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第一部:始動編
13・俺、伯爵邸にやってくる
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「怪我をしたかどうか確認!」
俺が指差しチェックする。
ルリアとアミラが怪我をしていた。
街中用の軽武装であったが訓練された兵士である、伯爵の部下と戦ったんだから当たり前だ。
むしろ、正面きって戦っていたルリアが、ちょっとした切り傷くらいで済んでいるのは奇跡かもしれない。
「あたし、運がいいから」
「そう言えばめちゃくちゃ運の良さが高いんだった!」
戦っている最中、ルリアは致命的な攻撃が来るところですっ転んで回避したり、ちょっと背中がかゆくて身を捩ったら、さっきまで体があった場所を矢が通り抜けていったりしたとか。
やべえ。
本当なら何回か死んでるじゃん。
ていうか、運の良さによる生き残りって確定で発生するのか?
もし、偶然生き残る、みたいなのが連続しただけだったらいつか死にそうではある。
「よしルリア、後で徹底的にレベル上げな……!!」
「ええーっ!? あたしだけ!?」
「俺は君に死んでほしくないの! あと、アミラも。二人ともまだレベル一桁だろ」
ルリアが頬を赤らめてくねくねしてる。
アミラは平然とした顔で、首を傾げた。
「そうねえ……。私の場合は回復呪法も使うから、オクノくんが一緒なら後衛になるかも」
確かに。
今回の二人が受けた傷は、アミラの水の呪法で癒やされている。
跡も一切残らない、完璧な回復だ。
例え死んでも、すぐにならアミラの呪法で癒せる。
逆にアミラが死んだらどうしようもない。
……ということは。
「アミラは後衛! 選手交代! カリナ、前衛訓練!」
俺の指示に、カリナが不服そうに頬を膨らませた。
「わたしは弓が武器なんですが! オクノさんは前線で弓を使えって言うんですか!」
「短剣スキルがあっただろ。そっちも鍛えよう! 今回みたいに俺がいなくなったら困るでしょ」
「それはそうですけど……」
ここでラムハが話に加わる。
「そうね。一芸に特化するのはいいけれど、オクノが抜けた今回、私たちはかなり危ない戦いになったわ。どれだけ彼に前衛を頼っていたかが分かると思う。私たちも、自衛の手段を考えよう」
説得力ある彼女の言葉に、女子一同がハッとする。
だが、そういうラムハこそが、闇の呪法一芸特化なのだ。
まあ、彼女の場合はそれ一本で自衛、援護、遠隔攻撃まで果たせるので問題ない。
「……ということは、オクノさん。わたしも弓を極めればこれだけで前衛もできるようになるのではないでしょうか!」
「とにかく短剣は使う気は無いと……! いいだろう、俺も協力しちゃうぞ」
やる気のある子は大好きだぞー!
ただ、今はあまり時間がない。
人狩り部隊の一部は逃げ出しているから、これから本隊を呼んで俺たちを叩き潰しに来るかも知れない。
そして何より、逃げ出したあいつらの跡を追えれば、人さらいの本拠地にたどり着けるはずなのだ。
「じゃあ、これで反省会終わりでいい? え、俺? いきなり核心を突く質問をして敵を呼び寄せた? ピンチの原因は俺?」
最後に、俺が取った選択肢について女子たちから叱られた。
ううむ、仲間の命も預かってるから、今度は慎重に選択をしないとな。
だけど俺が冷静に選択なんかできると思うか?
無理ではないかな!
