ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第二部:彷徨編

72・俺、正式に船をゲットする

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 海賊王国は滅びた。
 俺たちが都市国家群に来てから三日目とちょっとくらいのスピードである。
 敵の懐に飛び込んで一気に頭と主戦力を叩き潰して、拠点を粉々にすればすぐ終わる話なのだ。

 ね、簡単でしょう?

「理屈の上ではそうですが、今まで誰もやれなかったのですよ。都市国家が力を合わせればあるいは、力を付ける前のシン・コイーワを叩けたかも知れません。ですが、我々が利害関係の調整ができない間に、海賊王国は手がつけられない程に大きくなっていたのです」

 諸々の交渉を終えたイーサワが戻ってきた。

 実は俺たち、海賊王国をやっつけてから一週間ほど、最大規模の都市国家であるロマネスに逗留しているのだ。
 海賊王国が滅びたことは大きな事件であり、その立役者である俺たちに都市国家群の首脳たちが会いたがってるからとかなんとか。

「とりあえず報酬は確定させてきました。当座の活動には問題がなくなりますよ。僕らは人数も少ないですから、食料も矢もあまり消費しませんからね。その代わり、ちょっと大きなものを要求しました」

「大きなものというとなにかしら。家?」

「流れの傭兵団の僕らには、家は邪魔でしょう。むしろ、家とするならば移動できる家がいい」

「それはつまり……」

 イーサワがニヤリと笑った。

「船を正式にもらいました。ホリデー号はこれからも、僕らオクタマ戦団のものですよ!」

「おおーっ! やったっ!」

 俺はガッツポーズを決めた。
 海賊王国戦で苦楽をともにした船だ。
 愛着が湧いてきていたのだ。

「わんわん!」

 これに喜んだのはフタマタだ。
 なにせ、甲板に犬小屋を作ってあるからな。
 彼がホリデー号甲板の主なのだ。

「それで、団長。都市国家のお歴々が団のスポンサーになりたいと言っていましてね。どうします?」

「会ってみよう」

 そういうことになった。



 せっかくなので、ホリデー号が見えるレストランを場所に指定した。
 海辺のお店で、天気と海が穏やかな時は外にテーブルと椅子を出している。

「まさか外で会議をすることになるとはな……」

 都市国家の重鎮らしきおじさん、おじいさんたちが難しい顔をしている。
 俺はと言うと、ホリデー号に乗った女子たちに手を振り返している。

「そんな若者が本当に海賊王国を倒した、オクタマ戦団の?」

「うん、俺が団長です。今日は話を聞きに来たんだけど、要点を教えてください」

「いきなり要点を!? なんと礼のなってない……」

「礼を尽くしてたらそのうちに邪神が手を伸ばして、あっちもこっちも滅ぼすからなあ。最低限の敬意は持ってわかりやすい話をしよう」

 ざわめくお偉いさんたち。
 権威とかメンツとか大事なのだ。
 ここで一発、でかい真実で殴っておこう。

「えっと、邪神って言っても実感が湧かないと思うから、身近に邪神が来てたって話をするね。あのさ、海賊王シン・コイーワは邪神の神官だった」

 一瞬、お偉いさんたちがポカンとした。

「邪神メイオーは戦いの神なんだと。だから、俺ら人間が争っているとそれだけ復活しやすくなる。都市国家からの流通がせき止められたんだろ? で、十年かけてここも王国も帝国も干上がりかけてる」

 ちらっとイーサワを見た。
 彼は、「そう、その調子です! 事前に教えた通りにお願いします!」とゴーサインを出している。

 そう、これは俺とイーサワが打ち合わせた芝居なのだ。
 言っていることは真実だが、俺は難しいこととか苦手なので、イーサワに台本を作ってもらってそれをそらんじている。

「干上がりかけたもんだから、慌ててあちこちを開拓しようとして、それで新しい戦いが起きた。おまけに王国と帝国は戦争までやりかけた。俺、帝国側に潜んでた邪神の神官も倒したんだけど、同じのが都市国家にもいたんだ」

「そ、そんな馬鹿な……!」

「シン・コイーワが邪神の……!?」

「だとすれば、どうりで一切の交渉に応じないはずだ……!」

「し、しかし証拠は……?」

 一人、冷静な偉い人がいて俺に証拠を求めてきた。

「そんなもん無いよ。あなたたちには俺の言うことを信じてもらうしかない。実際に海賊王国は消えてなくなったし、王国と帝国は現在戦争をしてない。この状況を見て判断してほしいな。多分あなたたちは俺らオクタマ戦団をいいように使いたかったのかも知れないけど、俺たちは都市国家から旅立つつもりだ」

