上 下
28 / 244
10・サトウキビ畑を見に行こう

第28話 サトウキビ畑と農業体験

しおりを挟む
 お目当てのサトウキビ畑の場所を、そのへんの農夫の人に聞く。
 聞いただけだと悪いので、彼のとれたて野菜を一個買った。
 キャベツに似た葉野菜だ。
 名前も似てたような。

 これはギルドに戻ったらかき揚げにして食べよう。
 かき揚げにソースを掛けてパンに載せるのもいいな……。

 新たな野望を胸に秘め、キャベツ風葉野菜はリュックに放り込んだ。
 パンパンになってる。
 葉野菜一個持ち歩くものじゃないな。

 そしてとうとうサトウキビ畑に到着だ。
 この世界、キャベツやレタスと言った葉野菜が存在しないのに、じゃがいもとサトウキビが存在しているのだ。
 不思議……。

 青々と茂る背の高いサトウキビ。
 空には、この遺跡が映し出す幻の太陽が照り輝いている。
 それを受けて、サトウキビはぐんぐんと育ち、どんどん甘くなっていくのだ。

「壮観だ……」

 畑の入口に立って、この光景を見つめている。
 そう言えば、このすぐ近くにドロテアさんが眠っていた休眠ポッドみたいなものがあるんだったっけ。
 もう通過してしまったか……?

「おう、兄ちゃん観光かい? 第一階層には畑しかねえってのに物好きだねえ」

 新たな農夫の人が通りかかった。
 ずっと遺跡の中で暮らしているのだろうが、幻の太陽の日差しでこんがりと日焼けした人だ。
 ま、僕もごま油色の美しい肌の色をしているけどね!

「ええ、実は知り合いにここのことを教えてもらって、初めて遺跡に潜ったんですよ。いやあ……凄いですねえ、サトウキビ。こんなにたくさん、青々と実って」

「だろう? この遺跡はさ、上にある街の人達の活気を魔力にして吸い取ってるんだ。で、それが巡り巡って作物の栄養になる。作物は収穫されて、街の連中に元気を与える。みんなこう、巡ってるのよ。巡って」

 農夫の人が、ぐるぐるとろくろを回すような手つきをする。
 なるほどなあ。
 人の活気が作物を育て、作物の供給が人に活気を与える。
 完璧な循環なのだ。

「そうなんですねえ。あ、なんか収穫とかするなら手伝っていいですか? 実は畑仕事とか全くやったことなくて」

「観光なのに手伝うのかい! 物好きだねえほんと!」

 ということで、農夫の人に無理を言って手伝わせてもらうことになった。
 鎌で一本一本切断していくのかと思ったが……。

「そんなもん、幾ら時間があっても足りないよ! これよ、これを使うのよ」

 農夫の人が連れてきたのは、牛だ。
 そして牛が引いているのは、横に何本も鎌が突き出した機械。

「遺跡で発掘された道具でね。どうもこの遺跡が遺跡じゃなかった時代にも、第一階層は野菜を育ててたって言うじゃないか。で、これがこういう作物を刈り取るための道具で、なんと魔力を使ってないんだ」

「へえー! そいつは凄い!」

 僕は感心してみせたが、むしろこの世界の一般的な魔法より、こういう機械仕掛けの道具の方が馴染みが深い。
 これはきっと、魔力を余すこと無く作物に伝え、刈り取りは可能な限り魔力を使わないで行うために作られたのだ。

 農夫の人にやり方を教わり、僕は牛の鼻にくっついたロープを引っ張った。

「ぶもー」

 牛がのんびりついてくる。
 引っ張られた機械は、横についた鎌をジャカジャカと動かす。
 この距離を農夫の人がいい塩梅に弄り……。

 おおっ、歩くだけでサトウキビ畑が刈り取られていく。
 こりゃあ楽しい。

「刈り取り器の横に回るなよー! 大怪我じゃ済まないからな」

「了解でーす」

 牛を引っ張りながら、この畑の端まで歩く。
 この機械、ターンするのが難しいな。

「回らねえんだ。こいつはゆっくりと畑を取り囲むようにぐるっと巡って動いて、だんだん内側に入っていくの」

「ああ、四角い螺旋を描くように!」

 外側から内側に向けて刈り込んでいくのだ。
 牛が回ってくるまでの間に、刈り取られたサトウキビは農夫の家族の人たちがわーっとやって来て、脇に除けていく。
 万一、刈り取られた作物の上で牛がフンなんかしたら目も当てられないからだ。

