上 下
4 / 196
滅びの塔編

第4話 三人称視点・いかにして彼は連中を煽ったか

しおりを挟む
 帝国の者たちは、画面を注視する。
 異世界人と巫女は、時間を余計に使うことなく第二階層へ移った……ように見えた。
 そこに、一切の不正のようなものは見受けられない。

「今度こそ……!」

「異世界人を殺してくれよ、スケルトンよ!」

「ここで駄目なら、アレを投入しなければならなくなる!」

「それはいかん! アレを投入したら滅びの塔が終わる!」

「我々の娯楽が!」

「だからこそ、スケルトンであの男を仕留めねばならんのだ。よし、第二階層開始!」

 帝国人たちには、マナビの能力を認識することが出来ない。
 いや、マナビと同行しているルミイ以外は、その力、ヘルプ機能とチュートリアルを認識できないのである。


「動きだしたぞ!」

「まさか横から突然スケルトンが槍で突いてくるとは思うまい」

「ここで終わるまでありますぞ!!」

 巫女と二人で、まったり歩いていた異世界人。
 スケルトンが出現するや否や、槍がどこに突き出されるかを完璧に把握した動きで回避した。
 回避の動きが、スケルトンの懐に密着する動きになっている。

 異世界人がスケルトンの手の甲をペンっと叩いた。
 スケルトンが槍を落っことす。
 異世界人がそれをキャッチして、そのままの動きでスケルトンを殴った。

 ガラガラと崩れ落ちるスケルトン。
 一撃で、腰のあたりにある要を的確に砕かれたのである。

 対面のスケルトンも、返す槍の穂先で要を粉砕されてガラガラ砕ける。

「「「「「「「「は!?」」」」」」」」

 異世界人が槍を持つ手付きは、素人そのもの。
 だが、繰り出した一撃は明らかに、達人のそれを凌駕していた。

 撃ち込むべきところに、最小限の力と最適なタイミングで撃ち込む。
 これを的確にやってのけたのである。

 防御機能があるはずのスケルトンが、一切守ることもできない。
 まるで、どこを突けば防御すらできなくなるのかをあらかじめ知っていたかのようだ。

 そして異世界人は、巫女の手を引きながら、妙なステップを踏みつつ次の場所へと進んでいく。

「こ、今度はスケルトンアーチャーの道だ!」

「逃げ場など無い! ハリネズミになるのがオチよ!」

「念のため、矢には毒も塗ってあるからな! 毒が無効化しないよう、ちょくちょく通ってメンテナンスした甲斐があったわ!」

「さあ、無惨に死んでくれ異世界人! あと巫女!」

 今度こそ、今度こそはと望みを掛ける帝国人たち。
 さて、不思議なステップでスケルトンアーチャーの道を進む二人。

 そこへ射掛けられる矢。
 だが、それは全て、まるで狙ったように二人を外す。

 巫女は「あひー」とか悲鳴を上げているようなのだが、それでも彼女のふわふわしたローブすら掠められぬ矢の雨。
 それはまるで、雨を避けてダンスしながら歩く光景。
 二人は降り注ぐ矢の雨の中を、優雅にステップを踏みながらくぐり抜けた。

 そして、明らかなカメラ目線で、手を振りながら満面の笑みを浮かべる異世界人。

「「「「「「「「ああああああああああ!!」」」」」」」」

 あまりの衝撃と悔しさに、帝国人たちがのたうち回る。

「なんなの!?  あいつなんなの!?」

「ありえない! 隙間が無いはずの矢の雨の中を、一発も喰らわずに駆け抜けるなど!」

「駆け抜けていない! なんかダンスしていた! おかしい! あいつはおかしい!」

「まるで、どこに矢が射掛けられるかを知っているような……」

「あり得ん! スケルトンアーチャーは、通りかかる相手を認識してから矢を放つ!」

「そうだ。自分たちに反応して放たれるものを、あらかじめ予測して避けるだと!?」

「避けたというか、こう動けば当たらないと分かっているようなというか……」

「それこそあり得ん……!!」

 ということで。

「次はスケルトンウォリアーの大群だ! これで終わる! 隙間なく敷き詰められたスケルトンウォリアーが、近づく者を的確に切り裂く! 一体一体が熟練の兵士と同じ強さを持つ……!」


 スケルトンウォリアー軍団と対峙した、異世界人と巫女。
 だが、歩みを止めない。

 スケルトンウォリアーギリギリのところを、二人でタイミングよく抜けていくのだ。
 ここなら攻撃が当たるだろ! というところでも、不思議なことにスケルトンウォリアーの攻撃はピタリと止まる。
 まるで、相手が攻撃できる範囲を正確に理解しているかのようだ。

