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45・春の風物詩ラストが来た
第133話 邪神信者、あばれる
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磯釣りの翌日のことだ。
冒険者ギルドに来て、たまには冒険者らしく仕事を探すか……なんてことをしていた僕なのだ。
こうでもしないと、体が鈍ってしまう。
第二王子というパトロンがついた今、僕は食材探しと美食開発以外、サボろうと思えば無限にサボれてしまう。
そしてその先にあるものは何か?
生活習慣病である。
僕は詳しいのだ。
前世で同期のバリバリ働く社員が出世して、管理職になって現場から離れた途端、数年でぶくぶくと太って風船のような姿になったのを思い出した。
健康診断の結果もボロボロだったようで、動かず、美食だけを続けることはかくも人間を破壊するのかと感心したものである。
「仕事は健康に悪いが、健康のためには仕事をせねばならない……」
すっかり便利屋業を廃業した僕は、冒険者らしく仕事を探さねばならないのだった。
なるべくストレスが少なく、それでいて体を動かす仕事がいい。
「ナザル、ナザル」
そこへ呼ぶ声がする。
僕に親しげに話しかける者など数えるほどしかいない。
大抵の人は、僕を胡散臭いと言って積極的に話しかけないのだ……失敬な。
「私はここに、季節の風物詩みたいな依頼を用意してあるんだが」
「あっ、リップル、それはもしかして朝イチで引っ剥がしたまま手元に確保しておいたのか!?」
安楽椅子冒険者はニヤリと笑った。
彼女もちょこちょこ外出せねば、足腰が鈍ってしまう。
百年以上生きているハーフエルフだから、そこら辺がとくに心配らしい。
ハーフエルフは、肉体的には老化しないって聞くんだけどどうだろう?
「季節の風物詩というと……」
「自由の神フリーダスの信者が出た」
「あー、出たかあ! そう言えばそういう季節だもんなあ」
大掃除の時もそういう話をしていた気がする。
去年はフリーダス信者を誅しながら芋を揚げたなあ。
今年もやるか、揚げ芋! フライドポテト!
「何やら美味しそうな気配がしますが」
「おっ、最近よく合うなあサルシュ」
リザードマンにして至高神バルガイヤーの神官サルシュだ。
長い間たびに出ていた司教が戻ってきて、その間神殿を預かっていたサルシュは長期休暇という名のクビ宣告を受けているらしい。
彼が長い間培ってきた、神殿での人脈とかそういうのが、この国の宗教でトップをやっていく人には邪魔なのだな。
なので、サルシュは今はせっせと冒険者家業に精を出し、第二の人生を謳歌している。
「ははあ、揚げ芋ですか。大変興味があります。ワタクシめも行きましょう」
「行こう行こう。今年は三人だね」
そういうことになった。
僕とリップルとサルシュ。
一見すると、相変わらず前衛職がいないのだが。
司祭のサルシュはリザードマンらしい強靭な肉体をしているし、リップルはそもそも無詠唱で強力な魔法をぶっぱできるし、僕はまあどういう状況でも平気だし。
問題ないでしょう。
「そう言えばナザルさんは油使いだとおっしゃってましたが」
「うんうん、油使いだが」
「それは魔法使いなのですか? 戦士なのですか?」
「分からん……」
改めて聞かれると全くわからないな。
後衛職のようでもあり、前衛が務まるようでもあり……。
そもそもソロで冒険することも多かったから、常に前衛だった気もする。
答えの出ない疑問はおいておいて、仕事に出発することにするのだった。
また数日出ることになるので、コゲタの世話は宿のおかみさんと飼い主氏に任せることにする。
うちの犬は上手にお留守番ができるから大丈夫であろう。
お土産手に入れてくるからな!
向かった先は、最近国交が回復した都市国家群、ファイブスターズは農業国フォーゼフ。
アーランから輸出される野菜で、ピンチになっていた国だ。
そこが最近、勢力を盛り返してきているらしいじゃないか。
「気になりすぎる」
「ナザル、今回は野菜の仕入れじゃないぞ。ちゃんとした討伐の仕事だからね」
「分かってる、分かってる……」
「あれは分かってない顔だな。サルシュ、ナザルに注意しておくんだぞ。彼はふらふらとどこまでも行くから」
「了解しました。任せてください」
信用がないなあ!
そんな僕らは三人で街道を行く。
ファイブスターズとの国交が回復したため、治安も大変良くなった。
具体的には、盗賊が出てくる確率が半分になった。
各国の兵士も行き交うようになったからだろうね。
僕らは安全に旅をして、片道三日ほど移動してフォーゼフに到着したのだった。
正しくは、フォーゼフ郊外に広がる広大な畑に到着した。
なんだろう、この畑は。
今まで見たことがあまり無いタイプだ。
「すみません。これは何を育てているんですか」
すぐ近くで作業をしていたおじさんに聞いてみた。
「ああ、外国の人かい? こいつはね。豆さ。ヒュージビーンズという大振りな豆を育ててるんだ。国でいろいろな用途に消費してたんだが、どうやらこの豆が外国には生えてないそうじゃないか……」
「な、な、なんだってー!! ヒュージ、ビーンズ……つまり大豆ってこと……!?」
「サルシュ!! ナザルが暴走しそうだ! 確保ー!」
「はいはい!」
「うーわー! は、離せー!」
僕はサルシュの魔法で拘束され、そのままフォーゼフまで運ばれることになるのだった。
冒険者ギルドに来て、たまには冒険者らしく仕事を探すか……なんてことをしていた僕なのだ。
こうでもしないと、体が鈍ってしまう。
第二王子というパトロンがついた今、僕は食材探しと美食開発以外、サボろうと思えば無限にサボれてしまう。
そしてその先にあるものは何か?
