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シクスゼクス帝国編
第83話 三人称視点:無限回廊破れたり
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無敵の能力である。
無限回廊と名付けたのは、ジュリアスの趣味ではなかった。
彼は地球では、ミュージシャンだった。
売れないミュージシャンだ。
彼が自信を持って作った傑作、無限回廊は、全く受けなかった。
彼をメジャーに連れて行ってくれるはずだったが、そんな事も起こらなかった。
ジュリアスは、メジャーとの距離に無限の距離を感じた。
音楽をやめようと思った。
そんな時、彼は異世界に召喚されていたのである。
自らに宿った能力……あらゆるものの間に、無限の距離を作る力を知った時、ジュリアスは驚いた。
そんなもの、最強の力ではないか。
何者も自分にはたどり着けず、相手をこの無限の中に閉じ込めれば、何もさせぬまま倒すことができる。
そしてジュリアスは自嘲した。
そんなものが自分の才能なのか。
自分が本当にやりたかったことは芽吹かず、異世界召喚されて、棚ぼた的に手に入ったこんな力が最強なのか。
ジュリアスは絶望した。
そして自暴自棄になった。
「ならば、俺はこの世界で好き勝手にやってやる。他の異世界召喚者と戦えばいいんだな? 幾らでも戦ってやるよ。俺にはこの力しか無いんだからな」
異世界召喚者の強さというものは、本人のモチベーションに関係しない。
やる気が無い者に強大な力が与えられたり、やる気満々の者に大したことがない力が与えられたりするのだ。
極稀に、変な者に変な力が与えられることがある。
幸い、ジュリアスはその変な者に遭遇することはなかった。
初戦。
フィフスエレ帝国の異世界召喚者、“魔弾の射手”バスカールとの対戦。
彼だけが持つ固有武器、魔弾の長銃ガスパチョから放たれる弾丸は、相手を追尾して絶対に命中する。
命中するまでの間、破壊されることはない。
強大な能力である。
だが。
「銃弾が俺に届くまでの距離を無限にしてやればいいだけだろ」
魔弾は無力化された。
無限の牢獄に幽閉されたバスカールは敗退。
次なる戦い。
セブンセンス帝国から送り込まれた刺客、“海を断つ”ローゼ戦。
手に触れたあらゆるものを広範囲に渡って断ち切る力を持っていたが、手に触れた範囲ごと無限の牢獄に閉じ込めて勝利。
ジュリアスが挙げた戦果に、シクスゼクス帝国の皇帝、バフォメスは満足げであった。
「タクルと言い、ジュリアスと言い、我が帝国の召喚者は実に優秀だ。あとは憂いを断つことができれば、手始めにフィフスエレから攻め滅ぼすことができよう」
「憂いだと?」
ジュリアスは訝しく思った。
シクスゼクスは魔族の国。
人ならざる存在と結び、力を得た者たちが住む帝国だ。
個々人の戦闘力なら、他国を圧倒するだろう。
そんな彼らが憂いと言う存在は何か。
彼らが、それを気にするがあまり、他国を攻めることが出来ない存在とは。
「初めから俺チャンをぶつければ良かったんじゃないのか?」
調子に乗ったジュリアスの不躾な質問に、バフォメスは頷いた。
「その疑問はもっともよな。だが、貴様があの邪神とまともにやりあえるかどうかも分からなかった。そのために、他国の異世界召喚者にぶつけたのよ」
「邪神……!?」
「我らはそう呼んでいる。シクスゼクスができるよりも昔から、あのイースマスの入江に都市を築き、独自の眷属を率いて存在している異世界召喚者だ。名を、オクタゴンと言う」
「そんなもの。俺チャンの無限があればどうということはない」
「うむ、今ならばそれが分かる。他に二名、オクタゴンを封じるために呼んだ召喚者がいる。この者たちと任務に挑め」
「そんなもの、俺チャン一人でも大丈夫だ。俺は無敵だぞ」
「念には念を入れるのが余のやり方だ。外なる神を封じ、内なる神を封じれば、もはやシクスゼクスを止められる者などいなくなる」
「ふん、好きにしろよ」
