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第五部:伝説編

158・俺、冥神と顔を合わせる

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 冥界の馬車にでも乗るのかと思ったら、俺達の前に真っ黒な布が敷かれたのだ。
 それはするすると伸びて、冥府に向かって一直線。

 レッドカーペットの自動的に伸びるやつ?

「どれどれ」

「どうでしょうねえ」

「わんわん」

 犬に戻ったフタマタと、カリナと一緒にカーペットに乗ってみる。

「あっ、オクノ不用意に乗ると」

 そこでラムハの声が途切れた。
 周囲の風景が一気に流れていく。

 気がつくと、俺は建物の中にいた。

「お……? おおおー」

『よくぞ来られた、英雄殿』

 落ち着いた感じの男の声が聞こえる。

「わんわふん」

「えっ、正面見ろって? ほうほう……うおー、ガイコツ!」

 そこにいたのは、白黒の法衣を身にまとった巨大なガイコツだった。
 これが冥神ザップ……?

『いかにも。余が冥神ザップなり。歓迎しますぞ、英雄オクノと仲間達』

 見た目はモンスターみたいだけど、人間ができたガイコツだ。

「困ってるっていう話だったんで、助ける仕事を引き受けましたからね。手伝いますよ」

『ありがたい。カオスディーラーめが倒され、奴の独り占めしていた魂が解放されたまでは良かった。だが、それが一気に冥界に押し寄せてな。ご覧の順番待ちだよ。だが、これは時間をかければ捌ける。現在、神界と地上界に招集をかけ、神々を集めてこれの審判を急ピッチで進めている。問題は、カオスディーラーが飲み込んでいた凶暴な魂よ。ここに来るまで、英雄オクノも遭遇したでありましょう』

「ああ、なんか凶暴な魂がいた。倒したけど」

『うむ。冥界のできごとは、余の目にはよく見えておりましてな。あれはまだ弱い者です。もっと強大な魂が暴れまわっておる。これは余の臣下を割く余裕が無い以上、どうにも手を付けられませんでな』

「なるほど、それの回収が俺達の仕事と? あ、これ回収した凶暴な魂」

 俺はアイテムボックスから、魂をザラザラーっと出した。
 倒した後の魂は、人魂みたいな形になって小さくなるのな。

 すると、冥府の役人らしき人々がわーっと集まってきて、ほうきとチリトリで魂を集めていく。

『ありがたい。こやつらは罪人ゆえ、きっちりと罰を与えねばなりませんからな。逃げた分だけ罪も重くなる。ということで、引き続き仕事をお願いしたい』

「分かった、任せてくれ」

 冥神ザップは俺の返事を聞くと、カタカタ頭を揺らした。

「ほえー。あれは笑ってるんでしょうか」

「わんわん」

 フタマタが、笑ってますよ、と教えてくれた。
 ここは冥神の部屋なのだそうだ。
 仲間達が到着するまでしばらく待たせてもらうことになった。

 俺とカリナ用の座席。
 それとフタマタ用のラグを用意してもらった。

 フタマタがラグの上でくつろいでいる。

「そう言えばフタマタ、どうして人になったりもとに戻ったりするんだ?」

「わん、わふん」

「あ、人化すると頭の中もお子様になっちゃうのか」

「わんわん」

「未知の状況で俺をサポートする時は犬モード、その必要がない時は訓練のためにお子様双子モードと。考えてるんだなあ」

「フタマタ、かしこいです」

 うんうん、とカリナが頷く。
 なにせ、ルリアの三倍のかしこさがあるからな。
 待てよ、ということは双子に分かれても、ルリアの150%のかしこさがあるのでは……?

 ルリア……!
 地上世界でうちの母親から色々吸収して、かしこさをあげておくのだぞ……!
 頑張れ新米ママ……!

 や、俺も他人事じゃないか。
 だが俺の場合、忙しすぎて子育てに割ける時間は少なかろう。
 物理的に無理というやつだ。

 リザードマン達をベビーシッターとして雇ってもいいな。
 そうだ、そうしよう。

「オクノさん何をいろんな表情して考え込んでるんですか?」

「ああ。赤ちゃんのこれからについて……」

「ふむむ。やっぱり赤ちゃんができるとなると、特別になるんですね。わたしも早く、オクノさんと赤ちゃんをつくらなくちゃ……」

「カリナはまず成人しようね」

「むむむーっ、何かというと成人成人って! むむーっ!! あと、あと二年もあるのに……」

 悔しがっている。

「俺は逃げないので、カリナはゆっくり大人になればいいのだ。焦るもんでもないし。それに子どもの頃って今しか無いんだから。カリナが大人になってしまったら、フタマタが双子になった時、年の近いお姉ちゃんがいなくなってしまうだろう」

