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第一部:始動編
38・俺、戦争の様子を眺める
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戦場に到着したら、もう戦争が始まっていた。
早い。
カリナはユート王国と敵対関係にある遊牧民だとかで、直接の協力は拒んでいる。
ということで、俺たち六人は王国からの指示もへったくれもない、自由に動いて好き勝手に呪法師シーマを暗殺する傭兵部隊なのだ。
「傭兵行為なら、わたしの部族もやってましたから。遊牧民はとても強い兵士になるんです」
ちょっと自慢げなカリナだ。
確かに、まだ若いカリナがかなり高い弓の実力を持っていたから、遊牧民というのはそっちの教育がしっかりしてるんだろう。
「さあオクノさん。戦場は高いところから眺めるのが大事ですよ。この距離なら矢や呪法も届きませんから」
カリナに先導されて、俺たちは戦場を見下ろせる木の上に陣取る。
木登りが苦手だったラムハとアミラは、ロープにくくりつけて引っ張り上げている。
「なるほど、戦場がかなり見える」
ユート王国とセブト帝国の戦争を眺めながら、俺は状況を分析した。
いやー、分析なんて大したものじゃないな。
ユート王国の動き、まんま陣形のそれだなーとか。
セブト帝国は本で読んだことあるような、錐状の陣形とか鶴翼の陣みたいなので戦ってる。
っていうか、セブト帝国の動きはゲームの三国志とか信長シリーズで見た陣形の動きまんまだな。
まるで日本人のプレイヤーが後ろで動かしてるみたいだ。
「見たことがない戦い方です……! 帝国は何をしてるんでしょうか」
「うん、あれは包囲殲滅陣って言ってな、なんか、ハンニバルが多数だったローマ軍に仕掛けた陣形なんだけど」
「意外……!! オクノさん、そういうのに詳しいんですね……!」
「ゲームで得た知識なのだ」
だけど、なんか動きに応用性とかがなくて、あまりにもまんまだぞ。
相手が普通の軍隊ならいいけど、ユート王国の陣形は魔法的な力を持っている。
特に両翼に広がった連中とか、無防備に見えて何気に守りの要だったりするからな。
あ、ほら!
両翼が押し負けた!
「ははーん。あれ、五花かクラスメイトのどいつかが後ろで糸を引いてるな? 軍師系のクラスの奴がいたんだろう」
「オクノ。お前がそこまで詳しいなら、お前が将軍にでもなって王国を指揮すればいいだろう」
「やだよー。俺シミュレーションはCPUに任せてじーっと眺めてるだけだったもん。これはお前の弟さんの方が得意だと思うよ。ほら、持ちこたえてる」
ユート王国の指揮をしているのは、トノス王子。
武術の腕は並らしいけど、軍略についてはとても優秀らしい。
腕っぷしはイクサ、頭はトノスと才能が分かれたんだな。
「だが、中央が持たんな。異常な強さの兵士がいる。オクノとともに召喚されたという異世界の戦士たちだろう。行くか?」
「よし、助けに行こう」
戦術とか戦略とか、そういうものはどうでもいいのだ。
俺たちはふわふわとした使命感みたいなものに従って動く……!
徒歩の俺たちは、激しくぶつかりあう戦場までトコトコと移動していった。
戦況は目まぐるしく動いているっぽいので、とりあえずこの辺が帝国かな? という辺りに攻撃を仕掛けてみる。
「ほーい、朱雀陣! 俺が囮になるのでやっておしまい!」
回復薬のアミラを後ろにつけて、残り四人の攻撃力をアップさせる陣形だ。
「よしっ! 裂空斬!!」
「風車ー!」
「アローレイン!」
「闇の衝撃!」
いきなり現れた俺たちから、強力な攻撃が放たれる。
一人ひとりの攻撃の威力が、多分二連携くらいまで上がってるので、普通の兵士だとひとたまりもないだろう。
帝国軍の一部で爆発が起こったり、闇の炎が上がったり、人が次々に吹き飛ばされたりして大混乱になった。
帝国もバカではないっぽく、俺たちが犯人だと気付いたようだ。
攻撃を仕掛けてくる。
これを……俺が次々とラリアットでなぎ倒していくわけだ……!