ジュリアスは鼻を鳴らした。
バフォメスは、言うなれば彼の雇用主である。
この異世界において、ジュリアスの生活を保証してくれる相手だ。
従っておいて損はあるまい。
幾ら無限距離を司る力があれども、この力は衣食住に関しては全くの役立たずなのだ。
こうして、ジュリアスは邪神オクタゴン封印の任についた。
邪神などと大仰な呼び名をされていても、所詮は異世界召喚者。
自分の敵ではない……とジュリアスは思っていた。
だが。
陣地構築を優先する他二名を放っておいて、一人乗り込んだジュリアスは、己の了見がいかに狭かったのかを分からせられたのである。
「お前がオクタゴンか」
『そうよ』
オクタゴンを名乗るその男は、バーガーショップにいた。
なんとこの都市は、古めかしいアメリカのような見た目をしており、ファーストフードショップが多く存在していたのだ。
オクタゴンはごく普通の、少し冴えない白人の男だった。
だが、彼と目が合った瞬間、ジュリアスは全身を氷漬けにされたような感覚に襲われた。
思考が鈍る。
何か、目の前の男に隷属せねばならぬ、という未知の感情が流れ込んでくる。
「ふ、吹っ飛べ!!」
言葉を交わすこと無く、ジュリアスは能力を全開で使用した。
オクタゴンは無限の距離の果てまで吹き飛ばされる……はずだった。
だが、オクタゴンはそこにいる。
バーガーを食べ終わり、立ち上がったその男の影が、明らかにあり得ないサイズまで肥大化し、ジュリアスの影を包み込んでいたのである。
『おうおう、とんでもない距離を飛ばされたよ。お前、恐ろしい能力だな。俺様じゃ無かったら即死だったなあ』
半笑いで、オクタゴンは告げた。
ジュリアスは殺される、と思った。
そこへ、陣地構築を終えた仲間が駆けつけたのである。
結界が張られ、オクタゴンは鎖によって縛られ、抵抗の術を奪われたまま無限の距離を飛ばされた。
念のために、ジュリアスはさらにオクタゴンを遠くへと飛ばした。
これにて封印完了である。
シクスゼクスの兵士を報告に走らせ、返答があるまでの間、彼ら三名の異世界召喚者はこの都市に残ることになった。
「なるほど。世界は広いぜ。まさかあんな常識はずれの化け物がいるとはなあ。だが、俺チャンの無限に逆らうことはできなかった。やはり俺チャンは無敵だ。何もかも能力のお陰だけどな」
ジュリアスはヤケクソな全能感を取り戻す。
そして、自らは拠点を持たず、イースマスの街をぶらつきながらファーストフードを堪能するのだった。
そんなジュリアスと接触してきた新たなる異世界召喚者は……。
いきなり隣のボックス席に座り、じーっと見てきたのだ。
明らかに喧嘩を売っている。
「人間のツラだな。何者だ? 俺チャンの仕事を邪魔するなって、バフォメスさんには言ってるんだけどな」
ジュリアスの言葉に、相手は表情一つ変えない。
見た目は黄色人種だろう。
その中では、比較的マシな顔立ちか。
異世界召喚された人間たちの容姿は、全体的に整えられる傾向にある。
「安心しろ。部外者だぞ。ヘルプ機能。……ははあ。見えて聞こえるなら攻略できるな」
「おい、お前。俺チャンの前で何をぶつぶつ言って……ま、いいか。お前も無限の中にふっ飛ばしてやる。吹っ飛べ」
「チュートリアル」
その男が、チュートリアルと言うまでは、いつもの展開だったように思う。
だが。
チュートリアルという言葉が発された後、世界がガラリとその姿を変えた。
「お前の能力がな」
男は、ジュリアスの能力を、なんと素手で防いだのである。
ありえないことだ。
今まで、ただの一人だって、あの邪神であろうともジュリアスの能力が発動すれば逆らえなかった。
抵抗はできても、最後は無限の彼方へ吹き飛ばされて行ったのだ。
それが今は、発動さえしない。
こんなことは初めてだった。
これが能力の弱点だとでも言うのか?
まるで……今この瞬間、能力に弱点を植え付けられたかのような。
「お前……何をやった」
「あんたの能力を攻略するということをやったのだ。“無限回廊”のジュリアス」
何故俺の名前を知っている!?
