ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第一部:始動編

23・俺、女王アリと激闘す

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 勝負と決まったら、真っ先に動くやつがいるととても楽だ。

「うおおー!! 十六夜!」

 女王アリまで走っていって、思いっきり剣を振りかぶって溜めに入るやつとか。

「おーいイクサ、その技は隙が多すぎて……あっ」

 女王アリがイクサを、ぺちーんと弾き飛ばした。

「ぐわあーっ」

 吹っ飛んでいったな……!
 最近賢くなってきたと思っていたが、基本的にはおバカなのだ。
 イクサの戦線復帰まで、俺が前衛をやるとしよう!

「よし来い女王アリ! 俺が相手だ!」

『人間があああ!!』

 女王アリが叫びながら、口から何か吐き出す。
 うわ、ばっちい!
 だが、避けると後ろの女子たちに当たりそうだったのであえて動かない。

 びしゃっと掛かって、酸っぱい臭いがした。
 うへえ、これは酸かな?
 肌がチクチクする。

「オクノくん! 癒やしの水!」

 アミラが呪法を使うと、俺のダメージが癒やされていった。
 大変優れた回復なのだ。

 とりあえずこうして距離を取っていると、酸を吐きかけられてしまうな。
 近寄って戦闘しよう。

「ルリア、俺について来い!」

「ええ……。あんな化け物とやるの? 六欲天よりはマシだけど、でも超怖いんですけど」

「お前、前衛でしょー!? こいこいこーい!」

「はぁーい」

 渋々ついてくるルリア。
 俺と彼女の二人で、女王アリに立ち向かう。

『があああ!』

 振り下ろされる前足。

「ブロッキング!」

 俺はこいつを体で受け止める。
 腕を交差させてもいないので、普通に胸板で受けた感じだ。
 だが発動する。姿勢とか関係ないのな。ならば、両腕が自由になるから悪くないぞ。

「よっしゃ、腕をとった! フライングメイヤー!」

『おおおおっ!?』

 女王アリの巨体が宙を舞った。
 途中で蟻の穴の天井にぶつかって投げきれなかったが、こいつを浮かせることができるのだけは分かった。

「ほいほい、行くよー! 足払い!」

 姿勢を立て直した女王アリの足元を、ルリアが槍で薙ぎ払った。
 彼女とアリでは、赤ちゃんと大人くらいの体格差がある。
 しかも女王アリは六本足。普通に考えて、絶対に足払いなんか決まるわけがない。

 だが、ルリアの運の良さを舐めてはいけない……!
 偶然、アリの足が薙ぎ払い易い位置に全部固まっていたのだ!
 これを、足払いが一気に持っていく!

『ウグワー!!』

 女王アリが、すてーん!と転んだ。

「今だ! 連携、連携ー!!」

 俺が指示を出すと、ラムハとカリナが構えた。

「カリナから行こう!」

「はい! サイドワインダー!!」

 カリナが撃ち出した矢が、女王アリ目掛けて突き進む。

「闇の衝撃!」

 ラムハが呼び出した、漆黒の衝撃波が渦巻き、矢を追いかける。

「力の水!」

 アミラの呪法が俺に掛かって、なんかもりもりとパワーが湧いてきた。

「二段突き! オクノくーん、あたし、新しい技が欲しいなあ」

「お前連携の途中で話しかけるなよー!? うおおっ! エルボードロップ!!」

 次々に炸裂する技の最中、ルリアのおしゃべりに付き合ったお蔭でタイミングはギリギリ。
 だが、気合で間に合わせた俺は、締めのエルボーを女王アリに叩き込んだ。

『サイド闇の力の二段ドロップ』

「また適当な名前が響いてきたな」

 だが、この名前が長いということはそれなりの威力があるということでもある。

『ウグワーッ!!』

 女王アリは叫びながら、その体を自壊させていく。
 全身を覆う黒い甲冑がひび割れ、大顎は折れ、手足は千切れ飛び、巨大な腹は潰れ……。
 その下から、真っ白に輝く巨体が……。
 巨体が……!?