「さあ来いッ! しゃあっ!」
「ウグワー!?」
「おらあっ!」
「ウグワーッ!?」
「おららあっ!」
「ウグワーッ!?」
近づく帝国兵をラリアットで打ち倒し、その間にうちのパーティが帝国軍に損害を与えていく。
こういう感じでやってたら、クラスメイトの連中も出てくるかなー。
「軍の一部が混乱していると思ったら、てめえか多摩川! ……多摩川、だよな……? なんか俺よりもでかくなってないか?」
おっ、クラスメイトの一人が出てきたぞ。
一人でのこのこ出てくるとは、バカめ。
「色々鍛えたら大きくなったのだ。さあ勝負だ」
陣形の中心をアミラにまかせて、形は玄武陣にしておく。
守りの要をイクサとルリアにすれば、後衛の女子たちは大丈夫だろう。
「勝負だって……ばーか、多摩川! 俺が一人で来ると思ったのかよ!! 西子! ここだ! 狙撃しろ!!」
そいつが手を振ると、俺目掛けてものすごい勢いで何かが飛んできた。
矢かな?
ちょっと形が違うから、クロスボウの矢かもしれない。それのでっかいやつ。
「おっと、ブロッキング!」
防いだ。
体術が得意な俺にとって、ゼロ距離で敵の攻撃を受け止める技は重要なのだ。
「……へ? 攻城弩弓を受けて無事……?」
「そういう攻撃をしてくるやつはよくいる……。いや、いないか。まあいいや。ドロップキック!」
俺は助走とともに飛び上がり、クラスメイトをぶっ飛ばした。
「ウグワーッ!!」
地面と平行にぶっ飛んでいくクラスメイト。
背後にいた兵士たちを盛大に巻き込んだ。
一撃で吹き飛ばされるのは、体の鍛錬が足りないのでは?
「飛翔斬!」
「ウグワーッ」
遠くから叫び声がした。
イクサが、俺を狙撃したクラスメイトを倒したようだ。
「飛翔斬だからな。仕留められてはいまい。せいぜい、攻撃のタイミングを遅らせた程度だ」
イクサが冷静に戦況を分析する。
「位置は特定しましたから、あとはわたしが射撃で牽制します」
「頼むぞカリナ。ということで、相手を牽制しながら移動しまーす! ラムハ、闇の障壁で帝国が回り込んで来られないようにしておいて」
「ええ、分かったわ。でも、この人数で帝国軍とやり合うとは思ってもいなかったわねえ……。闇の障壁!」
陣形を使いながらじりじり移動する。
ダグダムド戦で編み出した戦法だ。
ダグダムドは巨大なモンスターだが、こちらの動きに対応してきた。
軍隊というのはある意味、六欲天よりも大きいモンスターだ。
しかも頭があちこちにあって、他の相手とも戦っているから自由には動けない。
「奴ら、こっちが動いてるのには気付いてるけど反応できないみたいだな。まあ、敵から見たら俺たちなんか少人数の集まりだもんなー」
時折、相手の陣営に技を打ち込みながら移動する。
陣形から外れた俺が、遊撃みたいな感じで飛んでくる攻撃を次々ブロッキングするのだ。
ディフレクトは強いけど、ぎりぎりまで相手の攻撃を引き付けて受け止めるブロッキングの方が、視界が妨げられない。
俺はこっちの方が性に合うなー。
ほら、視界を保ってたら、こっちに近づいてくるクラスメイトらしきやつをすぐに発見できたぞ。
そいつは、元現代人らしからぬ精悍な印象の女子で、髪の毛をポニーテールにしていた。
空手着みたいなのを身に着けてるな。
体術使いか。
「多摩川……奥野くんだよね、あなた」
「いかにも。さあこいー」
俺は手四つという、力比べを挑むような体勢で彼女を待ち受けた。
俺は誰の挑戦でも受けるのだ。
かかってこいやー。
「私よ、日向マキ。覚えてるでしょ」
えっ。
「お、おぼ、覚えて……る、たぶん」
「オクノくん、これ絶対忘れてる顔だよ」
「オクノくんってあまり人の顔覚えないタイプよねえ」
「オクノ、知り合いだと思うけど、ちょっと他と反応が違わない?」
「オクノさん、騙されてはいけません。瞬殺しましょう」
「よし、裂空斬を使うか」
「イクサ待って! ステイ! ステイ!」
必殺モードに入ったイクサを留めてから、彼女に向き直った。
「覚えてない……」
「やっぱり……。だけど、そんな君だから一人だけ洗脳にかからなかったのかもね。お願いがあるの、多摩川くん」
「お願い?」
「私、日向マキはユート王国に降参します! 助けて……!!」
……罠では?
