96 / 241
33・食人植物の果実はまるで
第96話 仕事でも受けて頭を冷やそう
しおりを挟む
「うーむ、詰まってしまった」
僕が自室で頭を抱えていると、コゲタが心配そうに足をなでなでしてくる。
「ご主人~? お散歩いく、げんきになる」
「ありがとうな、コゲタ。パスタを作ったはいいものの、やはりソースを作る意味でも、アヒージョの味の広がり的にも、どうしても一味足りないんだ」
「うーん?」
コゲタには難しかったなー。
だが、散歩に行けば気が晴れるというのは同感だ。
ちょっと金に余裕があったから、部屋に引きこもってレシピのことばかり考えていたが、これは良くなかった。
僕はコゲタを連れて散歩に出ることにした。
ついでに冒険者ギルドを冷やかしていこう。
アーランは一年を通して温暖だが、今頃は地球で言うなら夏のような季節。
日がカッと照っており、日向はなかなか暑い。
だが、海沿いだから一年中風が吹いており、それに湿気も多くない。
日陰に入ると過ごしやすいのだ。
下町のあちこちには屋台が出来ており、長く伸びた庇(ひさし)が日陰を提供してくれていた。
その下でちょっと休んでいると、井戸水で冷やされた飲み物なんかが差し出されるわけだ。
小銭を払ってそれを飲んで、ついでに何か食べ物を摘んで……。
なかなか良くできているシステムだ。
毎年の風物詩なんだが、今年の屋台はちょっと雰囲気が違った。
どうも、出ているものの毛色が違うぞ……?
つるつるとしたものが茹で上がり、それに塩やハーブを掛けてみんな食べている。
あるいは、暑くても食欲の出る辛いスープにつるつるを浸して食べている。
あっ!
あれは僕が広めた刀削麺パスタじゃないか!
あっという間にアーランに広がってしまったな……。
作るの本当に簡単だもんな。
僕とコゲタも、パスタを食べていった。
なんと、味が薄くないといけない犬用まであるではないか!
「ご主人! コゲタ、ぱすたすきー」
「そうかそうか! 美味しくてよかったなあ」
尻尾をぶんぶん振って喜ぶコゲタを前に、僕も嬉しくなってしまった。
いやあ、本当に犬っていいものですね。
明らかに人生の幸福度が上がっている。
冷たくて甘いお茶もいただき、気分が上がった僕。
なんだ、僕がやったことは確実にアーランに美味いものを広めているじゃないか。
見ろ、あのパスタを食べる親子の顔を。
もちもちつるつるの食感に驚き、そして笑みを浮かべているではないか。
思わぬ美味しいものを食べてしまうと、人は笑ってしまうものだ。
甘味系を積極的に食べない人が多いこの世界では、パスタみたいなプレーンな食べ物が流行るのかも知れない。
だが、僕はパスタの開発をことさらに喧伝するつもりはない。
所詮、僕の前世から借りてきた知識でしか無いし、何よりもみんなが喜んで食べている姿が何よりの報酬だからだ。
ただまあ。
「今度はちゃんとした細長いパスタを作るぞ……! あ、いや、マカロニみたいなのでもいいか。あれ? 向こうでは平たいパスタを食べてて……ラ、ラザニアのパスタが生まれてる!!」
そうか!
平たく伸ばしたものをそのまま茹でたらラザニアのパスタだ!
