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凍土の王国編

第96話 危機感から両方やらなくちゃいけないへ

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 決闘により、俺は凍土の王国で一定の信頼を勝ち取ることができた。
 ルミイの兄二人とか、ママのルリファレラとか、決闘相手だったガガンとか。

 若い戦士たちは、まだ俺が魔法を使ってたんじゃないか、とか疑っているようだ。

 今現在滞在しているのは、俺にあてがわれたログハウスみたいな家である。
 凍土の王国は昼はまあ寒いが、夜は死ぬほど寒い。
 だが、このログハウスみたいなのは構造材の内部に断熱機能があるらしく、夜も快適だ。

 ここに俺は、カオルンとアカネルと三人でいる。
 そう!
 ルミイはいない!

 彼女は凍土の王国のお姫様だからである。

「なんということだ。俺はルミイを勝ち取ったのではないのか」

「なのだなー。もっとたくさん試練とかあるかもしれないのだな! カオルンが挑んでもいいのだ! 腕が鳴るのだー」

「カオルンはルミイと結婚するんですか?」

「しないのだ! カオルンはそういうの興味ないのだ! だけど、なんかカオルン、外を歩いてると結婚してくれーってたくさん言われるのだー。不思議なのだー」

「なんだって」

 俺は驚愕で飛び上がった。
 カオルンに求婚する男たちがたくさんいる!?
 それは一大事ではないか。

 俺は欲張りなので、カオルンやアカネルがNTRされたら憤死してしまうぞ。
 脳が破壊される~。

「くそっ、こいつはカオルンを守るために早めに俺がカオルンと結婚するしか無いな」

「マスター落ち着いて下さい! それと当機能のことを考えたようですが、当機能は残念ながらあまりモテておりません」

「あまり……?」

「ちょっとナヨナヨっとしたバーバリアンの男性が求婚をしてきました」

「な、なんだってー!! なんて恐ろしい国だ、凍土の王国! 俺から何もかも奪おうというのか」

 俺は天を仰いだ。

「これは二人とさっさとくっついておいた方がいいのだろうな……」

「マスターが大変な危機感を……!」

「スリッピー帝国でもこうだったのだなー。カオルンにはさっぱりなのだ」

 そんな話をワイワイしつつ、ウェルカムドリンクである果実を絞ったものと、ドライフルーツや干し肉などを摘んでいるのである。
 すると、扉がノックされた。

 どうぞ、と言う間もなく開く。
 こういうことをして許されるのは、この国では数人しかいない。

「こんにちはお婿さん。お邪魔だったかしら?」

「ルリファレラ……いやお義母さん」

 ハイエルフの優れた戦士にして、ルミイのママのルリファレラである。
 見た目は超若いので、二十代後半くらいに見える。

 エルフは老化が遅く、三百年くらいの寿命の中で五年が人間の一年くらいなんだと。
 しかも、外見的な老化は三十歳くらいの見た目で止まる。

 ルリファレラは今、多分百四十歳くらいではなかろうか。

「あらまあ、お義母さんだなんて! もっと呼んでもいいのよ? 私、孫がほしいのよね。だけど、まだ子どもたちの誰も結婚してなくって」

「そうだったの」

「息子たちはバーバリアンの女子にはときめかないし、エルフの女子もなんだか違うんですって。エリイは大恋愛するわーってフィフスエレ帝国に単身忍び込んでるし」

 エリイというのがルミイの姉らしい。
 恋愛のために命を賭す辺り、バーバリアンの魂を感じる。

「だから、一番有望なのはあなたなのよマナビさん! 早くルミイと結婚して子供を作って! 私、孫を抱っこしたいの!」

「お任せ下さい!! あと一年以内に絶対にやります!!」

 俺はフンフンと鼻息を荒くした。
 だが、最大の障壁が立ちはだかっている。
 バーバリアン王バルク、つまりルミイパパである。

 末娘であるルミイをめちゃくちゃかわいがっているしなあ……。

「彼ったらルミイ大好きだものね。今も宮殿で二人でご飯食べてるわ。ルミイが欲しがる食べ物はなんでもあげちゃうのよね」

「ルミイがエルフの遺伝子を継いでなかったら太ってしまう生活だな」

 恐ろしい恐ろしい。

「で、ルミイを俺は娶りたいのだが、そうするとバルク氏を倒すしか無い?」

「そうなるわね。彼は強いわよ。この間、あなたが倒したガガンくんのざっと百倍くらい強いわ。闘気を使う人間の中では最強じゃないかしら」

「そんなに」

 ガガンの百倍は確かにゾッとしないな。
 ヘカトンケイルを正面からぶっ倒す夫婦だもんな、この人ら。

 ワンザブロー帝国は、最強兵器であるはずのヘカトンケイルを囮に使って、ルミイをさらったわけである。

「私は作戦会議に来たの。あなたがバルクと戦って、倒しちゃったら実は問題があってね」

「問題……?」

 これに、アカネルが答える。

「凍土の王国で王を打ち倒すことは、即ち新たなる王朝を立てることになります。代を重ねる継承ではなく、今ある王朝を倒すことで新王となる血の革命です」

「いやーん! 俺王位とか全く興味がない! 好きになった女子たちにしか責任を負いたくない!」

「うんうん、マナビくんはそう言う人だと思ったわ」

 ルリファレラがうんうん頷いた。

「ルミイにも王妃なんか無理だもの。あの娘、基本的にヘタレでしょ?」

「よくご存知でらっしゃる」

「小さい頃も、子グマに手を出して、ぺちっと叩かれて『あひー』って泣きながら逃げたりしてたもの」

 子供の頃からあひーって言ってたのか。
 ルリファレラ曰く、天才的な精霊との親和性と天才的な闘気との親和性を持っているけれど、魂の奥底からヘタレなので絶対に活かせないのだそうだ。
 そりゃいかん。

 俺が引き取って責任を取ろう……。

「というか、そうすると、ルミイに求婚してた連中は一体」

「広義で、マナビくんと一緒ね。みんなルミイと結婚して、バルクに挑んで王座を手にしようとしているの。いけないわ。ルミイが王妃になったら国は滅ぶわよ」

「そこまで」

 母に危機感を抱かれるルミイ!
 恐ろしい子だ。

「だから、バルクの顔を立て、血の革命が果たされない形で彼を倒してルミイを手に入れる方法を考えなくちゃいけないの」

「なるほど……」

「あなただって、いつまでもここにいたら危ないわよ。あなたの大好きな女の子二人も、狙ってる男たちが多いんだから」

「ですよねー。俺は大変な危機感を覚えているところだったので」

 カオルンとアカネルを男たちの魔手から守りつつ、バルクに俺という男を認めさせてルミイをゲットせねばならない。
 そうすれば、晴れてルミイに手出しできるだろう!

「とりあえず、私は君がルミイの相手にピッタリだと思うから、精霊の守りを君に対してだけ解くわね。あとは闘気の守り。これはバルクが認めないと解けないわ」

「そうか……。つまり、俺はバーバリアン王から認められる必要があるということだな。手柄を立てねばならん」

 俺は全身に力が宿るのを感じる。
 具体的に、ルミイをゲットできるビジョンが浮かんできているからだ。

 ルリファレラは味方になってくれた。
 後は、あの娘ラブなパパをどうやって攻略するかなのである。

 こればかりは、チュートリアルでサクッととはいかないのであった。
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