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7・ポテト・ウォー
第18話 アザービーストとエマルジョン
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ここで気付く。
モンスターは足跡がついていなかった。
これはどういうことだろう?
「ナザル、あれを見るんだ。モンスターは足で歩いているんじゃない。全身が液体のようなものでできていて、地面を流れて移動していたんだ。私が足跡を発見できなかったはずだ。いや、決して畑の雄大さに気を取られて足元をおろそかにしていたわけじゃないぞ」
「言い訳部分はともかくとして、なるほど! つまりあいつは……!」
さっきまで雲に隠れていたらしい月が顔を出す。
途端に、辺りが明るくなった。
姿を現したのは、ドロドロとした黒い液体が獣のような姿をしているモンスターだ。
「知らないモンスターだな。ということは……この辺りの存在じゃないだろう。自慢じゃないが、私はモンスターにも詳しいんだ」
液体でできたモンスターは、油の上をつるつると滑って戸惑いを隠せない様子だ。
なるほど、僕の能力が、バッチリあいつのメタだったってわけだ。
「おっ、お前らはなんだ!? 警備か!? 聞いていないぞ! こんな芋畑なんか、せいぜいカッパー級の冒険者しか守りに来ないはずだ! そんな連中に、元シルバー級の俺が負けるはずが……」
「つるつる滑りながら言っても説得力がないぞ。それに僕はカッパー級だが、怒れるカッパー級だ。犬が死んだんだからな」
「いっ、犬くらいがなんだ!? たかが畜生じゃないか! 俺はこのブラストに芋を食わせたかっただけだぞ! それなのにお前は、こんな理由の分からない攻撃を仕掛けてきて……! ブラスト、やっちまえ!」
『ぶおおおっ!!』
液体モンスターが叫ぶ。
そして一部がぐにゃりと膨らんだ。
月明かりがあるとよく見える……。
いや、これはどうやら、リップルが暗視の魔法を掛けてくれていたらしい。
地味にいい仕事をする人だ。
あとで山程、揚げた芋を食わせてやろう。
僕は油の玉を生み出した。
これを、モンスター目掛けて飛ばす。
個体の攻撃であれば、このモンスターを通過してしまうだろう。
だが、油ならば別だ。
膨らみながら攻撃してこようとしたモンスターが、油に包まれた。
『ぶぼぼぼぼぼぼっ』
液体モンスターが何か叫んでいる。
「ブ、ブラスト!! てめえ、何をしやがった!? ブラストの破裂攻撃ができなくなるなんて……! お、俺はまだ人を殺しちゃいないだろ! そんな本気で攻撃しなくていいだろ!」
「妙に怯えてるな……」
「そりゃあそうさ。ナザル、君の能力は知らない人間からすると完全に理解不能なんだ。知っていたとしても、絶対に一対一でやり合いたくなんかない。その気があればすぐにでもゴールド級以上に昇格できるだろうに……」
「いやいやいや、僕がこの立場が気に入っているんで。程よく侮られるしね。それに……カッパー級だからこいつに会えただろ。おい、犬が死んだ以上、そのモンスターを僕が倒しても文句は言えないんだよ」
「や、やめろーっ! ブラストは、ブラストはせっかく、教団から与えられたアザービーストで……!!」
「ほう!」
リップル、なんかその単語知ってるのか!?
いや、聞くのは後にしよう。
僕は彼らに近づきつつ、腰から武器を抜く。
なんの変哲もない、棒だ。
これをブラストという液体モンスター目掛けて突っ込み……。
『ぶぼぼぼぼぼぼ!!』
そこから油を流し込んだ。
『ぼばばばばば!』
油をブラストの中で高速で回転させる。
そうすると……一時的に液体と油が混ざり合う。
エマルジョンという状態だ。
液体でありながら生命体となっていたモンスターは、果たして油と混ざりあったエマルジョンでも生命を保てるのか?
声がなくなり、モンスターの動きが消えた。
油と液体が混ざりあったそれが、泡立ちながらどろりと地面に広がる。
「ぶ、ぶ、ブラストー!? て、てめえ! ぶっ殺してやる! 命までは取らないで置こうと思ったが、もうやめだ! 人のアザービーストを殺しやがって!!」
「油っ」
「ウグワーッ!?」
男は再び、すてーんと派手に転んだ。
打ちどころが悪かったようで、立ち上がれない。
僕は油を回収し、男を縛り上げた。
しばらくして、あちこちからランタンの明かりがやってくる。
農夫たちだ。
「やあ皆さん、捕まえましたよ。これが芋泥棒です。そしてここにある液体が、犬を殺したモンスター……だったものです。僕の油と混ざり合って死にましたけど」
油を回収して魔力に戻す。
残ったのは黒い水たまりだ。
「アザービーストと言っていたな。それは、暗黒神教団が呼び出す異世界のモンスターのことだ。より強大な存在、デーモンに繋がると言われている。災いを呼ぶ獣だ。そんなものがここにいるなんてなあ」
リップルがすっかり呆れている。
全くだ。
芋泥棒退治だと思ったら、なんだかとんでもないものの尻尾を掴んでしまったような。
暗黒神教団は、あちこちに信者がいる。
冒険者をやめて、そちらに下ったのがこの男なんだろう。
彼の処遇は、農夫たちに任せるものとする。
みんな、怒りに燃えている。
これは棒で叩かれるな。
任せた……!
僕とリップルは、これから別の用事があるのだ。
そう。
これから晴れて、フライドポテトを作るのである!
