上 下
71 / 210
24・流石に盗賊ギルドのお手伝い

第71話 盗賊ギルドへの義理を果たす

しおりを挟む
 闇の中だろうが、油で触れたものを察知できる僕だ。
 闇の中を逃げる暗殺者を、どんどん追い詰めていく。

「三分だけ待ってあげよう。降伏したまえ」

「さんぷん!? なんだそれは!」

 戸惑った声が聞こえてくる。
 かなり動揺しているようだな。
 既に彼の足元に僕の油が迫っている。

 暗殺者は恐らく、何らかの魔法か魔法アイテムで闇を見通すことができている。
 だが、たとえ闇視の力があっても、地を、壁を這いながら迫ってくる油を認識できるのか?

 答えは否である!

「ウグワーッ!?」

 はっはっは、足元に伸びてきた油に乗ってすっ転んだな。
 もう終わりだ。
 油が暗殺者の体にまとわりつき、包みこんでいく。

「ごぼぼーっ」

 軽く窒息させて、死なない程度の感じで失神させておこう。
 よし、動かなくなった。
 息、あり!

 僕は油を回収した。

「アーガイルさーん! 捕まえましたよー!」

「おお、早いな!! やはりお前を連れてきて正解だった!」

 トンッと着地する音がして、背後にアーガイルさんが現れた。
 下水を飛び越えたな?
 すごい跳躍力だし、あの程度の音しかしないのは恐ろしいことだ。
 敵には回したくないなあ。

 倒れている暗殺者に近寄ったアーガイルさんは、息を確認した。

「地上で溺れてやがる。恐ろしい油使いだな。だが、お陰でこいつが遺跡に逃げ込む前に捕まえられた。他のは殺したから、これで問題はあるまい」

 怖いことを言うなあ。
 優しくない国だ、アーラン!
 ファイブショーナンが恋しくなる。

「じゃあこれで義理は果たしたので、僕は帰るよ。野菜などはよろしく……」

「ああ、もちろんだ! うちの若いのを連れてきて運ばせるか……」

 僕は一足先に、下水道から出た。
 いやあ、体に臭いのが染み付いてしまう前に出られて良かった。
 素早く宿に戻ったものの、すれ違う人々が顔をしかめている。

 すまん……!

 宿に戻ったら、コゲタが「ご主人ー!」と飛び出してきた。
 そして近くに来たところで「きゃうーん」と言いながら逃げていった。

「ああっ、コゲター!!」

 これはいかん!
 僕は大急ぎで井戸に向かい、石鹸を使って全身をゴシゴシ洗った。
 よし!!

 服は全て着替え、臭いを抜くために洗剤に漬け置きしておく……。

 ここまでやればいいだろう!

「コゲター!」

「ご主人~!!」

 遠くからにおいをくんくんした後で、コゲタが駆け寄って来た。
 抱き上げる。
 おお、ふかふか……。

 コゲタは抱っこされながらも、しつこくくんくんやっていたが、臭いのが大体取れていたので安心したらしい。

 いやあ、コボルドと一緒に暮らすと、自分の臭いに敏感になりますね……。

 さて、まずはいつも世話になっている宿の主人とおかみさんのために、僕は料理の腕を振るうのだ。

「二人とも、今暇な時間でしょ。僕から日頃のお礼を込めて、料理を振る舞いたい。しばらくお待ち下さい……」

「えっ、ナザルが俺達に料理を!?」

「なんかこう……。駄目息子がとうとう親孝行してくれるみたいな気持ちだねえ……」

 おかみさんがホロッと来てるじゃないか。
 僕の評価低かったんだなあ!