 我ながら変な理屈だが、これにはカリナも納得したらしい。

「なるほどです! わたし、フマちゃんとタタちゃんのお姉ちゃんをやらなくちゃいけないですもんね! がんばります!」

「わんわん」

 フタマタもありがとうと言っております。



 しばらくしたら、仲間達も到着した。

「オクノ!」

「オクノくん!」

 ラムハとアミラが同時に駆け寄ろうとして、ぶつかった。
 しばらく無言で、じーっと見つめ合う。

「アミラ。あなたは冥府に亡くなったご主人がいるでしょう? 挨拶してきたらどうなの?」

「カールには会ってくるけど、それはそれ。今の私はオクノくんの妻なんだから」

「私は何千年もかけてやっと解放されて、青春を謳歌してるんだから」

「愛に時間は関係なくない? 私の愛の重さだってラムハには負けてないんだけど」

 おおーっ!!
 火花が散っている!

「いやー、びっくりしたよ! なんだこりゃ? おお、オクノが椅子に座ってら!」

 空気を読まないミッタクが、ラムハとアミラの間をずどーんと突っ切っていった。
 鍛え抜かれたミッタクのヒップが、女子二名をぽぽぽーんと吹っ飛ばす。

「ひゃー」

「ひえー」

 いいぞミッタク!!

 俺も立ち上がり、ミッタクを軽くハグしてねぎらった。

「ナイスアクション?」

「ん? お、おう」

「それから二人共、喧嘩はやめるのだ……! 二人が喧嘩しても、ルリアが一番のりで割と色々全部持っていった事実は変わらない……!」

 ハッとするラムハとアミラ。

「ううっ、私達、現実逃避しようとしていたのかもしれないわ」

「うん。ごめんねラムハ」

「こちらことごめんなさい、アミラ」

 よし、仲直りだ。
 俺、にっこり。

「なんじゃこの茶番」

 シーマが心底呆れた風に言った。




『おや? その肉体は、冥府にいる娘のものではないのか?』

 ずっと玉座から動かなかったザップが、シーマを見て再び動いた。

「おお、こちらが冥神ザップ様か。お初にお目にかかります。戦神メイオーの使い魔の一人、シーマと申します」

 シーマはザップに、うやうやしく礼をした。
 相手が神様なので、ちゃんと礼儀正しく接するのだ。
 ザップは満足げに、カタカタ首を鳴らした。

「そしてこの肉体ですが、確かに西府アオイという娘のものを再利用しているのですじゃ。あの娘の魂はすぐに冥府に落ちましたでな」

『うむ、間違いなく、西府アオイの魂は肉体とのリンクを失っている。その体に戻ることはもはやできまい』

 さらっととんでもない話がされている。

「ザップ様、ちょっといいですか?」

『なんですかな、英雄オクノ』

 ザップ、俺に対する時は敬意を払ってくれるんだな。

「俺のクラスメイトの連中もこっちに?」

『死んだものは全てこちらにおりますな。英雄オクノの元には二人、帝国には三人残っており、これが生き残りの全てになる』

 ははあ、帝国に回収された奴の中で生き残りがいたか。
 どういう生活してるんだろうな。

 というか、二十五人転移してきて俺を入れて六人しか生き残ってないかー。
 いやいや、六人も生き残っているとも言えるな。

「それじゃあ、七勇者と五花もこっちに?」

『カオスディーラーと深く繋がった魂は汚染され、肉体の滅びと同時に破壊される。もう存在しておりませんな。だからこそ、あれが存在して魂を独占することは問題だったのです』

「あちゃー」

 五花含めた七人は完全消滅というわけだ。
 あれ?
 明良川まずくね?

「うちの船にいる生き残りに、混沌の裁定者の力を受けてパワーアップしたのがいるんだけど、あれも死んだら魂が消えるやつ?」

『そこです。英雄オクノは、あの娘に聖なる張り手を食らわせたと聞いています』

「闘魂注入か」

『あれがカオスディーラーとの接続を断ち切る力を持っていたのですな。あの娘の魂は、我が冥府の帳簿に刻まれております。この世界で死ねば、冥府へやって来ることでしょう』

「ほうほう。俺もマア、死ねばここのお世話になるもんなあ」

『ははは』

 いきなりザップが笑った。

「何を笑ってるの」

『英雄オクノ。あなたは英雄コール同様、人として成し遂げられる限界を遥かに超越した偉業を行っている。そのような者は魂の容量が大きすぎ、冥府では受け入れられぬ。だからこそ、古来よりそれらは』

 ザップが頭上を指差した。

『神となるのだ』

 ええっ、俺、神様になるの!?
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