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42・アララの飼い主の正体
第127話 これが完成形だ
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ギルボウの店にやってきた。
僕が目配せすると、彼も頷く。
既にラー油は完成しているようだ。
「なんだ、この香りは……。ナザルさん、私に一体何を食べさせようと言うんだ……」
飼い主氏の目が血走っている。
強い感情を必死に堪えているのだ。
その感情の根源にあるのは食欲である。
「餃子ですよ……。ご存知の通りの餃子だ。だが、あなたが今まで食べていた焼き餃子は、僕がみんなに食べてもらいたかった焼き餃子にあと一歩だけ足りなかったんだ」
「なん……だと……」
たじたじになる飼い主氏。
そんな僕らの足元を、コボルド二人がわーい、と駆け抜けていった。
「おいしそう!」
「いいによい!」
茶色いコゲタと、白いアララちゃんがピョンピョン飛び跳ねている。
「お前らはラー油ダメだぞ。刺激強いんだからな」
「えー」
「いじわるー」
コボルドたちがパタパタしている。
うんうん仕方ない仕方ない。
君たちは嗅覚とか味覚が鋭敏だしね。
飼い主氏とともに席につく。
「無論、狙いが無いとは言わない。僕はあなたにあまり隠し事をするものではないと思っていますからね。コゲタの大切な友人の飼い主でもある」
「あ、ああ……。知っていたのですか」
「はい」
いや、さっき教えてもらったんですがね!
「ご主人たちなかよしねー」
「アララとコゲタもなかよしねー」
「「ねー」」
かーわいい。
守らねば、この二人の友情。
「僕はですね、いや、ご想像の通り、僕の後ろにいる人々もまた、このままでいいなんて思っちゃいません。そちらでもアーランの美食を楽しんでもらえているようじゃないですか。つまり、僕らとそちらは同じ物を美味しいと思える味覚を持っているんだ。だったら……一緒に美味いものを食える程度の仲になってもいいじゃないですか」
「うう……。だが、それは私の一存では……」
「そちらでは、アーランとは違う形で油を手に入れたと聞いています。それにピーカラとハーブを合わせればできる。それがこれですよ。香りを感じ、味わう油。ラー油……!!」
真っ赤な油が皿に載せられて出てくる。
ここにビネガーに魚醤などを少し混ぜて……。
そして焼き餃子の登場だ。
なお、コボルドたちのお皿はほどよく冷ましてある。
「この混ぜ合わせた特製ソースに焼き餃子をつけてですね、食べてみてください……。飛ぶぞ」
「なん……だと……!?」
「僕はあなたの国のために、このソースの製法を全て伝える用意がある!!」
「なんですって!?」
「餃子が冷める前にはよ!」
「あ、ああ!」
フォークで突き刺した餃子を、ソースにつける飼い主氏。
ちなみに横では、アララちゃんが同じアクションで餃子をあーんと口に運んでいる。
「むっ、むむむむむ!! こ、これは……! これはーっ!!」
焼き餃子を頬張り、わなわなと震える飼い主氏。
お分かりだろうか。
旨味、塩味、酸味、辛味を全て一度に味わえる完全食品、焼き餃子の完成形がこれだ!!
「うおおお! うおおおお!!」
餃子を食べる手が、口が止まらない。
飼い主氏はひたすら、ひたすらに食べた。
用意された餃子の山が消えるまで止まらない!
僕ももりもり食べた。
うん、この味だあー!
魚醤がちょっと主張が強いから、将来的には醤油を開発せねばならない。
醤油が産まれるということは味噌が産まれるということであり、豆腐も作れるということである。
夢が……夢が広がる……!!
だがひとまずは、ラー油の完成から新たな中華料理を作り出すことも可能であろう。
手が届くところからやっていく。
それにしても美味いなあ焼き餃子。
「おいしーねー」
「おいしー」
コボルド二人がニコニコしているのは何より。
飼い主氏は全ての餃子を食べ終わり、背もたれに体を預けて放心状態だった。
血糖値スパイクかな……?
餃子、なかなか炭水化物も多いからな。
「ナザルさん」
「あ、はい」
「本当に、ファイブスターズとアーランは再び手を取り合えるとお考えか」
「手を取り合えるだろう。アーランは農作物の輸出でファイブスターズに負担を掛けたかも知れないが……。それはすぐに解決する」
「なんと!?」
「アーランで生産される農作物は、この美食が発展しつつある世界ではほぼ全てアーランで消費される。あとはファイブショーナンに出る」
「な、なるほど……。つまりファイブスターズの農作物は自分たちでどんどん消費するようになると」
「そうなる……。むしろ、アーランでは作付面積を確保できない食材に関しては、ファイブスターズ側で作ることで、輸出に使えるようになるだろう。例えばこっちに大豆ないんだけど、そっちで作ってない……?」
僕は大豆というものの特徴を事細かに語って聞かせた。
飼い主氏はちょっと引いていたようだ。
「あ、ああ、分かった。餃子とソースのレシピと引き換えに調べさせる……」
こうして、飼い主氏とアララちゃんは焼き餃子を存分に楽しんだ。
餃子なんだが、アーランでは既にニンニク抜きも出回っており、ハーブをガンガンにきかせたやつを爽やかにビネガーだけで食べたりする勢力も現れたらしい。
進化が早い……!
