上 下
40 / 147
スローライフが攻めてきたぞーっ編

第40話 ボスの居城前でワカサギを釣るのである

しおりを挟む
 ラムザーが、熊手でばらけた氷をかき集めていく。
 これで氷原にぽっかり空いた穴は、周りがきれいになって釣りに使えるのだ。

「いいぞいいぞ。ではちょっと待っていろ」

『魔人商店ですかな?』

「私も行くー!」

 ポタルを連れて魔人商店へ。

「ワカサギ釣りをするので、そういう椅子が欲しい」

「簡単な折りたたみ椅子ですね? かしこまりましたあ」
「ましたあ」

「ねえタマル、私これが欲しいなあ」

 双子に商品を包んでもらっている間に、ポタルが指さしたのは壁に貼り付けるスイッチである。

「このスイッチなーに」

「そちらは電源スイッチです。壁に貼り付けてスイッチオンすると、灯りを設置していなくても灯りがつきまあす」

「謎だ」

 面白かったので買ってきた。
 安かったし。

 ポタルはすっかりお気に入りで、電源のオンオフを繰り返していた。
 カチカチ音がするだけではないか。
 それでも、ポタルがスイッチをいじるのに集中するお陰で、どこかにチョロチョロ出かけてしまう心配がない。

 釣りは俺とラムザーの二人でやろう。
 ……と思ったら。

『ミーもやりまーす!』

『ピピー』

 フランクリンとポルポルも参加してきた。
 ということで、フランクリン用の釣り竿を作ってやり、ポルポルには頭に釣り竿をくくりつけてやった。

 四人で並んで、穴に釣り糸を垂らすのである。
 本来は釣り糸だけでやったりもするらしいがな。

『ワカサギというものは大きいのですかな?』

「ちっちゃいな。こんくらい」

『なんと! 食いでがなさそうですなあ』

「だけど小さいから一口でまるごと食えるぞ。サクサクしててうまいぞ天ぷらは」

 横にはすでに、システムキッチンを展開している。
 のんびり釣りをしつつ、わかさぎをゲットし次第片っ端から天ぷらにしていくのだ。

 釣りに飽きたら近くにある退廃帝の城をみてのんびりする。
 うーむ、壮大な光景だなあ。

 城を囲むカルデラの岩壁。
 遠くに、このカルデラから流れ出しているらしき川が見える。
 完全に凍結しているそれは、海につながっているようだ。

『ミーは、この男は退廃帝の城の前で悠然と釣りをするなんて狂っているのではないかと呆然としていたのですが、やってみると釣りは落ち着くものですねえ』

『頭がおかしいことに関しては同意ですがな。わっはっは』

「な、なんてことを言うのだ」

『ピピー!』

 その時、ポルポルがぴょんぴょんジャンプした。
 おっ、掛かったか!
 ポルポルが一際高くジャンプすると、釣り糸が水の中から引き上げられ……。

 見事なワカサギっぽい魚が釣れたのである!

 さっそくタモ網でキャッチする俺。

『新しいレシピが生まれた!』

「やっぱりな!」

▶DIYお料理レシピ
 ※ワカサギモドキの天ぷら
 素材:ワカサギモドキ

「ワカサギモドキ……。あっ、これよく見たらちっちゃい手足が生えている生き物じゃないか! だがまあいいや」

 じたばたするワカサギモドキを、さっそくDIYする。
 カラッと揚げた。

 横でポタルが、成長期の小鳥のように大きく口を開いて待っているではないか。
 そこに天ぷらを放り込んだ。

「ふわおおおお、おいひいー! あつっ、あつっ」

 好評である。
 ラムザーがゴクリと唾を飲んだ。

『は、早く我も釣り上げねば』

「おう、負けんぞ」

『ミーはよく考えたら釣れても天ぷらを食べられないのでは?』

『ピピー』

 だが、釣るのである。
 不思議なことに、俺たちが堂々と釣りをしていても、退廃帝は手出しをしてこない。

 俺が思うに、この世界の魔人候たちは、決まった場所に決まった数の魔人を配置していて、巡回などはあまりさせていないのではないか。
 さっきおおよそここの魔人は狩り尽くしたので、平和になっているというわけだ。