ジュリアスは冷静さを失う。
何だ。なんなのだ、眼の前の男は。
「バカな……!! お前、お前もまさか、異世界召喚者……」
「おう、申し遅れたな。俺はワンザブロー帝国に召喚され、ワンザブロー帝国を滅ぼした異世界召喚者、“ヌルゲー”のマナビだ。お前の対戦はもはやヌルゲーだぜ」
その男こそ、ジュリアスが初めて出会うタイプの異世界召喚者。
変な者が、変な能力を得て、変な……それでいて凄まじいシナジーを発揮したタイプの相手だった。
あらゆる異世界召喚者の天敵が、そこにはいた。
無限回廊と名付けたのは、ジュリアスの趣味ではなかった。
彼は地球では、ミュージシャンだった。
売れないミュージシャンだ。
彼が自信を持って作った傑作、無限回廊は、全く受けなかった。
彼をメジャーに連れて行ってくれるはずだったが、そんな事も起こらなかった。
ジュリアスは、メジャーとの距離に無限の距離を感じた。
音楽をやめようと思った。
そんな時、彼は異世界に召喚されていたのである。
自らに宿った能力……あらゆるものの間に、無限の距離を作る力を知った時、ジュリアスは驚いた。
そんなもの、最強の力ではないか。
何者も自分にはたどり着けず、相手をこの無限の中に閉じ込めれば、何もさせぬまま倒すことができる。
そしてジュリアスは自嘲した。
そんなものが自分の才能なのか。
自分が本当にやりたかったことは芽吹かず、異世界召喚されて、棚ぼた的に手に入ったこんな力が最強なのか。
ジュリアスは絶望した。
そして自暴自棄になった。
「ならば、俺はこの世界で好き勝手にやってやる。他の異世界召喚者と戦えばいいんだな? 幾らでも戦ってやるよ。俺にはこの力しか無いんだからな」
異世界召喚者の強さというものは、本人のモチベーションに関係しない。
やる気が無い者に強大な力が与えられたり、やる気満々の者に大したことがない力が与えられたりするのだ。
極稀に、変な者に変な力が与えられることがある。
幸い、ジュリアスはその変な者に遭遇することはなかった。
初戦。
フィフスエレ帝国の異世界召喚者、“魔弾の射手”バスカールとの対戦。
彼だけが持つ固有武器、魔弾の長銃ガスパチョから放たれる弾丸は、相手を追尾して絶対に命中する。
命中するまでの間、破壊されることはない。
強大な能力である。
だが。
「銃弾が俺に届くまでの距離を無限にしてやればいいだけだろ」
魔弾は無力化された。
無限の牢獄に幽閉されたバスカールは敗退。
次なる戦い。
セブンセンス帝国から送り込まれた刺客、“海を断つ”ローゼ戦。
手に触れたあらゆるものを広範囲に渡って断ち切る力を持っていたが、手に触れた範囲ごと無限の牢獄に閉じ込めて勝利。
ジュリアスが挙げた戦果に、シクスゼクス帝国の皇帝、バフォメスは満足げであった。
「タクルと言い、ジュリアスと言い、我が帝国の召喚者は実に優秀だ。あとは憂いを断つことができれば、手始めにフィフスエレから攻め滅ぼすことができよう」
「憂いだと?」
ジュリアスは訝しく思った。
シクスゼクスは魔族の国。
人ならざる存在と結び、力を得た者たちが住む帝国だ。
個々人の戦闘力なら、他国を圧倒するだろう。
そんな彼らが憂いと言う存在は何か。
彼らが、それを気にするがあまり、他国を攻めることが出来ない存在とは。
「初めから俺チャンをぶつければ良かったんじゃないのか?」
調子に乗ったジュリアスの不躾な質問に、バフォメスは頷いた。
「その疑問はもっともよな。だが、貴様があの邪神とまともにやりあえるかどうかも分からなかった。そのために、他国の異世界召喚者にぶつけたのよ」
「邪神……!?」
「我らはそう呼んでいる。シクスゼクスができるよりも昔から、あのイースマスの入江に都市を築き、独自の眷属を率いて存在している異世界召喚者だ。名を、オクタゴンと言う」
「そんなもの。俺チャンの無限があればどうということはない」
「うむ、今ならばそれが分かる。他に二名、オクタゴンを封じるために呼んだ召喚者がいる。この者たちと任務に挑め」
「そんなもの、俺チャン一人でも大丈夫だ。俺は無敵だぞ」
「念には念を入れるのが余のやり方だ。外なる神を封じ、内なる神を封じれば、もはやシクスゼクスを止められる者などいなくなる」
「ふん、好きにしろよ」
ジュリアスは鼻を鳴らした。
バフォメスは、言うなれば彼の雇用主である。
この異世界において、ジュリアスの生活を保証してくれる相手だ。
従っておいて損はあるまい。
幾ら無限距離を司る力があれども、この力は衣食住に関しては全くの役立たずなのだ。