 しかも、鎧によって阻害される腕の可動範囲まで把握されているような……。

 当たらない。
 当たらない、当たらない。
 当たらない、当たらない、当たらない。

 二人はスケルトンウォリアーに触れること無く、するりと群れをくぐり抜けてしまった。

「「「「「「「「おえええええええええ!?」」」」」」」」

 衝撃に打ち震える帝国人たち。
 だが、衝撃を受け続けてきたので、今回は回復も早い。

「お、追わせろ! スケルトンウォリアーにあいつらを追わせるのだ!」

「後ろから斬り殺せ!」

 急遽、下された命令に従い、スケルトンウォリアーは振り返った。
 そして一斉に異世界人たちを追おうとする。

 だが、彼らはみっしりとその場に敷き詰められていたのである。
 これが一斉に動いたら……。

 振り回した武器が、スケルトンウォリアーの体が、お互いがお互いを邪魔して、ぶつかり合って、絡まり合う。
 ガタガタカタカタと音を立て、彼らは身動きできなくなってしまった。

 そこへ異世界人が悠々と近づき、スケルトンウォリアーの一体をポコンと槍で叩いた。
 その腕がポロッと地面に落ちる。
 握られている剣ごとだ。

 異世界人は、剣を拾い上げた。

 そしてまたカメラ目線になり、槍と剣を構えて身構えた。
 へっぽこな演舞をしてみせる。

「な、なんだこれは!」

「どうしてこうなった!?」

「駄目だ駄目だ駄目だ! もう、スケルトンジェネラルで決めるしか無い!」

「ああ! 滅びの塔の通常モンスターで最強の存在! 熟練の兵士十人ぶんの強さを誇る!」

「これならば異世界人も……」

 異世界人はトコトコとスケルトンジェネラルに近づく。
 スケルトンジェネラルが、多腕に満載した武器を振り回しながら突撃した。

 その全てが、鎧のない異世界人ならば触れただけで真っ二つにしてしまうような必殺の一撃。

 だが、異世界人はどうやら、特定のタイミングを待っていたようだ。
 無造作に槍を突き出す。

 すると、スケルトンジェネラルの全ての腕が、武器が、そして体が、槍に巻き付くように絡み、こんがらがり、一瞬で行動不能になってしまった。

 これをぽいっと地面に投げ捨てる異世界人。
 剣でコツンと、スケルトンジェネラルの後頭部を叩いた。

 すると、兜を被った頭がぽろりと外れる。

 異世界人は、兜を自分の頭に載せた。

 巫女がこれを見て、笑顔で手を叩く。

「「「「「「「「うわあああああああああ!!」」」」」」」」

 帝国人たちは、その場に倒れて地べたをバタバタ叩きながらのたうち回った。

 全ての仕掛けが、突破されてしまったのである。

「も、もうダメだ……」

「あれを投入するしかない」

「滅びの塔を破棄するというのか!? 異世界人たった一人のために!?」

「ここまでコケにされて、黙っていられるか!」

「ヘカトンケイルを投入せよ!!」

 今、謎の技を使い、帝国人を徹底的にコケにする異世界人に向かって……ワンザブロー帝国最強のモンスターが解き放たれる……!
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

外れスキル「両替」が使えないとスラムに追い出された俺が、異世界召喚少女とボーイミーツガールして世界を広げながら強くなる話

あけちともあき
ファンタジー
「あたしの能力は運命の女。関わった者に世界を変えられる運命と宿命を授けるの」 能力者養成孤児院から、両替スキルはダメだと追い出され、スラム暮らしをする少年ウーサー。 冴えない彼の元に、異世界召喚された少女ミスティが現れる。 彼女は追っ手に追われており、彼女を助けたウーサーはミスティと行動をともにすることになる。 ミスティを巡って巻き起こる騒動、事件、戦争。 彼女は深く関わった人間に、世界の運命を変えるほどの力を与えると言われている能力者だったのだ。 それはそれとして、ウーサーとミスティの楽しい日常。 近づく心の距離と、スラムでは知れなかった世の中の姿と仕組み。 楽しい毎日の中、ミスティの助けを受けて成長を始めるウーサーの両替スキル。 やがて超絶強くなるが、今はミスティを守りながら、日々を楽しく過ごすことが最も大事なのだ。 いつか、運命も宿命もぶっ飛ばせるようになる。 そういう前向きな物語。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...