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終末の王編

第157話 おかわり禁止からの初代皇帝

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「こ……この国はおかわり禁止なんですか!? そんなあー!!」

 ルミイがこの世の絶望を全て味わったみたいな声をあげた。
 俺が聞いた彼女の声の中で、一番悲痛だったな。

 盛りを多くしてはもらえるが、基本的におかわりできないのだそうだ。
 量が決まってるんだと。

 それに、味も塩と香辛料で決まっており、二回目ともなると徐々に飽きてくる……。

「そうかい? マナビは舌が肥えてるんだねえ」

「ナルカは平気なタイプなのか?」

「そうだね。セブンセンスで戦っている時は、食事なんか簡素なもんだったよ。味付けは塩だけだし、魚と麦と果物が食事のほとんどだったからね」

「はー」

「ほえー」

 俺とルミイが驚いていると、アカネルが補足してきた。

「おおよその国では、食事はその土地で採れるものだけですから。オクタゴンのいるイースマスやスリッピー帝国が異常なんです。当機能はマスターの感覚に準拠しますからそこまで気になりませんでしたが、ナルカはかなり驚いたのではないでしょうか」

「驚いたよ。世界中にこんなに美味しいものがあるのかと思ったね。特に、イースマスの食事はあれはやめられなくなりそうだねえ……。あたいも太りそうだった」

 ちょっと太ったナルカもいいかもしれないな……。
 なお、カオルンはお決まりの料理でも気にせず、パクパク食べていた。

「ちょっと多かったのだ。ルミイ食べるのだ?」

「いいんですか! いただきますよー!!」

 おお、二人の間で幸せな交渉が行われている……。
 こうして食事を終えた後、香りの強いお茶を淹れてもらっていると……。

「皇帝の準備が整いました。案内します」

 俺たちを連れに、豪華な格好をした女が現れた。
 白い頭巾みたいなので頭を覆い、首から下はやっぱり白いローブに、青い大きな前掛けがされている。
 もう顔しか出てない。

 フォーホース帝国の偉い人らしい。
 俺たちは、皇帝に会わせてもらうことになったのだが、準備時間が欲しいというので飯を食いながら待っていたのだ。

 向かうのは馬車である。
 よく見たら、馬は機械の馬だった。

「生きてる馬はいない?」

「遥か昔に、フォーホース帝国の馬は絶滅しました。今は、機械の馬を作る技術のみが伝えられていますので、これを用いています」

 ちなみにラバーは機械の馬が好きらしく、隣とパカポコ歩きながら、鼻先でつんつん突いたりしている。
 機械の馬も、歩くだけの単純機能の存在では無いらしい。
 ラバーに突かれると反応して、彼の方を向く。

 アンデッドホースと機械の馬で何やらお喋りしているように見えるな。

「どうなのアカネル」

「はい。機械ではありますが、魔導石の魔力で動いている関係か、単純な自意識みたいなものがあるようです。機械の馬もラバーを認識していますよ。仲間だと思っています」

「そうか! ラバー良かったな、また友達ができたぞ」

「ぶるるー」

 ラバーが嬉しそうである。
 機械でない馬と、外から来た人間が珍しいらしく、街路には人が集まっていた。
 みんなわいわい言いながら俺たちを見ている。

 あれだな、偉い人が一緒なら、「ぎえー」と言って逃げなくていいわけだ。
 彼女の存在が、俺たちがまあまあ安全だと証明してくれているのだな。

 ところで、馬車は石畳の上をガタガタ言いながら走っており、道の具合はあまり良くない。
 荒れているのかと思ったが、ちゃんと石畳は整備されている。
 これは、あれだ。手作業で石畳作ってるんだ。