そして、飼い主氏は姿を消した。
アララちゃんもいなくなったので、しばらくコゲタは寂しがっていたようだ。
だが、ほんの二週間ほどで飼い主氏は戻ってきたのだった。
「ナザルさん、あなたの雇い主を連れてきてください。交渉をしましょう」
彼はアーランの外に、ツーテイカーの偉い人を連れてきたのだという。
いよいよ、冷戦解消のための仕事は佳境なのだ。
僕が目配せすると、彼も頷く。
既にラー油は完成しているようだ。
「なんだ、この香りは……。ナザルさん、私に一体何を食べさせようと言うんだ……」
飼い主氏の目が血走っている。
強い感情を必死に堪えているのだ。
その感情の根源にあるのは食欲である。
「餃子ですよ……。ご存知の通りの餃子だ。だが、あなたが今まで食べていた焼き餃子は、僕がみんなに食べてもらいたかった焼き餃子にあと一歩だけ足りなかったんだ」
「なん……だと……」
たじたじになる飼い主氏。
そんな僕らの足元を、コボルド二人がわーい、と駆け抜けていった。
「おいしそう!」
「いいによい!」
茶色いコゲタと、白いアララちゃんがピョンピョン飛び跳ねている。
「お前らはラー油ダメだぞ。刺激強いんだからな」
「えー」
「いじわるー」
コボルドたちがパタパタしている。
うんうん仕方ない仕方ない。
君たちは嗅覚とか味覚が鋭敏だしね。
飼い主氏とともに席につく。
「無論、狙いが無いとは言わない。僕はあなたにあまり隠し事をするものではないと思っていますからね。コゲタの大切な友人の飼い主でもある」
「あ、ああ……。知っていたのですか」
「はい」
いや、さっき教えてもらったんですがね!
「ご主人たちなかよしねー」
「アララとコゲタもなかよしねー」
「「ねー」」
かーわいい。
守らねば、この二人の友情。
「僕はですね、いや、ご想像の通り、僕の後ろにいる人々もまた、このままでいいなんて思っちゃいません。そちらでもアーランの美食を楽しんでもらえているようじゃないですか。つまり、僕らとそちらは同じ物を美味しいと思える味覚を持っているんだ。だったら……一緒に美味いものを食える程度の仲になってもいいじゃないですか」
「うう……。だが、それは私の一存では……」
「そちらでは、アーランとは違う形で油を手に入れたと聞いています。それにピーカラとハーブを合わせればできる。それがこれですよ。香りを感じ、味わう油。ラー油……!!」
真っ赤な油が皿に載せられて出てくる。
ここにビネガーに魚醤などを少し混ぜて……。
そして焼き餃子の登場だ。
なお、コボルドたちのお皿はほどよく冷ましてある。
「この混ぜ合わせた特製ソースに焼き餃子をつけてですね、食べてみてください……。飛ぶぞ」
「なん……だと……!?」
「僕はあなたの国のために、このソースの製法を全て伝える用意がある!!」
「なんですって!?」
「餃子が冷める前にはよ!」
「あ、ああ!」
フォークで突き刺した餃子を、ソースにつける飼い主氏。
ちなみに横では、アララちゃんが同じアクションで餃子をあーんと口に運んでいる。
「むっ、むむむむむ!! こ、これは……! これはーっ!!」
焼き餃子を頬張り、わなわなと震える飼い主氏。
お分かりだろうか。
旨味、塩味、酸味、辛味を全て一度に味わえる完全食品、焼き餃子の完成形がこれだ!!
「うおおお! うおおおお!!」
餃子を食べる手が、口が止まらない。
飼い主氏はひたすら、ひたすらに食べた。
用意された餃子の山が消えるまで止まらない!
僕ももりもり食べた。
うん、この味だあー!
魚醤がちょっと主張が強いから、将来的には醤油を開発せねばならない。
醤油が産まれるということは味噌が産まれるということであり、豆腐も作れるということである。
夢が……夢が広がる……!!
だがひとまずは、ラー油の完成から新たな中華料理を作り出すことも可能であろう。
手が届くところからやっていく。
それにしても美味いなあ焼き餃子。
「おいしーねー」
「おいしー」
コボルド二人がニコニコしているのは何より。
飼い主氏は全ての餃子を食べ終わり、背もたれに体を預けて放心状態だった。
血糖値スパイクかな……?
餃子、なかなか炭水化物も多いからな。
「ナザルさん」
「あ、はい」
「本当に、ファイブスターズとアーランは再び手を取り合えるとお考えか」
「手を取り合えるだろう。アーランは農作物の輸出でファイブスターズに負担を掛けたかも知れないが……。それはすぐに解決する」
「なんと!?」
「アーランで生産される農作物は、この美食が発展しつつある世界ではほぼ全てアーランで消費される。あとはファイブショーナンに出る」
「な、なるほど……。つまりファイブスターズの農作物は自分たちでどんどん消費するようになると」
「そうなる……。むしろ、アーランでは作付面積を確保できない食材に関しては、ファイブスターズ側で作ることで、輸出に使えるようになるだろう。例えばこっちに大豆ないんだけど、そっちで作ってない……?」
僕は大豆というものの特徴を事細かに語って聞かせた。
飼い主氏はちょっと引いていたようだ。
「あ、ああ、分かった。餃子とソースのレシピと引き換えに調べさせる……」
こうして、飼い主氏とアララちゃんは焼き餃子を存分に楽しんだ。
餃子なんだが、アーランでは既にニンニク抜きも出回っており、ハーブをガンガンにきかせたやつを爽やかにビネガーだけで食べたりする勢力も現れたらしい。
進化が早い……!
そして、飼い主氏は姿を消した。
アララちゃんもいなくなったので、しばらくコゲタは寂しがっていたようだ。
だが、ほんの二週間ほどで飼い主氏は戻ってきたのだった。
「ナザルさん、あなたの雇い主を連れてきてください。交渉をしましょう」
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いよいよ、冷戦解消のための仕事は佳境なのだ。
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