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48・かもせ!

第140話 ポシビリティ・オブ・ソイ

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 完成した豆腐を宿のおかみさんに食べてもらったら、寒天とは違うなめらかな舌触りと、豆の味がしっかり感じられる爽やかさが大好評だった。
 そうか、あの青臭さは豆そのものの味だったんだな!

「このままだとかなり淡白だけど、それだけにソース次第で化けそうだね。いきなりこの白いのが出てきたら、あたしゃきっと食べないね……。だけど、ナザルが出すのなら間違いないんだろうね」

「信頼していただけて嬉しいですよ。これは今年の自信作なんですよ」

「……期待して……いいんだね……?」

「大いに」

 おかみさんがニッコニコになった。

 こうして僕は、豆腐を携えて酒造へ向かう。
 発酵蔵前で職人が待ち構えており、僕の姿を見るなり駆け寄ってきた。

「見せてもらおうか、大豆の可能性とやらを!」

「どうぞどうぞ……」

 酒造は造り酒屋であり、このカウンター部分が店とも言える。
 そこに豆腐を取り出すと、職人氏と受付さんが目を丸くした。

「白い……!! あの豆から、こんな白いものが出来上がるのか!?」

 理想像は本当にあの白い豆腐なのだが、これはちょっと豆の色をしている気がする。
 それでも、白い食べ物というのはアーランでは大変珍しい。
 職人氏が舌を巻くほどのものなのだ。

 受付さんはもう、食べたくて仕方ないらしい。

「どんな味なのかな? 気になる……! 想像ができない……! それにこの人、巷で噂の油使いでしょう? あの美食アドバイザーの! だったらこれは間違いなく美味しいものでしょう!!」

「僕のことを調べたようですね……。いかにも。僕はアーランに美食を広げ、食の大革命を引き起こす男、ナザルです!!」

「おおーっ!!」

「あんただったのか……!!」

 なんか酒造の人たちの態度が変わってるな。
 そんなに僕の名前は知れ渡っているのか。

「ご主人すごーい!!」

 コゲタがピョンピョン跳ねて喜んだ。
 ハハハ、一番最初のファンであるコゲタがいてくれるおかげだよ!

 こうして、大豆の可能性を舌で確かめてもらうため、実食と相成った。
 用意してきたのは、ゴマ油にピーカラを合わせたもの……ラー油である。
 さらに塩もある。

 これで豆腐に味をつけて食べてもらう。

 匙で掬って、パクっと口にする受付さん。

「うおっ! なめらかー!! 舌の上をつるんと滑ったよこれ!! 未知の食感~!!」 

 職人氏も唸る。

「こいつは……。流行りの寒天とは全く違うな。歯を押し返す弾力じゃない。なんというか……口の中でほろほろと解けていく儚い食感だ。そしてこの豆の香り、味……。なるほどな。淡白だが、しっかりと素材の味を主張して来る。それに」

 塩をつけて食べる職人氏。

「むうっ! 化けやがった! こいつは真っ白な土台だ。乗せる薬味によって、全く表情を変えてくる! 塩をつけた途端、酒のアテに化けやがった! それからこの赤いソースか。どれどれ……」

 ラー油につける職人氏。
 パクっと食べて、うぐぅと唸った。

「ぴりりと辛い……。こりゃあたまらねえ……。酒が、酒が欲しい……! うちのエールに合うぞ、これは……!!」

 隣ではコゲタが、豆腐をパクパク食べている。

「おいしー!」

 うんうん、ちょっぴりだけ塩で味をつけた豆腐、気に入ったかー。
 職人氏はひたすらに食レポしまくったあと、豆腐を全て食べきって椅子に深く腰掛けた。

 ため息をつく。

「豆から……豆からこんなもんが生まれてくるのかよ……!! こいつを発酵させるだ? おいおい……イサルデのいたずらが働いたら、どうなっちまうんだこいつは……。おい、レシピを後で教えてくれ。うちでもこれを作ってみたい」

「もちろんです。ここに持ってきているのでレシピを差し上げる……」

「ありがたい!!」

 職人氏、本気でありがたがっている。
 この人、今夜から豆腐を作り始めるな。

 フォーゼフには話をつけているから、近日中に大量の大豆が輸入されてくるはずだ。
 殿下にはシャザクを通して話をつけてある。
 だからお金も問題ない。

 早く殿下に豆腐を収めないと……。

「よし、乗った。あんたの頼みを引き受けてやる。いや、引き受けさせてくれ。うち以外には話を持って行ってねえんだよな?」

「ええ、もちろんです。腕の良い醸造所で作ってほしいので……」

「だったら間違いない。うちがアーランで最高の醸造所だ! 俺が賢者としての知識を使って、そして先代の経験を得て最高の酒を作っているからな。別に蔵を用意する。そこで、大豆とやらを発酵させてやる」

「ありがたい! 頼みます!!」

「任せてくれ!」

 僕と職人氏は固い握手を交わした。

「殿下からお金が注ぎ込まれると思うので、存分に活動をしてください」

「……殿下?」

「第二王子のデュオス殿下ですよ。僕のパトロンでして……」

「げげえっ!? あんた、ロイヤルとつながってるのか!? ああ、道理で……。だからこんな即金にならないような趣味の美食を研究して……」

 職人氏の目が納得の色に染まった。
 お分かりいただけただろうか。
 僕の人生は、すなわち道楽だ。

 王家を味方につけたことで、金がじゃぶじゃぶと僕の趣味に注がれることになった。
 王家の美食と僕の趣味が結びついている!
 だから、幾らでもお金を使えるのだ!

「あんた、意識はしてないだろうが……。あんたがやってることは、賢者そのものだからな」

「なんですと!?」

 妙なことを言われてしまったのだった。

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