傷を癒やして一休みして、気がついたら、俺がやっつけた豊田の姿が消えていた。
あいつ、生きていたのか。
こそこそと逃げ出したようだな。
あいつの防御は結構脅威なので、今度会ったら速攻で連携を叩き込んで瞬殺しよう。
「オクノ、さっきなんだけど。私たちの攻撃がひと繋がりになったような感覚があって、技と魔法の威力が跳ね上がったの」
「ラムハも気づいていたか。あれはな、連携だ」
「連携?」
人狩り部隊を追う道の途中だ。
俺たちは割と呑気に歩きながら、さっきまでの戦闘を振り返っている。
「つまり、誰かがまず攻撃を仕掛けた後、その流れに乗って俺たちが次々に攻撃を連続させていくコンビネーション攻撃ってこと。俺が見たところ、これをやると後に攻撃する奴ほど威力が上がるっぽい」
「ああ、それで私の闇の炎が、あの呪法使いを焼き尽くしたのね」
焼き尽くしたのかー。
怖いなー。
「オクノ、これは強力な攻撃だと思う。狙って出していけるのかしら」
「多分いける。みんなで息を合わせる必要があると思うから、要練習かな」
途中に割り込まれたりしたら、連携は途切れそうだ。
人狩り部隊みたいなザコ敵を排除しておく必要があるかもしれない。
「そうね。さっきいきなり使えるようになったんだもの。私たちの前に、オクノが同じようなことを幻の呪法で出したモンスターでやってたでしょ。まるで、オクノができるようになったから、私たちも使えるようになったみたい」
「そうなのかなあ」
「そうよ。あなたはこの世界に、新しい概念みたいなものを生み出していっているのかも知れない。だから、オクノはステータスだって人と違う。私はそう思うの」
「そうなのかなあ……。そんな気がしてきた」
ラムハは色々物を考えているなあ。
あまりに俺たちが真面目な話をしているので、ルリアが話しかけられないでいるじゃないか。
「それとオクノ。一つ確認。さっき戦った二人は、明らかにとても強かったわ。オクノの技を受け止められるなんて普通じゃない。逃げていった戦士は別として、倒した二人はもしかして、オクノの知り合いだったりしない?」
「クラスメイトなので、広い意味では知り合いだけど親しくはないよ」
「クラスメイト……? ああ、オクノって異世界から召喚されたんだっけ。そこでつまり、同じ部隊に所属してたみたいなもの?」
「そんな感じそんな感じ。それで、あいつら俺のことをバカにするし、こっちの世界に来たばっかりの時点で殺されかかったからな。再会したらまた殺しに来たので、反撃をしたまでなのだ……!」
まさか一人が消し炭になるとは思ってもいなかったけどな!
「そうなのね。じゃあ、やっちゃっても構わないわけね?」
「敵なら倒さなくちゃいけないからな。そうじゃないと殺しに来るし、俺は死にたくないし、お前らも死なせたくないし」
「オクノくん……!」
なんかルリアの声が聞こえる。
振り返ったら目をうるうるさせているではないか。
死なせたくないってのは、まさかルリアへのキラーワードなのか……!?
「うんうん、お姉さん、オクノくんのこともっと好きになっちゃうなあ」
「なかなかできた男なのです。いつでも婿に来ていいですよ」
むむむ、女子たちの間で俺の評価が上がっている……!
嬉しいけど解せぬ。
元の世界とこっちの世界で、俺の扱いに格差があり過ぎてくらくらするぞ。
「さあオクノ、気を取り直して。お出迎えが登場したわ」
到着したのは、ジョイップ伯爵の屋敷前。
完全武装の兵士たちが門前を固め、俺たちを睨んでいる。
「反逆者め!! 勇者二名を殺害し、ここまでやって来るとは……!!」
兵士たちの顔色には、緊張が見て取れる。
勇者……つまり、元クラスメイトの奴らをぶっ飛ばしたのは、とんでもないことだったらしい。
兵士たちの隊長が指示を下すと、何発かの矢が放たれてくる。
俺は最前列にいたので、ラムハを庇いながら矢を受けた。
すると、矢は俺に刺さらず、表面で弾かれてぽろぽろ落ちる。
「矢が効かない!? 化け物め!!」
これ、俺の素の防御力も上がってるってことだろうか。
多分だが、技Pが上がると、俺の身体能力が上がる。
術Pが上がると、俺の魔法能力が上がる、みたいな感じかもしれない。
「オクノさん。ここはわたしがやります」
俺の影から、ひょこっと現れるカリナ。
素早く矢をつがえると、空に向けて放った。
「アローレイン!」
連続で彼女が放つ矢は、雨のようになって兵士たちに降り注ぐ。
備えていなかった頭上からの射撃に、兵士たちが悲鳴を上げた。
ちなみに矢の数々は、俺のアイテムボックスから次々に供給している。
やがて、兵士たちは全身に矢を突き立てられ、倒れることになった。
「わたしの矢では命までは取れませんが、動けなくするならこれで充分です!」
「オッケー、バッチリだ!」
俺たちによる一方的な蹂躙だ。
圧倒的ではないか我が軍は。
「よーし、じゃあ突入!」
「おー!」
いよいよ人狩り部隊の本拠地、伯爵邸攻略だぞ!
