俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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6・助っ人依頼

第14話 新鮮な仕事だ

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「あ、いたいた。ナザルさーん!」

「はいはい」

 いつもの安い食堂で、野菜スープに砂糖と油を添加して味を調整していた僕。
 そこに、三人組の冒険者が声を掛けてきたのだ。

 若い。
 階級はアイアン級。
 男が三人。

「実は俺たち、カッパー級への昇級が掛かってまして」

「おお、おめでとう!」

 アイアン級としてコツコツ仕事をこなしていくと、それがギルドカードに記録されていく。
 仕事の達成数が一定になると、信頼に値するとしてカッパー級への進級依頼を受けることが許されるのだ。

 で、この際には人数が少ないパーティは、一名助っ人を入れてもいい。
 この場合、ソロである俺が呼ばれる事が多いのだ。
 誰かとパーティを組んでいる冒険者だと、わざわざ手伝うために抜けてきてもらうのも心苦しかったりするのだろう。

 それに、僕はこう言う仕事を専門で受けているようなものだからね。

「先輩から、ナザルさんを紹介されたんです。仕事は密林地帯に引っ越してきたゴブリンどもの退治。どうやらゴブリンシャーマンが目撃されてるらしくて。でも、俺等は三人で、魔法使いもいないんで……」

「お願いします! 力を貸してください!」

「よし分かった。僕のこういう依頼手伝いの相場は知っているよね? 報酬の半額だ。君たちの取り分は少なくなるが……」

「命が大事っすから!」

「よろしい!」

 僕はこうして、新しい仕事を引き受けることになった。

 僕の雇い主となるのは、アイアン級パーティのマスダ村遊撃隊。
 同じ村の出身の若者三人なんだね。

 のっぽで戦士職のタロス、ずんぐりで戦士職のゴサック、小柄で盗賊職のヤースケ。
 本当に魔法を使えないパーティだ。

 魔法が無いということは、状況が悪化した際に逆転する方法が乏しいことになる。
 無理はできないこのメンバーで、よくぞここまでやってきたものだ……。

「いやあ、本当にきつかったっす」

 ヤースケが遠い目をする。

「ひたすら、ひたすらに自分たちにできるレベルの仕事をコツコツ、コツコツやってきたっす……! 背伸びした周りの連中が次々に脱落していって……先にカッパー級に上がる同期もいて、焦りはしたっすが、焦ったら死ぬぞとお互いに声を掛け合って……」

「苦労したんだなあ。じゃあ、今回のゴブリンはさっくりとやっつけてしまおう。カッパー級になれば、報酬で装備を更新できるだろう。そうなれば多少の無理ができるようになる」

 金は力だ。
 で、金は地位についてくる。
 ランクの低い魔法使いよりも、ちょっといい武器を持った戦士の方がはるかに強い。

 ということで、彼らがカッパー級になるかどうかは死活問題。
 若きカッパー級の誕生のため、力を貸そうじゃないか。

 僕はこうやって、冒険者業界の裾野を広げているのだ。
 宿に駆け戻り、素早く旅の準備をする。

「パン粉、よーし! 粉砂糖、よーし! カップ、よーし! 乾燥麺、よーし!」

 指差し点検をした後、僕はマスダ村遊撃隊と合流した。
 いざ、冒険へ。

「ナザルさん、なんか甘い香りがするんですけど」

「粉砂糖をどっさり仕入れていてね……。食事時は期待してくれていい」

「本当ですか!?」

「ナザルさんが料理をマスターしたって本当だったんだ」

「どこでも手軽に油物が食べられるらしいぞ」

「揚げ物作れるっすか!? すっげえ」

 純朴な若者三名にチヤホヤされながら、僕はいい気分で密林の入口にやって来た。
 すると、職人たちがわいわいと出てくる。

「おおナザル! いいところに来た! 実はな、ただ茹でるか焼くかだけして塩を掛けた肉にみんな飽きてきてな……」

「鹿がゴブリンに追い立てられてて、めちゃめちゃ捕れるんだ。だが、来る日も来る日も鹿肉……」

「いいだろう」

 僕は微笑んだ。
 野鳥の卵があるそうなので、これを割って卵黄を鹿肉によく塗る。
 パン粉をまぶし、そして大鍋に……。

「油よ!!」

 だーっと生まれる油!
 職人たちが大歓声をあげた。

 マスダ村遊撃隊の面々は状況が理解できないでいる。
 冒険者たるもの、密林に入り込む機会は多い。
 そうなれば、密林を我が家とする林業の職人たちにコネを作っておくことは大事なのだ。

「鹿肉の! フライを……! こうだ!! ヤーッ!!」

 僕が鹿肉を、熱された油の中に叩き込むと!
 職人たちが「うおおおおおお」と叫ぶ。
 森の中では脂っこいものを食べられないからね。

 それに、鹿肉は脂肪が少なめでヘルシーだ。
 ここで足りない油を、僕の油使いで足すわけである。

 僕は揚げた。
 ひたすらに鹿肉を揚げた。
 大量のフライが生まれ、これに職人たちが塩やハーブをぶっかける。
 味変で僕の砂糖を使ったり、横で湯を沸かして乾燥麺を戻し、付け合せにしたりする。

 そして鹿フライの完成である。
 これをみんなで食する。

 サクサクの衣を食い破ると、中からジューシーな鹿肉が出てくる。
 衣が脂っこくても、肉があっさりだからバランスがいい。
 それにこの肉、食べていると魔力回復に効くのが分かるぞ。

 マスダ村遊撃隊の面々も鹿フライを食い、なんだか感激していた。

「あ、揚げたてうめええええ」

「肉の旨味がたっぷり閉じ込められてて……!」

「なんつう旨さだあ……!」

 大好評のうちに、僕の油料理は終了した。
 すっかり機嫌が良くなった職人たちに、ゴブリンの情報などを尋ねる。

「ゴブリン! そう、ゴブリンだよ。鹿どもが普段いる森の奥にあいつらが住み着きやがった。俺等が木を斬っていても、粗末な弓で攻撃してくる。邪魔で邪魔で仕方ねえ!」

「見てくれこのやけど! ゴブリンに混じっていた魔法を使うやつがな、俺に向かって火の玉を飛ばしてきたんだ!」

「ナザルには美味いもの食わせてもらったからな、そこまで地図書いてやるよ」

「これ、虫除けと獣除けの香だ。虫と獣は寄り付かねえが、ゴブリンどもなら人間の得物を奪おうとしてこの匂いを目印に襲ってくる。使ってくれ」

 たくさんの情報と協力を得ることができた。
 遊撃隊の面々が目を丸くしている。

「情けは人の為ならず。いいかい? 現地に詳しい人々に親切にすることで、回り回って僕らの仕事が楽になるんだ。安全に、そして確実に仕事をするためのやり方を覚えていてくれ」

「は、はい!」

「すげえ……ただフライを揚げたかっただけじゃなかったんだな……」

「俺、ナザルさんが揚げ物欲に負けたかと思ってたっす! 自分を殴ってやりたいっす!」

 なんと気持ちのいい青年たちだろうか。
 彼らには口が裂けても、カッとなって揚げまくったら結果オーライになったなんて言えない。

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