召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
41 / 196
スリッピー帝国編

第41話 最高のスパイスは空腹から

しおりを挟む
 悲鳴をあげ、のたうち回りながら焼けていく若い人たちを横目に、魔導カーをトコトコと走らせる。
 彼らが目立ってくれるお陰で、俺たちは注目されないな。
 ラッキーだ。ツイてるぞ。

「むっ、臭くなってきたのだ」

「ゴミ置き場が近いのかもしれないな。いいぞいいぞ」

 俺に妙案あり!
 到着したのは、瓦礫が積み上げられた場所だ。

 あちこちが今にも崩れそう。
 少し向こうには生ゴミなどがまとめられている。

「木を隠すには森からというのだが、瓦礫の中に魔導カーを隠せばわからないのではないか」

「あっ、確かにそうですね! そうしましょう!」

 そういうことになったのだった。
 三人で、せっせと瓦礫を使ったカモフラージュを施す。
 すぐに魔導カーは、それと分からなくなった。

 ひと仕事終えた俺たちは、また元のところに戻ってくる。

「ええと、ヘルプ機能によると、さっきのところが入り口広場で、あそこを経由しないと都市の中に入れないんだと」

「ええーっ! じゃあ、そんなところでさっきの人たちは暴れてたんですか! 迷惑ですねえ」

「ああ。俺たちはそういう迷惑な連中を静かにしたんだからいいことをしたのだ」

「自分の力で魔法すら使ってこなかったのだ。あいつらはたるんでるのだなー」

 入り口広場は、何やら騒がしいことになっていた。
 大量の若者たちが焼け死んでいるということで、都市の軍人が出動したらしい。

 検分が行われている。

「何があったの?」

 俺が聞いてみると、若い軍人はちらっと俺のタグを見た。
 そしてすぐに会釈してくる。

「赤き平和団というたちの悪い活動家たちなんですが、こいつらが全滅しているんです。しかも自分たちのマジックボトルが誘爆し死んだようで……。バカなことをしたなあ」

「ははあ、それは物騒だ。マジックボトルに頼らず自分で魔法を使えば良かったのに」

 すると、軍人は笑った。

「もしかして、田舎の方の出ですか? 都会では魔力電池を使って、機械化された魔法行使装置を使うのが一般的なんですよ。自分の魔力と呪文詠唱で魔法を使うのは、時代遅れですから」

「そうだったのか」

 俺が驚いてみせたので、軍人は俺が田舎から上がってきた同僚なのだと勘違いしたようだ。
 ちなみにこのマジックタグ、下士官の軍曹くらいの地位だったようで、だから若い軍人は敬語だったんだな。

「しかし面倒なことになります」

「なりますか」

「ええ。こいつらの親はそれなりに豊かな階級なんですよ。軍に抗議が来るなあ……」

「マジックボトルとか投げつけてくる迷惑な人たちだったのに?」

「それでもです。軍務についてない市民は、軍への理解が無いんですよ……」

 若い軍人がため息をついてから、「あ、田舎じゃこういうことは無いですもんね。都会は大変なんですよ」とドヤってきた。
 いい性格である。
 だが、お陰で俺のことは怪しまれなかったようだ。

 戻ってきた俺を見て、ルミイが「ほえー」と感心した。

「当たり前みたいな顔でスリッピーの魔法使いと話してましたよね!? どういう度胸ですか」

「あらゆる状況はくぐり抜けられるから、どんどん突っ込めるようになってきたんだ」

「はー、相手の勘違いも利用してましたし。マナビさんがどんどんこの世界に詳しくなってくる……」

「カオルンだったら一撃で切り捨てていたのだなー。あの男、ちょっと上から目線でムカつくのだ!」

 カオルンが怒っているな。
 きっとお腹が空いているのだろう。

「よし、じゃあ飯を食ってからこの都市の風呂を探すか」

「お食事! お風呂! 賛成ですー!!」

「カオルンはどっちでもいいのだなー」

 ふふふ、カオルンめ、美味い飯とゆったりできる風呂の魅力をあまり知らんな?
 俺とルミイの異世界旅は、基本的に風呂を巡る旅だぞ。

「またちょっといい?」

 今度は女子二人を連れてさっきの軍人に声をかける。

「なんです? あっ……、めちゃめちゃにカワイイ女性を二人連れて……!!」

 おっ、若い軍人の顔が悲しそうになった後、一瞬憤怒の形相に。
 嫉妬や嫉妬や。

「まあな、田舎だからな」

「そ、そうですね。田舎ですからね……くっそ」

 口に出てる口に出てる。

「ちょっと飯を食いたいんだけど、どっちに行けばいい?」

「ああ、それなら向かって左は工業地帯で、魔力電池を作ってます。職人たちが食事に来るから、大衆食堂が多いですよ。右手は山の手で、大学があります。活動家たちがひしめいてるんで危ないんですが、こっちにも学生食堂があってそこも量があって美味いです」

「おおっ、なんて有用な情報だ……。ありがとう」

「ありがとうございますー!」

 ルミイも笑顔になってお礼をした。
 若い軍人が、ハッとする。

「か、カワイイ……。人妻なのに見とれてしまう……」

 フフフ、ルミイはまだ人妻ではない。
 だが人妻にするのはいいな。してみせよう……!!
 燃えてきたぞ。

 俺は基本的に下心で動いている。

 若い軍人に別れを告げ、分岐路に立つのだ。
 そんな俺たちを、他の軍人も見送っていた。

「二人も奥さんが!?」

「片方若すぎないか? 犯罪では」

「待て、田舎者らしい。つまりスリーズシティの都市法に縛られていないんだ」

「くっそー、田舎者め……!! 俺もこの仕事が終わったら田舎に行くわ」

 みんな俺のハーレム的(に見える)状況に夢中で、俺がそもそもスリッピー帝国の軍人ではないことまで思い至らない。
 これこそ、年頃の男たちが興味のある話題を投げかけ、そっちに集中させて隠したい事を隠し通す技である。

 俺も年頃の男なので、あいつらの気持ちは分かる……。
 がんばれよ……。

「どっち行きましょうね! 大衆食堂と学生食堂ですか? わたし、お腹がペコペコなので量が多いほうがいいですねえ」

「食事をするのだ? カオルンはカロリーバー以外の食事は久しぶりなのだなー」

「ルミイはめっちゃ食べるけど、カオルンも食べる方?」

「うーん、ワンザブロー帝国の食事で美味しいと思ったことはあんまりないのだ」

「そうかそうか。では学生食堂でガッツリ食べてみて、己のキャパシティを知るといい。カオルンがスレンダーなのは、食事が楽しくないせいかも知れない」

「そうなのだ?」

 三人で右の通りに向かうことにする。
 こちらは、身なりがそこそこいい連中で溢れている。

 俺たち三人は、一見して軍人っぽくない格好なので、そこまで浮いてない……気がするぞ。

「ルミイを見てみろ。あのドーンと張り出した胸とお尻、なのにキュッとくびれた腰回りに凄いふともも。あれは全てたくさん食べるから生み出された究極の美なのだ」

「たくさん食べてるのに腰は細いのだ?」

 カオルンから根源的な質問が来たな。

「ルミイさんその辺どうなんでしょう」

「わたし、栄養がみーんな胸とお尻とふとももに行っちゃうんです」

「すごいすごい」

 俺は感動した。

「なのだなー」

 あっ、カオルンは分かってないな?
 いいだろう。
 まずは美味い飯を食って、カオルンにも食の喜びを教えようではないか。

 俺たちは手近な食堂へと入っていくのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...