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2・安楽椅子冒険者リップル
第4話 金欠ハーフエルフ
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「あっ、いいところに来たねナザル!!」
何か飯の種でも無いかとギルドを覗きに来たら……。
いつもギルドの隅でまったりしている彼女に声を掛けられたのだった。
青く反射する銀髪に、白い肌。
尖った耳が特徴的な美女。
一見すると幼くも見えるが、時折老成した表情も見せる彼女は……。
「安楽椅子冒険者リップル殿、また金欠ですか」
「そうなんだよ……何か仕事はないだろうかナザル! このままでは私は、今夜は酒ではなく水を飲むしかなくなる」
彼女は安楽椅子冒険者を自称しており、冒険に出ること無く事件を解決する……というのを目指しているらしい。
そんな事が可能なのか?
いつも金欠に喘ぎ、初心者冒険者がするような雑用をして糊口をしのいでいる彼女を見れば分かるだろう。
「僕も仕事を探しに来たんだけどね。リップルさんは一応プラチナ級冒険者なんだから、自分から動いて仕事をすべきなんじゃない? カッパー級の僕にたかるのは明らかにおかしい」
「そ、そんな事言わないでおくれよう……! 私はか弱いハーフエルフだぞ。いつもみたいに助けてくれ……。それに君は私の助手じゃないか」
「助手ではない」
そう!
僕はいつも、彼女にたかられているのだ。
おかしな人に気に入られてしまっている……。
「何か、このものぐさハーフエルフができそうな仕事あります?」
受付嬢に聞いたら、チャーミングな彼女はにっこり微笑んだ。
「プラチナ級冒険者の方が出るほどの仕事は無いのですが……。そもそも、プラチナ級って本来は一国の英雄クラスなので。それがどうしてずっとうちで管を巻いているのか不思議で不思議で」
「ないそうだ」
「そんなあ」
なんとも情けない声を出すプラチナ級冒険者だ。
彼女は安楽椅子に座ったまま冒険者をやろうとしているのだが、それは叶わないということだ。
僕が生まれた頃に、彼女は救国の冒険者パーティの一員であり、その凄まじい魔法の腕で数々の恐ろしいモンスターを退治したと言うが……。
あまりに情けない顔をするので、僕は依頼掲示板に貼ってあった一枚を剥がした。
今朝貼られたばかりのものらしいが、内容が冒険者らしからぬ規模の小ささなので今まで残っていたらしい。
「じゃあ、こいつでも一緒にやるかい? 迷子の猫探し」
「……仕方ない。やるかあ」
とても、彼女が凄い英雄だなどと信じられないのだった。
いや、そこが人徳なのかも知れないが。
「迷子の猫探しを冒険者ギルドに依頼するなんて、どれだけのお大尽なんだろうねえ?」
「その通り。どうやらこれはお貴族様の依頼だよ。なんでも特別な猫で、こういう下町は貴族の部下たちでは不慣れだから探せないだろうという話でさ」
「なるほどねえ……。毛並みは、白をベースとして茶色と焦げ茶。三毛猫だねえ。この依頼書に刻まれたメモリーをビジュアルにすると……魔素を霧、紙の記憶、反射する映像……ビジョン」
リップルは詠唱すると、何もないところに幻像を映し出して見せた。
なるほど、三毛猫だ。
映像の見事さに、ギルドの受付嬢も冒険者たちも、驚きの声をあげる。
だが、リップルはそんなものに構ってはいない。
周囲からの賛称よりも、懐の寒さはずっと切実な問題だからだ。
「さあ、さっさと探してお金を得よう。今日中。今日中に探すぞナザル。私はそもそも、椅子から立ち上がって歩き回れるようにできていないんだ」
