召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
70 / 196
シクスゼクス帝国編

第70話 三人称視点・人狼、狩られる側になる

しおりを挟む
 人狼の村である。
 人狼たちは、迷い込んでくる獲物を待ち構えている。

 シクスゼクスは不毛の土地である。
 いや、人間にとって害のある動植物なら数多く存在している。

 人間が生きていくには難しい場所。
 それがこの帝国だった。

 始まりは、帝国が七つに分裂した時、シクスゼクスが魔族と繋がりを持ったことだ。
 魔力に長けたワンザブロー、陣形と戦術を選んだツーブロッカー、魔法技術を生み出したスリッピー、魔獣と共生するフィフスエレ、神の力を使うセブンセンス。
 フォーホース帝国は謎に包まれていてわからないが、とにかく周辺国家は油断ができぬものばかり。

 困っていたシクスゼクスに接触してきたのが魔族だった。
 こうして、この国は、初代魔法王が追放したはずの魔族と友誼を結んだのである。

 シクスゼクス帝国は、魔族との混血を推奨した。
 最初は抵抗感を持つ者もいたが、何世代も重ねるうちに、国内全ての者が人と魔族の血が流れる半魔となった。

 純粋な人間など一人もいない。
 異世界召喚者を除いて、だ。

 異世界召喚者など、この世界の人間からすれば魔族以上の化け物である。
 脅し、あるいはなだめすかし、騙してどうにか使役する。
 異世界召喚者をぞんざいに扱えるのは、全盛期のワンザブロー帝国くらい。

 ……というところで。
 半魔たちの中でも、比較的人に近い形質を持つ人狼たちは、国境線近くのこの村に住んでいた。

 不毛なるシクスゼクスに入り込んだ旅人を迎え入れ、弄んで殺すためである。

『さて、今宵の獲物だが』

 村長のバルゲは念話で告げた。
 魔族としては肉体的に弱い人狼たちだが、彼らには群れを維持するための能力、念話がある。
 誰が発言しているのかは曖昧だが、それでも離れた存在と意思疎通ができるのだ。

『男が一匹、女が三匹! 大漁だ!』

『ヤッフウウウウウウ!!』『祭だあああああああああ!!』『男は私が殺すわ!!』『ほうほう、念話はこのように行われるのですね』

 大盛りあがりの念話。
 バルゲは彼らに落ち着くよう言い聞かせた。
 だが、彼自身も久々の狩りに、ワクワクである。

『日も暮れた。だが、彼らはまだ起きているだろう。夜半を過ぎた辺りで動き出そうではないか』

『うちの子が早まって外に出ちゃったんだけど』『えっ、まずいじゃん。抜け駆けを許すな』『まあまあ子どものやることだから』『ははあ、当機能が分解して取り込んだあれですね』

 抜け駆けが出たか、とバルゲは難しい顔をする。
 それは困る。
 ゲームと言う名の狩りが成立しなくなる。
 
 それに、子どもだったらまだゲーム参加はしておるまい。
 気をつけておかねば。

『では手が空いている村人は、獲物の家の周辺巡回をして欲しい。優先的に次回のゲーム参加権を与えよう』

『ヤッフー!』

 念話が歓声で満たされる。
 これでよし。
 バルゲは満足気に頷いた。

 後は時間を待つばかりだ。
 夕食に、魔獣の骨付き肉などをガツガツやりつつ、遠目で獲物たちの家を眺める。
 窓から明かりが漏れている。

 まだ襲うのは早い。
 そして騒ぎの兆候も無いから、飛び出していった子どもというのも騒ぎを起こしてはいないのだろう。

 何の心配もない。
 安心だ。

 何名かの村人が見張りに飛び出していったようだが、連絡は一切ない。
 便りが無いのは良い知らせとも言う。
 順調ではないか。

 ──一ウグワーと聞こえた気がした。
 だが念話は何も言ってこないから問題あるまい。

 人狼は念話で強く繋がり合っているのである。
 それが裏目に出ることもあるのだが。

 さて、いよいよ夜も更けてきた。
 今回の狩り役は、二名の男女。
 彼らに任せて、バルゲは惨劇を想像しながらゆっくりと休む。

 そして翌朝。
 獲物たちがどうなっただろう、と期待に胸を膨らませながら、人狼村の人々は起床した。
 広場に集まってくる。

 ここで行われる報告と、裁判が何よりの娯楽なのだ。
 だが。

 あろうことか、獲物四人は勢ぞろいだった。
 しかも、全員が熟睡したらしくて肌艶もいい。
 一人は犬っぽい耳まで頭の上に生やしている。

「どういうことだ……?」

 バルゲは訝しんだ。
 そしてもう一つ、おかしなことが起きている。

 狩り役に任命された二名が、いつまで経っても起きて来ないのだ。

「寝坊しているのか……? 仕事を果たさないとは。あいつらはしばらく、狩り役禁止だな」

 バルゲは毒づきながら、村人たちを様子見に行かせる。
 狩り役の家をノックする村人。

 村の扉に鍵はない。
 誰もが念話で繋がり合う、仲のいい村だからだ。

 故に、ノックをせずに入った。
 昼間は念話の精度が著しく落ちるため、実際に確認するしか無いのだ。

「ウ、ウグワーッ!! し、死んでる!!」

「ウグワーッ! こっちもバラバラ死体!!」

 村人たちの叫びが聞こえてきた。

「な、な、なんだとぉーっ!?」

 慌てて、村人たちは二軒の家に駆け込んだ。
 そこでは、狩り役だったはずの男女が無惨な死体になっているではないか。

 人狼は通常の武器で攻撃されても、すぐに再生することができる。
 急激な損壊に対して、肉体の時間を戻す呪いがその身に掛かっているのだ。

 だが、魔法の武器が相手ならば再生ができない。
 これは、魔法の武器で殺されたと言えよう。

 どういうことなのだ……!?

 バルゲは混乱した。

「ありゃー、こりゃあ凄惨な事件現場ですなあ」

 後ろから声がした。
 振り返ると、獲物……いや、旅人のリーダーらしき男がいる。

 彼はニヤニヤ笑いながら、こう告げた。

「俺の予想……いや、簡単な推理なんだけどね。犯人はこの中にいる!」

「「「「「「「「「「な、なんだってー!!」」」」」」」」」」

 今、壮大な茶番劇が幕を開ける。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...