変酸っぱい果汁が絞られたカップが出てきた。
ちなみにこれ一杯でもいいお値段がするものだぞ。
船主にグーッと飲んでもらう。
「ウグワーッ!! す、酸っぱいーっ!!」
ぎゅーっと顔をしかめてじたばたする船主だった。
だが、果汁パワーは凄い。
酒で真っ赤だった顔からスーッと血の気が引いていった。
「おお、頭がスッキリする……」
「なんかよく分からないが、アルコールを狙い撃ちにして分解する果汁だ。こいつで果実酒は作れないだろうな……」
「実は結構な魔力を含んだ果実なんだよ。ラムイというんだけど」
「ライムみたいだな……」
「お酒に絞り入れて爽やかな香りにしようとした人がいてね。その人物のお酒がただのお酒味の清涼な飲料水になってから、ラムイの魔力が明らかになったんだ。常時、アンチドランクの魔法が掛かっている」
リップル、知っていたのか……!
高価な果実だが、貴族や大商人などはこれをギリギリのところで飲んで酔いを醒ますものらしい。
なるほどなあ。
「では話は戻るがこいつを見てくれ、船主」
「なんだなんだ? 本……!? その装丁、恐ろしく高価なものなんじゃないか?」
そう、この世界の本は高い。
三冊で家が建つぞ。
現代日本の価値にすると、一般的な家一件が五百万くらいで建つから……。
普通の本は一冊二百万弱といったところだろうか。
ハードカバーが当然で、一冊オリジナルを作ったら、写本師たちがこれを量産する。
そんな量産型で二百万弱なんだから、恐らくオンリーワンである古代魔法王国時代のこの一冊はとんでもないことになるだろう。
「幾らくらい?」
リップルに聞いてみたら、彼女は首をひねった。
「オリジナルの本が家二軒分くらいの価格だから」
一千万円ね。
「その十倍くらいかなあ」
一億円ね。
一億!?
「な、なあナザル。この本を譲ってもらうわけには……」
いかん!
中身に触れる前に、本そのものの価値で船主の目がお金マークになっている!!
「これは理由があってね……。持ち主は国なんだ」
「なんだって!? じゃ、じゃあ国宝なんじゃないか……。汚さないようにしないとな……」
「あっ、じゅーす!」
コゲタが果汁を受け取ってからよろけた。
ジュースの雫が飛ぶ!
「う、うわーっ!!」「うおわーっ!!」
僕と船主で、大慌てで本をかばった。
一億円の本だぞ……。
汚すなんてとんでもない。
「ま、まあいい。船主、ちょっとめくってもらっていいだろうか。これは、垂れ耳コボルドが住む島の記録なんだが……。ここにお米も同時に存在しているようなんだ」
「米……? 確かに、そのままで粥にして食べる作物を育てている民がいたな。グラスマンと我々は呼んだが」
「ほうほう……。コボルド以外にも現地の人間がいるんだな。コボルドは、芋を使ってパンを作っているらしい」
「芋でパン……!? あ、ああ! 確かにあの島に立ち寄った時、グラスマンと物々交換でやり取りをしたんだった! そこで芋のパンをもらった。旅の途中で食べてしまったが、パンなのにずっしりと腹に溜まって……実にうまかった!」
いいなあ!
「ナザル、あの島に行きたいのか……?」
「私もだぞ」
「むむむっ、ほうほう……。男ばかりの船にうら若い乙女が乗るのは」
「乙女!? ふふふふ、身の危険かな」
リップルがなんかご機嫌になり始めたぞ!
まあ、ここで彼女の嬉しみに水を差す必要はあるまい。
「お嬢さんは僕の連れなので、僕が守ろう。船賃は払う。連れて行ってもらえないか?」
「それは構わないが……。普通の冒険者からすると、目玉の飛び出るような値段になるぞ?」
「ふふふ……。僕は今、このアーランに流通する美食のための食材の卸をやっていてね……。ここまで出せる」
「な、なにーっ!? サウザンド大陸まで行ける金額ではないか。船員たちの給料にも十分だ……。よし」
すぐに船主は頷いた。
決裁権を持っている人だから、決断してしまえば話が早い。
「これだけの大金を使って何をしようというのか、なんていうのは愚問だな。ナザル、あんたは新しい食材を持ち帰り、アーランをさらなる美食の都に変えようというんだな」
「その通りだ。手を貸して欲しい!」
「なるほど……。その生涯を美食のために捧げる男……。アーランに現れた、美食の革命児……! 噂通りの傑物……!!」
なんだなんだ、その呼び名は。
「君、知らないのか。世の中では君が神格化されていっているぞ」
リップルまでとんでもないことを言う!
やめてくれやめてくれ、僕はただ、美味しいものが食べたいだけなのだ!
だが、このネームバリューがあるからこそ色々な取引が上手くいくのならば利用しない理由はない。
船主が僕の要望をすぐ受け入れてくれたのも、世の中に流れる僕の噂があるのかも知れないからな。
「ご主人、おふねのるの? コゲタも?」
「もちろん! 海は広いぞ、大きいぞー」
「おふねたのしみねー!」
「ダイフク氏もいるからな」
「おさかなも!」
コゲタの中で、ダイフク氏は完全におさかなということになってしまったな。
こうして、僕は大いなる目的へ向かう、着実な一歩を踏みしめることができたのだった。
大いなる目的……米の飯だよ!
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