上 下
108 / 210
36・第二王子一家、視察に来る

第108話 殿下、これが生きている家畜です

しおりを挟む
 サトウキビを楽しんだ後、我々第二王子一行は第二層へ向かうのだった。
 当然のように、第一層では何も起こっていない。
 第二層だって何も起こらないだろう。

「安全が完全に確保されているんですよ」

「ほう……! いや、私も教師から聞いたことはあったが、遺跡の中がこれほど安全に保たれているとは思わなかった。労働者たちも、仕事に専念できるのだな」

「そういうことです。お陰で僕らは、美味しい食べ物を口にすることができるわけで」

「ああ。私も暖かい食事があれほど美味しいとは思わなかった。今は日々楽しい。例え暗殺される危険が上がるとしても、あれを知ってしまった以上は冷たい食事には戻れない……」

「ええ、本当にその通りです!」

「温かい食事は大変な手間ひまが掛かってたのねえ。感謝だわ!」

 奥方とお嬢さんもそうだそうだと言っております。

「……よくぞこの人たちと仲良くなったもんだねえ……」

 ツインが大変感心している。
 そこはそれ、僕の手腕というやつだ。
 飯で釣ったからね。

 第一層から第二層への移動をエレベーターで行う。
 家畜がわんさか乗り込める大きなエレベーターだ。

 動く地面に動揺して、第二王子一家があわあわしていた。
 ゆっくりと下っていくが、眼の前の地面がどんどん上に上がっていき、岩盤になり、そしてずっと下って第二層になるわけだからね。
 この視界は慣れないと確かに驚く。

 そう、エレベーターには扉が無いのだ。
 事故に注意。

 ちょっと待ったら到着だ。

「ともだちのにおい!」

 第二層に着くや否や、コゲタがピューッと飛び出していった。
 僕が畑仕事をしている間、コゲタは家畜のお世話をしたりしていたからな。
 ここで暮らす動物たちとは顔見知りなのだ。

 あちこちから、獣の鳴き声が聞こえる。
 コゲタの帰還を感じ取ったらしい。

「うっ、こ、ここは臭いわ!」

 お嬢さんが鼻をつまんだ。
 そう、家畜とは臭うものです。

「だんだん慣れていってください。ここで、僕らが食べている肉やチーズなどが作られているんですよ。皆さん、牛乳飲んだりしないでしょう。外に出るのは、さんざん熱して加工用になったものばかりだし」

 牛乳なんかはすぐ悪くなってしまうから、殺菌して密閉する技術などが未発達なこの世界ではあまり多く飲まれていない。
 熱して飲んだりはできるんだが、日持ちさせるように加工する技術がな……。

「牛乳? それってチーズのもとになるものでしょ?」

「そうです。チーズは美味いでしょ」

「確かに美味しいわ。あれは冷めても美味しいし、むしろ冷えてると美味しいわ!」

 美味しさを語るほどに目がキラキラしてくるお嬢さん。
 美食を愛する素質がある。

「そのチーズのもとになったものですよ……」

「絶対に美味しいわ!! 飲みたい!」

「よし、牛乳飲みに行きましょう!」

「行くわ!」

 そういうことになった。
 お嬢さんの勢いは第二王子を上回るな。
 これが若さか……。

 第一層の視察で割と満足しているっぽい第二王子と奥方だが、愛娘がどんどん先に行くならばついていく必要がある。
 顔を見合わせて笑いながら、後ろを歩いてくるのだ。
 彼らのこんなにこやかな表情、城の人々は見たことがないかも知れないな。

