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第五部:伝説編

159・俺、西府アオイと西府アオイが出会うのを目撃する

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「な、なんだってー!!」

 仲間達が一斉に驚いた。
 冥神ザップが発言した、俺が神様になるよ的なお話へのリアクションだ。
 そりゃあ驚くよなあ。

「ザップ、俺は本当に神になるんですかね?」

『間違いないでしょうな』

『そうですね。オクノさんはあと何十年かしたら神様になりますねー』

 何を当たり前みたいな顔をして月の女神も頷いているのだ。
 そんな事、一言も言ってなかったじゃない。

「……ていうか、英雄コールも神様になってるってわけか?」

『うむ。だが、かの神は救世神。今は別の世界に渡り、そこを救っておる。かの神剣、チェンソーを使ってな……』

 神剣チェンソー……!!
 すごい言霊だ。

「わっ……私も頑張って神格になれるようにする……! オクノの隣りにいる……!!」

 ラムハがめちゃめちゃ真剣な顔をして、俺の手をぎゅっと掴んでくる。
 本気だ!

「よし、じゃあ夫婦で神様になるか」

「うん、なろう!」

 これにはアミラも苦笑する。

「ラムハの気持ちは本物ねえ。お姉さん、この人生でオクノくんと添い遂げられたらそれで十分だわ」

 アミラは割とそこら辺現実的なのだ。
 カリナはよく分かってない。
 ミッタクはさらに分かってない。

「お? 神になるってのはすげえ強くなるってことなのか?」

『あまり強さとは関係ないですねえ。結果的に強くはなりますけど。わたくし、強そうに見えますか?』

「ハームラ様は弱そうだよね。うちと腕相撲して一瞬で負けたもんね」

『わたくし頭脳労働ですから』

「頭脳労働なのにめっちゃやる気でうちに腕相撲挑んだよね」

『わたくし挑戦者ですから』

『ハームラ……! 戻ってくる前からあなたは変わっていないな……!』

 ザップが流石に苦言を口にした。
 このガイコツな神様、大変な常識家だ。
 そして女神ハームラはずーっとポンコツだったようだ。

 そんなわけで、俺とラムハで、一緒に神様になろうと約束を交わしたのだった。
 どこまでもついて来てくれるのはかなり愛を感じて、俺としてもめちゃめちゃ嬉しい。
 むぎゅっとハグしていたら、冥神が『そろそろいいかね?』とか確認してきた。

『冥府を案内しよう。頼みたい仕事は、ハームラから聞いていると思うが、暴れる魂がいましてな』

「おう、了解です」

「は、はい」

 ハグを解く俺とラムハ。
 さあ、お仕事だ。

『どっこいしょ』

「あ、冥神ザップ自ら案内するんですか」

『次代の神になる者を連れ回すのだから、神が対応せねばならんでしょう』

「礼儀正しい人だ」

 ザップと俺で並んで冥府の宮殿を歩く。
 そう、ここは宮殿なのだ。

 しかもとんでもなくでかい宮殿。
 ユート王国の王都よりもでかい。

 冥府の半分はこの宮殿が占めているのだそうで、それというのも、ザップが罪を犯した魂を裁く裁判所も併設されているからなのだそうだ。

『罰を与えるのは、冥府の地の底にある煉獄で行う。そこまでいけば、魂は力を保っていられぬから問題ないのだ。だが、裁判所に入る前の魂はまだ、生前の力を残した者がいる。それら暴れる魂に、余がいちいち相手をしていては裁判も進まぬ。これを鎮圧して欲しいのです』

「よしきた」

 最初に仕事に挑む俺達なのである。
 そして、その暴れている魂というのは……。




『返せ! 俺達を日本に返してくれよー!!』

『なんでこんなところにいなくちゃいけないんだーっ!!』

「見覚えのある連中がいる」

「あー、わしが召喚したオクノのクラスメイトじゃな」

 俺とシーマで、他人事みたいな感じでそいつらを眺める。

 暴れているのは、まさしく俺のクラスメイトだった。
 中途半端に勇者としての力を持っているので、冥府の番人達でも歯が立たない。

「シーマ、ぶっちゃけあいつらは蘇ることができるの?」

「無理じゃ。肉体が滅びているからのう。可能とするなら、肉体に似せて依代を作って、そこに魂を宿すしかあるまい」

「なるほどなあ。……あれ? じゃあ西府アオイは復活できるのでは?」

 そんな話をしていた俺達を、クラスメイト連中が見つけた。

『ま、まさかお前は』

 気づかれたか。

『アオイ!? どうしてアオイが二人いるの!?』

 あれえ?
 俺に気付いてない?

「わんわん」

「あ、そうか。俺はマッチョになってでかくなってるんだった」

 時折忘れてしまうな!
 日本に戻った時、元のサイズになったら違和感があったもんな。

『わ、私の体! 私のーっ!!』

 あ、西府アオイじゃん!
 なんつうか、シーマの肉体としての西府アオイよりも、もっと検のある顔をしてるな。

『返せ、私の体!』

「無理じゃ。お前は死んだんじゃなからな。既にお前とこの肉体の繋がりはなくなっておる。肉体的には西府アオイじゃが、既にこれはわし、シーマの体になっている」

『シ、シーマだと!?』

『俺達をこっちの世界に呼び込んだ女じゃないか!』

『あいつのせいだ! 全部あいつの!』

 うむ、間違ってない。
 だが、俺や日向は普通に楽しくやってるし、なんなら日本よりもエンジョイできてる。
 明良川はあいつで、リザードマンとかなり仲良くなっているらしく、生活リズムがリザードマンになっている始末だ。

 異世界、悪いことばかりじゃないけどなあ。

『こんな地獄みたいな世界にあたし達を閉じ込めて!! 殺してやる!!』

『そうだそうだ! 殺せーっ!』

 そりゃあ冥府は地獄の入り口みたいなところだもんな。
 えっ?
 もしかしてキョーダリアスそのものを指して地獄とか言ってる?

