130 / 337
43・また来たぞ、ギルドの大掃除
第130話 春の掃除は気持ちいいぞ
しおりを挟む
コボルド二人を先に登らせる。
万一落っこちても、僕がフォローできるからね。
二人ははしごをテコテコと上がっていく。
たまにチラチラ僕を振り返るので、手を振ってやった。
手を振り返す二人。
リップルはちょっとハラハラしながら見守っているようだったが、なに、ああ見えてコゲタもアララもしっかりしているんだ。
ほら、きちんと登りきった。
「子供を先に行かせるのは怖くないかい……?」
「なので先に行ってもらって、落ちたら油で助けるんだ」
「そこまでできるようになってたのかい? 君のギフトは一見して使い道の限られる大したことがない力のようなのに、異常な応用性があるねえ……」
「修練の賜物だね。じゃあ次は僕が行く……」
はしごを登っていくことにする。
「ごしゅじーん!」
「コゲタのごしゅじーん!」
二人が手を振ってくれる。
「今掃除道具を持って行ってあげるからなー! 僕の背中に、何本もの箒がくくりつけてあるのだ」
「すごーい」「すごーい」
おおはしゃぎだ。
落ちないようになー。
登りきった僕は、コゲタとアララに箒を手渡した。
そしてバタバタと三人で掃除を始めるのだ。
リップルが後からやってきた。
「せっせとやっとるねー。屋上はまあ、そこまで大変じゃないけど……1年分の雨やホコリの汚れを落とさないといけないからね」
「よごれおとし!」
「やるー!」
「よーしコボルド諸君、この雑巾でゴシゴシとだな。ナザル、例のあれをやってくれ。油で汚れを浮かせるやつ」
「ほいほい。油!」
屋上の汚れに、油が染み込んでいく。
そうすると、汚れが浮かび上がって、雑巾で吸わせるだけで片付くようになるのだ。
「きれいきれい!」
「よごれおちるー!」
うんうん、汚れがガンガン落ちると楽しいよな。
広さ的には、大きな部屋ひとつ分くらい。
ということは、それなりに掃除のしがいがあるということだ。
「しかし昨年君が油掃除をやったから、今年の汚れは大したことがないなあ……。これではすぐに仕事が終わってしまう」
「あ、そうかあ……」
仕事が終わってしまうと、時間までは別の掃除を手伝う必要がある。
「できるだけ仕事はさぼりたいものだ」
「分かるかい?」
「分かる……。可能な限り少ない仕事量で一日をやり過ごし、楽な生活を目指す……。これが人生の大目標だと思う」
「ナザル!」
「リップル!」
僕らは固い握手を交わした。
その横で、コボルドの二人はせっせと掃除を進めていくのだ。
案外手際がいいぞ!
これはすぐに終わってしまいそうだ……!!
「二人とも、そこら辺でちょっとこっちに来てくれ!」
僕が声をかけると、コゲタもアララも仕事を止めた。
素直なのはいいことだ。
「なあにー」「なになに」
トコトコ寄ってくる。
「冒険者ギルドはこの辺りで一番大きい建物でな。三階でも他の建物よりもずーっと高いところにあるんだ」
「ふんふん」「ふふーん」
分かってるのか分かってないのか。
「なので、ここからだと下町がグワーッと見渡せるぞ!」
アーランの下町は、せいぜい二階建てくらいまでしか建物がない。
これ、理由を最近知ることになって納得したのだ。
遺跡が人々から少しずつ魔力を吸ってその機能を維持しているらしいのだが。
これ、三階から上になると、魔力の吸える量が減少してしまうんだそうだ。
だから、遺跡の機能に頼って反映しているアーランとしては、魔力吸収的に困ってしまうわけだ。
「おおー!」「たかーい!」
二人が景色を楽しみ始めた。
いいぞいいぞ。
落ちないように気をつけてね。
だけど、普段低いところからしか世界を見ていないコボルドにとって、この高さからアーランを見渡すというのは初めての体験だろう。
思った以上に、二人は夢中になっているようだった。
だが、犬は少ししたら飽きるからね。
一時間くらい、あそこは屋台だとか、あっちにギルボウのお店だとか、あっちが自分たちのおうちだとか喋り合っていた二人。
ようやく景色に飽きて、掃除に戻ってきた。
その間、僕とリップルは春の日差しを受けてぼーっとしていたのだった。
いやあ、存分にサボれた。
「ここで掃除に取り組めば、だいたい一時間で終わる……。そうしたらそろそろ大掃除も終わりの時間だぞナザル」
「リップルそこまで計算していたのか……!!」
「フフフフフ……」
恐るべし、安楽椅子冒険者。
お陰で楽ができたよ。
下ではそろそろ、掃除のノルマが終わった連中がダラダラとやってるフリをしながら雑談を始めている頃だった。
なんだかんだで冒険者としてやっていっている連中は、本気になれば掃除だってお手の物である。
ちなみに……こういうのもできないタイプの人は冒険者としてやっていけないので、地元に戻るか、下町や商業地区で下働きなんかをすることになる。
世知辛い世の中だ。
冬を終え、少しずつ色づき始めているアーランを眺めながら、僕はしみじみしてしまった。
こっちの世界には桜が無いから、木々に新しい葉が付き始める事で春を知る感じだな。
無いかなあ、桜……。
「ご主人ー! おそうじ!」
「ああ、はいはい!」
とうとうコゲタに叱られてしまった!
