俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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19・安楽椅子冒険者、久しぶりに動く

第51話 厄介事を避けるため、リップルに同行するぞ

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 ファイブスターズの動きについて、サラッとギルドに報告しておいた。
 この話は盗賊ギルドにも流れたらしく、アーガイルさんが訪ねてきた。

「最近のアーランは景気が良くてな。流れ者が多くやって来ている。俺達も目を光らせてるが、見落としがあるかも知れん。手伝え、ナザル」

「残念ながら仕事を受けてしまっていて……」

「そんなもんはキャンセルして、こっちを優先しろ」

「リップル絡みなんだが」

「なにっ、リップルさんの!? じゃあ仕方ねえな……」

 アーガイルさんが納得して帰っていった。
 この人、安楽椅子冒険者の信奉者だからな……。

 冒険者ギルド奥では、当のリップルが目を丸くしてこっちを見ている。

「私、なにか仕事を受けていたっけ?」

「これから受けるんだよ」

「なんだってー!」

 最近リップルはギルドから外に出ていない。
 冒険者ギルドと、拠点にしている宿を行き来しているだけなのだ。
 これはよくない。

 いかに長寿のハーフエルフとは言え、変化のない生活は老け込んでしまうのではないか。
 うんうん、僕は先輩冒険者思いだ。
 彼女を外に連れ出して、健康のために仕事をしてもらおうじゃないか。

「行くぞリップル。何か仕事を受けるんだ」

「うーん。でも一ヶ月前に仕事を受けたばかりだよ……」

「一ヶ月仕事しないでよく暮らしていけるなあ」

 さて、現在貼られている依頼をチェック。

「あ、これがいい。これにしよう」

「リップルがそう言い出すなんて珍しい。一体なんだ……? 魔導書庫の掃除……?」

「うんうん、いいぞいいぞ。ここからちょっとかび臭い空気を吸いながら、責任のあまり伴わない単純作業ができるはずだ……。これを受けよう」

「はい、ありがとうございます! シルバー級以上の魔法使いがいないと受けられない仕事なので……」

 お下げの受付嬢が、ちょっと嬉しそう。
 なぜだ……?
 待てよ。
 書庫の掃除がシルバー級以上魔法使いでなければだと?

 これ、何かあるのでは?

「ちょっと依頼について聞きたいんだけど。魔導書庫って国が管理してる場所だよね? どうして冒険者ギルドに依頼が……? それに、この指定は絶対に裏があるよね? 一見して楽そうなのに、どうしてずっと残ってたの……?」

「あー、それはですねえ……。アーラン直属の魔法使いの腕利きが監視業務に駆り出されているのと、駆け出しの魔法使いが掃除に向かったら帰ってこなかったので……」

「なんですって」

 僕は飛び上がるほど驚いた。
 普通にヤバい仕事案件じゃないか!

「リップル、これは……」

「うん?」

 この安楽椅子冒険者、もう仕事を受理している……!!
 文面から推理するくらいやってくれー!?

 どうやら一ヶ月間サボって、勘が錆びついてしまっているらしい……。
 ここは、彼女を仕事の中で再び鍛え直さねば。
 
 今回はコゲタを連れていけない仕事なので、宿のおかみさんに預ける。
 そして、僕とリップルの二人で魔導書庫へ向かうのだった。

 解約するとお金がかかるし、リップルと仕事をしないと盗賊ギルドの仕事に巻き込まれそうだし……。
 僕に逃げ場なし!
 シルバー級は本当に面倒だな!
 まあ、仕事の報酬はかなりの額なのでよしとしよう……。

 到着したのは、山の手にある古い建造物。
 それなりの大きさがある洋館と言った作りだ。

「ああ、お仕事を引き受けてくださる冒険者の方々ですか。よろしくお願いします」

 管理人だというおじさんは大変腰が低い。
 
「随分前に依頼を出したんですが、最初の冒険者が亡くなってしまってから悪い噂が広まったみたいでね……」

「シルバー級が死ぬような掃除がどこにあるか」

 僕が思わず突っ込むと、おじさんが「いやあ、国の上級魔法使いならやれるんだけど……」とかとんでもないことを仰る。

「リップル、上級魔法使いってどのレベル?」

「ゴールド級だよ?」

「あー」

「えー」

 管理人のおじさんもポカンとした。
 知らなかったのか。
 いや、普段冒険者と関わる機会が無い場合、冒険者の等級なんかどんなもんだか分からないものだもんな。

「それでリップル、行くの?」

「いやあ、実は私、タダで魔導書を読めるかもって下心があるんだよね」

「豪気な魔法使いだなあ」

 よく考えたら彼女はプラチナ級なのだった。
 しかも、その真の実力は未知数だ。
 ま、なんとかなるか!

 僕は今回、リップルに全て任せることに決めたのだった。

 管理人のおじさんから鍵を預かり、洋館の扉を開ける。
 日差しが差し込み、館内のホコリが舞い上がったようだ。
 キラキラ光って見える。

「ここには本棚が無いんだな」

「日差しは本の大敵だ。ここから見えるだけでも、上下に扉があるだろ? あの奥が書庫なんだ」

「なるほど……。ホラーゲームじゃないかこれ」

「ホラーゲー……なに?」

「なんでもない」

 用意されたのは、魔法のランタンが人数分。
 これは青い魔法の輝きを放ち、その光は本を傷めない。

 とにかく太陽の光は大変強力なので、どんなに強い守りの魔法を纏った魔導書だろうが、長時間さらされると傷んでしまうらしい。
 やっぱり太陽が最強ってことだ。

 ちなみに次に強いのは月。
 月を魔力源とした魔法が存在するくらいだ。
 そしてこの世界は月が二つあるので、地球に魔法があったとしても、こっちの魔法の方が強いんだろうな、多分。

「それじゃあ行こうか。まずはカウンターで目録を読んでだね……。ああ、目録はお喋りらしくてね。いやあ楽しみだ」

「リップルが生き生きしている……。いつもとは役割が逆なんじゃないか、これは」

 僕らの後ろで、ゆっくりと書庫の扉が閉じていくのだった。
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