俺が指差しチェックする。
ルリアとアミラが怪我をしていた。
街中用の軽武装であったが訓練された兵士である、伯爵の部下と戦ったんだから当たり前だ。
むしろ、正面きって戦っていたルリアが、ちょっとした切り傷くらいで済んでいるのは奇跡かもしれない。
「あたし、運がいいから」
「そう言えばめちゃくちゃ運の良さが高いんだった!」
戦っている最中、ルリアは致命的な攻撃が来るところですっ転んで回避したり、ちょっと背中がかゆくて身を捩ったら、さっきまで体があった場所を矢が通り抜けていったりしたとか。
やべえ。
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もし、偶然生き残る、みたいなのが連続しただけだったらいつか死にそうではある。
「よしルリア、後で徹底的にレベル上げな……!!」
「ええーっ!? あたしだけ!?」
「俺は君に死んでほしくないの! あと、アミラも。二人ともまだレベル一桁だろ」
ルリアが頬を赤らめてくねくねしてる。
アミラは平然とした顔で、首を傾げた。
「そうねえ……。私の場合は回復呪法も使うから、オクノくんが一緒なら後衛になるかも」
確かに。
今回の二人が受けた傷は、アミラの水の呪法で癒やされている。
跡も一切残らない、完璧な回復だ。
例え死んでも、すぐにならアミラの呪法で癒せる。
逆にアミラが死んだらどうしようもない。
……ということは。
「アミラは後衛! 選手交代! カリナ、前衛訓練!」
俺の指示に、カリナが不服そうに頬を膨らませた。
「わたしは弓が武器なんですが! オクノさんは前線で弓を使えって言うんですか!」
「短剣スキルがあっただろ。そっちも鍛えよう! 今回みたいに俺がいなくなったら困るでしょ」
「それはそうですけど……」
ここでラムハが話に加わる。
「そうね。一芸に特化するのはいいけれど、オクノが抜けた今回、私たちはかなり危ない戦いになったわ。どれだけ彼に前衛を頼っていたかが分かると思う。私たちも、自衛の手段を考えよう」
説得力ある彼女の言葉に、女子一同がハッとする。
だが、そういうラムハこそが、闇の呪法一芸特化なのだ。
まあ、彼女の場合はそれ一本で自衛、援護、遠隔攻撃まで果たせるので問題ない。
「……ということは、オクノさん。わたしも弓を極めればこれだけで前衛もできるようになるのではないでしょうか!」
「とにかく短剣は使う気は無いと……! いいだろう、俺も協力しちゃうぞ」
やる気のある子は大好きだぞー!
ただ、今はあまり時間がない。
人狩り部隊の一部は逃げ出しているから、これから本隊を呼んで俺たちを叩き潰しに来るかも知れない。
そして何より、逃げ出したあいつらの跡を追えれば、人さらいの本拠地にたどり着けるはずなのだ。
「じゃあ、これで反省会終わりでいい? え、俺? いきなり核心を突く質問をして敵を呼び寄せた? ピンチの原因は俺?」
最後に、俺が取った選択肢について女子たちから叱られた。
ううむ、仲間の命も預かってるから、今度は慎重に選択をしないとな。
だけど俺が冷静に選択なんかできると思うか?
無理ではないかな!