こうして、ジュリアスは邪神オクタゴン封印の任についた。
邪神などと大仰な呼び名をされていても、所詮は異世界召喚者。
自分の敵ではない……とジュリアスは思っていた。
だが。
陣地構築を優先する他二名を放っておいて、一人乗り込んだジュリアスは、己の了見がいかに狭かったのかを分からせられたのである。
「お前がオクタゴンか」
『そうよ』
オクタゴンを名乗るその男は、バーガーショップにいた。
なんとこの都市は、古めかしいアメリカのような見た目をしており、ファーストフードショップが多く存在していたのだ。
オクタゴンはごく普通の、少し冴えない白人の男だった。
だが、彼と目が合った瞬間、ジュリアスは全身を氷漬けにされたような感覚に襲われた。
思考が鈍る。
何か、目の前の男に隷属せねばならぬ、という未知の感情が流れ込んでくる。
「ふ、吹っ飛べ!!」
言葉を交わすこと無く、ジュリアスは能力を全開で使用した。
オクタゴンは無限の距離の果てまで吹き飛ばされる……はずだった。
だが、オクタゴンはそこにいる。
バーガーを食べ終わり、立ち上がったその男の影が、明らかにあり得ないサイズまで肥大化し、ジュリアスの影を包み込んでいたのである。
『おうおう、とんでもない距離を飛ばされたよ。お前、恐ろしい能力だな。俺様じゃ無かったら即死だったなあ』
半笑いで、オクタゴンは告げた。
ジュリアスは殺される、と思った。
そこへ、陣地構築を終えた仲間が駆けつけたのである。
結界が張られ、オクタゴンは鎖によって縛られ、抵抗の術を奪われたまま無限の距離を飛ばされた。
念のために、ジュリアスはさらにオクタゴンを遠くへと飛ばした。
これにて封印完了である。
シクスゼクスの兵士を報告に走らせ、返答があるまでの間、彼ら三名の異世界召喚者はこの都市に残ることになった。
「なるほど。世界は広いぜ。まさかあんな常識はずれの化け物がいるとはなあ。だが、俺チャンの無限に逆らうことはできなかった。やはり俺チャンは無敵だ。何もかも能力のお陰だけどな」
ジュリアスはヤケクソな全能感を取り戻す。
そして、自らは拠点を持たず、イースマスの街をぶらつきながらファーストフードを堪能するのだった。
そんなジュリアスと接触してきた新たなる異世界召喚者は……。
いきなり隣のボックス席に座り、じーっと見てきたのだ。
明らかに喧嘩を売っている。
「人間のツラだな。何者だ? 俺チャンの仕事を邪魔するなって、バフォメスさんには言ってるんだけどな」
ジュリアスの言葉に、相手は表情一つ変えない。
見た目は黄色人種だろう。
その中では、比較的マシな顔立ちか。
異世界召喚された人間たちの容姿は、全体的に整えられる傾向にある。
「安心しろ。部外者だぞ。ヘルプ機能。……ははあ。見えて聞こえるなら攻略できるな」
「おい、お前。俺チャンの前で何をぶつぶつ言って……ま、いいか。お前も無限の中にふっ飛ばしてやる。吹っ飛べ」
「チュートリアル」
その男が、チュートリアルと言うまでは、いつもの展開だったように思う。
だが。
チュートリアルという言葉が発された後、世界がガラリとその姿を変えた。
「お前の能力がな」
男は、ジュリアスの能力を、なんと素手で防いだのである。
ありえないことだ。
今まで、ただの一人だって、あの邪神であろうともジュリアスの能力が発動すれば逆らえなかった。
抵抗はできても、最後は無限の彼方へ吹き飛ばされて行ったのだ。
それが今は、発動さえしない。
こんなことは初めてだった。
これが能力の弱点だとでも言うのか?
まるで……今この瞬間、能力に弱点を植え付けられたかのような。
「お前……何をやった」
「あんたの能力を攻略するということをやったのだ。“無限回廊”のジュリアス」
何故俺の名前を知っている!?
ジュリアスは冷静さを失う。
何だ。なんなのだ、眼の前の男は。
「バカな……!! お前、お前もまさか、異世界召喚者……」
「おう、申し遅れたな。俺はワンザブロー帝国に召喚され、ワンザブロー帝国を滅ぼした異世界召喚者、“ヌルゲー”のマナビだ。お前の対戦はもはやヌルゲーだぜ」
その男こそ、ジュリアスが初めて出会うタイプの異世界召喚者。
変な者が、変な能力を得て、変な……それでいて凄まじいシナジーを発揮したタイプの相手だった。
あらゆる異世界召喚者の天敵が、そこにはいた。
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