いやあ、パスタの可能性は無限大だな……。
新しい材料を一切使わないで作れるっていうのも大きい。
「ご主人、元気になった! コゲタうれしいー!」
「ああ! 元気になったぞ。コゲタ、ありがとうな! 僕のために散歩に連れ出してくれたんだなあ」
ニコニコになって、二人でパスタを串焼きにしたやつをかじりながら歩く。
おっ、ギルドが見えてきた。
ちょっと顔を出してやるか。
「どうもどうも」
昼過ぎという時間なので、当然ながら仕事なんか残っているわけがない。
いい仕事は早いもの勝ちなのだ。
案の定、お下げの受付嬢エリィがこんな時間に何をしに来たのだとでもいいたげな視線で僕を……。
「あっ、ナザルさん! いいところに来ました! 実はですね、大森林に外来種のマンイーターが出まして」
「マンイーターだってぇ!?」
マンイーターというのは、様々な人間を喰らうモンスターの総称だ。
で、ここで言う外来種というのは、植物タイプのモンスターだと思われる。
自ら移動し、生物を捕食するタイプの植物型マンイーター。
「恐らくクリーピングツリーだと思われます。職人の方が一人やられまして、全員が森の外に避難しています」
「そこまでの大事なの!? それってつまり、危険度ならヴォーパルバニー以上ってことじゃないか」
「はい。アーラン周辺に出現するのが、ここ数年は一切記録がないモンスターで。対策が分からないんです。例によって、本部のゴールド級冒険者は全員出払っておりまして。帰ってきたばかりのはずのグローリーホビーズも何故かすぐに出立して」
そのグローリーホビーズって、シズマたちじゃない?
原因は僕だ!
いやあ、すまんかった!
「ということで……。いつもの三人でお願いします」
「あー」
展開が読めた!
ニヤニヤ笑いながら、バンキンが近づいてくる。
足元にはいつの間にかキャロティもいる。
「そういうこった。よろしく頼むぜ、ナザル」
「ナザル! あんたオブリーオイルの料理をさらに発展させたそうじゃない! あたしにごちそうしなさいよね!!」
賑やかになってきたぞ!
仕方ない。
ものついでだ。
クリーピングツリー退治を請け負うことにしよう。
「ところでナザル、コゲタをちょっと貸しなさいよ! 色々おしゃれさせてあげたいんだけど!」
「なにぃ、僕からコゲタを取り上げるつもりか!? ダメダメ、駄目ですー!」
「おお、お前ら常に余裕だなあ。俺は頼もしくて涙が出るぜ」
そんな三人と、今回もまたコゲタを連れて軽くひと仕事するとしよう。
僕が自室で頭を抱えていると、コゲタが心配そうに足をなでなでしてくる。
「ご主人~? お散歩いく、げんきになる」
「ありがとうな、コゲタ。パスタを作ったはいいものの、やはりソースを作る意味でも、アヒージョの味の広がり的にも、どうしても一味足りないんだ」
「うーん?」
コゲタには難しかったなー。
だが、散歩に行けば気が晴れるというのは同感だ。
ちょっと金に余裕があったから、部屋に引きこもってレシピのことばかり考えていたが、これは良くなかった。
僕はコゲタを連れて散歩に出ることにした。
ついでに冒険者ギルドを冷やかしていこう。
アーランは一年を通して温暖だが、今頃は地球で言うなら夏のような季節。
日がカッと照っており、日向はなかなか暑い。
だが、海沿いだから一年中風が吹いており、それに湿気も多くない。
日陰に入ると過ごしやすいのだ。
下町のあちこちには屋台が出来ており、長く伸びた庇(ひさし)が日陰を提供してくれていた。
その下でちょっと休んでいると、井戸水で冷やされた飲み物なんかが差し出されるわけだ。
小銭を払ってそれを飲んで、ついでに何か食べ物を摘んで……。
なかなか良くできているシステムだ。
毎年の風物詩なんだが、今年の屋台はちょっと雰囲気が違った。
どうも、出ているものの毛色が違うぞ……?
つるつるとしたものが茹で上がり、それに塩やハーブを掛けてみんな食べている。
あるいは、暑くても食欲の出る辛いスープにつるつるを浸して食べている。
あっ!
あれは僕が広めた刀削麺パスタじゃないか!
あっという間にアーランに広がってしまったな……。
作るの本当に簡単だもんな。
僕とコゲタも、パスタを食べていった。
なんと、味が薄くないといけない犬用まであるではないか!
