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23・揚げよ、鳥
第67話 新たなる味付けのヒント
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まだファイブショーナンにいるうちに、寒天を使った新たな味付けのネタを探すことにした。
この国は、国民全員が今を楽しみ、辛くならない程度に仕事をする……みたいなふんわりした雰囲気で運営されている。
大変なことやキツイことは当番制にし、その後のお酒が美味いよね、みたいな感じで乗り切っているのだ。
だが、以外なことに、料理の下味を付けたり、仕込みをしたりなどは手抜きをしないのである。
これは、南国だから食べ物が悪くなりやすいというのもあるし、あとは食は音楽や踊りと並ぶ娯楽だからであろう。
娯楽においては手を抜かない!
それがファイブショーナンのいいところだ。
なので、寒天も絶対に、果汁を固めて喜んでいるだけではないと僕は睨んだのだ。
「行くぞコゲタ」
「わん!」
コゲタを引き連れて、ファイブショーナンの街を練り歩く。
国全体が木造のリゾート地みたいな作りをしている。
どこに行っても絵になる。
通りは広く、家々の間隔は離れ、どこにでもたくさんの緑が生い茂っている。
そして木々には果実が成っているのだ。
樹上から鳥の声がする。
人が食べる果実は鳥も食べるのだ。
ファイブショーナンの果樹たちは、人間と鳥という種を運んでくれるパートナーのため、日々せっせと果実を実らせるのだ。
鳥は遠く離れた場所に果実の種が混じったフンをする。
人はその辺りに種を蒔く。
そして果樹は実るのだ。
寒天料理あるところ、果樹あり。
果汁を固めるのが寒天料理の基礎だからである。
だが……。
果樹がないところで寒天を扱っていたならどうだ……?
僕が探したのは、果樹の無い家。
海沿い、木々が生えてない潮風の吹くあたりにその家はあった。
軒先を、むちむちしたアヒルみたいな水鳥が歩き回っている。
とことこ歩き回る水鳥の最後に一羽を、家の人が出てきてひょいっと無造作に捕まえていった。
これは、鳥を食べる展開!
「よろしいでしょうか」
「おや、なんだい? あらあら! あんたってこの間、すごく美味しい揚げ物を作ったっていう人じゃないの?」
体格のよろしいおばさまである。
彼女も僕のことを知っていたのか。
「ええ。その通り。油使いのナザルです。実は僕は今寒天……つまりその果汁などを固める海藻に注目しているんですよ。これは果汁で菓子を作るだけのものではないのではないかと……」
僕がそこまで言うと、おばさまがニヤリと笑った。
「鋭いね。そしてあたしの家に来たのはいい鼻をしてるよ。そう、あたしこそ、肉料理に固めるやつを使って味付けを工夫している料理家なのさ!」
「おおっ!」
「シッ、他の連中に気付かれたらまずい。隠れな!」
「了解ですよ。……何かヤバいことをしているんですか?」
「いいかい? 料理はあたしの趣味であり自己実現だ。このすごい固めるやつの料理を見せつけて、みんなをあっと言わせて、そしてあまりの新しい美味しさにすごい笑顔を浮かべさせる……それがあたしの目標なんだ!」
「あっ、つまり先に知られたらサプライズで喜ばせられないから……」
「察しがいいね」
この国は善人しかいないのではないか?
そして、おばさまは料理を見せてくれた。
まず水鳥を締める。
この鳥は国の残飯を食べて生活しており、言うなればファイブショーナンの国鳥。
国が飼っている家畜みたいなもので、利用は自由だ。
次々卵を産んで増えるし、外敵からはファイブショーナンの民が守ってくれる。
その代わり、時々卵と肉をいただくというわけだ。
「果実って言っても甘いものばかりじゃなくてね? こいつさ」
おばさまが見せてくれたのは、黄色いちょっとしなびた見た目の果実だ。
「これは……?」
「こいつはピーカラって言ってね、酸っぱくて辛いのさ!」
「ほう!!」
「果汁が少ないから、こいつはこうしてすりおろして……」
「手伝いましょう」
「悪いね……。おっ! あんた手つきがいいね、素人じゃない」
「短い期間に大量の料理を作ってきましたからね。すりおろすのはこれくらいでいいですかね?」
「十分! こいつを寒天ってあんたは言ってたね? うちだと固めるやつ、で通ってたんだけど、名前がある方がらしいね。寒天を煮た汁に入れて……。それで冷ましてくわけさ」
ピーカラ寒天が冷めて固まるまでの間、しばし軒先でおばさまから茶を淹れてもらう。
果物の葉っぱから煎じた色付きのお湯だが、なるほど、あまい果物の香りがする。
こりゃあ爽やかだ。
「わんわんわん!」
「くわっくわっくわっくわっくわっ」
コゲタが水鳥たちと追いかけっこで遊んでいる。
鳥はコボルドに完全に慣れているんだな。
追いかけられると逃げて、コゲタが背中を見せるとワーッと寄ってくる。
これは微笑ましい。
「よし、これならいけるね! ナザル、ちょっとこっちに来てくれるかい? 鳥は蒸してあるから、切り分けておくれ!」
「ほいきた」
僕は見事に蒸し上がった、真っ白な鳥肉を切って皿の上に並べていく。
切り口にもしっかり熱が通り、白くなっている。
脂が乗った皮は取り外してあるが、あれは干して食べるらしい。
このままでは、淡白な鳥肉になると思うのだが……。
「見てな。そらっ」
そこに掛けられたのが、みじん切りになったピーカラ寒天である!
