ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第一部:始動編

1・俺、追放される

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「こいつ、レベルがねえ! ステータスがおかしいぜ!」

 召喚された、森の中の魔法陣の上。
 クラスメイトが、俺を糾弾する声がした。
 異世界に召喚された俺たちのクラスは、この世界でやるべきこと、邪神メイオー討伐の説明を受け、お互いのステータスを確認しあっていたのだ。

 俺のステータスを見たそいつは、いきなりそんな事を言った。
 俺はクラスメイトたちのステータスを見る。
 みんなレベル1で、それぞれ戦士とか、斥候とか、呪法使いとか、職業が書いてある。
 それに、所持している武器スキルとか、隠密スキルとか、魔法スキルとか。

「ハハハ、俺のステータスが違うわけがない」

 俺は自分のステータスを展開してみる。
 目の前に広がった表示は、クラスメイトのものと全く違っていた。

 クラスメイトのものは、こう。

名前:明良川ゆずり
レベル:1
職業:呪法使い

力   : 8
身の守り: 7
素早さ :11
賢さ  :18
運の良さ:10

HP35
MP52

炎の呪法1レベル
水の呪法1レベル


名前:熊川来賀
レベル:1
職業:戦士

力   :17
身の守り:12
素早さ : 5
賢さ  : 5
運の良さ:15

HP73
MP11

斧使い1レベル
防御1レベル


 一見して、普通のRPGのような能力値だ。
 クラスメイトたちは、みんながみんなこうだった。
 では、満を持して俺のステータスの開陳である。

名前:多摩川 奥野

技P  :99/99
術P  :99/99
HP:120

アイテムボックス →


 なんやこれは────!!
 クラスの連中が12行はあるステータスなのに、俺は名前含めて5行!
 シンプルにもほどがある。

 技Pってなんだよ。術Pってなんだよ。
 スキルも何もなく、堂々とステータス下に鎮座するアイテムボックスって。

「こいつ……異常だぜ。レベルが無いって変だよ」

「そうだ、変だ。多摩川はやっぱりおかしい」

「多摩川、キモい」

 これは、クラスの中で俺の扱いとしてはいつも通り。
 人とのコミュニケーションが苦手で、好きなことになるとずっとべらべら喋ってしまうし、空気だって読めない……と周囲から評価されている。
 それが俺。

 だがこいつら、言うに事欠いて散々なことを言うな。
 人間、はみ出した奴を見つけると本性が出るのだ。
 俺を召喚した異世界の連中も、信じられないものを見るような目を向けてくる。

 主に、明らかに貴族という感じの立派なひげの男と、ひねくれた目付きをしたローブ姿の小柄な女が驚いている。
 そして二人はお互いを見つめ合うと……。

「こんなステータスは見たことがないのじゃ……! なんでこんなにシンプルなのじゃ! きさまーっ! 用意した触媒に不良が混じっていたのではないか!」

「なんだと!? 貴様こそ、皇帝陛下にどう報告するつもりだ! 召喚した異世界の勇者の中に、不良品が混じっていたとでも言うのか! 一人でも不良品がいれば、勇者たちの力に淀みが生じ、期待された力を発揮しなくなると言われているのだぞ!!」

「なにいっ、お前、わしの召喚呪法に文句をつけるのか! ちゃんと手順通りやったのじゃ! 文句をつけるのだったらお前がやればよかっただろう! お前ができないくせに、わしに文句をつけるな!!」

「なんだとー!! 呪法師風情が貴族の私に文句をつけるか! 許さんぞ!」

「地位もへったくれも無いわい!! こっちだって許さんぞ!! 似合ってないヒゲのくせに!!」

「黙れロリババア!!」

「「もがーっ!!」」

 今さらっと重要な設定を話しませんでしたかね?
 だが、こいつら取っ組み合いを始めてしまったので、質問ができなくなってしまった。

「おい、どうすんだよ多摩川!」

「そうだよ。多摩川が悪い!」

「多摩川謝れ! 謝って!!」

Whyホワイ?」

 詰め寄ってきたクラスの連中に、俺は肩をすくめて返した。
 これにはクラスメイト全員がカチンと来たようだ。

 ちなみにクラス連中を煽っている間にも、俺の脳細胞は猛烈に働いている。
 まず、俺だけステータスが違う。
 しかも意味が分からないステータスだ。

 クラスメイトと俺は今、同じクラスということでパーティ登録をしている。
 そのお蔭でステータスが見られるようだ。
 誰もが俺のステータスを見て、絶句している。

 で、貴族とローブの女は、特殊な魔法で俺のステータスを見たらしい。

 さて、これはどうしたものか。
 クラスでいつものこととは言え、俺がすっかり悪者ではないか。
 我がクラスには残念ながら、一人だけ俺の味方をしてくれる美少女……なんてものはいなかったのだ。

