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38・王家のプチ騒乱?
第116話 王孫、納得の跡継ぎかもしれん
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結論から言うと、みんなカルボナーラの虜(とりこ)になった。
あのやる気のなかった第二王子を、やる気に満ち満ちて謀反すら疑われるほどの覇気を溢れる男に変えてしまった料理だ。
これに抗うことはできまい。
「なんという……なんという美味さだ……。おお、酒でもないのに眠くなってきた」
おっ、血糖値スパイクだ。
オウザマス二世陛下がうとうとしているぞ。
「毒なのでは?」「一体どういうことだ」
毒見されて冷えてると、消化はよくなくなるからな。
あれほど美味く、そして消化によくて炭水化物パワーが全身を駆け巡る料理は初めてであろう。
「むおっ、確かに美味い! これは美味い!」
ソロス王子もがつがつと食べている。
今は作法も忘れて、今にも手づかみになりそうな勢いだ。
彼の奥方も、ちょこちょことしか食べないものの、ひたすら食べ続けている。
その横で、意外なことが起こっていた。
僕がバカ王孫と表現したウノだが、彼はデュオス王子のお嬢さんがやってみせた作法を完璧にコピーし、静かに食べているではないか。
「やっぱり、このやり方が一番効率がいいなあ。ガツガツやると美味しさが逃げますよう父上」
呑気な言い方だが、この男……カルボナーラに呑まれていない……!!
これは驚くべきことだった。
だが、このとんでもない事態に気付いている者は少ない。
僕と、それから目を見開いて驚くデュオス王子。
それくらいか……?
「ウノが落ち着いた様子なのが意外だったかい?」
僕とともに、護衛の席に立つツインが囁く。
「彼は頭もさほど良くはなく、運動も苦手。武術の才も無く、魔法も使えない。だが……。自分に何が足りていないかを完全に理解している男だ」
「ほほー! そりゃあ、あれですよ。王の器だ。誰かの助けが必要だということを理解してるっていうのは才能ですよ。あー、僕は見る目が無かったかも知れない。彼はいい王様になると思います」
「だろう? 見てみたまえ。妹も、彼のことが別に嫌いでは無いようだ」
お嬢さん、ウノ王孫が美しい所作でパスタを食べているのを見て、ニコニコしている。
なるほど、彼女は彼を認めているのか。
それに、食べている時の姿が恐ろしく綺麗だな。
威厳すら感じる。
マナーを完全に己のものにしている。
何もできないわけじゃない。
多分あの王孫、礼儀作法と王としての役割への適性が極めて高いぞ。
「これは意外な発見だった」
アーランは安泰かも知れない。
第一王子ソロスは、見たところ凡人だ。
生まれた順番が早かっただけの男だと、城下町でも囁かれている。
そしてソロスの子であるウノも、バカ王孫だと思われているに違いない。
いやいやどうして。
彼は僕が知る中で、ただ一人だけカルボナーラの魅力に負けなかった。
それだけで、彼が凡人だとは欠片ほども思えなくなった。
「どれ、わらわもいただこうかの!」
バルバラ女王陛下は、他の面々を引き連れて外でパスタを食べるつもりのようだ。
さて、僕もご相伴に与るとしよう。
こうしてカルボナーラに端を発したアーラン王国の混乱はあっという間に解決してしまった。
それどころか、王家の絆的なものは盤石になったと言えよう。
この日から、デュオス殿下はソロス王子のサポートに回る旨を明言するようになったらしい。
ソロスも拍子抜けしたことだろう。
しばらくは気を張っていることだと思うが……。
デュオスが見ているのは、ソロスの後の時代だ。
「いやあ、しかしバルバラ陛下もカルボナーラでメロメロになるとは思わなかったなあ。だが、あれはファイブショーナンでは美味しく作ることができない料理だろうと喝破された。いやあ、凄い人が多いものだ」
「うむ……私もこの料理に弱点があるとは思わなんだ。つまりこれはたまたま、アーランの気候と今の季節にマッチしていたからとんでもない美味さになったのだということだろうか」
「ありうるな。おかしいと思ってたんだ。料理ってのは季節ものだ。今、このタイミングで、アーランで食ったからヤバかったんだ。もっと暖かくなりゃ、カルボナーラはちょっとベタベタしてて胃に重くなる」
僕とシャザクとギルボウの三人で、顔を寄せ合ってそんな話をした。
ともかく、一件落着。
お互いに席に背を預けると、そこへジョッキが運ばれてきた。
ここは酒場。
「アーランのこれからの繁栄を願って!」
「王家とデュオス殿下の栄光を願って!」
「市場と客どもが腹ペコを満たせることを願って!」
乾杯!