早い。
カリナはユート王国と敵対関係にある遊牧民だとかで、直接の協力は拒んでいる。
ということで、俺たち六人は王国からの指示もへったくれもない、自由に動いて好き勝手に呪法師シーマを暗殺する傭兵部隊なのだ。
「傭兵行為なら、わたしの部族もやってましたから。遊牧民はとても強い兵士になるんです」
ちょっと自慢げなカリナだ。
確かに、まだ若いカリナがかなり高い弓の実力を持っていたから、遊牧民というのはそっちの教育がしっかりしてるんだろう。
「さあオクノさん。戦場は高いところから眺めるのが大事ですよ。この距離なら矢や呪法も届きませんから」
カリナに先導されて、俺たちは戦場を見下ろせる木の上に陣取る。
木登りが苦手だったラムハとアミラは、ロープにくくりつけて引っ張り上げている。
「なるほど、戦場がかなり見える」
ユート王国とセブト帝国の戦争を眺めながら、俺は状況を分析した。
いやー、分析なんて大したものじゃないな。
ユート王国の動き、まんま陣形のそれだなーとか。
セブト帝国は本で読んだことあるような、錐状の陣形とか鶴翼の陣みたいなので戦ってる。
っていうか、セブト帝国の動きはゲームの三国志とか信長シリーズで見た陣形の動きまんまだな。
まるで日本人のプレイヤーが後ろで動かしてるみたいだ。
「見たことがない戦い方です……! 帝国は何をしてるんでしょうか」
「うん、あれは包囲殲滅陣って言ってな、なんか、ハンニバルが多数だったローマ軍に仕掛けた陣形なんだけど」
「意外……!! オクノさん、そういうのに詳しいんですね……!」
「ゲームで得た知識なのだ」
だけど、なんか動きに応用性とかがなくて、あまりにもまんまだぞ。
相手が普通の軍隊ならいいけど、ユート王国の陣形は魔法的な力を持っている。
特に両翼に広がった連中とか、無防備に見えて何気に守りの要だったりするからな。
あ、ほら!
両翼が押し負けた!
「ははーん。あれ、五花かクラスメイトのどいつかが後ろで糸を引いてるな? 軍師系のクラスの奴がいたんだろう」
「オクノ。お前がそこまで詳しいなら、お前が将軍にでもなって王国を指揮すればいいだろう」
「やだよー。俺シミュレーションはCPUに任せてじーっと眺めてるだけだったもん。これはお前の弟さんの方が得意だと思うよ。ほら、持ちこたえてる」
ユート王国の指揮をしているのは、トノス王子。
武術の腕は並らしいけど、軍略についてはとても優秀らしい。
腕っぷしはイクサ、頭はトノスと才能が分かれたんだな。
「だが、中央が持たんな。異常な強さの兵士がいる。オクノとともに召喚されたという異世界の戦士たちだろう。行くか?」
「よし、助けに行こう」
戦術とか戦略とか、そういうものはどうでもいいのだ。
俺たちはふわふわとした使命感みたいなものに従って動く……!
徒歩の俺たちは、激しくぶつかりあう戦場までトコトコと移動していった。
戦況は目まぐるしく動いているっぽいので、とりあえずこの辺が帝国かな? という辺りに攻撃を仕掛けてみる。
「ほーい、朱雀陣! 俺が囮になるのでやっておしまい!」
回復薬のアミラを後ろにつけて、残り四人の攻撃力をアップさせる陣形だ。
「よしっ! 裂空斬!!」
「風車ー!」
「アローレイン!」
「闇の衝撃!」
いきなり現れた俺たちから、強力な攻撃が放たれる。
一人ひとりの攻撃の威力が、多分二連携くらいまで上がってるので、普通の兵士だとひとたまりもないだろう。
帝国軍の一部で爆発が起こったり、闇の炎が上がったり、人が次々に吹き飛ばされたりして大混乱になった。
帝国もバカではないっぽく、俺たちが犯人だと気付いたようだ。
攻撃を仕掛けてくる。
これを……俺が次々とラリアットでなぎ倒していくわけだ……!
