ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第一部:始動編

26・俺、辺境伯領に到着する

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 ではユート王国へ行こうという話になった。
 帝国出身のアミラからすると、自由な国というイメージだし、ルリアの故郷でもある。
 だが、意外な男が嫌がった。

 俺以外の男なんて一人しかいない。
 イクサだ。

「事情があって、俺はユート王国には入りたくない」

「どういうことだってばよ」

「秘密だっ! かつて出奔した母国に戻るのが気恥ずかしいなどと言えるか!!」

「全部言ってるってばよ」

 事情はよくわかった。
 イクサが嫌なら、無理にとは言えまい。
 俺は人の心がわかる男なのだ。

 事情も聞かないぞ。
 イクサ本人が解決してもらいたがっているわけではなさそうだし。

 ……ということで。
 ユート王国の一部ではあるものの、領地が離れてて独自の権限を持っている、イーヒン辺境伯領というところに行くことになった。

「ここには知り合いがいてな。イーヒン辺境伯なら、俺のことを国に告げ口するまい」

 国に告げ口されるような立場の人間だったのか!!
 と思ったが何も言わないぞ。
 ルリアが何か言いたげに、唇をむずむずさせている。

 女子たちが一斉に、彼女の口を手で覆った。
 三人分の手なので、ルリアの顔を全部覆うことになっている。

「もがー! もがもがー!」

「ルリアが苦しがっている……! これこれ、村娘を解放してあげなさい」

「そう? じゃあオクノ、ルリアの発言はちゃーんと管理してね。舌禍って言って、争いはだいたい口から起こるのよ。この娘って口が軽いでしょう」

 ラムハから仕事を任されてしまった。

「ぶはー! く、苦しかったあ。死ぬかと思ったよう。みんなひどいよーう」

 ぜいぜい息をするルリア。

「ルリア、イクサは明らかに秘密を抱えてるっぽいが、そう言うのは自分が話すまではそっとしておくのがいいんだぞ」

 俺は優しく諭した。
 なぜか、ラムハとアミラとカリナが天を仰ぎ、「あちゃー言っちゃってるよー」って顔をしている。
 どうしたと言うんだ。

「そうなの? 根掘り葉掘り聞いちゃダメなの?」

「だめなのだ。イクサが話すまで待つのだ」

「そっかあ……うん、分かった!」

 ルリアもおバカではない……いや、おバカだな。だが、悪いおバカではない。良いおバカなのだ。
 理解してくれたようで助かる。

「話はついたようだな」

 横で聞いていたイクサが口を開いた。
 多分、俺とルリアの会話の内容をあまり理解してない。

「よし、ではイーヒン辺境伯領へ行こう。彼ならば俺たちに宿を提供してくれるだろう。それから目的について考えてもいい。自由気ままに正義を成しながら世界を旅するわけだからな」

 旅の目的ってそうだったっけ?
 そうじゃないとしても、もともと目的なんか無いので、イクサの言ってる通りでいいやと言うことにした。

 途中、ユート王国の外れで山越えをする駅馬車に出会い。
 これに乗る。
 で、トコトコと駅馬車が山道を行き、途中で出現したモンスターを俺たちが退治し、そのお蔭で運賃が安くなったりしながら順調に辺境伯領へと近づいていった。

 山頂に近いところに村があり、そこでお弁当を買った。
 山の上で食べるお弁当は格別だ。

「イクサはさ、ユート王国は嫌だっていうけど、辺境伯領ならいいわけ?」

「ああ。王国は平和の中で腐敗していて、邪神メイオーの復活すら問題にしていない。戯言だと思っている腑抜けばかりだ。だから俺は帝国に脱出して、そこで腕一本で名を挙げたのだ。だが、イーヒン辺境伯は違う。彼は平時から、ずっと王国を守り続けてきた西のかなめなのだ」

 その言葉からは、イクサがイーヒン辺境伯に寄せる信頼が感じ取れる。
 なるほど、王国防衛を担うイーヒン辺境伯は、イクサが好きな正義の味方というやつなのだ。
 同じ王国の人間でも、辺境伯だけは別というのはそういう理由だろう。

 だんだん、イクサの正体が分かってきた気がするぞ……!
 だけど詮索はしないからな!

「ちょっと失礼しますよ!!」

 そんな俺とイクサの間に、むぎゅむぎゅと無理やり入り込んでくるルリア。
 間に収まって、満足げな顔をしながら弁当を食べ始めた。

「なんだなんだ」

「どうしたどうした」

 俺たちの疑問を涼し気な顔で受け流し、彼女は弁当を食べきった。

「うーん、オクノくんとイケメンのイクサくんの間で食べるお弁当は格別ですなあ」

「なんという実利的な!! そんなんで俺たちの会話の間に入ってきたのか」

「それ以外に理由はないでしょ!」

「潔い……!」

 結局、ルリアの乱入で話はここまでとなった。
 旅を再開する。

 ミターケ山脈の中腹を、街道は走っている。
 ここを通って辺境伯領に行くのだが、馬車から見える光景がとにかく絶景なのだ。
 広がる森の緑。
 草原の緑。
 流れる大きな川の青。
 雲ひとつ無く晴れ渡る空。

「絶景かな、絶景かな」

 楽しい山越えは三日ほど続く。
 トイレとかはなかなか大変だったが、途中で慣れた。
 山の空気は乾燥しているから、放っておいても乾かしてくれる。

 うちの女性陣もたくましいので、その辺はすぐに慣れた。

 そして、いよいよ山の向こう。
 辺境伯領が見えてくる。

 灰色の城壁と湖に囲まれた、山城がある。
 見た感じ、山を一つ削り取った跡に作ったみたいで、ちょっと高いところに存在していた。

 領地の中は広く、畑や飼われているヤギの姿も見えた。
 自給自足なんだなあ。
 そりゃあ、こんな山の中、食べ物を運んでくるだけで一苦労だもんなあ。

 城壁から中に入る時、簡単な検問があった。
 身分証を提示したり、身体検査があったりする。

 女性の兵士なんていう気の利いたものはいないので、女子たちはぶうぶう不満を口にした。

「オクノくん以外にべたべたされたくなーい」

「ちょっと抵抗はあるわねえ」

「横暴です!」

「まあ、気持ちは分かるわね。私たちの中に、帝国のスパイがいたら大変だもの」

 結局、俺の立ち会いのもとで身体検査が行われることになったのだが……。

「彼女たちは俺の友人であり、パーティの仲間だ。検査の必要はない」

 イクサがこう宣言して、状況が変わった。
 兵士たちは彼を見るなり、一様に背筋を伸ばし、敬礼っぽいポーズをしたのだ。

「こ、これは……!!」

「ユート王国第一王子、イクサヴァータ殿下! よくぞお越しくださいましたーっ!」

 やはり……!!
 やはり王子だったかイクサ……!!

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