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13・若き冒険者たちのピンチ
第34話 重戦士といっしょ
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カッパー級冒険者のパーティが戻ってこないということで、まだ一日くらいなのだが様子を見に行くことになった。
報酬は雀の涙ほどだが、ギルドの覚えがよくなる。
つまり、昇格しないでぐだぐだしていても何も言われないようになるわけだ。
「じゃあ行ってきます」
「君、本当に体力あるね……依頼から帰ってきたばかりでしょ」
「まあ若いからね! それに帰りは荷馬車で休ませてもらったし」
リップルが呆れたように僕を眺めた。
彼女だって体力あるだろうに、やる気が無いだけなのだ。
「ナザルさん、実は……本来一日戻ってこない程度ではこんな話はしないんですけど」
お下げの受付嬢からヒソヒソ声で囁かれた。
いやあ、いいですねえ耳元での囁き。
「ナザル、ニヤニヤするなー」
重戦士のバンキンが野次を飛ばしてくる。
おのれー。
受付嬢がちょっと離れてしまったではないか。
だが、秘密の話が漏れてしまうことを恐れて、やはり距離を詰めてヒソヒソ声になった。
「髪を縫い付けている旗ですが、実は旗の切れ端がギルドにもあるんです。これが燃え尽きました。つまり……」
「やられた可能性があると。なるほどー。面倒だなあ……」
「シルバー級の方々の多くは、国の依頼で出ていまして……。残っているのはたまたま昨日お腹を壊していたバンキンさんしか」
「なるほど……」
「俺?」
バンキンが自分を指さした。
ということで。
僕とバンキンの二人で向かうことになったのだった。
「腹痛から戻ってきたばかりで仕事なの? きびしー」
バンキンは僕と仲のいい重戦士だ。
いざとなれば、宿に用意してある金属鎧を纏って依頼に向かう。
だが、今回は軽装の方が望ましいため……。
「軽装でもそんな分厚い革の鎧着てるのかあ。戦闘用の革ジャンじゃないか」
「なんだ革ジャンって?」
知らなくていい……。
見た目のイメージは表面にガード用の硬い皮革が縫い付けられた革ジャンである。
これは鎧としては破格に動きやすいし、ダメージ分散技術に長けた重戦士なら、これで並の対人戦はやってのける。
「あとはこの盾な、盾」
バンキンが背負っているのは、一見するとフレームだけしかない四角い盾。
ヒーターシールドというやつだ。
この男は盾使いのエキスパートなので、フレームだけあれば相手の攻撃を受け止められる。
それにフレームなら視界を邪魔しないわけだ。
「対人戦はゴールド級相手じゃない限り、これで十分」
「相手がゴールド級だったら?」
「逃げるに決まってるだろ」
軽口を叩き合いながら、僕らはカッパー級パーティの後を追った。
「なあナザル、生きてると思うか? 死んでると思うか?」
「全滅はしてないと思うね。頭数がいるんだ。逃げるのが得意な盗賊やレンジャーなら逃げてるんじゃないかな」
「奇遇だな、俺も同じ意見だ。だから俺たちはせいぜい目立って、生き残りと合流しなきゃな」
僕とバンキンが、大声で会話しながら活動しているのはそういうわけだ。
向かったのは、ちょうど密林の下に位置する谷底。
あっという間に夕方になってしまった。
バンキンとともにキャンプの準備をする。
岩場の隙間に、布で屋根だけをこさえて……。
焚き火を用意して、交代交代で夜の番をする。
晩飯はヴォーパルバニーの残りを炒めた。
あとは持ってきた、焼き麦を推し固めたやつ。
これを水で戻して粥状にして食うんだが、不味いんだこれが。
「おいナザル、何をやってるんだ?」
「麦を油で戻してる。どうかなあ……。水よりはマシだと思うんだが……。あー、油で戻しても不味い」
「お前は本当に味にうるせえなあ」
この世界の冒険者が、細かい味を気にしなさすぎるだけだと思うのだ。
ただ、ヴォーパルバニーの肉は本当に美味しかった。
しばらく食事をしていると、こちらをじーっと見ている者がいる。
何者だろう。
「ウ、ウウウウ」
出てきた。
これは……。
直立した犬の姿をしており、体には鱗が生えた小柄なヒューマノイドだ。
「コボルドだ」
「コボルドだな」
人里近くに住み着き、作物や家畜を盗んだりする連中だ。
