ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第二部:彷徨編

55・俺、吟遊詩人に伝言をつたえる

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 酒場なのだ。
 都市国家というのは、どれもこれも全部港町でもある。

 ということで、船乗りとかがたくさんいて、とても賑やかな様子だ。
 そこに、俺が女子たちを引き連れてわいわい入っていったので大変目立った。

「ヒューッ! かわいこちゃんが入ってきたぜ!」

「おいおい、そんなに女を連れてるのかよ! 隅におけねえなあ!」

「俺たちにも分けてくれよ!」

「先頭の兄ちゃんなかなかいい体をしてるな。うちの船にほしいぜ」

 俺にも目をつけられている……!?
 まあ、気の荒い船乗りたちがこぞって、真っ昼間から酒を飲んでいるわけだ。
 みんな色々鬱屈してるみたいなので、ここぞとばかりに俺たちを囃し立てる。

「げひーん」

 ルリアが膨れた。
 そういうのは男を喜ばせてしまうのだぞ。
 アミラは腕組みして、鼻を鳴らす。
 カリナは露骨に軽蔑した表情で、日向はめっちゃくちゃオロオロしてる。こういうところ初めてだもんなー。普通の女子高生はこういうガラが悪いところ行かないもんなー。

「うーん、ねえあなた、ちょっといいかしら」

 そんな中、ラムハの態度はとても落ち着いている。

「へっへっへ、俺かい? もちろんいいぜ! 連れ込み宿にだってエスコートしてやるぜ」

 声を掛けられた男が下品なジョークを言ったので、船乗りたちがげらげら笑った。

「真空斬!」

 男たちの頭の上すれすれくらいを真空の刃が駆け抜け、酒場を横一文字にぶった切り、一瞬建物の上半分が宙に浮いた。

「あれっ?」

 船乗りたちが唖然とする。
 建物の上側は、落ちてきて、ドゴンと音を立てて元の場所に収まった。
 しーんと酒場が静まり返る。

「ナイス、イクサ」

「うむ。俺も手加減というものを覚えたからな」

 これが手加減かあー。
 ちなみにオルトロスは、可愛い妹分のルリアが不快そうな顔をしていたので、今にも男たちに飛びかからんばかりになっていた。
 大変危ない。
 船乗りたち、本当に危険ない相手は見極めたほうがいいのだぞ。

「じゃあ静かになったところで、聞いてもいいかしら」

 ラムハがさっきと変わらないノリで尋ねる。

「アッハイ」

 船乗りがカクカクと頷いた。
 完全に酔いが覚めてる。

「私たち、お金が必要なんだけど、主に荒事しかできないのよね。でも、荒事はとっても得意なの。さっきので分かったでしょう?」

 酒場中に、納得の空気が流れた。

「お仕事紹介してもらえないかしら」

「あー、俺はただの水夫なんで、俺に言われてもなー」

「へっへっへ! 姉ちゃんたちなら幾らでも体で稼げるだろうがよ」

「うおっ、まだ一人状況が読めてないやつがいた!」

 俺は驚愕した。
 周りの船乗りたちが、こぞってその男を止める。
 立ち上がったのは、俺より頭一つ分はでかい大男だ。

「おい、やめろって」

「これ絶対やばいやつだろ」

「お前そんなんだから毎回クラーケンとかに会ったら死にかけるんだぞ」

「うるせー!! 俺は、俺はなあ! 美人さんと仲良くなりたいだけなんだよお! これしかコミュニケーション方法知らねえんだよ!」

「それはちょっとかわいそうに」

 俺は同情した。

「だがうちのパーティに手出しは許さんぞ。俺を倒してから行くのだ」

 大男の前に立ちはだかる俺。

「まずは一発入れさせてやろう。一般市民に対してはフェアプレーで行くことにしてるんだ」

 俺は、強者として大男にそう告げた。
 これには大男、ゆでダコみたいに真っ赤になって怒った。

「い、一般市民だとぉ!? お、俺は一般人じゃねえ! すげえ船乗り様なんだぞ! おらあ!!」

 奴は酒瓶を握りしめると、俺の頭目掛けて叩きつけてきた。
 瓶は粉々に砕け散る。
 後ろで女子たちが、怒気をはらむのが分かった。
 まあ落ち着くのだ。ステイステイ。

