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50・油使い、本領を発揮する
第143話 豆腐を揚げるわよ
しおりを挟む 僕の後を追うように、フォーゼフから大量の大豆が持ち込まれた。
一部を調味料として作ってくために確保したが、その他はどうなるか?
豆腐にして消費するのである!!
僕は豆腐レシピをオープンソースにした。
各地で、料理屋が豆腐を真似し始める。
瞬く間に、アーランはこのフラジャイル(もろく儚い)な白いキューブで満たされた。
みんな、寒天以来の不思議食感と奥深い豆の味わいに夢中になる。
もともと粗食に慣れている人々だからね。
美食の時代が来て、なんかアーラン人が全体的に太ってきたなーと思っていたところだったのだ。
「豆腐を食えばヘルシーになる……。みんな痩せてもらいたい。夏が近いのにカルボナーラ食い続けてる人もいたらしいからね……」
「私は豆腐をトマトソースで食べてるよ。これはいいねえ。淡白だから飽きないし」
リップルも豆腐にハマったらしい。
トマトソース味かあ。
まあ、なんでも合うだろうしな、甘いの以外は……。
「おうナザル! お前か、このトーフっての広めたの! うめえなあこれ! はちみつ掛けると最高だわ!」
「この野郎バンキンこの野郎!」
「おっ!? 殺気立って襲いかかって来やがったな!? 来いよ! 油なんか捨てて素手で掛かってこい!」
「ムギャオー!」
「おお、まだまだナザルも若いなあ。はっはっは。ところでマスター、この豆腐をスイーツに使えないものかな?」
「ああ、実は自分も研究中なんですよ。このほろほろとした口当たり、ケーキに混ぜて焼くと面白い歯ごたえになりそうですよね」
僕がバンキンのアッパーカットを食らって吹っ飛び、床に伸びた。
おのれ、体力お化けめ。
「インパクトの瞬間に油を挟ませて衝撃を殺しやがったな? 拳が明らかに滑ったぜ」
「ギルド内で喧嘩はおやめくださいおやめください!!」
エリィが間に飛び込んできたので、終戦となった。
「ふう、トーフにはちみつはナザルがブチ切れる数少ないワードなんだな。覚えたぜ……こっそりキャロティと楽しもう……」
あのウサギ女もスイーツ豆腐派閥か!
恐ろしいことになってきてしまった。
ちなみにサルシュはそのままか、ハーブで香りだけつけて食べるのが好きらしい。
通じゃないか。
「いやお恥ずかしいところをお見せしました。なんでもないので皆さん気にしないでください」
僕は周囲にペコペコした後、ギルド内酒場のカウンターに腰掛けた。
「ナザルさん、実験作なんですが、甘い豆腐はだめでしたよね」
「豆腐にそのまま甘いものを掛けたやつが受け付けないだけです!」
「では、生地に混ぜ込んで揚げたものはどうでしょう? 例えば……」
「ドーナッツ!? 豆腐ドーナッツかあ!」
スイーツしか作らないと豪語するマスターが出してきたのは、この世界では初となる豆腐スイーツである。
サクッと歯が通って、中はふわっふわ。
うまーい!
「豆腐を混ぜると楽しい食感になりますね。そして組成も変わりますから、豆の栄養も摂取できると……」
完全栄養食、とつぶやくマスターだった。
そこで僕、ピンと来る。
「豆腐そのものを揚げてしまえばいいのではないか」
「ほう!」
食いついたのはリップルだ。
「それはあれかい? 豆腐がサクサクとクリスピーな歯ごたえの食べ物になるのかい? とても想像つかないなあ」
「いや、どちらかと言うと……。豆腐の厚みによって感じが変わるけど、しっとりした面白い食べ物になると思って欲しい。よしマスター、ちょっと厨房貸して」
「どうぞ」
カウンターの中に入れてもらった。
ここで、マスターは焼き物や揚げ物をしているのだ。
スイーツしか作らないけどね。
「ナザルさんなら油も、油の始末も自前で完璧にできるので安心ですよ」
「いや、恐縮です」
油使いの面目躍如と言えよう。
さっと用意する油は、以前のものよりもいい香りがついている気がする。
様々な油に近い食材を口にしたことで、僕の油自体が独特の味を得てきているのかも知れない。
「ナザル、その料理の名前はなんて言うんだい?」
「そうだな、今日は油揚げで行こう」
「油揚げ! まんま君がいつもやっているやつじゃないか! 豆腐を揚げるとそういう名前になるわけかい? なんとも運命的だ」
確かに、言われてみればそうかも知れない。
僕は豆腐を薄く切って、油で揚げる。
油を通った豆腐はなんとも素晴らしいきつね色に染まり、あのふわふわとした歯ざわりの食べ物になるのだ。
「薄い豆腐を揚げたから、どうなるかと思ったら……。膨らんだねえ……! でこぼこしてて、ちょっと見ると硬そうにも思えるけど……」
フォークで突いたリップルは、先端が沈み込むような柔らかさに驚く。
「柔らかい! しかも、豆腐と違って形が崩れたりしないんだねえ! あの柔らかくて儚い食べ物が、こんな弾力のある……なんともいい香りのものになるなんて。なるほど、これが油揚げかい! いただいてもいいかな?」
「シンプルに塩とゴマ油でどうぞ」
ってことで、僕のサービスでゴマ油を出してあげた。
「ちなみに僕も油揚げは今生で初めてで……」
「じゃあ一緒に食べるか!」
「自分もご一緒しても?」
どうぞどうぞ。
ってことで、マスターも一緒に食べることになったのだった。
いやあ、うめえ!
うまいねえ、揚げたての油揚げ!!
