召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
106 / 196
セブンセンス法国編

第106話 小競り合い・遭遇・思い出し

しおりを挟む
 白色と紫色の軍勢が争っている。

 白い軍勢は輝く武器を振るい、閃光が放たれ、衝撃波が敵を穿つ。
 中心にいるのは、白銀の鎧を纏った少女だ。

 紫色の軍勢は、その大半が人間ではないアンデッドたち。
 周囲を闇に染め、黒い武器が、爪が振り回され、目に見えるほど濃厚な呪いが敵を蝕む。
 中心にいるのは、暗紫色のローブを纏った大柄な女だ。

「戦争じゃないですか」

 遠巻きにこれを眺める俺がポツリと呟いたら、意外なことにカオルンから修正が来た。

「それは違うのだマナビ! これはどっちも神を信じる奴らなのだ! 同胞なのだ! だけど主義主張の違いで昔からいさかいがあったのだ!」

「カオルンが知的なことを……! そうか、もともと密偵だったもんな。セブンセンスには来たことがある?」

「もちろんなのだー。全部の国を回ったのだ! セブンセンスは帝国というより法国と呼ばれてて、法皇が治めてるのだ! その法皇は、色々な神様を信じる宗派の中から代表が出てきて、腕比べをして決めるのだ」

「法皇決定戦トーナメントがあるのか……。なかなか武力の国だった」

 眼の前で展開されている光景も納得できるだろう。
 血みどろでめちゃくちゃハードなバトルだ。

 首が、腕が、ポンポン飛ぶ。
 ガンガン死ぬ。
 死んだ端から、比較的軽傷なのは生き返って戦列に戻ってくる。

 アンデッドはもっと分かりやすく、壊されてもつなぎ合わされて新しいアンデッドになって戻る。
 で、誰かが死ぬ度に白銀の鎧の少女は悲しそうな顔をして、誰かが復活する度にローブの女は怒りの叫びを上げている。

「どういうこと?」

「戒律の違いなのだなー。内容はアカネルが詳しいのだ!」

「はいはい。当機能がプレゼンしますよ。ヘルプ機能には接続済みです」

 話が早い。
 あまりの話の流れの速度に、ガガンがついていけずにポカーンとしている。

「白い軍勢は光輝神アクシスの信者です。今、セブンセンスを統治する法皇もまたアクシスの最高司祭ですね」

「可愛い……」

 ガガンが呟いた。
 なんだお前、話の流れに置いていかれてポカーンとしてると思ったら、白い鎧の女の子見てポカーンとしてたのか。
 なるほど、アクシス教の白い女の子、かなり可愛いな。憂いのある感じの表情が凄くいい。

「マスターこっちです!! 他の女性を見てデレデレしてはいけません!」

「マナビさんが他の女の子見てデレデレしてたんですか!? だめですねー!」

「ウグワーッ!! 後ろから俺の両方のケツをつねるなー!! あひー、愛が重いぜ」

 アカネルとルミイから嫉妬攻撃を受けてしまった。
 他の女子には色目を使わんようにしよう……。

「それで、あの紫色の軍勢は死海神ルサルカの信者です。海と死を司る神で、復活の神聖魔法などを使うことは、生命の円環を乱すとして大変嫌っています」

「明らかに悪い奴らっぽいと思ってたら、凄くちゃんとした理由と教義があるんじゃん。なるほど、アンデッドなら死んでるから使っても大丈夫だもんな」

「ルサルカ信者は死ぬ時に、アンデッドとして奉仕する契約をする者がいて、そういう人だけアンデッドになります」

「凄くちゃんとしてた」

『いいねいいね』

 ペンダントからオクタゴンの声がする。
 ステディの予感がしたんだな。
 いきなりそれっぽいのに出会えるとか、幸先いいじゃないか。

 問題は、この戦闘をどうするかだが。

「んー、敵がはっきりしないのだ。カオルン、どっちを倒せばいいのだ?」

「どっちにも大義があるだろ、これ。どっちを倒しても恨みを買うから、静観してた方がいいな」

 俺の意見に、カオルンが不承不承頷いた。

「仕方ないのだ。スッキリ戦えないのは後がめんどくさいのだ! カオルン、後でガガンが手合わせしてくれるそうなので我慢するのを覚えたのだ!」

 おお!
 ウォーモンガー(戦闘狂)っぽいカオルンに自制心が!
 ガガンのおかげだ。

「オレとしても、訓練になるからな! 後で頼むぜカオルン!」

「任せるのだ!」

 ウィンウィンである。
 ということで、戦闘が終わるまでのんびり待つことにした。
 戦場の外にテントを張り、戦いをジーッと眺める。

 暇になったカオルンとガガンが、早速試合を開始した。
 カオルンは光の翼を封印しており、ガガンはトリッキーな相手への対策を練ってきていて、なかなかいい勝負をする。
 これは見てて楽しい。