ちょっとの間、本気で掃除をすることにしよう。
油使いの実力を見せてやるぞー。
こうして、晩春の穏やかな日は過ぎていくのだった。
万一落っこちても、僕がフォローできるからね。
二人ははしごをテコテコと上がっていく。
たまにチラチラ僕を振り返るので、手を振ってやった。
手を振り返す二人。
リップルはちょっとハラハラしながら見守っているようだったが、なに、ああ見えてコゲタもアララもしっかりしているんだ。
ほら、きちんと登りきった。
「子供を先に行かせるのは怖くないかい……?」
「なので先に行ってもらって、落ちたら油で助けるんだ」
「そこまでできるようになってたのかい? 君のギフトは一見して使い道の限られる大したことがない力のようなのに、異常な応用性があるねえ……」
「修練の賜物だね。じゃあ次は僕が行く……」
はしごを登っていくことにする。
「ごしゅじーん!」
「コゲタのごしゅじーん!」
二人が手を振ってくれる。
「今掃除道具を持って行ってあげるからなー! 僕の背中に、何本もの箒がくくりつけてあるのだ」
「すごーい」「すごーい」
おおはしゃぎだ。
落ちないようになー。
登りきった僕は、コゲタとアララに箒を手渡した。
そしてバタバタと三人で掃除を始めるのだ。
リップルが後からやってきた。
「せっせとやっとるねー。屋上はまあ、そこまで大変じゃないけど……1年分の雨やホコリの汚れを落とさないといけないからね」
「よごれおとし!」
「やるー!」
「よーしコボルド諸君、この雑巾でゴシゴシとだな。ナザル、例のあれをやってくれ。油で汚れを浮かせるやつ」
「ほいほい。油!」
屋上の汚れに、油が染み込んでいく。
そうすると、汚れが浮かび上がって、雑巾で吸わせるだけで片付くようになるのだ。
「きれいきれい!」
「よごれおちるー!」
うんうん、汚れがガンガン落ちると楽しいよな。
広さ的には、大きな部屋ひとつ分くらい。
ということは、それなりに掃除のしがいがあるということだ。
「しかし昨年君が油掃除をやったから、今年の汚れは大したことがないなあ……。これではすぐに仕事が終わってしまう」
「あ、そうかあ……」
仕事が終わってしまうと、時間までは別の掃除を手伝う必要がある。
「できるだけ仕事はさぼりたいものだ」
「分かるかい?」
「分かる……。可能な限り少ない仕事量で一日をやり過ごし、楽な生活を目指す……。これが人生の大目標だと思う」
「ナザル!」
「リップル!」
僕らは固い握手を交わした。
その横で、コボルドの二人はせっせと掃除を進めていくのだ。
案外手際がいいぞ!
これはすぐに終わってしまいそうだ……!!
「二人とも、そこら辺でちょっとこっちに来てくれ!」
僕が声をかけると、コゲタもアララも仕事を止めた。
素直なのはいいことだ。
「なあにー」「なになに」
トコトコ寄ってくる。
「冒険者ギルドはこの辺りで一番大きい建物でな。三階でも他の建物よりもずーっと高いところにあるんだ」
「ふんふん」「ふふーん」
分かってるのか分かってないのか。
「なので、ここからだと下町がグワーッと見渡せるぞ!」
アーランの下町は、せいぜい二階建てくらいまでしか建物がない。
これ、理由を最近知ることになって納得したのだ。
遺跡が人々から少しずつ魔力を吸ってその機能を維持しているらしいのだが。
これ、三階から上になると、魔力の吸える量が減少してしまうんだそうだ。
だから、遺跡の機能に頼って反映しているアーランとしては、魔力吸収的に困ってしまうわけだ。
「おおー!」「たかーい!」
二人が景色を楽しみ始めた。
いいぞいいぞ。
落ちないように気をつけてね。
だけど、普段低いところからしか世界を見ていないコボルドにとって、この高さからアーランを見渡すというのは初めての体験だろう。
思った以上に、二人は夢中になっているようだった。
だが、犬は少ししたら飽きるからね。
一時間くらい、あそこは屋台だとか、あっちにギルボウのお店だとか、あっちが自分たちのおうちだとか喋り合っていた二人。
ようやく景色に飽きて、掃除に戻ってきた。
その間、僕とリップルは春の日差しを受けてぼーっとしていたのだった。
いやあ、存分にサボれた。
「ここで掃除に取り組めば、だいたい一時間で終わる……。そうしたらそろそろ大掃除も終わりの時間だぞナザル」
「リップルそこまで計算していたのか……!!」
「フフフフフ……」
恐るべし、安楽椅子冒険者。
お陰で楽ができたよ。
下ではそろそろ、掃除のノルマが終わった連中がダラダラとやってるフリをしながら雑談を始めている頃だった。
なんだかんだで冒険者としてやっていっている連中は、本気になれば掃除だってお手の物である。
ちなみに……こういうのもできないタイプの人は冒険者としてやっていけないので、地元に戻るか、下町や商業地区で下働きなんかをすることになる。
世知辛い世の中だ。
冬を終え、少しずつ色づき始めているアーランを眺めながら、僕はしみじみしてしまった。
こっちの世界には桜が無いから、木々に新しい葉が付き始める事で春を知る感じだな。
無いかなあ、桜……。
「ご主人ー! おそうじ!」
「ああ、はいはい!」
とうとうコゲタに叱られてしまった!
ちょっとの間、本気で掃除をすることにしよう。
油使いの実力を見せてやるぞー。
こうして、晩春の穏やかな日は過ぎていくのだった。
23
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~
日之影ソラ
ファンタジー
十年前――
世界は平和だった。
多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。
誰もが思っただろう。
心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。
何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。
十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。
そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。
「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」
「クビ?」
「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」
めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。
彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。
そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。
一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。
順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる