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63・帰るぞ帰るぞ

第187話 フォーゼフの醤油

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 僕は実は、ずっとフォーゼフ宿泊を狙っていたのである。
 なぜなら、大豆発祥の地であるここには、醤油があるらしいことを掴んでいたからだ。

 僕が開発する前に、醤油があった!!
 絶対に味わわねばならない!!

 ということで、素知らぬ顔でフォーゼフの宿に泊まり、

「大豆調味料の料理が美味しいって聞いて来たんですよー」

 などと素知らぬ顔をして発するのである。
 宿の亭主は僕の顔をよく知らない。
 しめた。

 まさか僕が、フォーゼフの作物を全国へ輸出する足がかりを作った男だとは夢にも思うまい。

「ああ、あるよ! びっくりするぞー。凄く料理が美味くなるんだ。特に野菜料理と合うんだよ」

「本当ですか!? 楽しみだなあ!!」

 宿代を弾み、一番いい部屋を取った。
 まあ、この宿はそう大きくなくて部屋数が四つしか無いんだけど。

 普通の部屋三つに、大部屋一つ。
 大部屋が一番いい部屋ね。
 三人と二匹で泊まるにはなかなか広い。

「わーっ! ひろーい!」

 アララちゃんが興奮してバタバタ走っていく。
 そして部屋の隅から隅まで走り回って、コゲタに「コゲタ! ひろいよ!」と教えてくれた。
 だが、ワンダバーで広い部屋を知っているコゲタ、落ち着いたものだ。

「ひろいの、コゲタしってる」

「えーっ! なんでー!」

「ご主人とワンダバーいったから! ひろいおへやだった!」

「いーなー!」

「きょうはアララ、いっしょのひろいおへや!」

「そだ! ひろいおへやだ!」

 わーっと盛り上がる二匹。
 この光景を、僕と飼い主氏がニコニコしながら眺めるのだった。
 なお、シズマは部屋の中を歩き回り、

「ここのロケーションがいいな! ほら、旅館の椅子みたいになってる。畑が見えるぜ……。一面の畑だ」

「畑の国だからなあ」

 だが、夜の畑を眺めながら一杯やるのもオツかも知れない。
 あっ、真っ暗で何も見えないか。

 飯時になって、宿の食堂で夕飯をいただく。
 なんと、野菜を茹でて味付けしたもの、焼いたもの、スープにしたもの。
 野菜づくしだ。

 タンパク質、タンパク質は無いのか……?
 あった!
 豆腐!

 そして豆腐の横に置かれている、薬味。
 みょうがっぽいのと、生姜っぽいのと、黒い液体……。

 これは……。
 僕がアーランで作ってもらったものよりもサラサラしていて、香りも……うむ、香りも丸い。

「こりゃ、いい醤油だ」

「マジか!? 醤油があるのか!!」

 テンションが上がった僕とシズマ。

 ちなみに肉類もあって、スープの底に肉が沈んでいた。
 コゲタとアララちゃんが、スプーンを使ってお肉探しをしている。

「野菜もちゃんと食べなさい」

「はあい!」

「はあい!」

 素直でいいねえ。
 炭水化物は、お麩に見るものがあり、これをスープに漬けるなどして食べるようだ。
 不思議な主食だ。

 パンじゃなくて麩を食べるのか……?
 以前にいた時は、普通にパンだった気がするが。

 それはそれとして、豆腐に醤油を掛けて食うということで、僕とシズマは大いにヒートアップした。
 結論から言うと、フォーゼフのプレーンな豆腐は大変美味かったし、醤油は本当に醤油だった。
 塩分強めでいいね!

 アーランの方は雑味がまだある。
 これはどういう作り方をしているんだろう。
 味を覚えて、今後に活かすとしよう。

「かなり醤油じゃないか」

「醤油だな。ナザルの醤油も良かったが、こっちのはかなり日本のに近かったな。世界が違うって言うのに収斂進化なのか? あの、親父さん。この調味料買える? え? フォーゼフ秘伝だから門外不出? そんなー」

 醤油のガードが妙に硬いんだよなあ……。
 だが、これで醤油の味は覚えたし、フォーゼフにはあるということが明らかになった。
 いつか合法的な手段で買わせてもらおう……。

 豆腐や野菜、お麩などをガツガツ食べた。
 ちなみに麩は、パンを作る過程でできたのだが、食べていると妙に調子が良くなるので特別な主食として扱っているのだということだった。
 なるほど、これは僕らを大歓迎する意味があったんだな。

「いやあ、ヘルシーで美味しいご飯でした。やたら種類が多かったですけど。ナスっぽいのとか、トマトっぽいのとか、きゅうりっぽいのとか、白菜っぽいのとか……」

「収穫の季節なんで、速積みの野菜をたっぷりとですね」

「えっ、本当ですか! ありがたい!」

 大いに盛り上がる僕らなのだった。
 なお、酒類はこの季節、麦を蒸留した酒しかないらしく。
 これを野菜のジュースなどで割って飲むのだそうだ。

 スムージー酒ってことですか!?
 新しい……。

 で、部屋に戻ってシズマと飼い主氏と酒を飲むことにした。
 真っ暗であろうと思った畑だけど、明かりが少ないこの世界、月が出たら結構明るいのだ。

 月明かりに照らされる畑を肴に、三人で大いに盛り上がった。
 スムージー酒……。
 うん、酒が入って無ければ美味しいかもしれない!

「いや、私は好きだなあ、これ」

「マジか」

「ええ。野菜汁の青臭さを酒が消してて、悪くないですよ」

「マジかあー」

 僕ら二人で飲んでみるが、やはり微妙だった。
 だが、アルコールは濃かったようで酔いは回ってくる。

 いい気分になって、馬鹿話などを三人でしていたら、いつの間にか値落ちしてしまっていた。
 そして朝。

 しまった、酒臭いぞ!
 コゲタに嫌われてしまう! と思った僕だったのだが……。

「おさけのによいしないよー」

「ほんと!?」

 どうやらスムージー酒、酔った後のあの臭いを防ぎ、しかも二日酔いを防ぐ力があったらしい!
 馬鹿にできないなこれ……。


 
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