俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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59・ツーテイカーぐらし

第174話 キノコ輸出についての会議

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「キノコを美味な食材として輸出する目処はついたが」

 ベンクマンの……多分影武者が口を開く。
 ここはツーテイカーの中央にある会議場だ。
 なんとこの国、表向きは王国ではなく、各商人たちのリーダーによる合議制なのだ。

 まあ、その実、盗賊ギルドの長ベンクマンによる独裁なんだが……。
 割とこの長は商人のリーダーの話を聞いてくれるんだそうで。

「問題は日持ちしないことですな」

「瓶詰めはどうですかな」

「瓶に詰めて熱するか。だがそれでは、キノコの食感が変化してしまう」

「いやいや、それくらいの変化なら」

 どうやらキノコ輸出というのは初めてらしく、みんなでわあわあと話し合っている。
 ベンクマンはこれを聞いて、うんうん頷いているではないか。

「ベンクマンさんとしてはどうなんです?」

 僕が問うと、彼はふん、と鼻を鳴らした。

「俺は食い物の流通や日持ちに関しては素人だ。こういうのはプロの話し合いに任せておくのがいい。だが、嘘をついている奴のニオイは分かる。てめえに利益を引き寄せるために嘘をいうやつがいたら、すぐに気付くさ」

「なーるほど。それでフェアな議論が交わされるわけだ」

 商人リーダーたちはヒートアップしている。

「僭越ながらいいですかね」

 僕が手を上げると、商人リーダーたちがサッとこっちを見た。
 素人が口出しする気か!?
 みたな空気がぷんぷんしているではないか。

 だが、ベンクマンが睨みをきかせたらみんな静かになった。
 これ、本物のベンクマンなんじゃないか?

「実食しましょう」

「なんと!?」

「瓶詰め加熱キノコと、通常のキノコを両方炒めてみて、それぞれのきのこソテーを食べ比べましょう。案外こだわっているのは現地人だけで、どっちも美味しいかもしれない」

 なるほどぉ、と唸る商人たちなのだった。
 そうと決まれば話は早い。
 会議場から外に移動し、瓶詰めを熱したものと通常のキノコが用意された。

 それぞれ、僕が油で炒める。

「あっ、手から油が溢れ出した!」「ギフト使いだったのか!」「なるほど盟主のお客人だけあって只者ではない」

 君ら、僕をただの素人だと思ってただろう。
 まあ、省場に関しては素人だが、料理に関してはそろそろ素人に毛が生えたレベルになりつつある。

 塩とハーブを振り、きのこソテーが出来上がった。

 どれどれ、とベンクマンと商人リーダーたちがこれを食べる。

「おっ、美味い」

「このシャキシャキした歯ごたえ」「これですよこれ」「しみじみ美味いなあ」「ビール欲しいー」

 なんか君ら一瞬仕事を忘れたな?
 その後、瓶詰めのキノコを炒めた。

 塩とハーブを振り、きのこソテーその2が出来上がった。

 どれどれ、とこれもベンクマンと商人リーダーたちが食べる。

「おっ、これもしんなりしているが美味い」

「あれっ? 味が染み込んでいる感じで悪くない」「これはこれで……」「ありよりのありですな」「これでいいんじゃないかな」

 すぐさま意見がまとまったのだった。
 加熱されて、そのままですぐ食べられるし、炒めても煮込んでも美味しいキノコの瓶詰め。

 ツーテイカーに新たな名物が誕生だ!
 これと同時に、キノコのかき揚げレシピを世界に広める……!!

「あの美味いかき揚げを食えば、誰もがキノコの虜になるだろう。ククククク……。健全な美味いだけの食物で他国の連中を中毒にすれば、安全にツーテイカーは利益を得られるというわけだ。各国もまさか、安全なキノコの輸入を制限するはずもない」

 ベンクマンが悪い笑みを見せた。
 だが、言葉の内容はごくごく真っ当ではあるんだよな。

 瓶には蓋に木製の栓がされ、蝋で封が施されている。
 そこに……キノコかき揚げのレシピが絵で書き込まれているのだ!

 この蝋を綺麗にはがせば、レシピとして置いておけるというわけだ。
 ……何気にこれ、画期的ではないだろうか?
 調理法が記載された食材の発売、これは世界を変える……!!

 僕は確信した。
 ベンクマン、間違いなくこの男は天才である。

 こうして、大量に作らえた瓶詰めが荷馬車に載せられ、荷馬に挽かれて旅立っていった。
 キングキノコよ、たくさんの人達の胃袋に収まるんだぞ!
 お前は間違いなく超美味いからな。
 自信を持って食われろ!

「世話になったな、ナザル。お前を呼んで正解だった。これより、ツーテイカーは新たな時代に突入する。権謀術策ではなく、食の力で殴りつける。ドッグ・マスターの報告から、俺は世界の動きをそう読み取った。そしてお前は我が国が誇るキノコの力を見せてくれた。あれは世界を穫れる!! そう確信するに至ったのだ」

「そりゃあ何よりです! でもベンクマンさん。実は……あと二品くらい世界を穫れるやつがあるんですが」

「なにっ!?」

 ここでベンクマンが本当に飛び上がって驚いた。

「そ、それはなんだ……!? 俺の知っている料理か!?」

「はい。井戸水でヒエッヒエになったビールと」

「ビール!?」

「塩とハーブバリバリに効かせたソーセージを炒めたやつですかね」

「ソーセージ!? そんなもの、ツーテイカーの日常食ではないか!?」

「冷えたビールとソーセージの組み合わせ……。外の世界には無いんですよ……」

「なん……だと……!?」

 ベンクマンの目が見開かれる。
 ツーテイカーのビールは、黄金のピルスナー。
 さらにホップによく似たハーブを使って、あの爽やかな香りと苦みを付けているので、限りなくビールなのだ。

 これを井戸水で冷やすのだが、ツーテイカーの地下水が冷たいんだ……。
 ぶっちゃけると、この国の酒が今までで一番美味かったかも知れない。

「このソーセージとビールの組み合わせなんですが……。ビールは冷やさないと本領を発揮しないんで、冷蔵技術の開発が望まれるかもですねえ」

「そうか……!! なるほどな……」

 ベルクマンは唸った。
 そしてつぶやく。

「ナザルよ。頼まれてくれないか?」

「なんです?」

「ワンダバーが持つ冷凍魔法を手に入れてきてくれないか? 報酬は出す」

 な、な、なんだとー!?


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