 お偉いさんたちがざわめいた。

「邪神の手下はまだいるんだよ。三神官って言ってたからね。あと一人いる。あとは七勇者が出てきたでしょ? 一人倒したけど、あと六人いて、絶対ろくでもないことをしてる。そういうのと戦うのがオクタマ戦団の仕事なわけだ」

 さて、ここまでが俺の話すぶん。
 あとはイーサワの担当だ。

「さあ皆さん! そういう訳で、我々は旅立つこととなりました! 航路は左回りで帝国へ向かいます。ですが、この航路が安全とは限らない! さて……我々に投資しませんか? 必ずや、この航路の危険を排除し、皆さんに十年来……いや、それ以上の利益をもたらす安全な航路を確保することをお約束しましょう!」

 上手いなー。
 俺たちの武器は、海賊王国をぶっ潰した圧倒的な実績だ。
 イーサワはこれを使って、都市国家からお金をたっぷりとふんだくるつもりなのだ。

 もちろん、航路を安全にするために危険な奴らはやっつけるよ?

 結局ここで、イーサワは結構な金額の活動費を都市国家群から引き出した。
 すげえなあ。
 やっぱり、商人を仲間にしておいてよかった。

「ははは。我々商人はですね、後ろ盾が強いほど大きな仕事ができるんですよ。特に、オクタマ戦団は今乗りに乗っています。この名前を世界に広げて、もっともっと仕事をこなしていきましょう! さらに儲かっていきますよ! 傭兵稼業はあまり儲からないなんて言われますがとんでもない。僕に言わせればマネジメントが足りないだけなんです。商品はオクノさんたちの実力。マネジメントは僕の腕。そして世界を駆け巡る足、ホリデー号。儲からないわけない」

「つよい」

「戦いとは、腕っぷしだけではありませんよ。僕は頭と金で戦います。そして皆さんをサポートしますよ。ああ、それから、リザードマンのグルムル氏、帳簿ができるそうなんで昨日から事務作業を手伝ってもらってます。有能ですね彼」

「すごい」

 後にオルカに聞いたら、オルカ海賊団の事務作業全般はグルムルが担当していたらしい。
 戦闘、戦いの解説、人間関係のフォローに事務作業となんでもできるのねあの人。

「それで、次は帝国側の航路で行くって話だったけど、あてはあるの? なんか宝探しもできなくなっちゃったしさあ。俺はがっかりだよー」

 そう、結局遺跡はダメだった。
 完全に水没してて、マーメイド族にでも話をつけない限りは宝探しはできないだろうという話なのだ。

 そもそも、俺たちが遺跡を完膚なきまでに破壊しているから、探索どころの話ではないらしい。

「そうですねえ。僕らが出るのはもう少し後がいいでしょう。すでに続々と商船があちこちの航路に向かっています。十年間閉ざされていた航路ですから、少なからぬ犠牲は出ることでしょう」

「だったら俺たちが先に行って安全にした方がよくない?」

「それもあります。ですが商売のために考えると、彼らが先行して僕らの評判を各地に広めてくれる。その後にオクタマ戦団が向かい、仕事を引き受けて報酬を釣り上げるんです。名前が知られると、その交渉がとても楽になるんですよ」

「ひええ、イーサワはなかなかのワルだなあ」

「商人なんです。それに、帝国航路には一つの伝説があるんですよ。かつて遥か水平線の彼方から、浜辺の人々を理想の地にいざなうための船がやってきたとか。船に乗った人々は、二度と帰ってくることはなかったそうです。理想の地……。興味が湧いてきませんか?」

「ふわっとした感じだな。だけど、何か伝説があるわけだ」

「ええ。団長はロマンや、打ち倒すべき敵がいないと燃えないタイプでしょう?」

 俺のことをよくわかっている……!

「そうだ。んじゃあ、少しのんびりしてから、帝国航路に行ってみようか。理想の地ってのも気になるし、騒ぎが起こっているところを順番に手繰っていけば、七勇者とも出会うでしょ。詳しい道のりは船乗り担当のオルカもつれてきて決めないと」

「了解です。では、オクタマ戦団の首脳会議と参りましょう!」

 てなわけで、次なる行き先が決定したのだ。
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