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66・一杯引っ掛けながら南国談義
第195話 肌寒くなってきました
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書物は手に入れたものの、これをあからさまにしてしまえば、勝手に僕らが第四層を攻略したことがバレてしまう。
ということで、機会を伺う日々が続いた。
船主も捕まらなかったしね。
彼はとにかく忙しい。
航海の計画を立て、新しい船乗りを募集し、パトロンになってくれる商人や貴族たちのもとに顔を出し、夜はパーティに出て顔を売り……。
「なかなか捕まらないうちに、冬が見えてきたね」
「そうだねえ……。おお寒い寒い」
リップルが厚着になっている。
「ナザルさん、先日の公式任務はご苦労さまでした。少し色がついた報酬が出ましたので……」
エリィがやって来て、僕に報酬の入った袋を手渡した。
むむ?
なんか妙にめかしこんでいるような。
「エリィ、おしゃれしてない?」
「分かります? これから親の決めたお見合いなんです」
「ほほー!」
「ほー!」
「おみあいー?」
僕とリップルが思わず声を上げ、その場にいたコゲタは首を傾げた。
「どこかの誰かさんがどれだけモーションをかけても全然反応しないんで、もうこのままだと私が行き遅れちゃう! と両親が心配したんです。あーあ、どこかの誰かさんが女心を分からないばかりに」
ぷいっと行ってしまった。
いやあ、良縁に恵まれるといいねえ。
「その表情を見ているとナザル、全く残念に思っていないね?」
「もちろん。僕にとってエリィはまだまだ年若い子どもみたいなもんだ」
「分かるなあ。そして私から見てもナザルはちょっと年下の男の子みたいなものだ」
「おや? リップルと僕は恐ろしく年齢が離れているはずだが……」
と言ったら小突かれた。
「君の記憶の年齢だよ。それを合わせると、私と二十年とちょっとくらいしか違わないだろう」
「ご明察で……」
そこまで僕の前世を推理しきっていたのか。
本当に頭がキレる人ではあるんだよなあ。
「ねえねえご主人ー! りっぷるー! おみあいーってなーに!」
コゲタがわあわあ騒ぎ出した。
最近、知識欲が旺盛なんだよな。
「お見合いっていうのはね。結婚適齢期になった男女が親や上司に紹介されて、結婚を前提にして会食をしたりすることだよ」
「けっこん、コゲタわかる!」
おっ、知ってる単語が出てきたから、ニコニコになったな。
冬が近づくコゲタは、冬毛に生え変わりつつある。
もこもこコゲタの季節だぞ。
まあ、もこもこの上から、もこもこのコートを着せちゃうわけだが。
そんな風にお喋りしていたら、若い冒険者がこっちに走ってきた。
僕が雇って、船主の動向を監視してもらってる若手だ。
「ナザルさん! 船主、今日はやっとオフらしいです!」
「お! でかした! はい、これ今日の御駄賃」
「あざっす!!」
お金を握りしめて、若手冒険者はホクホクで走り去っていった。
「よし、じゃあ行こう」
「そうだね。どこに彼を連れて行くんだい?」
「行くとなれば、ギルボウの店だろ」
「間違いないね」
「ぎるぼうのごはんすきー!」
うんうん、ギルボウはコゲタにも食べやすい料理を作ってくれるもんな。
僕らは港に向かい、船の中にいた船主にようやく接触できたのだった。
「純粋に飯を奢りますよ」
「本当か!? 貴族や商人たちのやたら豪華な食事には飽きてきていたところなんだ……。あれ、連日食べてたら体に悪いよ」
顔をしかめる船主。
贅沢もやり続けると飽き飽きしちゃうもんな。
そして、上流向けの食事にアーランの美食の真髄は無いぞ。
これからそれを思い知らせてやろう……!
