俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
116 / 337
38・王家のプチ騒乱?

第116話 王孫、納得の跡継ぎかもしれん

しおりを挟む
 結論から言うと、みんなカルボナーラの虜(とりこ)になった。
 あのやる気のなかった第二王子を、やる気に満ち満ちて謀反すら疑われるほどの覇気を溢れる男に変えてしまった料理だ。
 これに抗うことはできまい。

「なんという……なんという美味さだ……。おお、酒でもないのに眠くなってきた」

 おっ、血糖値スパイクだ。
 オウザマス二世陛下がうとうとしているぞ。

「毒なのでは?」「一体どういうことだ」

 毒見されて冷えてると、消化はよくなくなるからな。
 あれほど美味く、そして消化によくて炭水化物パワーが全身を駆け巡る料理は初めてであろう。

「むおっ、確かに美味い! これは美味い!」

 ソロス王子もがつがつと食べている。
 今は作法も忘れて、今にも手づかみになりそうな勢いだ。
 彼の奥方も、ちょこちょことしか食べないものの、ひたすら食べ続けている。

 その横で、意外なことが起こっていた。

 僕がバカ王孫と表現したウノだが、彼はデュオス王子のお嬢さんがやってみせた作法を完璧にコピーし、静かに食べているではないか。

「やっぱり、このやり方が一番効率がいいなあ。ガツガツやると美味しさが逃げますよう父上」

 呑気な言い方だが、この男……カルボナーラに呑まれていない……!!
 これは驚くべきことだった。

 だが、このとんでもない事態に気付いている者は少ない。
 僕と、それから目を見開いて驚くデュオス王子。
 それくらいか……?

「ウノが落ち着いた様子なのが意外だったかい?」

 僕とともに、護衛の席に立つツインが囁く。

「彼は頭もさほど良くはなく、運動も苦手。武術の才も無く、魔法も使えない。だが……。自分に何が足りていないかを完全に理解している男だ」

「ほほー! そりゃあ、あれですよ。王の器だ。誰かの助けが必要だということを理解してるっていうのは才能ですよ。あー、僕は見る目が無かったかも知れない。彼はいい王様になると思います」

「だろう? 見てみたまえ。妹も、彼のことが別に嫌いでは無いようだ」

 お嬢さん、ウノ王孫が美しい所作でパスタを食べているのを見て、ニコニコしている。
 なるほど、彼女は彼を認めているのか。
 それに、食べている時の姿が恐ろしく綺麗だな。

 威厳すら感じる。
 マナーを完全に己のものにしている。
 何もできないわけじゃない。
 多分あの王孫、礼儀作法と王としての役割への適性が極めて高いぞ。

「これは意外な発見だった」

 アーランは安泰かも知れない。
 第一王子ソロスは、見たところ凡人だ。
 生まれた順番が早かっただけの男だと、城下町でも囁かれている。

 そしてソロスの子であるウノも、バカ王孫だと思われているに違いない。
 いやいやどうして。

 彼は僕が知る中で、ただ一人だけカルボナーラの魅力に負けなかった。
 それだけで、彼が凡人だとは欠片ほども思えなくなった。

「どれ、わらわもいただこうかの!」

 バルバラ女王陛下は、他の面々を引き連れて外でパスタを食べるつもりのようだ。
 さて、僕もご相伴に与るとしよう。

 こうしてカルボナーラに端を発したアーラン王国の混乱はあっという間に解決してしまった。
 それどころか、王家の絆的なものは盤石になったと言えよう。

 この日から、デュオス殿下はソロス王子のサポートに回る旨を明言するようになったらしい。
 ソロスも拍子抜けしたことだろう。
 しばらくは気を張っていることだと思うが……。

 デュオスが見ているのは、ソロスの後の時代だ。
 
「いやあ、しかしバルバラ陛下もカルボナーラでメロメロになるとは思わなかったなあ。だが、あれはファイブショーナンでは美味しく作ることができない料理だろうと喝破された。いやあ、凄い人が多いものだ」

「うむ……私もこの料理に弱点があるとは思わなんだ。つまりこれはたまたま、アーランの気候と今の季節にマッチしていたからとんでもない美味さになったのだということだろうか」

「ありうるな。おかしいと思ってたんだ。料理ってのは季節ものだ。今、このタイミングで、アーランで食ったからヤバかったんだ。もっと暖かくなりゃ、カルボナーラはちょっとベタベタしてて胃に重くなる」

 僕とシャザクとギルボウの三人で、顔を寄せ合ってそんな話をした。
 ともかく、一件落着。

 お互いに席に背を預けると、そこへジョッキが運ばれてきた。
 ここは酒場。

「アーランのこれからの繁栄を願って!」

「王家とデュオス殿下の栄光を願って!」

「市場と客どもが腹ペコを満たせることを願って!」

 乾杯!
 いつもは不味いエールが、今日はなんとなく美味かった。

 酒場に新しい客が入ってくる。
 一緒に吹き込んでくる風が、明らかにぬるくなってきていた。
 冬が終わろうとしているのだ。

 春がやってくる。
 そうなれば……。
 美味い料理が変わるんだよなあ……。

 さて、次は何を作ったものか……。

「ナザル殿、今度は何を企んでおられるのか? あなたは今回の件で王家から注目されるようになっているのだから、おかしな真似はせぬようにな……」

「あっはい。しばらくは大人しくしていようかなと……」

「いいや、こいつはやるね。常に何かやらかさなきゃ気がすまない男の目をしてる。そして俺も巻き込まれるんだ。やめてくれえ」

 僕らが賑やかに盛り上がったところで、新しく入ってきたお客が僕らの席についた。

「皆さん、お待たせしました。さあ、私も今日は羽目を外して飲んでしまおうかしら! うふふ、でも、お酒を奢ってくださるなんて皆様羽振りがよくなったんですねえ」

 ギルマス婦人のドロテアさんを迎え、僕らはこの日、閉店まで飲んで騒いだのだった。
 なお、帰ったらコゲタに「おさけくさい!」と拒否されてショックを受けたのだけれど。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「異世界に転生してくれぇえええええええええ!」  事故で命を落としたアラサー社畜の俺は、真っ白な空間で謎の老人に土下座されていた。何でも老人は異世界の賢者で、自分の後継者になれそうな人間を死後千年も待ち続けていたらしい。  賢者の使命を代理で果たせばその後の人生は自由にしていいと言われ、人生に未練があった俺は、賢者の望み通り転生することに。  読めば賢者の力をそのまま使える魔導書を五冊もらい、俺は異世界へと降り立った。そしてすぐに気付く。この魔導書、一冊だけでも読めば人外クラスの強さを得られてしまう代物だったのだ。  賢者の友人だというもふもふフェニックスを案内役に、五冊のチート魔導書を携えて俺は異世界生活を始める。 ーーーーーー ーーー ※基本的に毎日正午ごろに一話更新の予定ですが、気まぐれで更新量が増えることがあります。その際はタイトルでお知らせします……忘れてなければ。 ※2023.9.30追記:HOTランキングに掲載されました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます! ※2023.10.8追記:皆様のおかげでHOTランキング一位になりました! ご愛読感謝!

異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア
ファンタジー
日本の東京に店を構える老舗のラーメン屋「聖龍軒」と、ファルスカ王国の巨大ダンジョン「ダルゴニア」の地下第7階層は、一枚の扉で繋がっていた。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...