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第一部:始動編
18・幕間・勇者と呪法師の思惑
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幕間。
ジョイップ伯爵領が何者かに襲撃され、壊滅的な打撃を受けたとの報は帝国中を駆け巡った。
そして即座に、召喚された勇者たちと呪法師が派遣された。
“高みの”シーマは、幼い娘にしか見えないが、年齢不詳の強大な呪法師である。
邪神メイオー復活を知った帝国は、高名な異端の呪法師たる彼女を呼び寄せ、勇者召喚の儀式を行わせた。
シーマは見事にこれを完遂し、24人の勇者を召喚したのだった。
この時、25人目の男がいたことは、隠されている。
「おうおう、ひどいありさまじゃなあ。六欲天がここで一匹死んだと言うなら、伯爵の屋敷跡がクレーターになっているのも頷けるのじゃ。奴め、地底湖の上に屋敷を作り、六欲天と繋がっておったとはのう」
シーマは呆れとも笑いともつかぬ表情をして、現場を検分している。
「これってもしかして、多摩川がやったんじゃ……」
シーマとともに来た勇者は五名。
うち一人は、勇者からの脱落者、多摩川奥野と交戦した豊田翔真である。
「間違いないぜ。あいつならこういう最悪なことをやる。あいつに北尾が殺されたんだからな!」
「美浦かわいそう……。こんな異世界で死ぬなんて、ほんとかわいそう」
二名の女子がしくしくと泣く。
そして、すぐにその表情は怒りに変わった。
「ほんと、多摩川の奴最低だよね。あいつ、もう殺人者じゃん。つまり悪人でしょ。うちらが殺さないと美浦がかわいそうだよ!」
論理としては破綻しているが、それを指摘する者はいない。
「ああ、そうだ! 北尾の仇を取ろうぜ! なあ、五花!」
豊田に声を掛けられ、その男は振り返った。
異世界にやって来た頃よりも、凄みを増し、怪しい美しさを身に着けた五花武志である。
「その通りだね。クラスメイトを手に掛けるなんて、彼は越えてはならない一線を踏み越えてしまった。僕たちの手で彼を倒すことが、この世界に対するけじめであり、北尾さんの魂を慰める方法なんだ」
「五花くん……!」
「そうだよ、五花くんの言う通りだよ」
「よしっ、やるぜ俺は! 北尾の仇を取るんだ!」
盛り上がる勇者たち。
呪法師シーマは、これは冷ややかな目で見ていた。
一見して、五花武志がそのカリスマによって勇者たちを従えているように見える。
だが、正確には違うのだ。
五花は新たなスキル、ステータス隠蔽を覚え、己の能力を仲間たちにも隠していた。
その能力を、シーマは知っている。
名前:五花武志
レベル:28
職業:勇者
力 :143
身の守り:121
素早さ :126
賢さ :157
運の良さ:109
HP275
MP249
剣9レベル
勇者魔法8レベル
統率8レベル
扇動12レベル
洗脳12レベル
ステータス隠蔽5レベル
言葉と行動と、そして身振りや仕草で人を魅了し、思考を操る。
さらに、五花と会話をした人間は一種の催眠状態になる。
五花を無条件で信じるようになり、彼の扇動をより強力に受けやすくなるのだ。
(勇者とはよく言ったものなのじゃ。この男、メイオー様と戦うよりも、人間を相手にしたほうがよほど強かろう。さて、いい手駒が手に入ったものじゃ)
内心で笑うシーマ。
彼女もまた、ただの呪法師ではない。
五花のステータス隠蔽を破り、その能力を正確に掴んでいるのは、シーマの持つ人を超えた魔力感知能力が故だった。
(せいぜい利用してやろうぞ、勇者たちよ。もっとも、五花武志は放っておいても、己の欲望を満たすために動き出すのじゃろうよ。世界が乱れれば乱れるほど、メイオー様は復活しやすくなる)
「ん? シーマ女史、どうされたんですか? 僕の顔をじっと見て」
「いやいや、なんでもないのじゃ! 恐るべき力を持った輩が、伯爵領近くをうろついておる。勇者たちの力を借りねばならぬじゃろうなあ。ささ、皇帝陛下に報告に帰るぞ」
「ええ、もちろんです。みんな」
五花が声を掛けると、勇者たちは彼に従って集まった。
今度は五花が、じっとシーマを見る。
そして、やや怪訝そうな顔になった。
「どうしたのじゃ?」
「いえ、別に」
(わしが洗脳にかからぬのが不思議と見える。ふん、馬鹿な小僧め。それは人間と低級なモンスターにしかかからぬわ。じゃが、迷わず人を洗脳にかかろうとする性根、実に良き!)
