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34・久々の地上だ!
第101話 楽しき農作業暮らし
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まず、寄生植物ことトマドだが、きちんと土に刺さると根付くことが分かった。
この世界の植物はたくましいな。
環境に合わせて、育ち方を変えられるのだ。
「ナザルさん! こいつを見てくれ。トマドの身に水分が……!」
「なんだって!?」
遺跡の中に作られた土は、基本的に栄養豊富だ。
というのも、地上で暮らす人々からちょっとずつ魔力を集めて養分に変えているためだ。
これ、もしかしてトマドにとっては想定していない環境なのではないだろうか?
クリーピングツリーにくっついている状態では、思うように水分を得られまい。
だから、果実は栄養を凝縮して最小限の水分で存在していた。
だが、この水と栄養に満ちた環境ならどうだろう。
「こりゃあ……みずみずしくて、すぐにでも食べられそうだ!」
僕の補助をしてくれる農夫の人達とともに、幾つか実をもぐ。
「よし、じゃあみんなで食べてみよう」
ナイフで切り分けると、なるほど、これはトマトだ。
だが、どこか水っぽい感じがする。
なんだろう、この違和感は……。
全員で食べてみて、むむっと首を傾げた。
「確かにみずみずしいんだが……。まるで別の果実みたいな味なんだが……」
「ええ、なんかこいつは、味が薄くなってますよ。旨味も酸味も薄い……」
「美味しそうなにおい!」
コゲタが走ってきた。
そして、切り分けられたトマドをひょいっと掴むと、パクパク食べてしまった。
「おいしい~」
「コゲタが美味しいということは……濃度がかなり薄くなったってことだ。これ単体を水代わりにガツガツ食べるならいいが、料理に使うには明らかに力不足だ! くそー、地面に直接植えるのは失敗だ!」
あー、とうめいて天を仰ぐ農夫の人達。
ここで、僕らは角を突き合わせて相談することとなった。
「遺跡から供給される栄養の量が多すぎるんだ。これをどうにかコントロールしないと、トマド本来の味が出てこないぞ」
「そうですねえ。だとすると……。上の階層でやってるやり方にしましょうか」
「上のやり方?」
農夫の人が頷いた。
「二弾重ねになってる畑があったでしょう。あれで、栄養を二箇所に分けられるんですよ。穀物も富栄養すぎるとよくなかったりするんで」
「なるほどなるほど。だとしたら……。たっぷりの栄養を必要とする植物と一緒に育てるのがいいだろうな」
「と、いいますと?」
「オブリーだよ」
僕はニヤリと笑った。
そう。
なぜ気付かなかったのだろう!
元の世界では、オリーブとトマトは友達みたいなものだ。
似たような環境で育つ。
トマドがトマトと似た性質を持っている可能性があるならば、オブリーと同じ環境で育てるのがいいのだ!
僕らはトマドを持って、オブリー畑を訪れた。
職人氏がせっせと作業しているところだ。
「おーい!」
「あ、ナザルさん! どうしたんだい?」
「実はこっちの空いている畑でトマドを作らせてもらえたらいいなと思って」
「ああ、噂の。話を聞くに、オブリーに植生が近い作物みたいだねえ」
流石はオブリー職人。
トマドの実と葉を見て、全て理解したらしい。
「一緒にやろう。うちの環境は俺がじっくりとヒートスに近くなるように調整したんだ。栄養を与えすぎず、水も少なめ。植物は必死で水と栄養を果実に蓄える。これが美味くなるんだ」
「なるほどー! 流石は職人だ……」
こういうのはプロに任せるに限る。
こうして、僕らはトマドをオブリー畑にせっせと運び込んだ。
植えた端から、オブリーと同じ環境での育成を行うのだ。
程なくして、トマドはいい感じで水分が抜けてきた。
とは言っても、寄生植物だった頃のようなしおしおとした姿ではない。
前世で僕が知る、ミニトマトに近い姿になっていた。
いや、それよりは少し大きいか。
「すっぱすっぱのにおいがするー!」
コゲタが顔をしかめている。
ということは、酸味が戻ってきたということだ!
また、みんなで会食してみた。
「おっ、これは……」
「すっぱいっ!!」
「こりゃあ、凄い味だなあ……!!」
職人氏も一緒になって味わうのだ。
他にはない、強烈な酸味。
そして奥深いコク。
まさにトマド。
水分を得たトマドはそれ単体でも食べられるようになっていた。
まあ、酸っぱいから人は選ぶと思うな。
糖度はそんなに高くないと思うし。
これを料理してみる。
熱すると酸味が柔らかくなり、奥に潜んでいた旨味が溢れ出してくる。
一つで味付けとお出汁ができてしまうスーパー植物、復活!
あとはひとつまみの塩と砂糖。
お好みでハーブ。
滋養たっぷりの真っ赤なスープが出来上がった。
「うーむ、美味い」
「こりゃあ堪らん……」
「いやあ、美味いっすねえ」
みんなしみじみとしてしまう。
この素晴らしい食材を増産し、アーランに行き渡らせるのだ。
僕らの責任は重大だぞ。
まあ、僕はここで当分農作業に従事することで、地上で面倒事に巻き込まれるのを避けているわけなのだが。
あと二、三ヶ月はこっちに引っ込んでいるぞ。
「ご主人、コゲタあそびにいってくる!」
「おう、あまり奥に行かないようにね。モンスターが出るかもだからね」
「はーい!」
コゲタがトテトテと駆け出していった。
第二層辺りで家畜と遊んだりするのが日課らしい。
遺跡は何気に暮らしやすい環境が整っているのだ。
いやあ、なんならずっとここに住んでいてもいいな。
いやいや、たまには外に出て美食と洒落込みたい気もするし……。
うーむ。
贅沢な悩みだ。
この世界の植物はたくましいな。
環境に合わせて、育ち方を変えられるのだ。
「ナザルさん! こいつを見てくれ。トマドの身に水分が……!」
「なんだって!?」
遺跡の中に作られた土は、基本的に栄養豊富だ。
というのも、地上で暮らす人々からちょっとずつ魔力を集めて養分に変えているためだ。
これ、もしかしてトマドにとっては想定していない環境なのではないだろうか?
