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54・蕎麦に関する冒険

第155話 森の奥の職人に聞く

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 その他、オウルベアともすれ違った。
 森の食べ物が潤沢にあるようで、彼らも人間に興味を示さない。
 というか僕を見たらスッと離れていって、目を合わそうともしなかった。

 なんだなんだ。

「ご主人、こわがられてる!」

「そんなばかな」

 僕のどこが恐ろしいというのだ。
 僕の何を知っていると言うんだ。
 だが戦いを避けられたことは良いことだ。

「もりのどうぶつ、ご主人さけてる!」

「そんなばかな。僕が何をやったというんだ。いや、やったな……大いにやった」

 森で大立ち回りというか、油の力を使って暴れること数回。
 きっと彼らはそれを見ていたのだろう……。

 悪いことはするべきではない。
 いや、悪いことじゃないんだが。

「ご主人どうするのー?」

「そうだなあ。蕎麦の香りが分からないようなら、森の奥にいる職人たちを訪ねてみようか。彼らは入口の職人たちと違ってグルメに浸ってはいないだろう……」

 一縷の望みをかけて、森の奥へ奥へと向かったのだった。
 ちなみに、森はそれなりに広大だ。
 只中で一泊することにする。

「夜に襲撃されないように備えなくちゃな」

「ご主人のによい、どうぶつたちこわがる! こないよ!」

「そうなの!?」

 コゲタから衝撃的な話を聞いてしまった。
 コボルドは人間と動物の間くらいの存在だから、双方の気持ちみたいなのを察することができるのかも知れない。

 では、テントを立ててコゲタと一泊する。
 夕食は持ってきたパスタを、戻した干し肉と合わせてトマドで和えたやつだ。
 僕のにはちょっと塩を振る。

「いっしょのごはんたのしみね!」

 コゲタがお料理が出来上がるさまを見つめて、ウキウキしている。

「そうだなあ。一緒に食べるとさらに美味しくなるもんな」

「おいしい、すきー!」

 ということで。
 二人でパスタをもりもり食べ、その後、コゲタが昼間見つけたものについて色々お話をしたいらしいので、それを聞くなどした。
 ほうほう、食べられる草のにおいがたくさんしたと。
 だが、その中に蕎麦の存在はなかった。

 このあたり、土が割と肥沃なので、蕎麦が生えにくいのかもしれないな。
 森は広葉樹が茂っているのだが、古い樹木はオウルベアが押し倒したり、ヴォーパルバニーが試し切りで倒すのだ。
 お陰で、日差しが差し込む場所が森のあちこちに出来上がり、木々の新陳代謝を呼んでいる。

 で、倒れた木々や枯れた草花は分解され、森の掃除屋が土に変えてくれるわけだ。
 なるほど、肥沃なはずだ。

 どこかの国では、森を切り開いてそのまま畑に使えてしまうらしいしな。

 蕎麦はもっと地面が痩せているところを探すのがいいのかもなあ……。
 そんな事を考えてたら眠くなってきた。

 コゲタは喋り疲れて、うとうとしている。

「コゲタ、寝るならテントの中で寝るんだぞ」

「はぁい」

 ふらふらテントに入っていたコゲタは、尻尾と後ろ足が入りきってないのにぐうぐう寝始めてしまった。
 仕方ないなあ。
 僕は彼を持ち上げて、テントの奥の方に寝かせる。
 そして隣で僕も寝転がった。

 テントの外からは虫の声がする。
 なんとものどかな森の夜。
 こんなに緊張感の無いキャンプを楽しむことができるとは……。

 僕のにおいが強くて危険なモンスターが寄ってこないなら、それを最大限に利用させてもらおう。
 朝まで無防備に爆睡してやるのだ。

 明け方。
 コゲタの尻尾が顔をパタパタしてきたので目覚めた。

「うおー」

 なんだか、もさもさしたもので全身をはたかれる夢を見た。
 なるほど、コゲタが僕の上で大の字になって寝ていたんだな。
 しかも上下逆だ。

「コゲター。コゲター」

 足の裏をむにむにする。

「ふわわわわ」

 コゲタがぷるぷるし始めた。
 犬がご主人よりも長く寝ていてどうするんだ。
 一緒くらいの睡眠時間で行こう。

 コゲタがころんと横に転げて、パッと起き上がった。

「おきた!」

「起きたかー。朝ご飯食べたらまた出かけような」

 近場の川から水を汲んできて、煮沸する。
 で、お茶にして飲むのだ。

 あー、朝のお茶が美味い。
 そう言えば茶そばというものがあったな。
 お茶でそば粉を練るのかな……。

 蕎麦が食いたいな……!

 小麦を練り、無発酵パンというかチャパティを作って食べた。

「おいしー」

「コゲタはなんでも美味しく食べられるから偉いなあ」

 僕はコゲタの眉間をもみもみした。
 ちょっと食休みをした後、テントを片付けてまた出発だ。

 森の奥までは、およそ半日で到着した。
 詰め所の前で職人たちが材木を加工している。

「おーい、おーい」

「おや、ナザルじゃないか!」「久々だなあ」「また何か仕事のついでに来たのか?」

 客人が珍しい場所なので、職人たちが集まってくる。

「実はやんごとなき事情がありまして」

「事情……?」

「蕎麦を探しているんだ。こう、栄養のなさそうな土地で育つ植物から採れるやつで、ボソボソしてて、灰色で、食えなくもない味みたいな……」

「むう……」「食ったことがあるような」「いや、確かに食ったことはあるぞ。粉が尽きちまった時に、代用で食った」「ああー、あれかあ!!」

「知っているのか!!」

 ついに蕎麦の手がかりが得られた!!
 どこだどこだ!

「いや、ナザル。お前も見たことがあるだろう。去年、国の旗を立てに森の外れに行っただろ。あそこの崖に山ほど生えてる……」

「な……なんだってー!!」

 ごくごく身近なところに、蕎麦はあったのだ!

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