すっかり風が冷たくなった中、僕らは下町に向かった。
寒くなってくると、この辺りにたむろしてる怪しい連中も少なくなってくる。
家の中に閉じこもっているんだろう。
仕事もせずにうだうだしている連中は、暑さと寒さに弱い根性なしなのである!
ということで、気候が厳しくなるほど安全になる下町。
皮肉なものである。
おお、ギルボウの店は日が落ちても、煌々と明かりがついている。
「あそこが? 下町の普通の食堂に見えるが……」
「アーランで、食堂を見た目で判断すると損をしますよ。あれは……アーランで一番美味いものを食わせてくれる店です」
一切の誇張なしで断言できる。
「そんな……! 下町にそれほどの店が!?」
「ああ。ギルボウの店が出す料理の美味さについては、私も一押しだよ。何せ、アーランで流行る新しい美食は、ギルボウの店から始まると言われているんだ」
「なんだって!? そ、そんな凄い店なのか!!」
「コゲタがね! おいしーっておもうごはんたくさんだしてくれるの!」
「人間だけではなくコボルドも満足させる料理を!?」
コゲタの話もちゃんと聞いてくれて、いい人だなあ船主。
だが、本当の本当に、贅沢に飽き飽きしていたらしい。
下町で、アーランの美食の原点に触れるというフレーズに、彼はワクワクが止まらなくなったようだった。
この四人で、店の扉を開く。
「ギルボウ! 四人なんだがいいかい?」
「おお、ナザルじゃねえか! 久々だな。そうだな……。おい、お前ら、もう何も注文しないで一時間も駄弁ってるだろ。帰れ帰れ! 金を置いて帰れ!」
常連っぽいおっさんたちがブウブウ言いながら帰っていった。
空いた器などを、店員の兄ちゃんが回収してテーブルを拭く。
この店、ギルボウ以外に店員がいたんだな……。
「空いたぜ。で、注文は?」
「そうだな……。仕事でさんざん贅沢をせざるをえず、豪華な飯に飽きてしまった御仁に飯の美味さを再認識させる料理で頼む」
「よしきた。だったら素材の味でシンプルに行かねえとな!」
ギルボウがニヤリと笑ったのだった。
ということで、機会を伺う日々が続いた。
船主も捕まらなかったしね。
彼はとにかく忙しい。
航海の計画を立て、新しい船乗りを募集し、パトロンになってくれる商人や貴族たちのもとに顔を出し、夜はパーティに出て顔を売り……。
「なかなか捕まらないうちに、冬が見えてきたね」
「そうだねえ……。おお寒い寒い」
リップルが厚着になっている。
「ナザルさん、先日の公式任務はご苦労さまでした。少し色がついた報酬が出ましたので……」
エリィがやって来て、僕に報酬の入った袋を手渡した。
むむ?
なんか妙にめかしこんでいるような。
「エリィ、おしゃれしてない?」
「分かります? これから親の決めたお見合いなんです」
「ほほー!」
「ほー!」
「おみあいー?」
僕とリップルが思わず声を上げ、その場にいたコゲタは首を傾げた。
「どこかの誰かさんがどれだけモーションをかけても全然反応しないんで、もうこのままだと私が行き遅れちゃう! と両親が心配したんです。あーあ、どこかの誰かさんが女心を分からないばかりに」
ぷいっと行ってしまった。
いやあ、良縁に恵まれるといいねえ。
「その表情を見ているとナザル、全く残念に思っていないね?」
「もちろん。僕にとってエリィはまだまだ年若い子どもみたいなもんだ」
「分かるなあ。そして私から見てもナザルはちょっと年下の男の子みたいなものだ」
「おや? リップルと僕は恐ろしく年齢が離れているはずだが……」
と言ったら小突かれた。
「君の記憶の年齢だよ。それを合わせると、私と二十年とちょっとくらいしか違わないだろう」
「ご明察で……」
そこまで僕の前世を推理しきっていたのか。
本当に頭がキレる人ではあるんだよなあ。
