ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第四部:送還編

143・俺、辺境伯領にて一泊する

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 かなり技Pや術Pを消費したので、辺境伯領で休んでいくことにした。
 バギーを不眠不休で運転はやっぱり堪えるな!

 ということで、俺に部屋に戻る。
 カリナもついてきた。

「なんでついてくるの?」

「ラムハもアミラもオクノさんの部屋に行ったじゃないですか。次はわたしです」

 フンスと鼻息も荒い。
 なんということだ、まだ若いのにっ。
 世界が世界なら犯罪だ。

 そう思った俺である。
 ちなみに自分の欲求的にストッパーがいないと自制できる自信はない。

 くっ、仕方ない。
 カリナよ、覚悟したまえ……!

 とか思っていたら、部屋に入って、俺のベッドに飛び込むカリナ。

「一番乗りです!! さあ、オクノさんもどうぞ! 並んで寝ましょう!」

「ほう、並んで……?」

 俺も並んで寝た。
 汗臭い服は脱いで、そして並んだまま朝まで熟睡である。

「よく寝ました!」

 カリナが爽やかに目覚めた。
 すごい、本当に並んで一緒に寝ただけだった……!!
 カリナのそっち方面の知識、ミッタクに匹敵するまっさらぶりだな!

 そのままでいて欲しい。
 成人したら色々お教えするので。

 二人並んで辺境伯邸の井戸まで来て、水で体を拭いたり顔を洗ったりしていると、ミッタクもやって来た。

「驚いたぜ……。ベッドがふっかふかなんだ。なんだあれ」

「ああ、バイキングのベッド、毛皮は使ってるけど基本硬かったもんなあ」

「おう、海の戦士はガッチリしたベッドで寝るんだぜ」

 ラムハが腰を痛めたのは、ベッドが硬いせいもあったのでは?
 俺は訝しんだ。

 そして、相変わらず全裸一歩手前のミッタクである。

「ミッタクさん、なんで下着を外すのかな」

「ん? 脱がないと体を拭けないだろ」

「男の俺が目の前にいるのだが?」

「オクノはうちと戦える数少ない男じゃん! そういうやつの前なら恥ずかしがらなくていいんだよ。親父が言ってた」

 それはミッタクより強い男なら、彼女を娶れるからだろうな。
 正直な話、鍛え抜かれた上に出るところが出て、引っ込むところが引っ込んだ彼女のプロポーションは大変美しい。
 グッとくる。ムラムラ来る。

 いかんいかん、落ち着け、俺よ。

「オクノさん、なんで深呼吸してるんですか?」

「朝の深呼吸は体にいいんだ」

「ほんとうですか!!」

「ホントか!!」

 女子二人が食いついてきた。
 ということで、三人並んで深呼吸などするのだ。

 後から顔を出したフタマタが、その様子を眺めて首を傾げていた。




「わんわん、わふん」

「おお、フタマタは率先してシーマを監視していてくれたのか」

「わんわん」

「なに? 夜中に外に出てきたシーマが、モンスターの死体に呪法を掛けて動かそうとしてた? 問い詰めたのか?」

「わふん」

「ははあ、昔の習い性で、ついついモンスターの手勢を増やしてしまいそうになると。悪の女幹部のサガだなあ」

 その後、朝食の時にシーマと話をした。

「死体を片すの大変じゃろう。死体に死体を片させればいいと、寝る前に思いついたのじゃ」

「なるほど! 頭いいな」

「わしは死体利用もお手の物じゃからな。お前に気を遣って、騎士の死体には手を付けないつもりじゃったが、そこの犬に止められてな」

「わんわん」

 監視者フタマタ、ちゃんと仕事をしているのだ。

「それでオクノ、やってよいか?」

「よし、じゃあ俺が辺境伯に伝えてくるので、先にやっててくれ」

「よかろう、任せよ」

 飯が終わった後、俺は辺境伯に会いに行った。
 なぜかカリナとミッタクも後をついてくる。

「なんでついてくるの」

「なんとなくです」

「うち、土地勘がないし知り合いもいないから一人で放って置かれてもやることがないんだが」

 カリナはともかく、ミッタクの理由はもっともだ。
 二人の同行を許そう。

 そして、辺境伯の部屋をノックする。
 普段なら部屋の前にいるはずの護衛の騎士の姿はない。

 昨日あった革命軍の襲撃で、怪我をしているんだろう。

「入りたまえ」

「おはようございまーす」

 俺は入室した。
 あちこち包帯を巻いた辺境伯が、作業テーブルの上でサンドイッチみたいなのをつまみながら、書類の山に目を通している。

「ははあ、朝から仕事ですか」

「大変な量の仕事が生まれてしまってね。周辺地域では何人かの領主が革命軍に殺された。幸い、領民の被害は少ないが騎士たちが大きく数を減じたため、治安の維持に問題が出ている。上から抑えつけねば、民は暴発するものだからな」

「血気盛んな民衆ですねえ」

「君の国の民は大人しいらしいな。だが、キョーダリアスならばどこに行ってもこんなものだよ」

 確かに、お行儀の悪い民衆がとにかく多かった気がする。

「よって、私はしばらく、仕事尽くしだ。兵力も我が領地を守るだけしかいない。王都が危ないのだろうが……とても救援を出せる状態ではない。そもそも、この屋敷を守る騎士にも事欠く有様なのだ。それで、オクノ。君がわざわざ訪ねてきたということは、私に新しい仕事を持ってきてくれたのだろう?」