 ワイバーンも三頭も捕獲したしな。

『うおーっ、フィーッシュですぞ!』

『ミーも負けませーん!!』

 ラムザーとフランクリンが競うように釣り上げている。
 俺もちょいちょい釣れる。
 こりゃあ楽しい。

 ポルポルはいつの間にか、ポタルの膝の上に抱っこされて釣りをしている。
 そこならば、ちょっとのけぞるだけで釣り上げられるんだな。
 だが羨ましいぞ。そこには俺が頭を載せたりしたい。

 こうして俺たちはワカサギ(モドキ)の天ぷらパーティを楽しみ、満腹になったのである。
 お腹がくちくなると動きも鈍くなるもので、馬車をゆるゆると走らせながら退廃帝の城に向かう。

 不思議なことに、どれだけ近づいても向こうから迎撃してくる様子はない。
 なんだなんだ?

 さっきの魔人たちは何だったんだ。
 さらに近づいてみて完全に理解できた。

 なんか氷漬けになったゾンビみたいなのが、あちこちに座り込んでいるではないか。
 そいつらは近くを通っても、こっちを一瞥もしない。

 退廃帝の城に向かって、ずっと拝んでいるようだ。
 なんだろうなあ。

 見た目は非常におどろおどろしい連中なのだが、俺は別にそういう見た目は全く気にしない。
 そもそもうちの一味がバラエティ豊かな面々だしな。

 なので、そのままスルーして城に突っ込んだ。
 城の中身は、一見して荒れ放題である。
 あちこちに穴が空いていて、風雪が吹き込んできている。

 城の中にも凍ったゾンビがたくさんいるではないか。
 みんな上に向かって拝んでいる。
 信心深いなあ。
 
 俺はとても感心してしまった。

『タマル様、こやつらをスルーできるのはかなり度胸が据わってますなあ』

「一心不乱に拝んでるからな。俺は相手のこだわりとかは尊重するタイプなのだ。あとは売ってもなんか安そうだし」

『邪悪な本音が垣間見えましたな!?』

 こうして、ゾンビたちの中に馬車を停め、俺たちは城の探索を始めるのである。


▶DIYお料理レシピ
 ワカサギモドキの天ぷら

 UGWポイント
 150pt
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした

大豆茶
ファンタジー
大学受験を乗り越えた高校三年生の青年『相模 型太(さがみ けいた)』。 無事進路が決まったので受験勉強のため封印していた幼少からの趣味、プラモデル作りを再開した。 しかし長い間押さえていた衝動が爆発し、型太は三日三晩、不眠不休で作業に没頭してしまう。 三日経っていることに気付いた時には既に遅く、型太は椅子から立ち上がると同時に気を失ってしまう。 型太が目を覚さますと、そこは見知らぬ土地だった。 アニメやマンガ関連の造形が深い型太は、自分は異世界転生したのだと悟る。 もうプラモデルを作ることができなくなるという喪失感はあるものの、それよりもこの異世界でどんな冒険が待ちわびているのだろうと、型太は胸を躍らせる。 しかし自分のステータスを確認すると、どの能力値も最低ランクで、スキルはたったのひとつだけ。 それも、『モデラー』という謎のスキルだった。 竜が空を飛んでいるような剣と魔法の世界で、どう考えても生き延びることが出来なさそうな能力に型太は絶望する。 しかし、意外なところで型太の持つ謎スキルと、プラモデルの製作技術が役に立つとは、この時はまだ知るよしもなかった。 これは、異世界で趣味を満喫しながら無双してしまう男の物語である。 ※主人公がプラモデル作り始めるのは10話あたりからです。全体的にゆったりと話が進行しますのでご了承ください。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...