クリーピングツリーにくっついている状態では、思うように水分を得られまい。
だから、果実は栄養を凝縮して最小限の水分で存在していた。
だが、この水と栄養に満ちた環境ならどうだろう。
「こりゃあ……みずみずしくて、すぐにでも食べられそうだ!」
僕の補助をしてくれる農夫の人達とともに、幾つか実をもぐ。
「よし、じゃあみんなで食べてみよう」
ナイフで切り分けると、なるほど、これはトマトだ。
だが、どこか水っぽい感じがする。
なんだろう、この違和感は……。
全員で食べてみて、むむっと首を傾げた。
「確かにみずみずしいんだが……。まるで別の果実みたいな味なんだが……」
「ええ、なんかこいつは、味が薄くなってますよ。旨味も酸味も薄い……」
「美味しそうなにおい!」
コゲタが走ってきた。
そして、切り分けられたトマドをひょいっと掴むと、パクパク食べてしまった。
「おいしい~」
「コゲタが美味しいということは……濃度がかなり薄くなったってことだ。これ単体を水代わりにガツガツ食べるならいいが、料理に使うには明らかに力不足だ! くそー、地面に直接植えるのは失敗だ!」
あー、とうめいて天を仰ぐ農夫の人達。
ここで、僕らは角を突き合わせて相談することとなった。
「遺跡から供給される栄養の量が多すぎるんだ。これをどうにかコントロールしないと、トマド本来の味が出てこないぞ」
「そうですねえ。だとすると……。上の階層でやってるやり方にしましょうか」
「上のやり方?」
農夫の人が頷いた。
「二弾重ねになってる畑があったでしょう。あれで、栄養を二箇所に分けられるんですよ。穀物も富栄養すぎるとよくなかったりするんで」
「なるほどなるほど。だとしたら……。たっぷりの栄養を必要とする植物と一緒に育てるのがいいだろうな」
「と、いいますと?」
「オブリーだよ」
僕はニヤリと笑った。
そう。
なぜ気付かなかったのだろう!
元の世界では、オリーブとトマトは友達みたいなものだ。
似たような環境で育つ。
トマドがトマトと似た性質を持っている可能性があるならば、オブリーと同じ環境で育てるのがいいのだ!
僕らはトマドを持って、オブリー畑を訪れた。
職人氏がせっせと作業しているところだ。
「おーい!」
「あ、ナザルさん! どうしたんだい?」
「実はこっちの空いている畑でトマドを作らせてもらえたらいいなと思って」
「ああ、噂の。話を聞くに、オブリーに植生が近い作物みたいだねえ」
流石はオブリー職人。
トマドの実と葉を見て、全て理解したらしい。
「一緒にやろう。うちの環境は俺がじっくりとヒートスに近くなるように調整したんだ。栄養を与えすぎず、水も少なめ。植物は必死で水と栄養を果実に蓄える。これが美味くなるんだ」
「なるほどー! 流石は職人だ……」
こういうのはプロに任せるに限る。
こうして、僕らはトマドをオブリー畑にせっせと運び込んだ。
植えた端から、オブリーと同じ環境での育成を行うのだ。
程なくして、トマドはいい感じで水分が抜けてきた。
とは言っても、寄生植物だった頃のようなしおしおとした姿ではない。
前世で僕が知る、ミニトマトに近い姿になっていた。
いや、それよりは少し大きいか。
「すっぱすっぱのにおいがするー!」
コゲタが顔をしかめている。
ということは、酸味が戻ってきたということだ!
また、みんなで会食してみた。
「おっ、これは……」
「すっぱいっ!!」
「こりゃあ、凄い味だなあ……!!」
職人氏も一緒になって味わうのだ。
他にはない、強烈な酸味。
そして奥深いコク。
まさにトマド。
水分を得たトマドはそれ単体でも食べられるようになっていた。
まあ、酸っぱいから人は選ぶと思うな。
糖度はそんなに高くないと思うし。
これを料理してみる。
熱すると酸味が柔らかくなり、奥に潜んでいた旨味が溢れ出してくる。
一つで味付けとお出汁ができてしまうスーパー植物、復活!
あとはひとつまみの塩と砂糖。
お好みでハーブ。
滋養たっぷりの真っ赤なスープが出来上がった。
「うーむ、美味い」
「こりゃあ堪らん……」
「いやあ、美味いっすねえ」
みんなしみじみとしてしまう。
この素晴らしい食材を増産し、アーランに行き渡らせるのだ。
僕らの責任は重大だぞ。
まあ、僕はここで当分農作業に従事することで、地上で面倒事に巻き込まれるのを避けているわけなのだが。
あと二、三ヶ月はこっちに引っ込んでいるぞ。
「ご主人、コゲタあそびにいってくる!」
「おう、あまり奥に行かないようにね。モンスターが出るかもだからね」
「はーい!」
コゲタがトテトテと駆け出していった。
第二層辺りで家畜と遊んだりするのが日課らしい。
遺跡は何気に暮らしやすい環境が整っているのだ。
いやあ、なんならずっとここに住んでいてもいいな。
いやいや、たまには外に出て美食と洒落込みたい気もするし……。
うーむ。
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