「ご主人! コゲタ、ぱすたすきー」
「そうかそうか! 美味しくてよかったなあ」
尻尾をぶんぶん振って喜ぶコゲタを前に、僕も嬉しくなってしまった。
いやあ、本当に犬っていいものですね。
明らかに人生の幸福度が上がっている。
冷たくて甘いお茶もいただき、気分が上がった僕。
なんだ、僕がやったことは確実にアーランに美味いものを広めているじゃないか。
見ろ、あのパスタを食べる親子の顔を。
もちもちつるつるの食感に驚き、そして笑みを浮かべているではないか。
思わぬ美味しいものを食べてしまうと、人は笑ってしまうものだ。
甘味系を積極的に食べない人が多いこの世界では、パスタみたいなプレーンな食べ物が流行るのかも知れない。
だが、僕はパスタの開発をことさらに喧伝するつもりはない。
所詮、僕の前世から借りてきた知識でしか無いし、何よりもみんなが喜んで食べている姿が何よりの報酬だからだ。
ただまあ。
「今度はちゃんとした細長いパスタを作るぞ……! あ、いや、マカロニみたいなのでもいいか。あれ? 向こうでは平たいパスタを食べてて……ラ、ラザニアのパスタが生まれてる!!」
そうか!
平たく伸ばしたものをそのまま茹でたらラザニアのパスタだ!
いやあ、パスタの可能性は無限大だな……。
新しい材料を一切使わないで作れるっていうのも大きい。
「ご主人、元気になった! コゲタうれしいー!」
「ああ! 元気になったぞ。コゲタ、ありがとうな! 僕のために散歩に連れ出してくれたんだなあ」
ニコニコになって、二人でパスタを串焼きにしたやつをかじりながら歩く。
おっ、ギルドが見えてきた。
ちょっと顔を出してやるか。
「どうもどうも」
昼過ぎという時間なので、当然ながら仕事なんか残っているわけがない。
いい仕事は早いもの勝ちなのだ。
案の定、お下げの受付嬢エリィがこんな時間に何をしに来たのだとでもいいたげな視線で僕を……。
「あっ、ナザルさん! いいところに来ました! 実はですね、大森林に外来種のマンイーターが出まして」
「マンイーターだってぇ!?」
マンイーターというのは、様々な人間を喰らうモンスターの総称だ。
で、ここで言う外来種というのは、植物タイプのモンスターだと思われる。
自ら移動し、生物を捕食するタイプの植物型マンイーター。
「恐らくクリーピングツリーだと思われます。職人の方が一人やられまして、全員が森の外に避難しています」
「そこまでの大事なの!? それってつまり、危険度ならヴォーパルバニー以上ってことじゃないか」
「はい。アーラン周辺に出現するのが、ここ数年は一切記録がないモンスターで。対策が分からないんです。例によって、本部のゴールド級冒険者は全員出払っておりまして。帰ってきたばかりのはずのグローリーホビーズも何故かすぐに出立して」
そのグローリーホビーズって、シズマたちじゃない?
原因は僕だ!
いやあ、すまんかった!
「ということで……。いつもの三人でお願いします」
「あー」
展開が読めた!
ニヤニヤ笑いながら、バンキンが近づいてくる。
足元にはいつの間にかキャロティもいる。
「そういうこった。よろしく頼むぜ、ナザル」
「ナザル! あんたオブリーオイルの料理をさらに発展させたそうじゃない! あたしにごちそうしなさいよね!!」
賑やかになってきたぞ!
仕方ない。
ものついでだ。
クリーピングツリー退治を請け負うことにしよう。
「ところでナザル、コゲタをちょっと貸しなさいよ! 色々おしゃれさせてあげたいんだけど!」
「なにぃ、僕からコゲタを取り上げるつもりか!? ダメダメ、駄目ですー!」
「おお、お前ら常に余裕だなあ。俺は頼もしくて涙が出るぜ」
そんな三人と、今回もまたコゲタを連れて軽くひと仕事するとしよう。
32
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ
真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします!
感想待ってます!
まずは一読だけでも!!
───────
なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。
しかし、そんなオレの平凡もここまで。
ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。
そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。
使えるものは全て使う。
こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。
そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。
そしていつの日か、彼は……。
カクヨムにも連載中
小説家になろうにも連載中
破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!
ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。
一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて?
主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍?
「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」
『わふっ』
もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる