上 下
27 / 210
10・サトウキビ畑を見に行こう

第27話 遺跡第一層へ

しおりを挟む
 フォーエイブル男爵絡みの仕事で、たっぷりと報酬をもらった僕。
 懐がたいへん暖かく、本日の朝食はいつもの定食屋よりもワンランク上のところで食べることにしたのだった。

 ハーブとひき肉をたっぷり腸詰めにした自家製ソーセージと、やはりその食堂の自家製ザワークラフトみたいなのがついてくるセットにした。

「あっあっ、こりゃあ美味い。ワンランク上げるだけで如実に美味しくなる……。贅沢を知って元の世界に戻れなくなりそうだ」

 戻るけどね!
 いいものを食べるのは、今日一日だけだ。
 チートデイというやつだ。

 なお、安楽椅子冒険者はあまりにも活発に活動しすぎたため、精神的に疲労してしばらくはギルドに引きこもるそうだ。
 ギルドに……?
 自室じゃなく?

 彼女が家にしている宿、もう住み着いてから経営者が二回変わってるらしい。
 親子三代を見守ってきてるじゃん。
 その宿には長く住んでいてあまりに代わり映えしないので、ギルドに居座っているのだとか。

 僕としては、彼女が自宅を持っていないことが驚きなのだが……。
 まあ、普段あまり仕事してないしな。

 なので、本日の予定はいつも通り一人でやる。
 今日は何をするか?
 懐が暖かい今、僕は仕事などする必要がない。

 一週間はサボって骨休めして暮らすつもりだ。
 その一日目たる今日は……。

「ドロテアさんが言っていた、遺跡第一層のサトウキビ畑に行ってみるか!」

 思えば、巨大遺跡の上にあるアーランに住んでからもう十五年ほどになる。
 この世界にあるそこそこ大きな都市は、遺跡の真上にあることが多い。
 なぜなら、遺跡から採取される資材などなどが都市の発展を助けてくれるからだ。

 なので、そこには遺跡探索をするために冒険者たちが集まる。
 で、冒険者たちをまとめる人間が権力を得て、貴族になったりする。

 こうして都市が国になる。
 アーランはそういうタイプ。

 で、僕は長いことここにいるのに、遺跡には一回も入ったことが無いんだな。
 必要が無かったからねえ……。

 アーランの遺跡第一層から第三層までは掘り尽くされて、何も残っていない。
 それより下となると、一日や二日では到達できないわけだ。
 ソロ冒険者が行くような場所じゃない。

「だけど、せっかく金があるなら第一層観光をしてもいいな……。というわけで、思い立ったが吉日だ」

 僕は弁当の保存食を買い、第一層の入口に立っていた。
 たくさんの人が中に出入りしている。

 ここは、遺跡を利用した畑作地帯になっているらしい。
 遺跡の中が?
 不思議すぎる。

「おや、観光? あ、冒険者か。なんか依頼あった?」

 入口に立っていた検問の兵士とやり取りする。

「観光ですね。ここっていつくらいから観光できるようになったんですか?」

「ええとね、二十年くらい前だね。第一層の攻略が完了したのがその頃合いでな。で、十年前に第三層まで行って、それっきりだよ。第四層以降は本当に難攻不落らしい」

「へえ、そりゃあ大変だあ」

 つまりその二十年前ちょっとくらいに、ギルマスは第一層でドロテアさんを発見したわけだ。
 正確には三十年ちょい前だろう。
 で、リップルもそれと近い頃にアーランを襲ったエルダードラゴンを撃退している。

 三十年前のアーランは激動の時期だったんじゃないか。
 あの安楽椅子冒険者、その事を絶対に語らないからなあ。

 僕の目で、第一層を見て回るしかあるまい。
 すぐに許可が出た。
 入場料として、少しばかりお金を支払う。

 これが積もり積もって兵士たちのお給料になるらしい。

 ぷらぷらと遺跡第一層を歩く。
 天井は明るい。
 魔法の輝きが降り注ぐ、屋内のような感じ……と思って、天井を見て驚いた。

 上が吹き抜けのような見た目になっていて、太陽の輝きみたいなものが降り注いでいる。
 なんだこりゃあ。
 街の下に、もう一つの世界があったのだ。

「これは凄いなあ……」

 天井を見上げ、キョロキョロしながら、太いメイン通路を歩いていく。
 道はあちこちに枝分かれし、それぞれの内部が畑になっているようだ。
 覗いてみると、畑は上下二層に分かれていた。

 なんと、上層の畑の床がまた太陽になっている。
 なんだこりゃあ。

「こんにちはーちょっと聞いていいです?」

「ああ、観光客さん。どうぞどうぞ」

 農夫らしき人が、そう言いながら手でコインのカタチを作ってきた。
 お金を握らせる僕。
 金は人間関係の潤滑油ですからね。

 「これはね、アーランの偉い賢者様が調べたところによると、頭上にある太陽をこの遺跡は感知していて、それを幻にしてこっちに映し出してるらしいんだよ。で、そんなことをする魔力がどこから出てるかと言うと……。この中やアーランで生活してる人間から少しずつ吸い取っているんだと。はあー、上手く出来てるよな」

「なるほどなあ……!」

 そりゃあ、この中で畑作が盛んになるはずだ。
 この間、芋泥棒と戦った畑はここよりも古い由来の場所らしい。 
 だが、この遺跡が開拓されて以降、アーランの畑は全て遺跡第一層に展開されているとか。

「僕は不思議な場所に住んでいたんだな……」

 感心しながら、僕はサトウキビ畑を目指して歩みを進めるのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

勇者を庇って死ぬモブに転生したので、死亡フラグを回避する為に槍と魔術で最強になりました。新天地で領主として楽しく暮らしたい

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
現世での残業の最中に突然死。目が覚めたら俺は見覚えのある土手に居た……え? これ昨日やってた死にゲーの街にそっくりじゃね? 俺はどうやら【シャオン】というゲーム序盤のイベントで、主人公である勇者を守って死ぬモブキャラに転生してしまったようだ。 折角転生したのに死んでたまるか!モンスター溢れるこの世界では、人類はモンスターに蹂躙される食物連鎖の下位でしかないのだから…… 先ずは死亡フラグを叩き折り理想の異世界セカンドライフを送ってやる!と硬く決意するものの……えっ? シャオンて公爵家の次男? それも妾の子とか面倒ごとは勘弁してくれよ…… 少しづつゲームの流れとはズレていき……気が付けば腹違いの兄【イオン】の命令で、モンスターの支配領域の最前線都市アリテナで腹違いの妹【リソーナ】と共に辣腕を振い。あるときは領主として、またあるときは冒険者としてあらゆる手段を用いて、シャオンは日常を守るために藻掻いていく……

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~

榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。 彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。 それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。 その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。 そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。 ――それから100年。 遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。 そして彼はエデンへと帰還した。 「さあ、帰ろう」 だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。 それでも彼は満足していた。 何故なら、コーガス家を守れたからだ。 そう思っていたのだが…… 「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」 これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...