 と、大変ヤバい状況のここで、一人の男が状況の中心にやって来る。

「みんな、この状況はまずい。僕たちを召喚したらしい人たちが喧嘩をしてて、指示を仰ぐこともできない。これは、早急に問題を解決したほうがよくないか?」

 その声が上がると、クラスメイトは一斉に、声の人物に振り向いた。

五花いつか!」

「五花くん!」

 男子たちは、信頼できるクラスのまとめ役の登場に、安心感を。
 女子たちは、クラスで最も顔が良く、コミュニケーション能力に長け、そのうえ長身で家が裕福な彼に対しての信頼感を。
 俺は、「グエー終わった」と潰れたカエルのような断末魔を。

 五花武志(いつかたけし)。
 俺のクラスの中心的人物だ。
 俺以外の誰だって、彼の言うことは聞くだろう。

 先生にだって信頼されている。
 今度の生徒会長選挙に立候補するつもりらしく、彼なら間違いなく生徒会長に選ばれるだろう。

 五花は、俺をその切れ長な目で見つめる。

「多摩川くん。君がこの混乱の原因になっていることは分かっているだろう?」

「いえ?」

「多摩川! 五花くんに答えろよ! マジキモい!!」

 女子から罵声が飛んだ。
 ヒエー、俺との扱いの差!

 五花は、声を荒げたクラスメイトに、微笑みを向ける。

「これは、彼と話し合いをしてるんだ。君が怒る必要なんてないんだよ」

「五花くん……!!」

 女子生徒が、笑顔になって五花を見つめる。

 ヒエー! 俺との扱いの差!

「多摩川くん。君は責任を取らなくちゃいけない。それは分かるね?」

「お得意の吊し上げだな?」

 五花という男はこういう奴だ。
 周囲の空気を支配して、気に入らない奴、和を乱した奴を追い込んでいく。
 扇動というのかな。

 甘いマスクとよく通る声、生まれの良さがにじみ出た仕草で、誰もがこいつの言うことを聞いてしまう。

「悲しいな。いつも君とは会話にならない。だけど僕たちは、野蛮人じゃない。君を僕たちの意見だけで吊るし上げるのも間違っていると分かるよ。よし、民主主義で決めるんだ! 多数決をとろう!」


 五花の言葉に、クラスメイトたちが盛り上がった。
 異世界の連中は、五花の意図を察してクラスメイトに合流する。
 俺は、えっ、吊し上げと同じことじゃないですか? と思った。

 俺だけアウェーである。 
 絶対的アウェー。

「多摩川くんを許そうと思う人!」

 俺は手を挙げた。

「俺の挙手は千人ぶんなので俺の勝ち」

 一応言って見るだけ言ってみたが、当然のように無視される。

 ぷっ、くすくす……くくく……、とクラスメイトから笑いが漏れる。
 俺のネタが受けたのかな、と思ったが、よくよく考えたら俺を嘲笑っているだけだった。

 五花は、いたましそうな顔を作った。

「残念だ、多摩川くん。だけど、これも民主主義のルールなんだよ。仕方ない選択なんだ。では、多摩川くんが責任を取るべきだと思う人!」

 ここで、一斉にクラスメイトが挙手した。さらには、この場にいる異世界人たちも手を挙げる。貴族も魔法使いも、兵士もだ。
 みんなの視線が、俺に突き刺さる。
 一見して、俺に同情的なように見えた五花は、この瞬間に態度を豹変させた。
 氷の彫像のように、冷たい顔になり、

