上 下
139 / 196
フィフスエレ帝国跡編

第139話 託されと歓迎と時は来た

しおりを挟む
 ドミニク司祭と積もる話をした。
 具体的にはこうである。

「私たち、ルサルカの高位司祭は自ら上位アンデッドとなります。こうして、長くルサルカのために祈りを捧げ、信者たちを導くのです」

「ふんふん。信仰心のあらわれ的な?」

「そのようなものです。定命であっては果たせぬ役割を果たす意味もありますし、アンデッドとともにある以上、彼らアンデッドが持っていた過去や物語を生きる者たちに伝える事もまた、重要な役割なのです」

「なるほどなあ……。語り部ってわけだ。じゃあ、ナルカもアンデッドになりたがってたりするのか」

 俺の問いに、ドミニクがちょっと目を見開いた。

「驚いた。ご明察です。あの娘もまた、私の跡を継ぐつもりでいました。他の教団との争いが続くならば、私の身も長くは持ちますまい。ですが、ルサルカから魔眼を賜ったナルカが高位アンデッドとなれば……。私もそんな希望を懐いてしまったことはあります」

「はあはあ。だけど、争いがサクッと終わってしまったと」

「ええ。あなたが終えてくださった。本当にありがたい。それどころか、我ら教団に安住の地を用意してくださるとの申し出。本当にありがたいことです」

「どういたしましてだ。こちらも得たものが色々あったからな。で、ナルカに関することとは?」

 ドミニク司祭が頷いた。

「もはや、ナルカが私の後を継ぐ意味はありません。アンデッドたちの物語を継いでいくのは、定命の信者たちでも務まるでしょう。マナビさん。あなたには、彼女に人間としての生き方を与えてやって欲しいのです」

「よしきた。任せろ!」

「判断が早い! よろしくお願いします!」

 ガシッとドミニク司祭と握手を交わすのだった。

 水浴びしている女子たちは、俺が彼女たちを見もせずに司祭とずーっと喋っているのでおかしいと思ったらしい。

「マナビさん、もしや股の間のものが不調なんですか!?」

「うおーっ!! 眼前にすっごく大きいのが二つと凄いボリュームの丸いお尻が!!」

 俺は元気になったぞ!!

「良かった! いつものマナビさんですね!」

 ルミイはパンツの下から元気に主張する愚息を、指でピンと弾いてじゃぶじゃぶ去っていった。

「ウグワーッ!」

 なんというコミュニケーションをするのか。

「カオルンもやるのだ!」

「当機能も!」

「な、なんだってー!!」

 俺は慌てて逃げた。
 これは女子たちの裸をムホムホ言いながら見ている状況ではない。
 愚息が危ない。

 横を、ドミニク司祭が愉快そうに笑いながら並走するのだ。

「マナビさんは実に楽しそうに生きています。この楽しさを、ナルカにも教えてあげて下さい。この頼みが、私が親としてしてやれる最後のことですから」

「そうかー。で、なんで俺?」

「死の魔眼を宿した女とともに歩けるような、胆力ある男がこの世界にどれほどいると思っていますか?」

「いないね……」

 大変納得してしまった。
 ということで、ナルカを保護者から託された俺なのである。


 翌日。
 サクサクと荷馬車は進み、途中で魔獣と魔族の戦いを横目で眺めたりしつつ旅を続けることになった。
 シクスゼクスからすると、暴走したフィフスエレの魔獣を相手取るので手一杯らしい。

 セブンセンスに放っていた間者も全滅させられ、凍土の王国側ではバーバリアンの分隊が攻撃を仕掛けているとか。
 悪の枢軸っぽい雰囲気を漂わせていたシクスゼクス、もうボロボロじゃん。

 魔力の星も落ちたから、やっぱりこの国も弱体化しているらしいし。

「もう陰謀を巡らせる余裕も無いんじゃないか、この国」

 争いを傍観しながら呟いたら、後ろにいたアカネルが補足してくれた。

「なんだかんだで、小競り合いくらいしかない魔法文明時代は停滞していたんでしょう。だから国力に余裕があって、悪巧みをすることができたわけですよ」

「シクスゼクスも平和ボケだったか」

 そういうことらしい。
 魔獣と戦う魔族たちの様子に、全く余裕はない。

 これは、国家を維持していられないのではないか。
 そのうちバラバラになって、種族ごとの集落になってしまうかもしれない。

 無常を感じつつ、駆け抜ける俺たちなのだった。
 なお、手出ししてきた魔獣は蹴散らしたぞ。

 俺とカオルンとナルカが揃っていると、普通の魔獣なら全く相手にならないのだった。

 そしてついに──。

 見えてきました、懐かしきイースマス!
 1900年代初頭の街並み!
 そこにやたらとアメリカンファストフードショップがある。

 アビサルワンズがうわーっと飛び出してきて、星条旗を振って歓迎してくれた。
 なんで星条旗なの……?
 あ、オクタゴンがアメリカ人だから?

 ルサルカ教団の人々は、この歓迎に感激である。
 セブンセンスでは鼻つまみ者だったのに、そんな自分たちを諸手を挙げて大歓迎してくれる場所があったのだから。

 まあ、ここの連中も邪神の眷属なんで、世界から見ると鼻つまみ者なんだよな。

 そんな宗教国家の鼻つまみ者と、魔族国家の鼻つまみ者が、世界の果てで……出会ったあ。

 運命的邂逅だったかも知れん。
 ルサルカ神は、もう既にオクタゴンの神殿にいるらしい。

「オクタゴン様は昨日、女神を連れて一緒にタコスを食べておられました」

 バーガーショップ店員のアビサルワンズに、うちの相棒のデート模様などを聞かされるのだ。
 順調に恋愛が進んでいるか、オクタゴンよ。
 今こそ攻め切るときだぞ……!

 そう思っていたら、ポンポン、と肩を叩かれた。
 振り返ると。

「げえっ、アカネル!」

「何が、げえっ!ですかあ! マスター、分かってますね! 今夜決めますよ! 不束者ですが末永くお願いしますマスター!!」

 そ、そうだったーっ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

外れスキル「両替」が使えないとスラムに追い出された俺が、異世界召喚少女とボーイミーツガールして世界を広げながら強くなる話

あけちともあき
ファンタジー
「あたしの能力は運命の女。関わった者に世界を変えられる運命と宿命を授けるの」 能力者養成孤児院から、両替スキルはダメだと追い出され、スラム暮らしをする少年ウーサー。 冴えない彼の元に、異世界召喚された少女ミスティが現れる。 彼女は追っ手に追われており、彼女を助けたウーサーはミスティと行動をともにすることになる。 ミスティを巡って巻き起こる騒動、事件、戦争。 彼女は深く関わった人間に、世界の運命を変えるほどの力を与えると言われている能力者だったのだ。 それはそれとして、ウーサーとミスティの楽しい日常。 近づく心の距離と、スラムでは知れなかった世の中の姿と仕組み。 楽しい毎日の中、ミスティの助けを受けて成長を始めるウーサーの両替スキル。 やがて超絶強くなるが、今はミスティを守りながら、日々を楽しく過ごすことが最も大事なのだ。 いつか、運命も宿命もぶっ飛ばせるようになる。 そういう前向きな物語。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...