「さあ来いッ! しゃあっ!」
「ウグワー!?」
「おらあっ!」
「ウグワーッ!?」
「おららあっ!」
「ウグワーッ!?」
近づく帝国兵をラリアットで打ち倒し、その間にうちのパーティが帝国軍に損害を与えていく。
こういう感じでやってたら、クラスメイトの連中も出てくるかなー。
「軍の一部が混乱していると思ったら、てめえか多摩川! ……多摩川、だよな……? なんか俺よりもでかくなってないか?」
おっ、クラスメイトの一人が出てきたぞ。
一人でのこのこ出てくるとは、バカめ。
「色々鍛えたら大きくなったのだ。さあ勝負だ」
陣形の中心をアミラにまかせて、形は玄武陣にしておく。
守りの要をイクサとルリアにすれば、後衛の女子たちは大丈夫だろう。
「勝負だって……ばーか、多摩川! 俺が一人で来ると思ったのかよ!! 西子! ここだ! 狙撃しろ!!」
そいつが手を振ると、俺目掛けてものすごい勢いで何かが飛んできた。
矢かな?
ちょっと形が違うから、クロスボウの矢かもしれない。それのでっかいやつ。
「おっと、ブロッキング!」
防いだ。
体術が得意な俺にとって、ゼロ距離で敵の攻撃を受け止める技は重要なのだ。
「……へ? 攻城弩弓を受けて無事……?」
「そういう攻撃をしてくるやつはよくいる……。いや、いないか。まあいいや。ドロップキック!」
俺は助走とともに飛び上がり、クラスメイトをぶっ飛ばした。
「ウグワーッ!!」
地面と平行にぶっ飛んでいくクラスメイト。
背後にいた兵士たちを盛大に巻き込んだ。
一撃で吹き飛ばされるのは、体の鍛錬が足りないのでは?
「飛翔斬!」
「ウグワーッ」
遠くから叫び声がした。
イクサが、俺を狙撃したクラスメイトを倒したようだ。
「飛翔斬だからな。仕留められてはいまい。せいぜい、攻撃のタイミングを遅らせた程度だ」
イクサが冷静に戦況を分析する。
「位置は特定しましたから、あとはわたしが射撃で牽制します」
「頼むぞカリナ。ということで、相手を牽制しながら移動しまーす! ラムハ、闇の障壁で帝国が回り込んで来られないようにしておいて」
「ええ、分かったわ。でも、この人数で帝国軍とやり合うとは思ってもいなかったわねえ……。闇の障壁!」
陣形を使いながらじりじり移動する。
ダグダムド戦で編み出した戦法だ。
ダグダムドは巨大なモンスターだが、こちらの動きに対応してきた。
軍隊というのはある意味、六欲天よりも大きいモンスターだ。
しかも頭があちこちにあって、他の相手とも戦っているから自由には動けない。
「奴ら、こっちが動いてるのには気付いてるけど反応できないみたいだな。まあ、敵から見たら俺たちなんか少人数の集まりだもんなー」
時折、相手の陣営に技を打ち込みながら移動する。
陣形から外れた俺が、遊撃みたいな感じで飛んでくる攻撃を次々ブロッキングするのだ。
ディフレクトは強いけど、ぎりぎりまで相手の攻撃を引き付けて受け止めるブロッキングの方が、視界が妨げられない。
俺はこっちの方が性に合うなー。
ほら、視界を保ってたら、こっちに近づいてくるクラスメイトらしきやつをすぐに発見できたぞ。
そいつは、元現代人らしからぬ精悍な印象の女子で、髪の毛をポニーテールにしていた。
空手着みたいなのを身に着けてるな。
体術使いか。
「多摩川……奥野くんだよね、あなた」
「いかにも。さあこいー」
俺は手四つという、力比べを挑むような体勢で彼女を待ち受けた。
俺は誰の挑戦でも受けるのだ。
かかってこいやー。
「私よ、日向マキ。覚えてるでしょ」
えっ。
「お、おぼ、覚えて……る、たぶん」
「オクノくん、これ絶対忘れてる顔だよ」
「オクノくんってあまり人の顔覚えないタイプよねえ」
「オクノ、知り合いだと思うけど、ちょっと他と反応が違わない?」
「オクノさん、騙されてはいけません。瞬殺しましょう」
「よし、裂空斬を使うか」
「イクサ待って! ステイ! ステイ!」
必殺モードに入ったイクサを留めてから、彼女に向き直った。
「覚えてない……」
「やっぱり……。だけど、そんな君だから一人だけ洗脳にかからなかったのかもね。お願いがあるの、多摩川くん」
「お願い?」
「私、日向マキはユート王国に降参します! 助けて……!!」
……罠では?
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