うおおっ!
温かい鶏肉の上に乗った寒天が、よい香りを運んでくれる!
「召し上がれ!」
「いただきます!」
指先で鳥肉を摘んで、ぱくりとやる。
あっ!!
うっま!!
ジューシーさを逃さない蒸し鶏に、辛くて酸味の強い冷たい寒天がみじん切りになって掛けられている。
調味料、大正義!
ドライな感じの果実だったから、あのままだとソースみたいに加工して使うようになるんだろう。
だが、寒天化すれば加工しないそのままのピーカラの味を使える。
そして、肉の上に掛かったつぶつぶの食感が楽しい。
味だけではなく、食感も重要だよな。
「いやー、美味いです」
「美味い? やっぱり? 外国人でも分かるなら、間違いないね! よしよし、よしっ!」
おばさまがガッツポーズをした。
「ところでおばさま。僕がさらにインパクト絶大な料理になるよう、手を貸してもいいのだが……」
「な、なんだって!? あんたまさか、そんなものを作れるって言うのかい!? 一体何をするつもりなんだい!?」
わなわな震えるおばさま。
だが、表情は期待でちょっと笑っている。
「鳥を……揚げましょう!! 油で!!」
この国は、国民全員が今を楽しみ、辛くならない程度に仕事をする……みたいなふんわりした雰囲気で運営されている。
大変なことやキツイことは当番制にし、その後のお酒が美味いよね、みたいな感じで乗り切っているのだ。
だが、以外なことに、料理の下味を付けたり、仕込みをしたりなどは手抜きをしないのである。
これは、南国だから食べ物が悪くなりやすいというのもあるし、あとは食は音楽や踊りと並ぶ娯楽だからであろう。
娯楽においては手を抜かない!
それがファイブショーナンのいいところだ。
なので、寒天も絶対に、果汁を固めて喜んでいるだけではないと僕は睨んだのだ。
「行くぞコゲタ」
「わん!」
コゲタを引き連れて、ファイブショーナンの街を練り歩く。
国全体が木造のリゾート地みたいな作りをしている。
どこに行っても絵になる。
通りは広く、家々の間隔は離れ、どこにでもたくさんの緑が生い茂っている。
そして木々には果実が成っているのだ。
樹上から鳥の声がする。
人が食べる果実は鳥も食べるのだ。
ファイブショーナンの果樹たちは、人間と鳥という種を運んでくれるパートナーのため、日々せっせと果実を実らせるのだ。
鳥は遠く離れた場所に果実の種が混じったフンをする。
人はその辺りに種を蒔く。
そして果樹は実るのだ。
寒天料理あるところ、果樹あり。
果汁を固めるのが寒天料理の基礎だからである。
だが……。
果樹がないところで寒天を扱っていたならどうだ……?
僕が探したのは、果樹の無い家。
海沿い、木々が生えてない潮風の吹くあたりにその家はあった。
軒先を、むちむちしたアヒルみたいな水鳥が歩き回っている。
とことこ歩き回る水鳥の最後に一羽を、家の人が出てきてひょいっと無造作に捕まえていった。
これは、鳥を食べる展開!