一部のコボルドは知性が高く、人間とも狩りの獲物を取引したりするらしいが。
今回のは盗みを働くタイプだな。
ひどく飢えてる。
よろよろ歩いてきながら、手にした粗末な槍を構えている。
木の棒を斜めに切って、そこに黒曜石を差し入れただけのものだ。
「腹が減ってるのか。空腹はつらいよな」
「なんだナザル。助けてやるのか? そんな気持ち、コボルドには通じないぞ。脅したから言うことを聞いたと思われるのがオチだ」
「そうかも知れないけどねえ」
僕は、持て余していた油で戻した焼き麦を差し出した。
「食べていいよ。僕は苦手な食べ物だ」
「うう!?」
皿に乗せて焼き麦をあげたら、コボルドは槍を取り落とすくらい驚いた。
そしてよろよろ近づいてきて、皿を受け取り、直接ガツガツと口に流し込む。
油で戻したから、するする入るだろう。
「落ち着け落ち着け。水を飲め水を飲め」
空になった皿に水を注いでやった。
ペチャペチャ犬みたいに飲むコボルド。
ついでにヴォーパルバニーのまだ肉が付いた骨をあげたら、尻尾を振って喜びながらこれを食べた。
腹が膨れたらしく、その場で大の字になって寝転ぶコボルド。
なんという無防備さか。
「満足した?」
「たべもの、かたじけない」
おっ、簡単な会話ならできるというコボルドだけど、本当に言葉が通じるんだな。
バンキンも、コボルドが礼を言ったので驚いたようだった。
「コボルドは恩知らずなのかと思ってたぜ。だってゴブリンはそういう生き物だろ? 似たようなもんだと思ってた」
深く触れないと、異種族のことなんか分からないもんだもんな。
「なあ君、僕らは冒険者のパーティを探してるんだが。こう、たくさんの人間に襲われて散り散りになってる奴らがいなかったか」
「ウー」
コボルドは唸りながら考えた。
「人間におい、辿れる」
「ほんと? じゃあしばらく食事を用意してあげるからさ、手伝ってくれよ」
「わかった」
このやり取りを見て、バンキンが呆れ半分、感心半分で声を漏らした。
「お前、本当に謎のコミュ力だな……。そうか、コボルドにも食事の礼で何かをやらせれば、取引になるわけか! コボルドは取引ができる種族だって言うもんな」
そういうことだ。
それに僕は、犬が好きなんだよな……。
報酬は雀の涙ほどだが、ギルドの覚えがよくなる。
つまり、昇格しないでぐだぐだしていても何も言われないようになるわけだ。
「じゃあ行ってきます」
「君、本当に体力あるね……依頼から帰ってきたばかりでしょ」
「まあ若いからね! それに帰りは荷馬車で休ませてもらったし」
リップルが呆れたように僕を眺めた。
彼女だって体力あるだろうに、やる気が無いだけなのだ。
「ナザルさん、実は……本来一日戻ってこない程度ではこんな話はしないんですけど」
お下げの受付嬢からヒソヒソ声で囁かれた。
いやあ、いいですねえ耳元での囁き。
「ナザル、ニヤニヤするなー」
重戦士のバンキンが野次を飛ばしてくる。
おのれー。
受付嬢がちょっと離れてしまったではないか。
だが、秘密の話が漏れてしまうことを恐れて、やはり距離を詰めてヒソヒソ声になった。
「髪を縫い付けている旗ですが、実は旗の切れ端がギルドにもあるんです。これが燃え尽きました。つまり……」
「やられた可能性があると。なるほどー。面倒だなあ……」
「シルバー級の方々の多くは、国の依頼で出ていまして……。残っているのはたまたま昨日お腹を壊していたバンキンさんしか」
「なるほど……」
「俺?」
バンキンが自分を指さした。
ということで。
僕とバンキンの二人で向かうことになったのだった。
「腹痛から戻ってきたばかりで仕事なの? きびしー」
バンキンは僕と仲のいい重戦士だ。
いざとなれば、宿に用意してある金属鎧を纏って依頼に向かう。
だが、今回は軽装の方が望ましいため……。
「軽装でもそんな分厚い革の鎧着てるのかあ。戦闘用の革ジャンじゃないか」
「なんだ革ジャンって?」
知らなくていい……。
見た目のイメージは表面にガード用の硬い皮革が縫い付けられた革ジャンである。
これは鎧としては破格に動きやすいし、ダメージ分散技術に長けた重戦士なら、これで並の対人戦はやってのける。
「あとはこの盾な、盾」
バンキンが背負っているのは、一見するとフレームだけしかない四角い盾。
ヒーターシールドというやつだ。