 で、ムラがある。
 だからガタガタする。

 街路から見える家並みは、どれも石造りで素朴なものである。
 この世界に来てから、一番ファンタジーしてる光景かも知れない。

「ここはファンタジー世界だったんだな……」

「マスターは今更何を言っているんですか」

「だってさ。ヒャッハーな世界に降り立って、そこから学生運動で魔法サイバーパンク、それからホラーもの世界だろ? かと思ったら蛮族バンザイで、宗教バトルでワイルダネスアドベンチャーだ。ほら! ファンタジーっぽい場所が明らかに少ないんだよ」

「国ごとに特色が強いと言えばそれまでですが、言われてみれば確かに……」

 俺の言葉に頷けるのはアカネルしかいないな。
 ルミイとカオルンとナルカが首を傾げる。
 地元民には分かるまい。

 だが、俺が睨むところ、世界はファンタジーで統一されていくはずだ。
 魔力の星が落ち、世界に満ちていた魔力が消えた今、一般的な魔法使いは存在できないし魔法文明も維持できない。

 世界中がこういう、石造りの素朴な町並みになっていくことだろう。

「この国に入ってからマナビが大人しいのだ」

「カオルン、何を俺がいつも暴れてるみたいなことを言ってるのだ。俺は、その必要がないところでは静かなんだぞ」

「じゃあずーっと今までうるさくしてる必要があったのだなー」

「言われてみるとそうだな」

 そんな話をしていたら、城に到着した。
 これまた、ファンタジーっぽい城である。

 そして、奥に通されたら皇帝がいた。
 守護のために騎士たちもいる。

 みんな、なんというか格好は立派なのだが、それ着て本当に動ける? みたいな豪華でゴテゴテ飾り立てた姿だ。
 こいつら、儀礼で役職と衣装を持っているだけで、実際にそれを振るったことは無いんじゃないだろうか?

 謁見の間はやっぱりイメージ通りのファンタジーだった。
 一箇所だけイメージと違うのは、皇帝の頭上に巨大な鏡があることだった。
 そこだけ、魔導機械とでも言うような作りをしている。

「そなたが異世界から来たという者、マナビか」

「そうだ」

 俺が跪いたりしないので、その場にいた連中がどよめいた。

「あれっ跪かないぞ」「こういうのは普通跪いて敬語使うんじゃなかったっけ」「おかしいな、こういうのは教えてもらってないぞ」

 マニュアル人間たちだ……!!
 そうか、規範に従って生きてて、規範以外の生き方を知らんのだなこれ。
 皇帝もフリーズしてるじゃないか。

 多分これ、面をあげよ、みたいなセリフがこの後続く儀礼なんだな。
 仕方ないなあ……。

 俺は跪いてあげた。
 会場の空気があからさまにホッとしたものになる。

「面をあげよ」

 ほらあ。
 俺が顔を上げたら、皇帝はつらつらとそれっぽいセリフを喋った。
 内容がないぞ。

 これ、なんなんだ?
 皇帝がこの国の実権を握ってるんじゃないのか?
 誰がフォーホース帝国を動かしてるんだ?

 こんな、自分の頭で何も考えていない連中がいるのが、正体不明の国なのか?
 俺の頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

 するとだ。

 皇帝の頭上にある、魔導機械の鏡がブゥンと音を立てた。
 あれ、鏡じゃない。
 ディスプレイだ。

 そこに映し出されるのは、一人の男の姿だ。
 豪華な格好などしておらず、ソファに腰掛けた年齢のよく分からない男。

『これは僥倖。よくぞやって来た、イレギュラーよ』

 彼の出現に、謁見の間がざわめく。

「しょ……初代様……!!」「初代皇帝様……!!」

 皇帝までもが玉座から降りて跪いた。
 あ、これはマニュアルにあったのね。

 ディスプレイの中の男は、そんな彼らに目もくれず、俺だけに語りかける。

『いつかお前のような者が現れることを期待し、私はここに意識を残した。聞くがいい。魔力の星が落ちた時、魔導王が戻ってくる。あの男を止めねば、パルメディアは終わりだ』
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