「なんかやべえぞ!!」

 俺はルリアを小脇に抱えた。

「きゃん!」

「みんな、撤収、撤収ー!!」

 俺は走り出した。
 背後では、倒れたはずの女王アリの中から、輝きながら何者かが出現するところだった。
 天井を食い破り、突き崩しながら、そいつは地上に向かって上がっていく。

 当然、アリの穴は崩れる。
 途中、イクサが戻ってくるところだった。

「どうしたのだ、オクノ。俺はこれからあのアリめに反撃を……」

「決戦は外になった!」

「なにっ!!」

 イクサは驚いたが、疑問を抱いたりするタイプではない。
 すぐさま納得し、俺たちとともに外へと飛び出した。

「オクノ、どういうことなの!? 倒したと思ったら、何かが出てきて……」

 ラムハに質問されるが、そんなん答えられるわけがない。
 俺だって意味が分からない。
 だが、恐らくこいつは……。

「脱皮しやがったんだ! っていうか、これから女王アリの本番なんだろ! だって俺、あいつとの戦いで閃いてないからな!」

 俺が閃かない。
 つまりそれは、相手が俺の強さに対してそこまでの脅威ではないことを表す。
 ってことは、女王アリは本気ではなかったわけだ。

「そんな……! そんなとんでもない化け物が私たちの暮らしていたフロンティアの地下にいたの……!」

 愕然とするアミラ。
 村長の家から飛び出した俺たちの背後で、地面が爆発した。
 地下にあったモンスターたちの巣窟みたいなものが、まるごと放り出されてくる。

 降り注ぐ土砂。
 それから、開拓地から回収された人間の持ち物らしきものたち。

 姿を現したのは、本気モードの女王アリ。

 複眼のついた人間のような姿になっていて、背中には羽が生えている。
 その全身は光り輝いていて。大きく裂けた口から蟻酸を垂らしていた。

『人間如きが、わらわをこのようなおぞましい陽の光のもとに連れ出すとは……! 許さぬ、許さぬぞ……! こうなればわらわが生み出す子で、世界を満たしてくれよう……!』

「ここから本番のようですねえ……」

 俺はしみじみ呟いた。
 だが、俺たちが遭遇した騒動はこれだけではなかったのだ。

「見つけたぞ! 伯爵領を襲った襲撃者め!!」

 聞き覚えのある声がした。

「誰だっけ……!」

 俺は振り返る。
 聞き覚えがあるのと、覚えているのはまた別なのだ。
 誰の声だったか思い出せない。

「多摩川くんか……!? 一回り大きくなっている……!」

「その名を知っているということは、お前もクラスメイトか!」

「僕を忘れたのか? 五花武志だ。君が犯した罪を裁きにやって来た。君は、決して許されない罪を重ねてしまったん──」

「今取り込み中なので後にしてもらっていい?」

 俺はアリに向き直った。
 んもー! この女王アリ無視してぺちゃくちゃやるとかありえないでしょー。

「五花くんを無視した!?」

「多摩川、てめえ!! 殺すぞ!」

「ありえねえー!!」

 後ろから飛んでくる罵声が大変うるさい。

「真空斬!」

 イクサが背後へ、無造作に真空の斬撃を放った。
 背後の連中は悲鳴を上げて、罵声どころではなくなる。

「助かる。外野がうるさいと戦いに集中できないよねー」

「ああ。ちなみにあいつらの中に、俺を襲った奴が混じっている。女王アリを片付けたら次は奴らだな」

「あ、豊田がいるの? オッケー」

 イクサの提案に、俺はゴーサインを出した。
 さあ、女王アリの後は、後ろの奴ら。
 予定は詰まっているぞ。

 いざ戦い開始……。

「あれは……!」

 アミラが頭上から落ちてくるものに気付いた。

「あれは、カールの剣!」

 カールというのは、アミラの元旦那の名前だったか。
 陽光を受けながら、剣が降ってくる。
 扱いやすそうな、片手用の剣だ。

 柄頭に、リボンが巻いてあった。
 アミラのリボンなんだと思う。

 俺はこいつをキャッチした。

「よし、アミラ。こいつであの女王アリを倒す」

「うん……! オクノくん、うん……!」

 三つ巴っぽくなった状態で、女王アリとの決戦だぞ。
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