ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第一部:始動編

16・俺、六欲天と遭遇する

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 伯爵の通り道だけあって、隠し通路はあっという間に踏破できた。
 伯爵め、俺たちに罠がある道を行かせて、自分はこんな楽なルートを通ってたとは!!
 あ、でも自分の持ち物なんだから当たり前か。

 俺の中でしおしおっと怒りが引いていったぞ。
 俺は人の気持ちになって考えることができる人間なのだ。

「オクノ、何を百面相している」

「っていうかずっと俺の顔見てたのかよ!」

 イクサのやつ、何を考えてるのかよく分からん男だ。

「えっ、オクノさんどんな顔してたんですか! わたしも前に行っていいですか」

「あーん、もう! カリナ、押しちゃだめよー」

 後ろでカリナとアミラがぎゅうぎゅうやってる。
 いや、確かカリナとラムハが至近距離にいたはずだから、女子三人が密着しているのか。
 俺はすっと目線だけで背後を見ようとした。

「カリナが前に行ったら、弓を使う隙間がなくなるでしょ。ちゃんと持ち場に戻って」

 ラムハが冷静に告げる。
 なんか自分も注意されてる気がしたので、俺は視線を正面に戻した。
 ラムハはちょこちょこ怖いな!

「あなたが死んだら、オクノだって悲しむでしょ」

 前言撤回だ。 
 ラムハは優しいなあ。
 継承の時にはおっぱい触らせてくれるし。

「オクノ、何を百面相している」

「だーかーらー! なんで俺の顔ずっと見てるんだよお前!」

 賑やかに、通路を駆け抜ける俺たちなのだった。





 すぐに終着地点はやって来た。
 通路の全てがぼんやり明るかったため、よく分からなかったのだが、気がつくと広い空間に俺たちは立っていた。

「地底湖か!」

 俺たちはちょっと高いところに立っていて、高台の下にはどこまでも続くような地底の湖が広がっていた。
 これ、領都全部を飲み込むくらいの大きさがあるぞ。

「な、何者だ!!」

 遠くから細い声が聞こえた。
 多分、ジョイップ伯爵だろう。

「いたな伯爵! 俺を裏切ったな、救世への反逆者め!!」

 イクサが吠えた。
 そしていきなり駆け出す。 
 本当にいきなりだな!?

「やばい、イクサが勝手に先走った。だがここは追いかけないでじっくり行こうと思うのだ」

 俺はマイペースで歩みを進めながら、女子たちに説明した。

「どうしてなの?」

 道が広くなっているから、後ろにいたルリアも前にやって来ている。
 むしろ、今まで後衛をさせられていた分を取り返そうとしてか、俺の隣まで無理やりやって来たようだ。

「それはな、あいつに合わせるとペースが乱れて、むしろお前らの方が危ないでしょ。足場とか。落ちるかもだし」

「おー」

 女子たちから納得した声が漏れた。

「それに、イクサは65レベルだ。まあ簡単に死なないだろうし、何かあったらアミラの回復呪法でどうにかしよう!」

「いい考えだと思うわ。イクサが戦っている間に、ジョイップ伯爵は行動を起こすに違いないわね。難民たちを生贄に使ったということは、何らかの儀式をしたのか、それとも生贄を捧げる何者かが存在したのかどちらかなのだから」

 生贄を捧げる相手……!
 その発想は今まで出てこなかった。
 そうか、だとすると、若い女たちを捧げられてきたボスモンスターみたいなのがこの地底湖にいるかも知れないということか。

 ボス戦……!
 ファンタジーな世界にやって来て、ファンタジー的なバトルには慣れてきた俺だったが、改めて考えると緊張してくる。
 これまで戦った奴らとは桁違いの相手と戦闘するかもしれないわけだ。