「それは住んでる人達に失礼だろ。結構いいところだぞキョーダリアス」

 俺が口を開いたら、連中は一斉に俺を見た。

『そ、その声……』

『まさか、多摩川!? なんで生きてるの……!? 私達がこうやって死んでるのに!!』

『ずるい! お前だけ生きているなんてずるい!!』

『お前も死ねえっ!!』

 飛びかかってきたのがいるので、俺は迎え撃った。

「ドロップキック!」

『ウグワーッ!!』

 凶悪な顔の女子生徒を対空ドロップキックで落としたら、そいつはしおしおーっと小さくなって、人魂みたいになってしまった。
 これを摘んで、冥府の番人達に手渡す。

「ほい!」

『ご協力、感謝します!』

 冥府の番人、とてもいい笑顔でこれを受け取る。
 一人回収されていった。

『ア、アスカー! お前、アスカをよくも!』

「君達なー。自分が今何を言ってるお分かり? それ地獄に落ちても仕方ない事言ってるでしょ」

『うるさいうるさい!!』

『多摩川のくせに生意気なんだよ!!』

 すると、ラムハ、アミラ、カリナ、ミッタクが無言で前に出た。
 四人とも、こめかみに青筋が浮かんでる。
 ヒェッ、キレてる!

「オクノ、やっちゃっていい?」

「お姉さん達、もう我慢の限界なんだよね。私達のオクノくんを、こいつら」

「救いようがない人達です。二回殺します」

「ひん曲がった根性が気に入らねえ!! ぶっ飛ばす」

 おお、元クラスメイトと、うちの嫁たちの雰囲気が一触即発。
 というか、クラスメイトどもはバーサーカー状態になっていて、こちらに襲いかかってくる。
 地獄の亡者ですな。

「やれやれ、これがオクノ殿の元同僚なのであるか? 民度低すぎである」

 ため息をつきながら、いつの間にかジェーダイが最前線にいた。
 そして、クラスメイト達が放ってくる魔法や攻撃を、ビームサーベル一本で全て受け止める。
 受けて受けて受け、それらを確実に反射する。

 現状、ジェーダイの受けを完全に抜ける奴は、狂気に陥っていた時のハームラか、洗脳する五花、だけだ。
 俺だって打撃でこいつの守りは抜けない。

『ひいっ、攻撃が返されてくる!』

『なんだこのハゲ!』

「剃っているのである。その暴言、許しがたし」

「行くわよ! シャイニングレイ!!」

 ラムハの光の呪法が、亡者達に降り注ぐ。

「ボルカニックバイパー!」

 アミラの鞭が大地を打ち、地面を隆起させて亡者達を叩く。

「アローレイン!」

 降り注ぐカリナの弓が、亡者たちを地面に縫い付ける。

「撃魔斬!!」

 ミッタクの斧が生み出した退魔の輝きが、亡者たちを焼き尽くした。

『シャイニングボルカニックアロー魔斬』

『ウグワーッ!!』

 クラスメイトは全滅だ!
 こいつら、最後の撃魔斬で浄化されたっぽい感じになったから、普通に悪霊だったみたいだな。

「五花にそそのかされていたとは言え、こやつら、人のせいにしてこの世界で生きておったからな。自分で自分の命の責任を負えん者が、あの戦乱の中で生き残れる訳がなかろう。まあ、わしが言えた義理ではないな」

 シーマがけらけら笑った。

「現に、このわしを、オクノめは味方につけている。誰だってオクノになれた可能性があるんじゃ。それだけの力が与えられていたのじゃからな」

「あいつら、提示された選択肢で、楽な方を選び続けたな? あれ、結構罠なんだぞ」

 俺はしみじみと呟いた。
 最後に、人魂になる寸前の西府アオイがシーマの足を掴んだ。

『わ、私の体……! 帰りたい、日本に……! パパ、ママ……!!』

「ならば、自ら帰るべく動くべきじゃったな。お前は待ち続けて、冥府に落ちたのじゃ。さらばじゃ」

 シーマの手から、オレンジ色の衝撃が放たれる。

『ウグワーッ!』

 西府アオイが人魂になった。
 俺はこれをひょいっと摘む。

「はい、どうぞ」

『ご協力、感謝します!』

 冥府の番人が、とてもいい笑顔でこれを受け取った。

 お仕事完了だ。
 さらばクラスメイト達よ!
 なんかこの世界、輪廻する世界っぽいから、そのうち生まれ変わったら会えるかもな。

 しかしあいつらを見ていると、帝国でまだ生き残っている三人のクラスメイトは凄いんじゃないのか……?
 五花の甘言に乗ったとは言え、あの戦いで生き残って、帝国側について、それでまだ生きてられるくらい有能さを見せているわけだろ?
 今度会いに行こうっと。

 俺が今後の予定を考えていると、横合いから声が響いた。

『アミラ! アミラじゃないか! ま……まさか君も死んだのか!?』

「えっ!? カール!?」

 ハッ!
 これは、ウェットな再会の予感……!!
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