生活習慣病である。
僕は詳しいのだ。
前世で同期のバリバリ働く社員が出世して、管理職になって現場から離れた途端、数年でぶくぶくと太って風船のような姿になったのを思い出した。
健康診断の結果もボロボロだったようで、動かず、美食だけを続けることはかくも人間を破壊するのかと感心したものである。
「仕事は健康に悪いが、健康のためには仕事をせねばならない……」
すっかり便利屋業を廃業した僕は、冒険者らしく仕事を探さねばならないのだった。
なるべくストレスが少なく、それでいて体を動かす仕事がいい。
「ナザル、ナザル」
そこへ呼ぶ声がする。
僕に親しげに話しかける者など数えるほどしかいない。
大抵の人は、僕を胡散臭いと言って積極的に話しかけないのだ……失敬な。
「私はここに、季節の風物詩みたいな依頼を用意してあるんだが」
「あっ、リップル、それはもしかして朝イチで引っ剥がしたまま手元に確保しておいたのか!?」
安楽椅子冒険者はニヤリと笑った。
彼女もちょこちょこ外出せねば、足腰が鈍ってしまう。
百年以上生きているハーフエルフだから、そこら辺がとくに心配らしい。
ハーフエルフは、肉体的には老化しないって聞くんだけどどうだろう?
「季節の風物詩というと……」
「自由の神フリーダスの信者が出た」
「あー、出たかあ! そう言えばそういう季節だもんなあ」
大掃除の時もそういう話をしていた気がする。
去年はフリーダス信者を誅しながら芋を揚げたなあ。
今年もやるか、揚げ芋! フライドポテト!
「何やら美味しそうな気配がしますが」
「おっ、最近よく合うなあサルシュ」
リザードマンにして至高神バルガイヤーの神官サルシュだ。
長い間たびに出ていた司教が戻ってきて、その間神殿を預かっていたサルシュは長期休暇という名のクビ宣告を受けているらしい。
彼が長い間培ってきた、神殿での人脈とかそういうのが、この国の宗教でトップをやっていく人には邪魔なのだな。
なので、サルシュは今はせっせと冒険者家業に精を出し、第二の人生を謳歌している。
「ははあ、揚げ芋ですか。大変興味があります。ワタクシめも行きましょう」
「行こう行こう。今年は三人だね」
そういうことになった。
僕とリップルとサルシュ。
一見すると、相変わらず前衛職がいないのだが。
司祭のサルシュはリザードマンらしい強靭な肉体をしているし、リップルはそもそも無詠唱で強力な魔法をぶっぱできるし、僕はまあどういう状況でも平気だし。
問題ないでしょう。
「そう言えばナザルさんは油使いだとおっしゃってましたが」
「うんうん、油使いだが」
「それは魔法使いなのですか? 戦士なのですか?」
「分からん……」
改めて聞かれると全くわからないな。
後衛職のようでもあり、前衛が務まるようでもあり……。
そもそもソロで冒険することも多かったから、常に前衛だった気もする。
答えの出ない疑問はおいておいて、仕事に出発することにするのだった。
また数日出ることになるので、コゲタの世話は宿のおかみさんと飼い主氏に任せることにする。
うちの犬は上手にお留守番ができるから大丈夫であろう。
お土産手に入れてくるからな!
向かった先は、最近国交が回復した都市国家群、ファイブスターズは農業国フォーゼフ。
アーランから輸出される野菜で、ピンチになっていた国だ。
そこが最近、勢力を盛り返してきているらしいじゃないか。
「気になりすぎる」
「ナザル、今回は野菜の仕入れじゃないぞ。ちゃんとした討伐の仕事だからね」
「分かってる、分かってる……」
「あれは分かってない顔だな。サルシュ、ナザルに注意しておくんだぞ。彼はふらふらとどこまでも行くから」
「了解しました。任せてください」
信用がないなあ!
そんな僕らは三人で街道を行く。
ファイブスターズとの国交が回復したため、治安も大変良くなった。
具体的には、盗賊が出てくる確率が半分になった。
各国の兵士も行き交うようになったからだろうね。
僕らは安全に旅をして、片道三日ほど移動してフォーゼフに到着したのだった。
正しくは、フォーゼフ郊外に広がる広大な畑に到着した。
なんだろう、この畑は。
今まで見たことがあまり無いタイプだ。
「すみません。これは何を育てているんですか」
すぐ近くで作業をしていたおじさんに聞いてみた。
「ああ、外国の人かい? こいつはね。豆さ。ヒュージビーンズという大振りな豆を育ててるんだ。国でいろいろな用途に消費してたんだが、どうやらこの豆が外国には生えてないそうじゃないか……」
「な、な、なんだってー!! ヒュージ、ビーンズ……つまり大豆ってこと……!?」
「サルシュ!! ナザルが暴走しそうだ! 確保ー!」
「はいはい!」
「うーわー! は、離せー!」
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