モンスターは足跡がついていなかった。
これはどういうことだろう?
「ナザル、あれを見るんだ。モンスターは足で歩いているんじゃない。全身が液体のようなものでできていて、地面を流れて移動していたんだ。私が足跡を発見できなかったはずだ。いや、決して畑の雄大さに気を取られて足元をおろそかにしていたわけじゃないぞ」
「言い訳部分はともかくとして、なるほど! つまりあいつは……!」
さっきまで雲に隠れていたらしい月が顔を出す。
途端に、辺りが明るくなった。
姿を現したのは、ドロドロとした黒い液体が獣のような姿をしているモンスターだ。
「知らないモンスターだな。ということは……この辺りの存在じゃないだろう。自慢じゃないが、私はモンスターにも詳しいんだ」
液体でできたモンスターは、油の上をつるつると滑って戸惑いを隠せない様子だ。
なるほど、僕の能力が、バッチリあいつのメタだったってわけだ。
「おっ、お前らはなんだ!? 警備か!? 聞いていないぞ! こんな芋畑なんか、せいぜいカッパー級の冒険者しか守りに来ないはずだ! そんな連中に、元シルバー級の俺が負けるはずが……」
「つるつる滑りながら言っても説得力がないぞ。それに僕はカッパー級だが、怒れるカッパー級だ。犬が死んだんだからな」
「いっ、犬くらいがなんだ!? たかが畜生じゃないか! 俺はこのブラストに芋を食わせたかっただけだぞ! それなのにお前は、こんな理由の分からない攻撃を仕掛けてきて……! ブラスト、やっちまえ!」
『ぶおおおっ!!』
液体モンスターが叫ぶ。
そして一部がぐにゃりと膨らんだ。
月明かりがあるとよく見える……。
いや、これはどうやら、リップルが暗視の魔法を掛けてくれていたらしい。
地味にいい仕事をする人だ。
あとで山程、揚げた芋を食わせてやろう。
僕は油の玉を生み出した。
これを、モンスター目掛けて飛ばす。
個体の攻撃であれば、このモンスターを通過してしまうだろう。
だが、油ならば別だ。
膨らみながら攻撃してこようとしたモンスターが、油に包まれた。
『ぶぼぼぼぼぼぼっ』
液体モンスターが何か叫んでいる。
「ブ、ブラスト!! てめえ、何をしやがった!? ブラストの破裂攻撃ができなくなるなんて……! お、俺はまだ人を殺しちゃいないだろ! そんな本気で攻撃しなくていいだろ!」
「妙に怯えてるな……」
「そりゃあそうさ。ナザル、君の能力は知らない人間からすると完全に理解不能なんだ。知っていたとしても、絶対に一対一でやり合いたくなんかない。その気があればすぐにでもゴールド級以上に昇格できるだろうに……」
「いやいやいや、僕がこの立場が気に入っているんで。程よく侮られるしね。それに……カッパー級だからこいつに会えただろ。おい、犬が死んだ以上、そのモンスターを僕が倒しても文句は言えないんだよ」
「や、やめろーっ! ブラストは、ブラストはせっかく、教団から与えられたアザービーストで……!!」
「ほう!」
リップル、なんかその単語知ってるのか!?
いや、聞くのは後にしよう。
僕は彼らに近づきつつ、腰から武器を抜く。
なんの変哲もない、棒だ。
これをブラストという液体モンスター目掛けて突っ込み……。
『ぶぼぼぼぼぼぼ!!』
そこから油を流し込んだ。
『ぼばばばばば!』
油をブラストの中で高速で回転させる。
そうすると……一時的に液体と油が混ざり合う。
エマルジョンという状態だ。
液体でありながら生命体となっていたモンスターは、果たして油と混ざりあったエマルジョンでも生命を保てるのか?
声がなくなり、モンスターの動きが消えた。
油と液体が混ざりあったそれが、泡立ちながらどろりと地面に広がる。
「ぶ、ぶ、ブラストー!? て、てめえ! ぶっ殺してやる! 命までは取らないで置こうと思ったが、もうやめだ! 人のアザービーストを殺しやがって!!」
「油っ」
「ウグワーッ!?」
男は再び、すてーんと派手に転んだ。
打ちどころが悪かったようで、立ち上がれない。
僕は油を回収し、男を縛り上げた。
しばらくして、あちこちからランタンの明かりがやってくる。
農夫たちだ。
「やあ皆さん、捕まえましたよ。これが芋泥棒です。そしてここにある液体が、犬を殺したモンスター……だったものです。僕の油と混ざり合って死にましたけど」
油を回収して魔力に戻す。
残ったのは黒い水たまりだ。
「アザービーストと言っていたな。それは、暗黒神教団が呼び出す異世界のモンスターのことだ。より強大な存在、デーモンに繋がると言われている。災いを呼ぶ獣だ。そんなものがここにいるなんてなあ」
リップルがすっかり呆れている。
全くだ。
芋泥棒退治だと思ったら、なんだかとんでもないものの尻尾を掴んでしまったような。
暗黒神教団は、あちこちに信者がいる。
冒険者をやめて、そちらに下ったのがこの男なんだろう。
彼の処遇は、農夫たちに任せるものとする。
みんな、怒りに燃えている。
これは棒で叩かれるな。
任せた……!
僕とリップルは、これから別の用事があるのだ。
そう。
これから晴れて、フライドポテトを作るのである!
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