いつもは不味いエールが、今日はなんとなく美味かった。
酒場に新しい客が入ってくる。
一緒に吹き込んでくる風が、明らかにぬるくなってきていた。
冬が終わろうとしているのだ。
春がやってくる。
そうなれば……。
美味い料理が変わるんだよなあ……。
さて、次は何を作ったものか……。
「ナザル殿、今度は何を企んでおられるのか? あなたは今回の件で王家から注目されるようになっているのだから、おかしな真似はせぬようにな……」
「あっはい。しばらくは大人しくしていようかなと……」
「いいや、こいつはやるね。常に何かやらかさなきゃ気がすまない男の目をしてる。そして俺も巻き込まれるんだ。やめてくれえ」
僕らが賑やかに盛り上がったところで、新しく入ってきたお客が僕らの席についた。
「皆さん、お待たせしました。さあ、私も今日は羽目を外して飲んでしまおうかしら! うふふ、でも、お酒を奢ってくださるなんて皆様羽振りがよくなったんですねえ」
ギルマス婦人のドロテアさんを迎え、僕らはこの日、閉店まで飲んで騒いだのだった。
なお、帰ったらコゲタに「おさけくさい!」と拒否されてショックを受けたのだけれど。
あのやる気のなかった第二王子を、やる気に満ち満ちて謀反すら疑われるほどの覇気を溢れる男に変えてしまった料理だ。
これに抗うことはできまい。
「なんという……なんという美味さだ……。おお、酒でもないのに眠くなってきた」
おっ、血糖値スパイクだ。
オウザマス二世陛下がうとうとしているぞ。
「毒なのでは?」「一体どういうことだ」
毒見されて冷えてると、消化はよくなくなるからな。
あれほど美味く、そして消化によくて炭水化物パワーが全身を駆け巡る料理は初めてであろう。
「むおっ、確かに美味い! これは美味い!」
ソロス王子もがつがつと食べている。
今は作法も忘れて、今にも手づかみになりそうな勢いだ。
彼の奥方も、ちょこちょことしか食べないものの、ひたすら食べ続けている。
その横で、意外なことが起こっていた。
僕がバカ王孫と表現したウノだが、彼はデュオス王子のお嬢さんがやってみせた作法を完璧にコピーし、静かに食べているではないか。
「やっぱり、このやり方が一番効率がいいなあ。ガツガツやると美味しさが逃げますよう父上」
呑気な言い方だが、この男……カルボナーラに呑まれていない……!!
これは驚くべきことだった。
だが、このとんでもない事態に気付いている者は少ない。
僕と、それから目を見開いて驚くデュオス王子。
それくらいか……?