「はあはあ、さようですか。ではプラチナ級冒険者の実力を今回も拝見しましょうっかね」
「何を言うんだナザル! 君も働くんだぞ! 猫が高いところにいたらどうする! 私では高いところに上がっても落っこちてお尻を打って痛めるだけだ! 見捨てるのか! このか弱いハーフエルフを!」
「いや、だって僕はカッパー級でしょ。それに頼る英雄様ってどうなんだ。……まあいいけど」
「ありがとう! いやあ、ナザルは優しいなあ」
僕の手を取って、にっこにこでぶんぶん振るリップル。
確かに、いつもギルドの中でまったりしているから、彼女はあちこちお肉がついていて動きが鈍そうだ。
機敏に動き回るであろう、猫を追いかけることはできまい。
「では、猫の動きを予測しながら行きますか。まずは聞き込みかな。幸い、僕は下町でも顔が広いので……」
「私だって広いぞ。老人ならみんな私の顔を知ってる」
「そういう話を聞くと、リップルはベテランなんだなーって思うね」
「私は君こそ、見た目通りの年齢じゃないように感じるよ。まるで、若者の体に老成した人間の魂が入っているみたいだ」
鋭い。
抜けているように見えて、このハーフエルフは卓越した推理力を持つ。
凄い人ではあるのだ。凄い人では。
市場に顔を出すと、若い衆は僕を見て挨拶してくる。
挨拶を返して、猫の行方について聞く。
そのあいだ、リップルは店番をしているお年寄りと談笑していた。
「へえ、大事にしていた櫛を無くしてしまったわけ? 記憶に残ってるのはいつ頃? いつもはどこに置いてる? あんたは老いぼれて外出なんかしないでしょ? 店番と寝床の行き来なら……。その髪だと3日は櫛を通して無くて、見つからない……。ひらめいた」
指を立てるリップル。
「もしかして、寝室から続く廊下はいい加減古びて、亀裂がないかい? ある? じゃあそこだ。後で探してみなよ。櫛は落っこちているから」
これを聞いて、お年寄りの身内がすぐに探したようだ。
見事、櫛を発見。
喜ぶお年寄りと、「いや、良かった良かった。じゃあね。長生きおしよ。私の知り合いが減っちゃうのは寂しいもんだからさ」そう言って離れていくリップルなのだった。
「報酬を要求しないところがリップルだな」
「友達に親切にしただけさ。そんなもんでお金を取るやつがどこにいるんだろ!」
ちょっとむくれるリップル。
お陰で彼女は金欠の日々を送っている。
実力は確かだが、金欠なプラチナ級冒険者氏。
彼女の夕食を豪華なものにするために、猫探しを続行するとしようじゃないか。
何か飯の種でも無いかとギルドを覗きに来たら……。
いつもギルドの隅でまったりしている彼女に声を掛けられたのだった。
青く反射する銀髪に、白い肌。
尖った耳が特徴的な美女。
一見すると幼くも見えるが、時折老成した表情も見せる彼女は……。
「安楽椅子冒険者リップル殿、また金欠ですか」
「そうなんだよ……何か仕事はないだろうかナザル! このままでは私は、今夜は酒ではなく水を飲むしかなくなる」
彼女は安楽椅子冒険者を自称しており、冒険に出ること無く事件を解決する……というのを目指しているらしい。
そんな事が可能なのか?
いつも金欠に喘ぎ、初心者冒険者がするような雑用をして糊口をしのいでいる彼女を見れば分かるだろう。
「僕も仕事を探しに来たんだけどね。リップルさんは一応プラチナ級冒険者なんだから、自分から動いて仕事をすべきなんじゃない? カッパー級の僕にたかるのは明らかにおかしい」
「そ、そんな事言わないでおくれよう……! 私はか弱いハーフエルフだぞ。いつもみたいに助けてくれ……。それに君は私の助手じゃないか」
「助手ではない」
そう!