こうして、幾つもの思惑をはらみながら、勇者たちと呪法師はオクノが残した痕跡を確認したのである。
「へっくしょい!!」
俺は派手にくしゃみをした。
「うわっ」
ルリアが大げさに避ける。
ラムハが顔をしかめる。
「オクノ、風邪?」
「いや、違うと思うけど……どこかで女の子が俺の噂してるんじゃない?」
俺はお約束な事を口にした。
すると、即座に女子たち四人が首を横に振る。
「ないわね」
「ないねー」
「ないと思うわー」
「ないですね」
「お前らなー!?」
俺たちは今、帝国を脱出して次なる場所へ向かうところ。
特に目的もない旅なのだ。
次に何をしたっていい。
「オクノ、次の目的地だが、あてはあるのか?」
「うーん」
俺は考え込んだ。
無い。
「じゃあ……」
おずおずと、アミラが提案をしてきた。
「私の旦那が死んだ場所……。モンスタースタンピートで、みんなが逃げ出した開拓地を取り戻すっていうのはどう?」
「それだ!」
「それだ!」
俺とイクサの声がハモった。
こいつ、俺と考えることが同じだな……!!
「やはりお前も同じ考えだったか、オクノ。開拓地を救い、難民になった人々を元の場所に帰れるようにする。これこそ正義の行いだ」
「うむ。いいことをしてると気分もいいもんな。人さらい退治の次は、開拓地の開放と行くか!」
「おー!」
俺の決定に女子たちが応じ、やるべき事は決まるのだ。
開拓地は帝国から少し南。
かつてフロンティアと呼ばれた、赤土の大地。
ジョイップ伯爵領が何者かに襲撃され、壊滅的な打撃を受けたとの報は帝国中を駆け巡った。
そして即座に、召喚された勇者たちと呪法師が派遣された。
“高みの”シーマは、幼い娘にしか見えないが、年齢不詳の強大な呪法師である。
邪神メイオー復活を知った帝国は、高名な異端の呪法師たる彼女を呼び寄せ、勇者召喚の儀式を行わせた。
シーマは見事にこれを完遂し、24人の勇者を召喚したのだった。
この時、25人目の男がいたことは、隠されている。
「おうおう、ひどいありさまじゃなあ。六欲天がここで一匹死んだと言うなら、伯爵の屋敷跡がクレーターになっているのも頷けるのじゃ。奴め、地底湖の上に屋敷を作り、六欲天と繋がっておったとはのう」
シーマは呆れとも笑いともつかぬ表情をして、現場を検分している。
「これってもしかして、多摩川がやったんじゃ……」
シーマとともに来た勇者は五名。
うち一人は、勇者からの脱落者、多摩川奥野と交戦した豊田翔真である。
「間違いないぜ。あいつならこういう最悪なことをやる。あいつに北尾が殺されたんだからな!」
「美浦かわいそう……。こんな異世界で死ぬなんて、ほんとかわいそう」
二名の女子がしくしくと泣く。
そして、すぐにその表情は怒りに変わった。
「ほんと、多摩川の奴最低だよね。あいつ、もう殺人者じゃん。つまり悪人でしょ。うちらが殺さないと美浦がかわいそうだよ!」
論理としては破綻しているが、それを指摘する者はいない。
「ああ、そうだ! 北尾の仇を取ろうぜ! なあ、五花!」
豊田に声を掛けられ、その男は振り返った。
異世界にやって来た頃よりも、凄みを増し、怪しい美しさを身に着けた五花武志である。
「その通りだね。クラスメイトを手に掛けるなんて、彼は越えてはならない一線を踏み越えてしまった。僕たちの手で彼を倒すことが、この世界に対するけじめであり、北尾さんの魂を慰める方法なんだ」
「五花くん……!」
「そうだよ、五花くんの言う通りだよ」
「よしっ、やるぜ俺は! 北尾の仇を取るんだ!」
盛り上がる勇者たち。
呪法師シーマは、これは冷ややかな目で見ていた。
一見して、五花武志がそのカリスマによって勇者たちを従えているように見える。
だが、正確には違うのだ。
