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第31話 再びタッグの聖女!
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その日の朝。
サウザン帝国の空全体がスクリーンになった。
映し出されるのは、神々しい輝きを放つアルカイックスマイルの人物。
神である。
「おお、神様……!」
「神様が空に……! ありがたや、ありがたや……」
誰もが天を仰ぎ、拝んだ。
神をこの目にできるなど、よほど高位の僧侶でなければ叶わぬことだと言われていたからだ。
それがどうだろう。
ここ数日前からのことである。
サウザー教の戒律が停止された。
帝国による、統治も停止している。
当然のように治安が乱れた。
だが、どこからかやって来た、翼を持つ人々がこれを止めた。
彼らは皆、STAFFと書かれたTシャツに身を包んでいた。
『ここで暴れますと試合が開始できません!』
『皆さんご静粛にー!』
彼らは天使であった。
天使は光る短い棒を手にし、暴徒を鎮圧した。
具体的にはおとなしくなるまで叩いた。
『ご静粛にィーッ』
『神がァーッ! 静かにしろとーッ! 言っておられるのですゥーッ!』
『諸君が! 大人しくするまで! 我々は! 殴るのをやめないッ!!』
天使の威容と暴力に、人々は屈した。
「勝手な事をすると、神様がお怒りになるのだ」
「わしらは罰を与えられているのだ……!」
誰もが嘆き悲しんだ。
だが、これは神による天罰などではなかった。
むしろ、メインイベントを盛り上げるための演出なのであった。
人々を抑圧し、鬱屈した感じにしておきながら、試合でドバーッと発散するみたいなことを神は考えていたのである。
一旦仕事をし始めるとろくなことをしない神である。
しかし今回は、このろくでもないことが良い方向に働いた。
人々は確かに鬱々として日々を過ごし、お陰で帝国は平和そのものだった。
故に、試合当日。
空に浮かび上がった神の顔に、人々は驚き、そして頭を垂れたのである。
あの暴力的な羽が生えた人、本当に天使だった……!! と。
『皆、空を見上げよ。本日は記念すべき日である』
神はおごそかに言った。
『人とモンスターが争い合い、多くの犠牲者を出している。具体的には、村をモンスターに奪われて都会に出てきたが、ろくな仕事がなくて未来が見えなくなっている者や、人々を守るためにモンスターと戦ったものの、思ったよりも褒めてもらえなくて承認欲求が満たされず、ウツになるならず者などだ』
かなり具体的である。
『だが、人もまたモンスターの住処を奪ってきた。モンスターに行くところはもう無い。故に、モンスターは魔王を立て、奪われた土地を奪い返しに来た』
「そうだったのか……!」
人々が初めて知る、人とモンスターの戦争の真実。
これらは全て、サウザー教と帝国によって隠されてきたのである。
『人とモンスターは互いに憎み合っている。これは容易には解決できない感情だ。故に……神は人とモンスターから代表者を選び出し、戦わせて、その結果を決着とすることにした』
「なんだって!? 俺達の代表ってのは誰だ!」
「勝手に代表を名乗るなんて! 聞いてないよ!」
わあわあと騒ぐ人々。
『ちなみに今から代表になる気があるなら神はそなたらを戦場へ連れて行く。お前とかお前とかお前とか』
神はマジレスした。
騒いでいた人々は、自分達がいきなり当事者になったので、真っ青になって黙った。
『では、人の代表たる二人の聖女を紹介しよう……』
画面が神の顔からバンして、別の場面を映し出す。
それは、広大なる平原に作られた、サウザン帝国の国旗が描かれた四角い舞台だった。
舞台の四方にはそれぞれ柱が立ち、赤、白、青、白の順に並んでいる。
「ありゃあ、なんだ……?」
『説明しよう!!』
誰かの呟きに、神が応えた。
『これこそは聖戦の舞台! リングである!! 即ち、リングで行われる戦いは全て聖戦! 世界のあり方を決める、世界で最も重要な戦いなのだ! それでは赤コーナー!! 188センチー! 101キロー! ノーザン王国からやって来たチョップの聖女ー! 救国の英雄ー! 聖女ー、アンーゼリーカーッ!!』
映し出された、純白の衣に身を包む、金髪に金色の瞳の美女。
だが……でかい!