「へっへっへ、男前になったじゃねえか」

「うむ。では返礼として俺も一発な」

 俺は肩を抑えながら、片腕をぶんぶん回した。

「へっ、この俺に何をする気……」

「ラリアット!」

「ウグワーッ!!」

 俺の太く盛り上がった二の腕が、大男の顎から首にかけてに叩きつけられた。
 大男は自分の首を支点にして、ぐるんと一回転する。
 酒場の床に、腹から叩きつけられ、大男は目を回した。

 俺は周囲を見回した。

「お分かりいただけただろうか」

「なんであんなデカイ奴が一回転したの……」

 お分かりいただけてない。
 だが、俺たちが強いことは分かったようだ。

「俺たちはこれから、海賊王国を滅ぼすのだが、そのために船が必要なので色々お金とか情報が欲しいのだ」

「海賊王国を滅ぼす!?」

 酒場が騒然とした。

「幾らあんたたちが強くても、そりゃあ無理だ……! あいつら、ただでさえ船の数も多いし、遺跡の武器で武装してるし、化け物を飼ってるし……」

 この話に、イクサが目を光らせた。

「ほう、海賊がそれほどの武装を? 多少は歯ごたえがありそうだな」

「おっ、イクサやる気だな」

「無論だ。丘巨人程度では本気も出せなかったからな」

 こいつの裂空斬、そろそろ小型の船舶程度なら両断するかも知れん。

「とりあえずだ! 俺たちは言うなれば、都市国家を救いに来た! 色々あって、都市国家が大変だと王国とか帝国も大変になって、戦争とか起きたりして大変になる! とにかく世界が大変なので、大本のこの辺を助けることにしたんだ」

「大変ばかり言ってる」

「ボキャブラが俺たちと変わんねえよな」

「言いたいことは分かる」

 分かってくれたか。
 船乗りたちは、こちらに協力的になった。

「この酒場はよ、下っ端が集まる安いところなんだ。船長連中はもっと高級なところに行ってるぜ。仕事を受けるならそこに行けばいい」

 一人の船乗りが立ち上がる。
 顔中傷だらけの男だ。

「俺が案内するよ。あんたらが腕っぷしに自信があるなら、今の時期でも船を出せるかもしれねえ。そうなればありがたいぜ」

「今の時期?」

「海賊どもが活発になってるのよ。義賊、キャプテン・オルカがやられてな……。あいつら、新しい仲間まで加えて調子にのってやがるんだ。お蔭で船を出せねえから、俺たちはここでくすぶってたんだ」

「ほうほう」

「七勇者とか言いやがってな、一見してガキなのに、化け物に変わるんだ」

「ははー。勇者かあ。そいつらが俺の知ってる奴らだったら受けるなあ」

「キャプテン・オルカもぶっ倒すような化け物だぞ。やれるのか?」

 試すように言ってきたので、俺は応じた。

「いけるでしょ」

 船一隻をどうこうする程度なら問題ない。
 六欲天よりは弱いだろうし。

 船乗りはゴンザと名乗った。
 彼に案内されて店を出る途中、奥に見覚えのある吟遊詩人がいることに気づいた。
 俺は伝言を思い出す。

「あ、ちょっと待ってて」

 ゴンザを待たせて、吟遊詩人まで駆け寄った。

「やあ、お久しぶりです」

「久しぶり。女神キシアから伝言があるんだけどさ。人間を手助けしすぎるなよ、だってさ」

「彼女は厳しいですねえ。分かりました。今度彼女に会うことがあったら、前向きに検討しますと伝えて下さい」

「実際には検討しないやつだそれ」

「ハハハ。ところで、一曲いかがです?」

 吟遊詩人の提案を断って、去ることにする。

「世界は停滞から混沌に移り変わりつつあり、望まれぬマリアージュを強き意思が切り裂いて行きます。行く先に道はなく、しかしその後に道は生まれ、人の子は道を歩むでしょう。邪神、勇者。そして古代の人々が呼び起こした混沌の裁定者。果たして、エンディングは訪れるのか否か」

 吟遊詩人の歌声が聞こえてくる。
 これ、もしかして俺のこと言ってる?
 邪神とか勇者の他に、隠しボスとか出てくる感じ?

 絶対あの吟遊詩人、神様か何かが化けたやつだよな。
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