「ねえねえご主人ー! りっぷるー! おみあいーってなーに!」
コゲタがわあわあ騒ぎ出した。
最近、知識欲が旺盛なんだよな。
「お見合いっていうのはね。結婚適齢期になった男女が親や上司に紹介されて、結婚を前提にして会食をしたりすることだよ」
「けっこん、コゲタわかる!」
おっ、知ってる単語が出てきたから、ニコニコになったな。
冬が近づくコゲタは、冬毛に生え変わりつつある。
もこもこコゲタの季節だぞ。
まあ、もこもこの上から、もこもこのコートを着せちゃうわけだが。
そんな風にお喋りしていたら、若い冒険者がこっちに走ってきた。
僕が雇って、船主の動向を監視してもらってる若手だ。
「ナザルさん! 船主、今日はやっとオフらしいです!」
「お! でかした! はい、これ今日の御駄賃」
「あざっす!!」
お金を握りしめて、若手冒険者はホクホクで走り去っていった。
「よし、じゃあ行こう」
「そうだね。どこに彼を連れて行くんだい?」
「行くとなれば、ギルボウの店だろ」
「間違いないね」
「ぎるぼうのごはんすきー!」
うんうん、ギルボウはコゲタにも食べやすい料理を作ってくれるもんな。
僕らは港に向かい、船の中にいた船主にようやく接触できたのだった。
「純粋に飯を奢りますよ」
「本当か!? 貴族や商人たちのやたら豪華な食事には飽きてきていたところなんだ……。あれ、連日食べてたら体に悪いよ」
顔をしかめる船主。
贅沢もやり続けると飽き飽きしちゃうもんな。
そして、上流向けの食事にアーランの美食の真髄は無いぞ。
これからそれを思い知らせてやろう……!
すっかり風が冷たくなった中、僕らは下町に向かった。
寒くなってくると、この辺りにたむろしてる怪しい連中も少なくなってくる。
家の中に閉じこもっているんだろう。
仕事もせずにうだうだしている連中は、暑さと寒さに弱い根性なしなのである!
ということで、気候が厳しくなるほど安全になる下町。
皮肉なものである。
おお、ギルボウの店は日が落ちても、煌々と明かりがついている。
「あそこが? 下町の普通の食堂に見えるが……」
「アーランで、食堂を見た目で判断すると損をしますよ。あれは……アーランで一番美味いものを食わせてくれる店です」
一切の誇張なしで断言できる。
「そんな……! 下町にそれほどの店が!?」
「ああ。ギルボウの店が出す料理の美味さについては、私も一押しだよ。何せ、アーランで流行る新しい美食は、ギルボウの店から始まると言われているんだ」
「なんだって!? そ、そんな凄い店なのか!!」
「コゲタがね! おいしーっておもうごはんたくさんだしてくれるの!」
「人間だけではなくコボルドも満足させる料理を!?」
コゲタの話もちゃんと聞いてくれて、いい人だなあ船主。
だが、本当の本当に、贅沢に飽き飽きしていたらしい。
下町で、アーランの美食の原点に触れるというフレーズに、彼はワクワクが止まらなくなったようだった。
この四人で、店の扉を開く。
「ギルボウ! 四人なんだがいいかい?」
「おお、ナザルじゃねえか! 久々だな。そうだな……。おい、お前ら、もう何も注文しないで一時間も駄弁ってるだろ。帰れ帰れ! 金を置いて帰れ!」
常連っぽいおっさんたちがブウブウ言いながら帰っていった。
空いた器などを、店員の兄ちゃんが回収してテーブルを拭く。
この店、ギルボウ以外に店員がいたんだな……。
「空いたぜ。で、注文は?」
「そうだな……。仕事でさんざん贅沢をせざるをえず、豪華な飯に飽きてしまった御仁に飯の美味さを再認識させる料理で頼む」
「よしきた。だったら素材の味でシンプルに行かねえとな!」
ギルボウがニヤリと笑ったのだった。
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