彼女は、名を呼ばれると同時に衣を脱ぎ捨てる。
その下から、白と金色のレオタードに似た戦闘衣装が現れた。
鍛え抜かれた肉体。
流れる金色の髪。
まさしく、それは聖女であった。
ウワアアアアアーッと沸き返る帝国の人々。
「あっ、あの女! 巨大化して宮殿で金剛僧兵をぶっ倒したやつだ!」
「聖女アンゼリカ! なんて神々しいんだ……!!」
アンゼリカの存在感と美しさ、そして溢れ出るカリスマに、人々は魅了される。
誰も、いきなり神の口調がアナウンサー的になった事になど気づかない。
あまりにも自然な変化であった。
『サウザン帝国からも聖女が参戦ーっ!!』
「な、なんだと!?」
「ま、まさか」
ざわめく帝国臣民。
彼らにとって、聖女とはただ一人の称号であった。
彼女は最も低い階級から現れ、聖女となってすべての階級を超越した。
一年に一度のサウザー教の集会で、大僧正に足四の字固めを掛けてギブアップさせた姿は、人々の目に今も焼き付いている。
『白き覆面は民のためッ!! 183センチ、94キロー! サウザン帝国、新生サウザー教代表ッ! もう説明は不要でしょう! 救世の乙女、聖女ーッデストロイーヤーッ!!』
白い覆面の聖女が、アンゼリカの傍らに立つ。
黒地に白いラインが入った、セパレートタイプの戦闘衣装だ。
鍛え抜かれた褐色の肌が、陽光を受けて輝く。
ウワアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
帝国全土が沸き返る。
来た、来てくれた!
我らの聖女が来てくれた!!
サウザー教が静かになってしまい、信仰はどうなるのか心配だった国民達。
だが、彼女がいれば何も心配することはない。
聖女デストロイヤー。
彼女こそが、サウザン帝国の聖女であり、英雄なのだ。
『さて、次は青コーナー……!』
盛り上げるような口調から打って変わって、神は重々しく告げた。
『彼女こそが、迫害されていたモンスターの救世主。言うなれば……闇の聖女と言えましょう! 188センチー! 111キロー!! 誰が彼女を産み出してしまったのか! それはモンスターを追い詰め、自らの繁栄のみを考えてきた人間達ではないのかーっ!! 黒き翼を以て、闇の聖女は今、リングに舞い降りたーッ!! 全てのモンスターを救う使命を胸に、戦う魔王! ゴーティリアーッ! 略してゴッチーッ!』
青コーナーに闇が生まれた。
ボンテージ風の戦闘衣装に身を包んだ、黒い翼と角を持つ、危険な魅力を放つ美女。
魔王ゴッチ。
人々は初めて、モンスターの首魁である魔王を目にした。
あまりの事に、誰も声を出せない。
帝国中が沈黙に包まれる……と思いきや。
画面の向こうから、ウオオオオオオオオオオオ!!という大歓声が響き渡った。
誰の声か!
それは、モンスター達の叫びであった。
己の主である魔王が、モンスターの主権を勝ち取るために今、リングの上に立っている!
『ゴッチ! ゴッチ! ゴッチ! ゴッチ!』
ゴッチコールが巻き起こった。
画面からだけではない。
帝国のあちこちからも、この声は聞こえてくるではないか。
人々に紛れてスパイ活動を行っていたモンスターも、闇に潜んでいたモンスターも姿を現し、モンスターの未来を勝ち取らんとする盟主、魔王ゴッチの勇姿に声援を送っているのだ!