「そんなもんです。だけど辺境伯は承認だけくれればいいですよ。それで仕事が多分半分に減ります」

「なんだと?」

「今、メイオーの眷属の神官シーマを仲間にして連れてきてるんですが」

 その話だけで、辺境伯が椅子ごとひっくり返った。

「な、な、なんだと!? なんてものを連れてきたんだ! 神官シーマと言えば、伝説の呪法使いにして邪神メイオーの神官ではないか! あれ一人で、革命軍よりも恐ろしいかも知れない化け物だぞ! そもそも君がイクサとともに倒したのではないのか?」

 ここでカリナが、わたしも、わたしも、と自己アピールする。

「倒したんですが、その欠片みたいなのがうちのクラスメイトの死体に入ってまして。いや、西府は肉体だけは生きてる状態だったな。魂だけ死んだんだっけ。一応、今は混沌の裁定者を倒すために共闘できてます」

「そ、そうか。君がそう言うならばそうなのだろう。実際、君が連れてきた誰がシーマなのかは分からないが、誰もがこの領地を救うために戦ってくれていたと聞く。それでオクノ、君の頼みとは?」

 さすが辺境伯。
 もう落ち着いてきてるぜ。
 ならば直接頼んでも大丈夫だな!

「シーマがモンスターの死体を操って、他の死体とか瓦礫とかを掃除するそうです。何なら護衛もたのめるんじゃないですか?」

「な、な、なんだと!?」

 また辺境伯がひっくり返った。

「そんな非常識な! いや、そもそもそんな禍々しい呪法の力で、我が辺境伯領を守る……?」

「百聞は一見にしかずと言いますからね。見に行きませんか」

「ああ。これは緊急事態だな……」

 イーヒン辺境伯は、悲壮な覚悟を決めた顔で立ち上がった。




「じゃあやってくれシーマ」

「ふふふ、もう仕込みは済んでおる」

 不敵に笑う西府アオイ……の姿をしたシーマ。

「彼女がシーマなのか……? まだ年若い少女にしか見えないが」

「言った通り、俺の昔の同僚みたいなのの体を使ってるんですよ。だから正真正銘、あれは17歳です」

「話だけ聞くと、とても邪悪な行為にしか思えない……。オクノ、よく平気だな」

「魂が死んで肉体も死ぬよりは、肉体だけでも生きててシーマが活用してる方が前向きじゃないです?」

「いや、どうだろう」

 辺境伯の価値観が揺さぶられている。
 そんな彼の目の前で、シーマは手を高らかに振り上げた。

「アニメート!」

 シーマの全身からオレンジ色に輝く、呪力の光が漏れる。
 すると、並べられていたモンスターの死体が次々に起き上がった。
 丁寧に破損箇所を修繕してあるのな。

「わふん」

「え? フタマタが手伝ったの? 俺の許可があったから? 本当にいい仕事するなあお前は」

 フタマタを全力でもふもふした。
 わんこが目を細めて嬉しそうにする。

「おいオクノ。そのお前の使い魔、もうじき進化するぞ。具体的にはわしら三神官と同じように人の姿になれるようになる」

「なんだって。だがフタマタは犬のままでいいぞ。おおー、もふもふ」

「わふーん」

 俺がフタマタと戯れていると、カリナも一緒にフタマタをいじり始めた。

 そして、辺境伯の驚く声が響き渡る。

「な、なんとぉーっ!!」

 動き出した死体が、周囲の瓦礫や、他のモンスターの死体を片付け始めたのである。
 動く死体の数がとにかく多いから、作業効率もいい。

 シーマが空高く浮かび上がり、死体を俯瞰しつつ指示を出していく。

「おい、辺境伯。お前に死体を操るやり方を教えてやるのじゃ。これに従って死体を使うがよい。当座の治安維持には働けるじゃろうよ。動いている間、こやつらは腐敗せん。呪力で守られたゴーレムという扱いじゃからな」

「む、むむむっ。だが、いざとなればシーマ、貴様がこれを使い、辺境伯領を襲うのではないのか?」

「わしが事態の主導権を握っているのなら、無論そうする。じゃが……既に、わしが事を動かす必要はない」

「それは、貴様がオクノのもとに下っているからなのか?」

「それもあるな。ふふふ」

 なんか、シーマが不敵な笑みを浮かべているな。
 俺知ってるぞ。
 あれだ。シーマが判断しなくてよくなったってことは、そろそろ復活してるだろ、メイオー。

「五花めも、わしが予測できないことをやってのけるが、悪くない働きじゃった。争いの数は十分に満ちた。後は、混沌の裁定者を滅ぼすだけじゃ。オクノ、決戦が近いぞ」

「おう、頼りにしてるぜシーマ」

「清濁併せ呑むにも程がある……!」

 辺境伯が天を仰いだ。
 ちなみに、この日の辺境伯が受けたショックは、これに留まらなかった。
 下手をすると最大級のショックが、すぐに訪れたのだ。

「お父様!!」

 イクサとともに現れた、イーヒンの娘のアリシアが宣言する。

「わたくし、イクサヴァータ様とともに辺境伯領を出ます!! わたくしもホリデー号に乗り込みますわ!!」

「な、な、なんだってー!!」

 今度こそ、辺境伯はショックでぶっ倒れたのだった。

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