 だが待て。
 俺はほぼプロレス技しか閃いてないぞ。

 なんか凄いボスモンスター相手に、俺は肉弾戦を挑むのか?
 武器とか使わないの?
 技を閃いてないから素手のほうが強いぞ多分。

「うーん、うーん、まさか素手で戦うとは……。召喚された勇者とか、普通剣とか魔法で戦うんじゃないのか……」

「オクノくんがうなってる」

「武者震いでしょう」

「頼もしいわねえ」

 くそっ、女子たちが後ろに退けない空気を作ってくるぞ!
 これはもう前に出て戦うしかねえ。

 そして俺たちは、戦いが行われている現場に到着した。
 イクサは大暴れしており、伯爵の手勢と見られる兵士が何人も倒れている。

 だが、さすがは伯爵直属の兵士。
 切られたところから黒い鱗を発生させたり、両腕を鉤爪のついた大きな手に変えたりしてイクサと渡り合っている奴もいる。
 ……っていうかモンスターじゃん!!

「ええい! 邪神に魂を打ったな伯爵!!」

「何を言う! 邪神メイオーは全てを滅ぼす戦神だ! 我輩はメイオー降臨の際に生き残れるよう、この地に六欲天をお招きしたのだ!」

 六欲天?
 なんのこっちゃ。
 俺はさっぱり分からなかったが、これを聞いたルリア、アミラ、カリナは硬直した。

「マジ……!? や、やばい。ほんとならやばいよ!」

 いつもは脳天気なルリアが怯え始める。

「どういうこと?」

「私が説明するわね」

 女子たちの中で、唯一冷静なラムハが語り始める。

「六欲天は、モンスターたちの頂点と言われる六体の強大な怪物。神にも匹敵する力を持っていると言われるわ。かつて、邪神メイオーとともに世界を滅ぼしかけた彼の下僕なのだけれど、六欲天は最後の最後でメイオーを裏切った」

「裏切ったのか」

「裏切ったわ。だって、メイオーは最後は六欲天も滅ぼすつもりだったから。それに気付いた彼らは神々の側についた。六欲天を率いたのは、神によって選ばれた英雄コールだった。コールはメイオーを追い詰め、遥かな地の底で討ち果たしたのよ」

「なるほどー」

 つまり、六欲天というのは伝説にも出てくるような、めちゃめちゃ強大なモンスターということだ。
 伯爵の話が本当ならば、そりゃあ女子たちも震え上がるよな。
 少なくとも、これでルリア、アミラ、カリナは戦力外になった。

 伝説の存在を恐れすぎて、戦える状態じゃない。

「しゃーない、俺とイクサでやるかー」

「私もいるわよ」

 しれっと交じるラムハである。

「怖くないの?」

「たかが大きなモンスターでしょう? 怖くないと言ったら嘘になるけど、勝てないとは思ってない」

 強気!
 というか色々事情に詳しいから忘れてたけどこの女、記憶喪失だったな。
 六欲天に挑むのは、異世界から来たぼっちのプロレス技使い多摩川奥野、帝国最強の剣士にしておバカのイクサ、記憶が無いけど明らかにステータスが禍々しくてこれ絶対フラグだろって呪法使いラムハ。
 この三名なのだ。

 ろくでもねえな。

「わ、我輩を無視するなーっ!!」

 伯爵が青筋を浮かび上がらせて怒鳴った。

「オクノ、手を貸せ! さっさと雑魚を片付ける」

「おうさ!」

 異形化した伯爵の手下相手に、俺も参戦だ。

「何だとぉ……? 素手で戦場に入ってくるとはいい度胸ウグワーッ!!」

 何かクチャクチャと喋ってる奴に、俺はおもむろに組み付くと、両腕をロックして上から抱え込む。
 こいつを一旦背中に背負うようにしてから、そのままパワーボムの要領で地面に叩きつける!
 これぞ、サンダーファイヤーパワーボムなのだ!