 さて、時間は夕暮れ。
 逢魔が時とも言われており、その名の通りか、ルサルカの軍勢が力を増したようだ。
 攻勢が明らかに激しくなる。

 これを、アクシスの軍勢は揃って光のバリアみたいなのを張った。
 おうおう、日が暮れていくにつれて、バリアが押し負けていく。

 どんどんルサルカ側の力が強くなってるのだ。
 おっ、新戦力が加わった。

「レッサーヴァンパイアです。ルサルカ教団最強の戦力ですね。生きながらにしてルサルカの司る死の力を身に纏った高位の司祭です。ただし日光に照らされると灰になって死にます」

「ハイリスクハイリターン過ぎる」

 レッサーヴァンパイアの参戦で、戦況は決した。
 アクシス教団はバリアを次々張りながら、じりじりと押し込まれ、やがて潰走したのである。

 ルサルカ教団、これを追わない。
 よく見たら、一般兵であるアンデッドの多くが倒されているではないか。
 戦力的にギリギリでもあったんだな。

「よし、じゃあルサルカ教団に挨拶に行こう」

「えっ、マナビさん正気ですか! 明らかに怖そうな人たちじゃないですか! っていうか人がちょっぴりしかいません!!」

「戦場に人間をあんまり出してこないんだろうな。つまり命を大切にしている神様ということだ。行くぞ行くぞルミイ」

「あひー」

 嫌がるルミイの手を引っ張って、戦場へ歩いて行く。

「やあーやあールサルカ教団の諸君! 俺は凍土の王国からやって来た異世界召喚者で決して敵ではないのだが話がある!!」

 大きく手を振り、声を放つと、紫ローブの女とレッサーヴァンパイアがぎょっとしてこっちを見た。
 レッサーヴァンパイアは男だな。
 青白い顔に司祭の服を纏っている。真面目そうな顔をしているではないか。

 紫ローブの女は、俺より背が高いだろう。
 片目が赤く光っていたが、すぐにそちらに眼帯を付けた。
 赤毛を短く切りそろえていて、勝ち気な目つきと相まって、気の強そうな顔立ちだ。唇がぷくっとしていてなかなかえっちな顔をしている。

「マナビさんはどこからでもエッチを見出しますもんねえ」

「やめろルミイ、俺の心を読むな」

 下心丸出しだと思われたら警戒されちゃうだろ。

「なんだい、あんた」

「あっ、はすっぱな口調!! いい」

 キュンキュン来るな。
 俺はストライクゾーンがなかなか広いので、こういう姉御肌系女子もぜんぜんいけるのだ。

「な、なんだいあんた!?」

「ほらあ、マナビさんが口に出すから引かれましたよ!」

「ごめんごめん。あのな、アクシス教団と争ってるみたいだが、今の世の中はそういう内輪もめをしているどころでは無いと思ってやって来た。魔力の星が落ちたでしょ。普通の魔法が使えなくなったでしょ。そんな状況で内側でワイワイやってたら、フィフスエレの魔獣とかシクスゼクスの魔族にやられない?」

『確かに』

 レッサーヴァンパイアが頷いた。

『ナルカ、この方々は敵では無いようだ。話を聞いてみた方が良いのではないか?』

 なんて話の分かるレッサーヴァンパイアだ!

『それに、彼らもまた神を奉じる者たち。無信教な魔法帝国の連中とは違う』

 指差すのは、俺の首から下がったペンダントである。
 あー。
 これって、オクタゴンの聖印に当たるのか。

 助かっちゃったな。

「別にいいけどね。あたいはまた、あの聖女を取り逃がしたのが腹立たしいのさ。外国の男にかまけて、役割を果たせなくなったダメ女じゃないかい」

 ナルカと呼ばれた赤毛のお姉さんが、吐き捨てるように言った。
 外国の男に……?
 聖女の役割を果たせなくなった……?

 なんか色々覚えがありますねえ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

「スキル:くさい息で敵ごと全滅するところだった!」と追放された俺は理解ある女騎士と出会って真の力に覚醒する~ラーニング能力で楽々冒険ライフ~

あけちともあき
ファンタジー
初級冒険者ドルマには特技があった。 それは、巻き込まれたもの全てを昏倒させるくっさいくっさい息、バッドステータスブレス。 かつてモンスターにやられた時に身に着けたこれが、彼の唯一にして最大の技だった。 彼はともに村を出た仲間たちとともに冒険者となり、依頼でピンチに陥る。 そこで放たれたバッドステータスブレスは、凄まじい威力を発揮する。 モンスターは全滅! 仲間も全滅! ということで、どうにか生きていた仲間たちから、くさい息は追放ですわーっ!!と追放されてしまう。 失意のドルマは、大騎士を目指す風変わりな少女エリカと出会う。 騎士は強いのでくさい息も我慢できると、エリカはドルマを仲間にする。 新の仲間を得たドルマは、数々の冒険の中、己の力を自覚した。 それは受けた敵の技をラーニングする、伝説の職業青魔道士。 敵が強ければ強いほどドルマも強くなる。 どんな危機でも、エリカの笑顔があれば頑張れる。 今ここに幕開く、ドルマの充実冒険ライフ! ……は、傍からは新たなる英雄の道行にしか見えなかったりするのだ。

処理中です...