 やって来たのは、牛がたくさんいるところだ。
 搾乳の時間に合わせてやって来たので、ここはぜひとも第二王子一家に牛の乳搾りを体験してもらおうではないか。

「あひー」

 お嬢さんがなんとも言えぬ悲鳴を上げながら乳搾りをした。
 ミルクが下の桶にビューっと出る。

「うひゃーっ」

「はしたないですよ!」

 奥方に注意されている。
 いやあ、初めてならその悲鳴は出ちゃうと思うなあ。

「あなた、見本を見せてやってください」

「えっ、私が!?」

 デュオス殿下は助けを求めるように、僕とツインを見た。
 その後、なんか顔を引き締めた。

 おっ、再会した息子にいいところ見せるつもりだな?
 その息子はもう独り立ちし、ゴールド級として地位を確立したすごいヤツなのだ。
 彼はどういう能力を使うんだろうな。
 神殿で育てられたらしいから、神官戦士みたいな感じなのではないか。

 そんな事を考えているうちに、殿下が搾乳ポジションに入っていた。
 農夫の人に教えてもらいながら、真剣な顔で牛の乳に挑む──!!

「いざ!!」

「あっ殿下、力はいりませんので優しく優しく」

「あ、うん分かった」

 緊張しながら、教えられた通りに乳搾りするデュオス殿下。
 おお、ミルクがぴゅーっと桶の中に入った。

「やるわねえお父様……!」

「あなた、素敵よ!」

 ツインもこの光景を、ちょっと口元を隠しながら眺めている。
 ニヤニヤしてしまうのを必死に隠しているな?
 離れていても家族の愛みたいなのはあるんだなあ。

 ということで!
 みんなで搾りたてのミルクをいただくことになった。
 とは言っても、一度熱して消毒はするけどね。
 それに熱くしたほうが甘みが出る。

「じゃあみんなでいただきましょうか!」

「うむ。どれ……」

 真っ先に口をつけるのは殿下だ。
 もう僕の言うことならなんでも信用してくれるところまで来ているな……。

 だが、今回は間違いない。
 暖かいうちが美味いんだから。

 生まれて初めてホットミルクを口にした殿下は、目を丸くする。

「これほど濃厚で……そして優しい甘さのある飲み物は初めてだ……。だが、どこか馴染みがある……」

「わ、私も飲むわ!」

「わ、わ、わたくしも!」

 お嬢さんと奥方が続いた!
 そしてみんな、笑顔になる。

 僕も会心の笑顔になった。

「……殿下。このミルクの美味さを街のみんなにも味わわせてやりたくないですか」

「うむ! 確かに! これを流通できる方法があれば、私は幾らでも金を出そう!」

 いいぞいいぞ!
 持つべきものは物わかりの良いパトロンなのだ!


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

勇者を庇って死ぬモブに転生したので、死亡フラグを回避する為に槍と魔術で最強になりました。新天地で領主として楽しく暮らしたい

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
現世での残業の最中に突然死。目が覚めたら俺は見覚えのある土手に居た……え? これ昨日やってた死にゲーの街にそっくりじゃね? 俺はどうやら【シャオン】というゲーム序盤のイベントで、主人公である勇者を守って死ぬモブキャラに転生してしまったようだ。 折角転生したのに死んでたまるか!モンスター溢れるこの世界では、人類はモンスターに蹂躙される食物連鎖の下位でしかないのだから…… 先ずは死亡フラグを叩き折り理想の異世界セカンドライフを送ってやる!と硬く決意するものの……えっ? シャオンて公爵家の次男? それも妾の子とか面倒ごとは勘弁してくれよ…… 少しづつゲームの流れとはズレていき……気が付けば腹違いの兄【イオン】の命令で、モンスターの支配領域の最前線都市アリテナで腹違いの妹【リソーナ】と共に辣腕を振い。あるときは領主として、またあるときは冒険者としてあらゆる手段を用いて、シャオンは日常を守るために藻掻いていく……

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~

榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。 彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。 それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。 その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。 そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。 ――それから100年。 遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。 そして彼はエデンへと帰還した。 「さあ、帰ろう」 だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。 それでも彼は満足していた。 何故なら、コーガス家を守れたからだ。 そう思っていたのだが…… 「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」 これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

処理中です...