傷を癒やして一休みして、気がついたら、俺がやっつけた豊田の姿が消えていた。
あいつ、生きていたのか。
こそこそと逃げ出したようだな。
あいつの防御は結構脅威なので、今度会ったら速攻で連携を叩き込んで瞬殺しよう。
「オクノ、さっきなんだけど。私たちの攻撃がひと繋がりになったような感覚があって、技と魔法の威力が跳ね上がったの」
「ラムハも気づいていたか。あれはな、連携だ」
「連携?」
人狩り部隊を追う道の途中だ。
俺たちは割と呑気に歩きながら、さっきまでの戦闘を振り返っている。
「つまり、誰かがまず攻撃を仕掛けた後、その流れに乗って俺たちが次々に攻撃を連続させていくコンビネーション攻撃ってこと。俺が見たところ、これをやると後に攻撃する奴ほど威力が上がるっぽい」
「ああ、それで私の闇の炎が、あの呪法使いを焼き尽くしたのね」
焼き尽くしたのかー。
怖いなー。
「オクノ、これは強力な攻撃だと思う。狙って出していけるのかしら」
「多分いける。みんなで息を合わせる必要があると思うから、要練習かな」
途中に割り込まれたりしたら、連携は途切れそうだ。
人狩り部隊みたいなザコ敵を排除しておく必要があるかもしれない。
「そうね。さっきいきなり使えるようになったんだもの。私たちの前に、オクノが同じようなことを幻の呪法で出したモンスターでやってたでしょ。まるで、オクノができるようになったから、私たちも使えるようになったみたい」
「そうなのかなあ」
「そうよ。あなたはこの世界に、新しい概念みたいなものを生み出していっているのかも知れない。だから、オクノはステータスだって人と違う。私はそう思うの」
「そうなのかなあ……。そんな気がしてきた」
ラムハは色々物を考えているなあ。
あまりに俺たちが真面目な話をしているので、ルリアが話しかけられないでいるじゃないか。
「それとオクノ。一つ確認。さっき戦った二人は、明らかにとても強かったわ。オクノの技を受け止められるなんて普通じゃない。逃げていった戦士は別として、倒した二人はもしかして、オクノの知り合いだったりしない?」
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「そうなのね。じゃあ、やっちゃっても構わないわけね?」
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「オクノくん……!」
なんかルリアの声が聞こえる。
振り返ったら目をうるうるさせているではないか。
死なせたくないってのは、まさかルリアへのキラーワードなのか……!?
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「なかなかできた男なのです。いつでも婿に来ていいですよ」
むむむ、女子たちの間で俺の評価が上がっている……!
嬉しいけど解せぬ。
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「反逆者め!! 勇者二名を殺害し、ここまでやって来るとは……!!」
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勇者……つまり、元クラスメイトの奴らをぶっ飛ばしたのは、とんでもないことだったらしい。
兵士たちの隊長が指示を下すと、何発かの矢が放たれてくる。
俺は最前列にいたので、ラムハを庇いながら矢を受けた。
すると、矢は俺に刺さらず、表面で弾かれてぽろぽろ落ちる。
「矢が効かない!? 化け物め!!」
これ、俺の素の防御力も上がってるってことだろうか。
多分だが、技Pが上がると、俺の身体能力が上がる。
術Pが上がると、俺の魔法能力が上がる、みたいな感じかもしれない。
「オクノさん。ここはわたしがやります」
俺の影から、ひょこっと現れるカリナ。
素早く矢をつがえると、空に向けて放った。
「アローレイン!」
連続で彼女が放つ矢は、雨のようになって兵士たちに降り注ぐ。
備えていなかった頭上からの射撃に、兵士たちが悲鳴を上げた。
ちなみに矢の数々は、俺のアイテムボックスから次々に供給している。
やがて、兵士たちは全身に矢を突き立てられ、倒れることになった。
「わたしの矢では命までは取れませんが、動けなくするならこれで充分です!」
「オッケー、バッチリだ!」
俺たちによる一方的な蹂躙だ。
圧倒的ではないか我が軍は。
「よーし、じゃあ突入!」
「おー!」
いよいよ人狩り部隊の本拠地、伯爵邸攻略だぞ!
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