五花は新たなスキル、ステータス隠蔽を覚え、己の能力を仲間たちにも隠していた。
その能力を、シーマは知っている。
名前:五花武志
レベル:28
職業:勇者
力 :143
身の守り:121
素早さ :126
賢さ :157
運の良さ:109
HP275
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剣9レベル
勇者魔法8レベル
統率8レベル
扇動12レベル
洗脳12レベル
ステータス隠蔽5レベル
言葉と行動と、そして身振りや仕草で人を魅了し、思考を操る。
さらに、五花と会話をした人間は一種の催眠状態になる。
五花を無条件で信じるようになり、彼の扇動をより強力に受けやすくなるのだ。
(勇者とはよく言ったものなのじゃ。この男、メイオー様と戦うよりも、人間を相手にしたほうがよほど強かろう。さて、いい手駒が手に入ったものじゃ)
内心で笑うシーマ。
彼女もまた、ただの呪法師ではない。
五花のステータス隠蔽を破り、その能力を正確に掴んでいるのは、シーマの持つ人を超えた魔力感知能力が故だった。
(せいぜい利用してやろうぞ、勇者たちよ。もっとも、五花武志は放っておいても、己の欲望を満たすために動き出すのじゃろうよ。世界が乱れれば乱れるほど、メイオー様は復活しやすくなる)
「ん? シーマ女史、どうされたんですか? 僕の顔をじっと見て」
「いやいや、なんでもないのじゃ! 恐るべき力を持った輩が、伯爵領近くをうろついておる。勇者たちの力を借りねばならぬじゃろうなあ。ささ、皇帝陛下に報告に帰るぞ」
「ええ、もちろんです。みんな」
五花が声を掛けると、勇者たちは彼に従って集まった。
今度は五花が、じっとシーマを見る。
そして、やや怪訝そうな顔になった。
「どうしたのじゃ?」
「いえ、別に」
(わしが洗脳にかからぬのが不思議と見える。ふん、馬鹿な小僧め。それは人間と低級なモンスターにしかかからぬわ。じゃが、迷わず人を洗脳にかかろうとする性根、実に良き!)
こうして、幾つもの思惑をはらみながら、勇者たちと呪法師はオクノが残した痕跡を確認したのである。
「へっくしょい!!」
俺は派手にくしゃみをした。
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「いや、違うと思うけど……どこかで女の子が俺の噂してるんじゃない?」
俺はお約束な事を口にした。
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「ないねー」
「ないと思うわー」
「ないですね」
「お前らなー!?」
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特に目的もない旅なのだ。
次に何をしたっていい。
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「うーん」
俺は考え込んだ。
無い。
「じゃあ……」
おずおずと、アミラが提案をしてきた。
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「それだ!」
「それだ!」
俺とイクサの声がハモった。
こいつ、俺と考えることが同じだな……!!
「やはりお前も同じ考えだったか、オクノ。開拓地を救い、難民になった人々を元の場所に帰れるようにする。これこそ正義の行いだ」
「うむ。いいことをしてると気分もいいもんな。人さらい退治の次は、開拓地の開放と行くか!」
「おー!」
俺の決定に女子たちが応じ、やるべき事は決まるのだ。
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