シンプル味付け、正解!!
あー、そばとかうどんがほしい~。
味噌汁にしてえ~!!
これ、絶対に大豆調味料の計画は成功させないとな。
一部を調味料として作ってくために確保したが、その他はどうなるか?
豆腐にして消費するのである!!
僕は豆腐レシピをオープンソースにした。
各地で、料理屋が豆腐を真似し始める。
瞬く間に、アーランはこのフラジャイル(もろく儚い)な白いキューブで満たされた。
みんな、寒天以来の不思議食感と奥深い豆の味わいに夢中になる。
もともと粗食に慣れている人々だからね。
美食の時代が来て、なんかアーラン人が全体的に太ってきたなーと思っていたところだったのだ。
「豆腐を食えばヘルシーになる……。みんな痩せてもらいたい。夏が近いのにカルボナーラ食い続けてる人もいたらしいからね……」
「私は豆腐をトマトソースで食べてるよ。これはいいねえ。淡白だから飽きないし」
リップルも豆腐にハマったらしい。
トマトソース味かあ。
まあ、なんでも合うだろうしな、甘いの以外は……。
「おうナザル! お前か、このトーフっての広めたの! うめえなあこれ! はちみつ掛けると最高だわ!」
「この野郎バンキンこの野郎!」
「おっ!? 殺気立って襲いかかって来やがったな!? 来いよ! 油なんか捨てて素手で掛かってこい!」
「ムギャオー!」
「おお、まだまだナザルも若いなあ。はっはっは。ところでマスター、この豆腐をスイーツに使えないものかな?」
「ああ、実は自分も研究中なんですよ。このほろほろとした口当たり、ケーキに混ぜて焼くと面白い歯ごたえになりそうですよね」
僕がバンキンのアッパーカットを食らって吹っ飛び、床に伸びた。
おのれ、体力お化けめ。
「インパクトの瞬間に油を挟ませて衝撃を殺しやがったな? 拳が明らかに滑ったぜ」
「ギルド内で喧嘩はおやめくださいおやめください!!」
エリィが間に飛び込んできたので、終戦となった。
「ふう、トーフにはちみつはナザルがブチ切れる数少ないワードなんだな。覚えたぜ……こっそりキャロティと楽しもう……」
あのウサギ女もスイーツ豆腐派閥か!
恐ろしいことになってきてしまった。
ちなみにサルシュはそのままか、ハーブで香りだけつけて食べるのが好きらしい。
通じゃないか。
「いやお恥ずかしいところをお見せしました。なんでもないので皆さん気にしないでください」
僕は周囲にペコペコした後、ギルド内酒場のカウンターに腰掛けた。
「ナザルさん、実験作なんですが、甘い豆腐はだめでしたよね」
「豆腐にそのまま甘いものを掛けたやつが受け付けないだけです!」
「では、生地に混ぜ込んで揚げたものはどうでしょう? 例えば……」
「ドーナッツ!? 豆腐ドーナッツかあ!」
スイーツしか作らないと豪語するマスターが出してきたのは、この世界では初となる豆腐スイーツである。
サクッと歯が通って、中はふわっふわ。
うまーい!
「豆腐を混ぜると楽しい食感になりますね。そして組成も変わりますから、豆の栄養も摂取できると……」
完全栄養食、とつぶやくマスターだった。
そこで僕、ピンと来る。
「豆腐そのものを揚げてしまえばいいのではないか」
「ほう!」
食いついたのはリップルだ。
「それはあれかい? 豆腐がサクサクとクリスピーな歯ごたえの食べ物になるのかい? とても想像つかないなあ」
「いや、どちらかと言うと……。豆腐の厚みによって感じが変わるけど、しっとりした面白い食べ物になると思って欲しい。よしマスター、ちょっと厨房貸して」
「どうぞ」
カウンターの中に入れてもらった。
ここで、マスターは焼き物や揚げ物をしているのだ。
スイーツしか作らないけどね。
「ナザルさんなら油も、油の始末も自前で完璧にできるので安心ですよ」
「いや、恐縮です」
油使いの面目躍如と言えよう。
さっと用意する油は、以前のものよりもいい香りがついている気がする。
様々な油に近い食材を口にしたことで、僕の油自体が独特の味を得てきているのかも知れない。
「ナザル、その料理の名前はなんて言うんだい?」
「そうだな、今日は油揚げで行こう」
「油揚げ! まんま君がいつもやっているやつじゃないか! 豆腐を揚げるとそういう名前になるわけかい? なんとも運命的だ」
確かに、言われてみればそうかも知れない。
僕は豆腐を薄く切って、油で揚げる。
油を通った豆腐はなんとも素晴らしいきつね色に染まり、あのふわふわとした歯ざわりの食べ物になるのだ。
「薄い豆腐を揚げたから、どうなるかと思ったら……。膨らんだねえ……! でこぼこしてて、ちょっと見ると硬そうにも思えるけど……」
フォークで突いたリップルは、先端が沈み込むような柔らかさに驚く。
「柔らかい! しかも、豆腐と違って形が崩れたりしないんだねえ! あの柔らかくて儚い食べ物が、こんな弾力のある……なんともいい香りのものになるなんて。なるほど、これが油揚げかい! いただいてもいいかな?」
「シンプルに塩とゴマ油でどうぞ」
ってことで、僕のサービスでゴマ油を出してあげた。
「ちなみに僕も油揚げは今生で初めてで……」
「じゃあ一緒に食べるか!」
「自分もご一緒しても?」
どうぞどうぞ。
ってことで、マスターも一緒に食べることになったのだった。
いやあ、うめえ!
うまいねえ、揚げたての油揚げ!!
シンプル味付け、正解!!
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