 半分人力、半分牛力+機械。
 少々大変だが、牧歌的で大変よろしい。

「兄ちゃん、筋がいいなあ! どうだ? うちの下の娘と結婚して畑をやんねえか?」

「ははあ、僕もちょっとサトウキビ畑に魅力を感じてきたところです。ですけど今のところ奥さんをもらう気はなくて」

「ああそうなのかい、残念だ。ま、下の娘はまだ5つだけどよ」

 がっはっは、と農夫の人が笑った。
 そりゃああまりにも若すぎる。

 こうして僕はサトウキビの収穫を手伝った。
 このあと、砂糖の精製作業なんかがあるらしい。

 こちらの区画の畑は、彼ら農夫の一家というか一族が取り仕切ってる。
 他にも数か所サトウキビ畑と野菜畑があり、遺跡第一階層はアーランという大きな都市をまさしく支えているのだった。

「いや、堪能しました。ありがとうございます」

「おう! またいつでも来なよ! って言っても、よそもんは入場で金を取られるんだもんな。おいそれとやってこれねえよなあ」

 金を取ることは大事だと思う。
 何せ、作物の種を盗む泥棒が入り込めなくなる。
 タダだと、良からぬ輩がどんどんやってくることになるしね。

 お土産にサトウキビを一房もらった。
 皮を剥いた茎を噛みしめると甘い。
 だけどほんのりとってレベルだ。

「これを煮詰めて、濃厚な砂糖にするんだなあ……」

 この世界の砂糖は白くはない。
 琥珀色だ。
 国王のもとには真っ白な砂糖が出るというが……。
 僕はこの色付きの砂糖が好きだな。

 雑味がある感じが、料理や菓子に使うといい塩梅で映える。
 ただ……お茶に入れると雑味の主張が強い。
 僕はお茶はプレーン派だ……。

 こうして、第一階層観光を終えた。
 後で聞いたのだが、ドロテアさんのいた休眠ポッドは既に運び出され、魔法使いたちの学院というところに保管されているのだとか。
 今度はそっちを見に行きたいものだ。

「さて、第一階層で得た知見を安楽椅子冒険者殿に自慢しに行くとしようかな。ついでにかき揚げをマスターに提案したい……」

 休日一日目はこうして過ぎていくのだった。


しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!

あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。 モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。 実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。 あらゆるモンスターへの深い知識。 様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。 自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。 降って湧いた凶悪な依頼の数々。 オースはこれを次々に解決する。 誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。 さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。 やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。

シスコンリーマン、魔王の娘になる

石田 ゆうき
ファンタジー
 平凡なサラリーマン白井海は、ある日、異世界の女の子と体が入れ替わってしまう。その女の子とは、魔王の娘であるお姫様だったのだ。しかし魔王の死後、領地のほとんどを失い、二ヶ月には戦争がおこるというギリギリの状況だった。海は愛する妹が待つ日本に戻ろうと奮闘することになる。 本作品は、小説家になろうにも投稿しています

これがホントの第2の人生。

神谷 絵馬
ファンタジー
以前より読みやすいように、書き方を変えてみました。 少しずつ編集していきます! 天変地異?...否、幼なじみのハーレム達による嫉妬で、命を落とした?! 私が何をしたっていうのよ?!! 面白そうだから転生してみる??! 冗談じゃない!! 神様の気紛れにより輪廻から外され...。 神様の独断により異世界転生 第2の人生は、ほのぼの生きたい!! ―――――――――― 自分の執筆ペースにムラがありすぎるので、1日に1ページの投稿にして、沢山書けた時は予約投稿を使って、翌日に投稿します。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移の……説明なし!

サイカ
ファンタジー
 神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。 仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。 しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。 落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして………… 聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。 ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。 召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。 私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。 ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない! 教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない! 森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。 ※小説家になろうでも投稿しています。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...