 全身が甲殻に覆われていた兵士だが、流石に岩に叩きつけたらくちゃっと潰れた。
 カニみたいな肉が出てきたのでグロくない。

「よっしゃあ、次だ次!」

「くそっ、なんだこいつは!? 素手なのに強いウグワーッ!!」

 もう一人の足を取ると、俺は体を捻りながら相手を投げ飛ばす。
 ドラゴンスクリューである。
 転倒した兵士は、そのまま岩場から湖に転げ落ちていった。

「ウグワーッ!」

「しまった! 地底湖に落ちてはならーん!!」

 なぜか伯爵が、青ざめて絶叫した。

 すると、湖に大きな影が出現する。
 それは一気に浮上すると、その顎を開いて兵士に食いついた。

 そしてピタッと止まる。

『ウワーッ! ぺっぺ! 男じゃないか!! おいジョイップ伯爵!! お前舐めてるの? もしかして俺様を舐めてる?』

 やたらと饒舌な言葉が、怪物の口から溢れ出す。

「ひ、ひいーっ!! 申し訳ございませんウーボイド様ッ!!」

 ウーボイドと呼ばれたその六欲天が、俺たちの前に姿を表した。
 そいつは、ばかでかいイモリの怪物。
 足が六本あり、全身がぬめぬめとした粘液で覆われている。

 頭から尻尾までで、元の世界にあった六階建てのビルくらいの全長があるだろう。
 大体20m弱くらいか。
 でっけー。
 ガ◯ダム並のイモリかよ。

『俺様はね、人間の女を愛でるのが趣味なの。俺様はグルメだからね。女どもを俺様の巣でじっくり料理して、それから食べるのよ。その前にテイスティングするわけ。なのに、そこにどうして男の、しかも俺様の加護を受けた兵士を放り込むかなあ』

「ウーボイド様、こ、これには深い事情が……!! 悪いのは全て、侵入者どもでして……! どうか、どうか。我輩はウーボイド様の忠実な下僕なので、不老不死の命は取り上げないで……」

『ダメ。俺様怒ったよ。お前は殺すよ!』

 あーん、とウーボイドが大きく口を開いた。

「アギャー! お助けぇーっ!!」

 絶叫とともに、伯爵は巨大イモリに食べられてしまった。
 あ、いや。

 ウーボイドは伯爵を口に含んだかと思ったら、その辺りの岩壁にペッ!!と凄い勢いで吐き出した。
 伯爵は吹き飛んでいき、岩にぶつかって潰れてしまった。

『食べると思った? ばーか。俺様はグルメなの。お前みたいに年をとって体が腐った人間の男なんか絶対食わないってーの』

 ウーボイドはそう言うと、げらげらと笑った。
 そして、俺たちにギョロリと、その目を向ける。

 こいつ、血のように赤い目をしているのだ。
 その目が細められた。

『なーんだ、いるじゃん、女』

 イモリの舌が、だらりと外にこぼれ落ちてくる。
 後ろで、女子たちが悲鳴を上げた。
 なるほど、こりゃあ生理的嫌悪感を感じる相手だ。

 しかも、伝承にある最悪の怪物だとすれば、あの三人はとても戦えまい。

「よーし、ラムハ、イクサ。ここは俺たち三人で、伝説の化け物だってぶっ倒せるってところを女子たちに教えてやらんとな」

「ええ、もちろん」

「無論だ」

 全く恐れた様子のない俺たちを見て、ウーボイドが首を傾げた。

『あれえ……? 何、お前たち、やる気なの? そこの女を置いてどっか行けば見逃すよ? 俺様寛大だから。それともなに? 俺様とやるつも……』

 ここで選択肢です。

1・はい、じゃあ立ち去ります。
2・ヒャッハー! 特大イモリの黒焼きにしてやるぜェーッ!!

「ヒャッハー! 特大イモリの黒焼きにしてやるぜェーッ!!」

 火幻術をぶっ放しながら、俺はいきなりウーボイド目掛けて跳んだ。
 炎をまとったドロップキックが、奴の舌を焼きながら弾き飛ばす。

『オギャアアアアアアアッ!? おまっ、お前ーっ!? 不遜過ぎるだろーっ!!』

 舌を押さえてのたうち回るウーボイド。
 その前に降り立ち、かっこよく身構える俺。

 さあ、なんか伝説的な戦いの幕が上がるのだ。
 
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