 調理を始めることにする。
 寒天を煮て溶かし、ピーカラをすりおろしたものを加えてから冷やし……。
 鳥肉を揚げる。

 ここに、ピーカラ寒天をざく切りにしたものを乗せて……。

「どうぞ……」

「おおっ!! 揚げ鶏の上にぷるぷるした物が乗ってるぞ! なんだこりゃあ」

「不思議な食べ物だねえ……。塩は振らなくていいのかい?」

「ふふふふふ……。これから塩だけで味付けは過去のものになりますよ。全く新しい味、お楽しみください」

 僕がとても得意げなので、二人は顔を見合わせた。

「あまり奇をてらったものはちょっとなあ」

「そうよ。あたしたち、いい年だからね。あんまり食で冒険は」

「いいから食べてくれ!」

 冷めちゃう!

 ようやく、温かいうちに食べてくれた。
 フォークで押さえつけて、ナイフでギコギコ切る。
 これをフォークでもナイフでもいいので、突き刺して口に運ぶのがマナーだ。

 宿の主人は、揚げ鶏の上のプルプルを見て変な顔をした後、意を決してかぶりついた。
 その目が見開かれる。

「んっ!? な、な、なんだこりゃあ!!」

 むしゃむしゃ食べる。

「うめえ……。これ、とんでもなくうめえぞ!! 揚げた鳥が、さっぱりしてて、ちょっとピリ辛で幾らでも食えちまう……!」

「あんた、後で胃もたれするんだからやめておくれよ? うーん、美味しいって言ってもねえ。ちょっとだけだよ? ちょっとだけ……んーっ!?」

 おかみさんは一口食べた直後、猛烈な勢いで肉を切り分け始めた。
 そして寒天をガッツリつけて、パクパク食べる。
 宿の主人以上の勢いじゃないか。

 結局、二人ともあっという間に僕のオリジナル……油淋鶏もどきを食べきってしまった。
 そして、名残惜しそうに皿を見つめている。

 本当に美味しかったんだな……。
 新しい調味料の威力を思い知る。

「どうでした」

「美味かった……。いや、ここ最近食ったもので一番美味かった!! あんな味があるんだなあ……!!」

「ナザル! あんた見直したよ! ずっとフラフラカッパー級やってると思ったら、やっとシルバー級になって、いつまでこの男は責任も持たずにダラダラしてるんだと思ってたら……。あんた、こんな凄いものを作ってたんだねえ……!!」

 どうやら実はマイナスだったらしい、おかみさんの中での僕の評価。
 これがめちゃくちゃに高騰し始めている。

「また食べさせておくれ!! あと、コゲタちゃんは今まで通り預けてもらってていいからね……」

 コゲタへの好感度だけは常に高いんだよな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

勇者を庇って死ぬモブに転生したので、死亡フラグを回避する為に槍と魔術で最強になりました。新天地で領主として楽しく暮らしたい

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
現世での残業の最中に突然死。目が覚めたら俺は見覚えのある土手に居た……え? これ昨日やってた死にゲーの街にそっくりじゃね? 俺はどうやら【シャオン】というゲーム序盤のイベントで、主人公である勇者を守って死ぬモブキャラに転生してしまったようだ。 折角転生したのに死んでたまるか!モンスター溢れるこの世界では、人類はモンスターに蹂躙される食物連鎖の下位でしかないのだから…… 先ずは死亡フラグを叩き折り理想の異世界セカンドライフを送ってやる!と硬く決意するものの……えっ? シャオンて公爵家の次男? それも妾の子とか面倒ごとは勘弁してくれよ…… 少しづつゲームの流れとはズレていき……気が付けば腹違いの兄【イオン】の命令で、モンスターの支配領域の最前線都市アリテナで腹違いの妹【リソーナ】と共に辣腕を振い。あるときは領主として、またあるときは冒険者としてあらゆる手段を用いて、シャオンは日常を守るために藻掻いていく……

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~

榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。 彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。 それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。 その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。 そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。 ――それから100年。 遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。 そして彼はエデンへと帰還した。 「さあ、帰ろう」 だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。 それでも彼は満足していた。 何故なら、コーガス家を守れたからだ。 そう思っていたのだが…… 「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」 これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

処理中です...