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21・女王陛下の油使い
第61話 女性四人の前で揚げ物を
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「まあまあ皆さんお揃いで! 初めての方もいらっしゃるのね。どうぞどうぞ」
ドロテアさんがニコニコしながら迎えてくれた。
僕、コゲタ、リップル、バルバラ女王、お下げの受付嬢の五人がぞろぞろ入ってくる。
ここはギルマスの家。
割と広めのリビングも、これだけの人数がいると……やっぱりまだちょっと広いな。
「ナザルさん、ちょっと私、ドキドキしているわ。一体何をするのかしら。あら、その手に持っているのはマスターの作った生地ね? ということはもしかしてもしかして……」
「そう、ドーナッツを揚げに来ました」
「きゃあ!」
ドロテアさんが喜んだ。
僕の揚げるドーナッツは彼女の大好物なのだ。
曰く、「不思議な中毒性がある気がするのよね。月に一度は食べたくなる味だわ」とのこと。
僕が準備を始めると、ドロテアさんが手伝いに入った。
そしてバルバラ女王とお下げの受付嬢が、間近で見学に来る。
「なんだなんだ」
「わらわも作り方を知っておかねばなるまいよ。なぜなら、そなたがおらぬファイブショーナンで、材料が同じであっても味が同じものができるとは限らぬ! わらわが覚え、民たちに広めて受け継がせようぞ」
「私も、女子としての興味からですね。あの料理をしなかったナザルさんがあっという間に料理上手として名を馳せるようになりましたから。油物専門ではありますけど。でも男子は脂っこいもの好きですから、これで意中の殿方が現れたら胃袋を掴むんです」
みんなそれなりの理由があるんだなあ。
ソファでだらけて、コゲタの毛並みをいじっている安楽椅子冒険者を除く。
「いいでしょう。僕はドロテアさん直伝で、基本的にアレンジしないでマニュアルに忠実に作るから、覚えていってください」
「ナザルさんは変なことをしないし、お砂糖を使う時の思い切りがいいから美味しくできるのよね」
ふふふ、以前のあまり甘くないドーナッツで凝りたからね。
ドロテアさんからしても、教えれば教えるほど吸収する僕はよく出来た弟子なのだろう。
任せていただきたい。
生地をじゅわっと揚げると、女王と受付嬢からワーッと歓声が上がる。
美味しそうな匂いが漂う。
ソファに根っこが生えていると思われたリップルも思わず立ち上がり、見に来た。
「ほほー、美味しそうだねえ」
「リップル、そなたすっかりだらけてしまったのじゃ! 全く情けない! あの頃の覇気に満ちていた若き魔法使いはどこに行ったのじゃ!」
「あーやめてくださいやめてください、それは私の思い出したくない過去……!」
「何を言っておる! 英雄たちの最後の生き残りがそのような有り様でどうする!? わらわをして当代最強の魔法使いと認めたそなたが、このようにダラダラ、ダラダラと……。おっと、ドーナッツが揚がるのを見逃してしまうわ」
「うひー、お説教が終わった。こわいこわい」
一体どういう人間関係なんだろうな、ここ。
それはそうとして、僕はドーナッツの揚がり加減を真剣に見極めているのだ。
「いいわよナザルさん。その目、素敵だわ。ドーナッツが理想的な色になる瞬間を絶対に見逃さない姿勢……。かくあるべきよね」
「……あのう、ドロテア奥様はあれですか。ナザルさんとちょっといい感じの仲なんですか?」
お下げの受付嬢がそんなことを言うので、僕は思わず油の入った鍋をひっくり返すところだった。
危ない危ない。
なんてことを言うんだ。
「あら、エリィさん、それはどうして?」
「だって、お二人の距離はかなり近いですし、ボディタッチも多いですし」
そうだね、ドロテアさんは相手の手を取って丁寧に教えてくれるね。
この人、多分僕のことを息子の延長で考えてるんだと思うなあ。
こう見えて、目覚めてからもう三十年以上経過してる人だからね。
「そうね。ナザルさんは確かに素敵な殿方だけれど、私の愛はまだまだ彼に向いているわね。目覚めてからずっと、彼に夢中だもの。残念だけど、エリィさんの期待に応えることはできないわね。あ、ナザルさん! そろそろ!」
「はいはい!! 油を回収ーっ」
お喋りしながらも、料理を見る目は確かなお方だ。
ドーナッツはこんがりきつね色。
実に素晴らし揚がり具合になった。
これにたっぷりの粉砂糖を振る。
粉砂糖はこれを作る職人がおり、最近ドロテアさんが買い付け先として開拓したそうなのだ。
アグレッシブに動いてらっしゃる。
「おほー! こりゃあたまらんのじゃ! 早く食べたいものじゃのう! これリップル!」
「いたい!」
スッと手を伸ばしたリップル。
甲を女王陛下に叩かれて引っ込めた。
「たくさん揚がっているんだから一個くらいいいじゃないか」
「それとこれとは別じゃ! リップル、そなたには料理をしてくれた者への礼儀というものがじゃな」
「私とナザルの間ならこれでいいんだよ。な、元少年!」
「いやまあ、リップルとの付き合いは長いけどね」
バルバラ女王が、僕とリップルを交互に見比べた。
そして、「これと? そなたが? ……まあ人の好みは色々か」とか人聞きの悪いことを言う。
断じてそういう関係ではない。
「ナザルさん……モテますね」
お下げの受付嬢が、なんかじっとりとした目でそんな事を言った。
「モテてるように見えるか……?」
「あ、いや、よく考えたら微妙ですね」
だろう?
そんなわけで。
みんなでドーナッツを食べようじゃないか!