僕はいつも、彼女にたかられているのだ。
おかしな人に気に入られてしまっている……。
「何か、このものぐさハーフエルフができそうな仕事あります?」
受付嬢に聞いたら、チャーミングな彼女はにっこり微笑んだ。
「プラチナ級冒険者の方が出るほどの仕事は無いのですが……。そもそも、プラチナ級って本来は一国の英雄クラスなので。それがどうしてずっとうちで管を巻いているのか不思議で不思議で」
「ないそうだ」
「そんなあ」
なんとも情けない声を出すプラチナ級冒険者だ。
彼女は安楽椅子に座ったまま冒険者をやろうとしているのだが、それは叶わないということだ。
僕が生まれた頃に、彼女は救国の冒険者パーティの一員であり、その凄まじい魔法の腕で数々の恐ろしいモンスターを退治したと言うが……。
あまりに情けない顔をするので、僕は依頼掲示板に貼ってあった一枚を剥がした。
今朝貼られたばかりのものらしいが、内容が冒険者らしからぬ規模の小ささなので今まで残っていたらしい。
「じゃあ、こいつでも一緒にやるかい? 迷子の猫探し」
「……仕方ない。やるかあ」
とても、彼女が凄い英雄だなどと信じられないのだった。
いや、そこが人徳なのかも知れないが。
「迷子の猫探しを冒険者ギルドに依頼するなんて、どれだけのお大尽なんだろうねえ?」
「その通り。どうやらこれはお貴族様の依頼だよ。なんでも特別な猫で、こういう下町は貴族の部下たちでは不慣れだから探せないだろうという話でさ」
「なるほどねえ……。毛並みは、白をベースとして茶色と焦げ茶。三毛猫だねえ。この依頼書に刻まれたメモリーをビジュアルにすると……魔素を霧、紙の記憶、反射する映像……ビジョン」
リップルは詠唱すると、何もないところに幻像を映し出して見せた。
なるほど、三毛猫だ。
映像の見事さに、ギルドの受付嬢も冒険者たちも、驚きの声をあげる。
だが、リップルはそんなものに構ってはいない。
周囲からの賛称よりも、懐の寒さはずっと切実な問題だからだ。
「さあ、さっさと探してお金を得よう。今日中。今日中に探すぞナザル。私はそもそも、椅子から立ち上がって歩き回れるようにできていないんだ」
「はあはあ、さようですか。ではプラチナ級冒険者の実力を今回も拝見しましょうっかね」
「何を言うんだナザル! 君も働くんだぞ! 猫が高いところにいたらどうする! 私では高いところに上がっても落っこちてお尻を打って痛めるだけだ! 見捨てるのか! このか弱いハーフエルフを!」
「いや、だって僕はカッパー級でしょ。それに頼る英雄様ってどうなんだ。……まあいいけど」
「ありがとう! いやあ、ナザルは優しいなあ」
僕の手を取って、にっこにこでぶんぶん振るリップル。
確かに、いつもギルドの中でまったりしているから、彼女はあちこちお肉がついていて動きが鈍そうだ。
機敏に動き回るであろう、猫を追いかけることはできまい。
「では、猫の動きを予測しながら行きますか。まずは聞き込みかな。幸い、僕は下町でも顔が広いので……」
「私だって広いぞ。老人ならみんな私の顔を知ってる」
「そういう話を聞くと、リップルはベテランなんだなーって思うね」
「私は君こそ、見た目通りの年齢じゃないように感じるよ。まるで、若者の体に老成した人間の魂が入っているみたいだ」
鋭い。
抜けているように見えて、このハーフエルフは卓越した推理力を持つ。
凄い人ではあるのだ。凄い人では。
市場に顔を出すと、若い衆は僕を見て挨拶してくる。
挨拶を返して、猫の行方について聞く。
そのあいだ、リップルは店番をしているお年寄りと談笑していた。
「へえ、大事にしていた櫛を無くしてしまったわけ? 記憶に残ってるのはいつ頃? いつもはどこに置いてる? あんたは老いぼれて外出なんかしないでしょ? 店番と寝床の行き来なら……。その髪だと3日は櫛を通して無くて、見つからない……。ひらめいた」
指を立てるリップル。
「もしかして、寝室から続く廊下はいい加減古びて、亀裂がないかい? ある? じゃあそこだ。後で探してみなよ。櫛は落っこちているから」
これを聞いて、お年寄りの身内がすぐに探したようだ。
見事、櫛を発見。
喜ぶお年寄りと、「いや、良かった良かった。じゃあね。長生きおしよ。私の知り合いが減っちゃうのは寂しいもんだからさ」そう言って離れていくリップルなのだった。
「報酬を要求しないところがリップルだな」
「友達に親切にしただけさ。そんなもんでお金を取るやつがどこにいるんだろ!」
ちょっとむくれるリップル。
お陰で彼女は金欠の日々を送っている。
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