「とても……とても残念だよ。多摩川くん。君は責任を取らなければならない。責任の取り方は……この世界の流儀に従うべきだろうね」

 五花は振り返り、貴族と魔法使いの女を見た。

「すみません。僕たちの仲間がとんでもないことをしでかしてしまって。ですが、彼は責任を取ると言っています。これは僕たち全員の総意でもあります。どうか、彼を罰してあげて下さい」

「おお。そうか! それならば話が早いな。そう、ステータスの異常な者など、この場にはいなかった! そうだ。そうだな、呪法師!」

「うむ。そう、その通りじゃ。全てそやつが悪い」

「よし、お前ら。そこの、それ。そいつだ。そいつを殺せ」

「はっ」

 貴族が従えていた、兵士たちが動き出した。
 みんな、俺に向かってくる。
 そいつらは、槍をこっちに向けている。

「ヒエッ、殺す気か!」

 俺が叫ぶと、クラスメイトたちがドッと笑った。
 ゾッとする俺。
 お前ら、これは洒落にならないだろ。笑ってる状況じゃない。

 だが、誰も止めないし、罪悪感を顔に浮かべている奴もいない。
 この場で悪者にされた俺が処罰されることで、物事がみんな丸く収まる。
 そういう状況なのだ。

「おい、逃げるなよ多摩川!」

 俺の両腕を、クラスメイトの男子たちが取り押さえようとする。
 もうこうなれば、俺も必死である。
 死ぬ気はない。

 こいつらの結束を高めるための生贄になれ?
 お前らはそれで、悲しい事件だったねー。でもお蔭でみんなが一つになったねーって言うのだろうが。
 では、生贄になってそのみんなに加われなかった俺はどうなるのだ。

 俺をまるで透明な、いないみたいな扱いにして、こいつらは充実した異世界ライフを楽しむのでは?
 これが怒らずにいられようか。
 とくに五花は絶対後で泣かす。

 こいつ、俺を貴族に売り渡して殺させることで、自分の価値をこの世界で高めるつもりなのだ。

「うおお! やらせはせんぞ、やらせはー!!」

 俺はクラスの男の腕を振り払った。 
 その瞬間である。
 
 俺の頭上に、ピコーンという音とともに、電球みたいなものが光り輝いた。
 なんだこれ!?

『ジャイアントスイング』

 技の名前が、俺の頭上に表示されたのが分かる。
 俺はクラスメイトの足を取ると、「な、何しやがる多摩川ウグワーッ」そのまま両脇に抱えて持ちあげて振り回す。

「お、おいこら抵抗するなウグワーッ!?」

 近寄ってきた兵士は、持っていた槍を回転するクラスメイトでへし折られ、自分もジャイアントスイングに巻き込まれて吹っ飛ぶ。
 俺は次々に兵士をぶっ飛ばし、クラスメイトをなぎ倒しながら進んだ。

「お、おいあいつを止めろ呪法師!!」

「じゃがあやつ、勇者の一人を人質に!!」

 貴族も魔法使いも手出しはできないようだ。
 最後に五花が立ちふさがった。

「よすんだ多摩川くん!! これ以上罪を重ねるつもりウグワーッ!!」

 話をしている最中の五花目掛けて、クラスメイトをぶん投げた。
 ミサイルのようにぶっ飛んだクラスメイトを喰らい、ぶっ倒れる五花。

「こんな危険な場所にいられるか! 俺は逃げるぞ!!」

 俺は憤然としながら宣言した。
 そして、全速力で逃走を開始する。

「多摩川くん、なんてことを……! そしてこの力は……!」

 五花のうめき声が聞こえた。
 最後に奴のステータスを見る。



名前:五花武志
レベル:1
職業:勇者

力   :15
身の守り:10
素早さ :18
賢さ  :20
運の良さ:18

HP63
MP55

勇者魔法1レベル
統率1レベル
扇動1レベル


 扇動の勇者か。
 こいつにピッタリだ。
 ここで、俺はクラスからパーティ登録を解除されたらしい。
 誰のステータスも見られなくなった。

 まあいい。
 俺を殺そうとした連中など仲間でもなんでもない。

 さようなら、クソッタレなクラス!
 こんにちは、異世界!

 こうして、異世界キョーダリアスにおける、俺の冒険が始まったのだ。
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