ドロテアさんが淹れたお茶といっしょにドーナッツを楽しむ僕ら。
なんだかんだ言われたけど、やはり揚げたては最高に美味しいのだった。
ドロテアさんがニコニコしながら迎えてくれた。
僕、コゲタ、リップル、バルバラ女王、お下げの受付嬢の五人がぞろぞろ入ってくる。
ここはギルマスの家。
割と広めのリビングも、これだけの人数がいると……やっぱりまだちょっと広いな。
「ナザルさん、ちょっと私、ドキドキしているわ。一体何をするのかしら。あら、その手に持っているのはマスターの作った生地ね? ということはもしかしてもしかして……」
「そう、ドーナッツを揚げに来ました」
「きゃあ!」
ドロテアさんが喜んだ。
僕の揚げるドーナッツは彼女の大好物なのだ。
曰く、「不思議な中毒性がある気がするのよね。月に一度は食べたくなる味だわ」とのこと。
僕が準備を始めると、ドロテアさんが手伝いに入った。
そしてバルバラ女王とお下げの受付嬢が、間近で見学に来る。
「なんだなんだ」
「わらわも作り方を知っておかねばなるまいよ。なぜなら、そなたがおらぬファイブショーナンで、材料が同じであっても味が同じものができるとは限らぬ! わらわが覚え、民たちに広めて受け継がせようぞ」
「私も、女子としての興味からですね。あの料理をしなかったナザルさんがあっという間に料理上手として名を馳せるようになりましたから。油物専門ではありますけど。でも男子は脂っこいもの好きですから、これで意中の殿方が現れたら胃袋を掴むんです」
みんなそれなりの理由があるんだなあ。
ソファでだらけて、コゲタの毛並みをいじっている安楽椅子冒険者を除く。
「いいでしょう。僕はドロテアさん直伝で、基本的にアレンジしないでマニュアルに忠実に作るから、覚えていってください」
「ナザルさんは変なことをしないし、お砂糖を使う時の思い切りがいいから美味しくできるのよね」
ふふふ、以前のあまり甘くないドーナッツで凝りたからね。
ドロテアさんからしても、教えれば教えるほど吸収する僕はよく出来た弟子なのだろう。
任せていただきたい。
生地をじゅわっと揚げると、女王と受付嬢からワーッと歓声が上がる。
美味しそうな匂いが漂う。
ソファに根っこが生えていると思われたリップルも思わず立ち上がり、見に来た。
「ほほー、美味しそうだねえ」
「リップル、そなたすっかりだらけてしまったのじゃ! 全く情けない! あの頃の覇気に満ちていた若き魔法使いはどこに行ったのじゃ!」
「あーやめてくださいやめてください、それは私の思い出したくない過去……!」
「何を言っておる! 英雄たちの最後の生き残りがそのような有り様でどうする!? わらわをして当代最強の魔法使いと認めたそなたが、このようにダラダラ、ダラダラと……。おっと、ドーナッツが揚がるのを見逃してしまうわ」
「うひー、お説教が終わった。こわいこわい」
一体どういう人間関係なんだろうな、ここ。
それはそうとして、僕はドーナッツの揚がり加減を真剣に見極めているのだ。
「いいわよナザルさん。その目、素敵だわ。ドーナッツが理想的な色になる瞬間を絶対に見逃さない姿勢……。かくあるべきよね」
「……あのう、ドロテア奥様はあれですか。ナザルさんとちょっといい感じの仲なんですか?」
お下げの受付嬢がそんなことを言うので、僕は思わず油の入った鍋をひっくり返すところだった。
危ない危ない。
なんてことを言うんだ。
「あら、エリィさん、それはどうして?」
「だって、お二人の距離はかなり近いですし、ボディタッチも多いですし」
そうだね、ドロテアさんは相手の手を取って丁寧に教えてくれるね。
この人、多分僕のことを息子の延長で考えてるんだと思うなあ。
こう見えて、目覚めてからもう三十年以上経過してる人だからね。
「そうね。ナザルさんは確かに素敵な殿方だけれど、私の愛はまだまだ彼に向いているわね。目覚めてからずっと、彼に夢中だもの。残念だけど、エリィさんの期待に応えることはできないわね。あ、ナザルさん! そろそろ!」
「はいはい!! 油を回収ーっ」
お喋りしながらも、料理を見る目は確かなお方だ。
ドーナッツはこんがりきつね色。
実に素晴らし揚がり具合になった。
これにたっぷりの粉砂糖を振る。
粉砂糖はこれを作る職人がおり、最近ドロテアさんが買い付け先として開拓したそうなのだ。
アグレッシブに動いてらっしゃる。
「おほー! こりゃあたまらんのじゃ! 早く食べたいものじゃのう! これリップル!」
「いたい!」
スッと手を伸ばしたリップル。
甲を女王陛下に叩かれて引っ込めた。
「たくさん揚がっているんだから一個くらいいいじゃないか」
「それとこれとは別じゃ! リップル、そなたには料理をしてくれた者への礼儀というものがじゃな」
「私とナザルの間ならこれでいいんだよ。な、元少年!」
「いやまあ、リップルとの付き合いは長いけどね」
バルバラ女王が、僕とリップルを交互に見比べた。
そして、「これと? そなたが? ……まあ人の好みは色々か」とか人聞きの悪いことを言う。
断じてそういう関係ではない。
「ナザルさん……モテますね」
お下げの受付嬢が、なんかじっとりとした目でそんな事を言った。
「モテてるように見えるか……?」
「あ、いや、よく考えたら微妙ですね」
だろう?
そんなわけで。
みんなでドーナッツを食べようじゃないか!
ドロテアさんが淹れたお茶といっしょにドーナッツを楽しむ僕ら。
なんだかんだ言われたけど、やはり揚げたては最高に美味しいのだった。
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