俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
68 / 337
23・揚げよ、鳥

第68話 鳥南蛮の誕生

しおりを挟む
 鳥肉、産みたての卵、そして粉。
 下味をちょちょいとつけて、これを僕が作り出した油に投入する。
 熱された油の中で、衣を纏った鳥肉が踊る。

「な、な、なんだいこれは!! いや、揚げ物ってのは分かるけど、何もないところから油を出した……!?」

「僕はこういう変わった魔法を使える人間でして。さあおばさま、あなたもさっきの寒天でできた調味ソースを作ってください!」

「あ、ああ、分かったよ!!」

 多めに作られていた寒天を、彼女はまたみじん切りにする。
 さっくりと揚がった鶏天……。いや、鳥のフライ。
 これに、冷えた寒天ソースを掛けるのだ!

 うおおおお……!!
 金色の衣を、オレンジに輝く寒天のソースが覆っている……。
 美しい。

「た、た、食べてもいいかい!? こりゃあとんでもない! とんでもないよ! こんなのを前にして、少しも我慢なんかしていられないよ!!」

 おばさまはたいへん切羽詰まった感じになった。
 気持ちはよく分かる。

「お上がりなさい」

「ほ、豊穣神よ、日々の糧を感謝します! あーん!!」

 豊穣神の信者だったか。
 他分、ファイブショーナン全土が豊穣神を信じてるんじゃないかな。
 島の豊かな実りは、まだに奇跡みたいなもんだしな。

「ふ、ふ、ふまああああああい」

 口に含んだまま、おばさまが叫んだ。

「声が大きい! 僕らの秘密が外にバレてしまう」

 おばさまは慌てて声を抑えて、必死になってもぐもぐやってる。
 ようやく飲み下したところで、はあはあと荒い息を吐いた。

「とんでもない味だったよ……。この揚げ物はなんだい……!? サクサクしてて、でも中はもちもちで、衣にも風味があって……だけど、ともすれば油を吸った衣でくどくなるところを、あたしが作った調味料がいい感じで相殺してた……」

「そう、まさしく! じゃあ僕もいただきます」

 寒天ソースが掛かった鳥のフライをかじる。
 うん、素晴らしい歯ごたえ。
 そして肉はバッチリ、揚げすぎず、足りないこともない。

 今回、わざと衣にちょっと油を残したのだが、これは正解だった。
 寒天ソースの辛くて酸っぱい味が、この油っこさを包みこんで旨味に変えてくれる。
 プチプチと弾ける寒天の食感。ピーカラの強烈な香り、辛さと酸味を超えた先に、この果実の本当の良さが隠れていた。

「これは……幾らでも食べられちゃうなあ……!」

 おばさまはもう、無言で食べ続けている。

「粉はじきに、ファイブショーナンでも手に入りやすくなると思います。これにこの寒天ソースを掛けて、みんなに食べさせてあげてください。いやあ、色々ありがとうございます」

 僕は立ち上がった。
 おばさまは鳥フライを口に詰め込みながら、何かもぐもぐ言ってる。
 もう行ってしまうのか、とか、こんな凄いものを食べさせてくれたのに、礼も受け取らずに行くのかい、みたいなことを言っているのかも知れない。

「寒天ソース、レシピを盗ませてもらいますよ! アーランでこいつを披露して、僕の揚げ物を何倍にも強化します! おばさまはここで、様々な揚げ物に寒天ソースを掛けてみんなを驚かせてください!」

「ふんふん!!」

 よし、同意は取れた。
 レシピは僕のものだ!
 まあ、ファイブショーナンでは隠しておくことにしよう。彼女の楽しみを取ってはいけない。

「よし、コゲタ、帰るぞ」

「コゲタも食べる!」

「あのソースはコゲタには辛いなあ……」

 ということで。
 鳥のフライだけあげておくことにした。
 ニコニコしながらフライを食べつつ、僕の後ろをついてくるコゲタ。 
 彼が食べられるような、刺激の少ないソースも考えておかなくちゃな。

 僕が揚げ物の香りを纏って帰還したので、女王が激しく反応した。

「なんということじゃ!! そなた、わらわが知らぬところで揚げ物を作ったな!? ええい、わらわを呼べと言うのに!! ……い、いやいや、これからはあの粉がファイブショーナンに仕入れられる故、美味い揚げ物は食えるようになるのじゃったな……」

「陛下、揚げ物をさらに美味しくするとっておきの方法がもうすぐ生まれますよ。楽しみにしておいてください」

 僕が囁くと、彼女は目を剥いた。

「な、な、何を知っておるのじゃナザル!? そなた、わらわに秘密で何を企んでいるというのじゃー!? 気になる……! 気になるが、嬉しいサプライズを受けて幸せな悲鳴を上げたい……!!」

 女王陛下は夢見心地な目つきになって、フラフラと宮殿の外へ出ていってしまった。
 存分に想像されるがいい。
 だが、鳥フライと寒天ソースのマリアージュは、あなたの想像を遥かに凌駕するぞ。

 ふと思う。似たようなメニューを前世でも知っていたような……。
 これは……そう、鳥南蛮だ!
 鶏が存在しない世界だから、チキンとは行かないけれど。

 どうやら僕は、様々な巡り合わせの果てに、鳥南蛮を再発明することになったらしい。
 異世界パルメディア、なかなか様々な可能性が潜んでいるじゃないか。

 食材はすでにある。
 たくさんの人々がそれを利用し、彼らなりの調理方法で楽しんでいる。

 だが、異なる地域の食材と食材を組み合わせるやり方は生み出されていなかった。
 正しく、未開拓の広大な大地が広がっている。
 食の大地だ!

 今僕は、そこに新たな一歩を記したと言えよう。
 ありがとう、おばさま!
 ありがとう、ファイブショーナン!

 さっさと帰って、寒天からソースを作ってみなくちゃだ。
 これ、絶対内容によってはスイーツにも使えるよな。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界ダンジョンの地下第7階層には行列のできるラーメン屋がある

セントクリストファー・マリア
ファンタジー
日本の東京に店を構える老舗のラーメン屋「聖龍軒」と、ファルスカ王国の巨大ダンジョン「ダルゴニア」の地下第7階層は、一枚の扉で繋がっていた。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「異世界に転生してくれぇえええええええええ!」  事故で命を落としたアラサー社畜の俺は、真っ白な空間で謎の老人に土下座されていた。何でも老人は異世界の賢者で、自分の後継者になれそうな人間を死後千年も待ち続けていたらしい。  賢者の使命を代理で果たせばその後の人生は自由にしていいと言われ、人生に未練があった俺は、賢者の望み通り転生することに。  読めば賢者の力をそのまま使える魔導書を五冊もらい、俺は異世界へと降り立った。そしてすぐに気付く。この魔導書、一冊だけでも読めば人外クラスの強さを得られてしまう代物だったのだ。  賢者の友人だというもふもふフェニックスを案内役に、五冊のチート魔導書を携えて俺は異世界生活を始める。 ーーーーーー ーーー ※基本的に毎日正午ごろに一話更新の予定ですが、気まぐれで更新量が増えることがあります。その際はタイトルでお知らせします……忘れてなければ。 ※2023.9.30追記:HOTランキングに掲載されました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます! ※2023.10.8追記:皆様のおかげでHOTランキング一位になりました! ご愛読感謝!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...