この男は盾使いのエキスパートなので、フレームだけあれば相手の攻撃を受け止められる。
それにフレームなら視界を邪魔しないわけだ。
「対人戦はゴールド級相手じゃない限り、これで十分」
「相手がゴールド級だったら?」
「逃げるに決まってるだろ」
軽口を叩き合いながら、僕らはカッパー級パーティの後を追った。
「なあナザル、生きてると思うか? 死んでると思うか?」
「全滅はしてないと思うね。頭数がいるんだ。逃げるのが得意な盗賊やレンジャーなら逃げてるんじゃないかな」
「奇遇だな、俺も同じ意見だ。だから俺たちはせいぜい目立って、生き残りと合流しなきゃな」
僕とバンキンが、大声で会話しながら活動しているのはそういうわけだ。
向かったのは、ちょうど密林の下に位置する谷底。
あっという間に夕方になってしまった。
バンキンとともにキャンプの準備をする。
岩場の隙間に、布で屋根だけをこさえて……。
焚き火を用意して、交代交代で夜の番をする。
晩飯はヴォーパルバニーの残りを炒めた。
あとは持ってきた、焼き麦を推し固めたやつ。
これを水で戻して粥状にして食うんだが、不味いんだこれが。
「おいナザル、何をやってるんだ?」
「麦を油で戻してる。どうかなあ……。水よりはマシだと思うんだが……。あー、油で戻しても不味い」
「お前は本当に味にうるせえなあ」
この世界の冒険者が、細かい味を気にしなさすぎるだけだと思うのだ。
ただ、ヴォーパルバニーの肉は本当に美味しかった。
しばらく食事をしていると、こちらをじーっと見ている者がいる。
何者だろう。
「ウ、ウウウウ」
出てきた。
これは……。
直立した犬の姿をしており、体には鱗が生えた小柄なヒューマノイドだ。
「コボルドだ」
「コボルドだな」
人里近くに住み着き、作物や家畜を盗んだりする連中だ。
一部のコボルドは知性が高く、人間とも狩りの獲物を取引したりするらしいが。
今回のは盗みを働くタイプだな。
ひどく飢えてる。
よろよろ歩いてきながら、手にした粗末な槍を構えている。
木の棒を斜めに切って、そこに黒曜石を差し入れただけのものだ。
「腹が減ってるのか。空腹はつらいよな」
「なんだナザル。助けてやるのか? そんな気持ち、コボルドには通じないぞ。脅したから言うことを聞いたと思われるのがオチだ」
「そうかも知れないけどねえ」
僕は、持て余していた油で戻した焼き麦を差し出した。
「食べていいよ。僕は苦手な食べ物だ」
「うう!?」
皿に乗せて焼き麦をあげたら、コボルドは槍を取り落とすくらい驚いた。
そしてよろよろ近づいてきて、皿を受け取り、直接ガツガツと口に流し込む。
油で戻したから、するする入るだろう。
「落ち着け落ち着け。水を飲め水を飲め」
空になった皿に水を注いでやった。
ペチャペチャ犬みたいに飲むコボルド。
ついでにヴォーパルバニーのまだ肉が付いた骨をあげたら、尻尾を振って喜びながらこれを食べた。
腹が膨れたらしく、その場で大の字になって寝転ぶコボルド。
なんという無防備さか。
「満足した?」
「たべもの、かたじけない」
おっ、簡単な会話ならできるというコボルドだけど、本当に言葉が通じるんだな。
バンキンも、コボルドが礼を言ったので驚いたようだった。
「コボルドは恩知らずなのかと思ってたぜ。だってゴブリンはそういう生き物だろ? 似たようなもんだと思ってた」
深く触れないと、異種族のことなんか分からないもんだもんな。
「なあ君、僕らは冒険者のパーティを探してるんだが。こう、たくさんの人間に襲われて散り散りになってる奴らがいなかったか」
「ウー」
コボルドは唸りながら考えた。
「人間におい、辿れる」
「ほんと? じゃあしばらく食事を用意してあげるからさ、手伝ってくれよ」
「わかった」
このやり取りを見て、バンキンが呆れ半分、感心半分で声を漏らした。
「お前、本当に謎のコミュ力だな……。そうか、コボルドにも食事の礼で何かをやらせれば、取引になるわけか! コボルドは取引ができる種族だって言うもんな」
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それに僕は、犬が好きなんだよな……。
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