「よろしいでしょうか」
「おや、なんだい? あらあら! あんたってこの間、すごく美味しい揚げ物を作ったっていう人じゃないの?」
体格のよろしいおばさまである。
彼女も僕のことを知っていたのか。
「ええ。その通り。油使いのナザルです。実は僕は今寒天……つまりその果汁などを固める海藻に注目しているんですよ。これは果汁で菓子を作るだけのものではないのではないかと……」
僕がそこまで言うと、おばさまがニヤリと笑った。
「鋭いね。そしてあたしの家に来たのはいい鼻をしてるよ。そう、あたしこそ、肉料理に固めるやつを使って味付けを工夫している料理家なのさ!」
「おおっ!」
「シッ、他の連中に気付かれたらまずい。隠れな!」
「了解ですよ。……何かヤバいことをしているんですか?」
「いいかい? 料理はあたしの趣味であり自己実現だ。このすごい固めるやつの料理を見せつけて、みんなをあっと言わせて、そしてあまりの新しい美味しさにすごい笑顔を浮かべさせる……それがあたしの目標なんだ!」
「あっ、つまり先に知られたらサプライズで喜ばせられないから……」
「察しがいいね」
この国は善人しかいないのではないか?
そして、おばさまは料理を見せてくれた。
まず水鳥を締める。
この鳥は国の残飯を食べて生活しており、言うなればファイブショーナンの国鳥。
国が飼っている家畜みたいなもので、利用は自由だ。
次々卵を産んで増えるし、外敵からはファイブショーナンの民が守ってくれる。
その代わり、時々卵と肉をいただくというわけだ。
「果実って言っても甘いものばかりじゃなくてね? こいつさ」
おばさまが見せてくれたのは、黄色いちょっとしなびた見た目の果実だ。
「これは……?」
「こいつはピーカラって言ってね、酸っぱくて辛いのさ!」
「ほう!!」
「果汁が少ないから、こいつはこうしてすりおろして……」
「手伝いましょう」
「悪いね……。おっ! あんた手つきがいいね、素人じゃない」
「短い期間に大量の料理を作ってきましたからね。すりおろすのはこれくらいでいいですかね?」
「十分! こいつを寒天ってあんたは言ってたね? うちだと固めるやつ、で通ってたんだけど、名前がある方がらしいね。寒天を煮た汁に入れて……。それで冷ましてくわけさ」
ピーカラ寒天が冷めて固まるまでの間、しばし軒先でおばさまから茶を淹れてもらう。
果物の葉っぱから煎じた色付きのお湯だが、なるほど、あまい果物の香りがする。
こりゃあ爽やかだ。
「わんわんわん!」
「くわっくわっくわっくわっくわっ」
コゲタが水鳥たちと追いかけっこで遊んでいる。
鳥はコボルドに完全に慣れているんだな。
追いかけられると逃げて、コゲタが背中を見せるとワーッと寄ってくる。
これは微笑ましい。
「よし、これならいけるね! ナザル、ちょっとこっちに来てくれるかい? 鳥は蒸してあるから、切り分けておくれ!」
「ほいきた」
僕は見事に蒸し上がった、真っ白な鳥肉を切って皿の上に並べていく。
切り口にもしっかり熱が通り、白くなっている。
脂が乗った皮は取り外してあるが、あれは干して食べるらしい。
このままでは、淡白な鳥肉になると思うのだが……。
「見てな。そらっ」
そこに掛けられたのが、みじん切りになったピーカラ寒天である!
うおおっ!
温かい鶏肉の上に乗った寒天が、よい香りを運んでくれる!
「召し上がれ!」
「いただきます!」
指先で鳥肉を摘んで、ぱくりとやる。
あっ!!
うっま!!
ジューシーさを逃さない蒸し鶏に、辛くて酸味の強い冷たい寒天がみじん切りになって掛けられている。
調味料、大正義!
ドライな感じの果実だったから、あのままだとソースみたいに加工して使うようになるんだろう。
だが、寒天化すれば加工しないそのままのピーカラの味を使える。
そして、肉の上に掛かったつぶつぶの食感が楽しい。
味だけではなく、食感も重要だよな。
「いやー、美味いです」
「美味い? やっぱり? 外国人でも分かるなら、間違いないね! よしよし、よしっ!」
おばさまがガッツポーズをした。
「ところでおばさま。僕がさらにインパクト絶大な料理になるよう、手を貸してもいいのだが……」
「な、なんだって!? あんたまさか、そんなものを作れるって言うのかい!? 一体何をするつもりなんだい!?」
わなわな震えるおばさま。
だが、表情は期待でちょっと笑っている。
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