「ウノが落ち着いた様子なのが意外だったかい?」
僕とともに、護衛の席に立つツインが囁く。
「彼は頭もさほど良くはなく、運動も苦手。武術の才も無く、魔法も使えない。だが……。自分に何が足りていないかを完全に理解している男だ」
「ほほー! そりゃあ、あれですよ。王の器だ。誰かの助けが必要だということを理解してるっていうのは才能ですよ。あー、僕は見る目が無かったかも知れない。彼はいい王様になると思います」
「だろう? 見てみたまえ。妹も、彼のことが別に嫌いでは無いようだ」
お嬢さん、ウノ王孫が美しい所作でパスタを食べているのを見て、ニコニコしている。
なるほど、彼女は彼を認めているのか。
それに、食べている時の姿が恐ろしく綺麗だな。
威厳すら感じる。
マナーを完全に己のものにしている。
何もできないわけじゃない。
多分あの王孫、礼儀作法と王としての役割への適性が極めて高いぞ。
「これは意外な発見だった」
アーランは安泰かも知れない。
第一王子ソロスは、見たところ凡人だ。
生まれた順番が早かっただけの男だと、城下町でも囁かれている。
そしてソロスの子であるウノも、バカ王孫だと思われているに違いない。
いやいやどうして。
彼は僕が知る中で、ただ一人だけカルボナーラの魅力に負けなかった。
それだけで、彼が凡人だとは欠片ほども思えなくなった。
「どれ、わらわもいただこうかの!」
バルバラ女王陛下は、他の面々を引き連れて外でパスタを食べるつもりのようだ。
さて、僕もご相伴に与るとしよう。
こうしてカルボナーラに端を発したアーラン王国の混乱はあっという間に解決してしまった。
それどころか、王家の絆的なものは盤石になったと言えよう。
この日から、デュオス殿下はソロス王子のサポートに回る旨を明言するようになったらしい。
ソロスも拍子抜けしたことだろう。
しばらくは気を張っていることだと思うが……。
デュオスが見ているのは、ソロスの後の時代だ。
「いやあ、しかしバルバラ陛下もカルボナーラでメロメロになるとは思わなかったなあ。だが、あれはファイブショーナンでは美味しく作ることができない料理だろうと喝破された。いやあ、凄い人が多いものだ」
「うむ……私もこの料理に弱点があるとは思わなんだ。つまりこれはたまたま、アーランの気候と今の季節にマッチしていたからとんでもない美味さになったのだということだろうか」
「ありうるな。おかしいと思ってたんだ。料理ってのは季節ものだ。今、このタイミングで、アーランで食ったからヤバかったんだ。もっと暖かくなりゃ、カルボナーラはちょっとベタベタしてて胃に重くなる」
僕とシャザクとギルボウの三人で、顔を寄せ合ってそんな話をした。
ともかく、一件落着。
お互いに席に背を預けると、そこへジョッキが運ばれてきた。
ここは酒場。
「アーランのこれからの繁栄を願って!」
「王家とデュオス殿下の栄光を願って!」
「市場と客どもが腹ペコを満たせることを願って!」
乾杯!
いつもは不味いエールが、今日はなんとなく美味かった。
酒場に新しい客が入ってくる。
一緒に吹き込んでくる風が、明らかにぬるくなってきていた。
冬が終わろうとしているのだ。
春がやってくる。
そうなれば……。
美味い料理が変わるんだよなあ……。
さて、次は何を作ったものか……。
「ナザル殿、今度は何を企んでおられるのか? あなたは今回の件で王家から注目されるようになっているのだから、おかしな真似はせぬようにな……」
「あっはい。しばらくは大人しくしていようかなと……」
「いいや、こいつはやるね。常に何かやらかさなきゃ気がすまない男の目をしてる。そして俺も巻き込まれるんだ。やめてくれえ」
僕らが賑やかに盛り上がったところで、新しく入ってきたお客が僕らの席についた。
「皆さん、お待たせしました。さあ、私も今日は羽目を外して飲んでしまおうかしら! うふふ、でも、お酒を奢ってくださるなんて皆様羽振りがよくなったんですねえ」
ギルマス婦人のドロテアさんを迎え、僕らはこの日、閉店まで飲んで騒いだのだった。
なお、帰ったらコゲタに「おさけくさい!」と拒否されてショックを受けたのだけれど。
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