『ここで、モンスター側にリザーバーです。聖女二名と魔王一名ではハンデが過ぎる……。故に! ここでっ! ウエスタン合衆国から緊急参戦!! 合衆国が誇る精強なる州軍を、神の業プロレスで一蹴! 人もモンスターも、悪しき者は平等に叩きのめす! 俺が正義だ! 俺が法だ! 殺人狂、死神、墓場の死者、さまよえる亡者、世紀の殺し屋、地獄の大統領ッ!! 198センチー!! 120キロー! 聖女コワルスキーッ!!』
その名を知る国民はいない。
モンスターもだ。
だが、映し出された彼女を見て、誰もが言葉を失った。
でかい。
大柄な聖女達の中にあって、一層大きい。
そして放たれるあの強烈な圧迫感はなんだ。
コワルスキーが、とんでもなく大きく見える……!!
銀をベースに、血の色を思わせる赤の差し色が入った戦闘衣装。
まるで刃のように、見たものを切り裂くような鋭い目つき。
彼女の登場で、帝国がどよめきに包まれた。
『この聖戦は60分1本勝負。実況は神。解説は聖伯領よりお招きしました鉄人テーズさんでお送りします』
「どうも」
『待て、神!! なぜテーズが来ているのだ! 余は聞いていないぞ!!』
なぜか、焦った風なゴッチの叫びが聞こえるのだった。
サウザン帝国の空全体がスクリーンになった。
映し出されるのは、神々しい輝きを放つアルカイックスマイルの人物。
神である。
「おお、神様……!」
「神様が空に……! ありがたや、ありがたや……」
誰もが天を仰ぎ、拝んだ。
神をこの目にできるなど、よほど高位の僧侶でなければ叶わぬことだと言われていたからだ。
それがどうだろう。
ここ数日前からのことである。
サウザー教の戒律が停止された。
帝国による、統治も停止している。
当然のように治安が乱れた。
だが、どこからかやって来た、翼を持つ人々がこれを止めた。
彼らは皆、STAFFと書かれたTシャツに身を包んでいた。
『ここで暴れますと試合が開始できません!』
『皆さんご静粛にー!』
彼らは天使であった。
天使は光る短い棒を手にし、暴徒を鎮圧した。
具体的にはおとなしくなるまで叩いた。
『ご静粛にィーッ』
『神がァーッ! 静かにしろとーッ! 言っておられるのですゥーッ!』
『諸君が! 大人しくするまで! 我々は! 殴るのをやめないッ!!』
天使の威容と暴力に、人々は屈した。
「勝手な事をすると、神様がお怒りになるのだ」
「わしらは罰を与えられているのだ……!」
誰もが嘆き悲しんだ。
だが、これは神による天罰などではなかった。
むしろ、メインイベントを盛り上げるための演出なのであった。
人々を抑圧し、鬱屈した感じにしておきながら、試合でドバーッと発散するみたいなことを神は考えていたのである。
一旦仕事をし始めるとろくなことをしない神である。
しかし今回は、このろくでもないことが良い方向に働いた。
人々は確かに鬱々として日々を過ごし、お陰で帝国は平和そのものだった。
故に、試合当日。
空に浮かび上がった神の顔に、人々は驚き、そして頭を垂れたのである。
あの暴力的な羽が生えた人、本当に天使だった……!! と。
『皆、空を見上げよ。本日は記念すべき日である』
神はおごそかに言った。
『人とモンスターが争い合い、多くの犠牲者を出している。具体的には、村をモンスターに奪われて都会に出てきたが、ろくな仕事がなくて未来が見えなくなっている者や、人々を守るためにモンスターと戦ったものの、思ったよりも褒めてもらえなくて承認欲求が満たされず、ウツになるならず者などだ』
かなり具体的である。
『だが、人もまたモンスターの住処を奪ってきた。モンスターに行くところはもう無い。故に、モンスターは魔王を立て、奪われた土地を奪い返しに来た』
「そうだったのか……!」
人々が初めて知る、人とモンスターの戦争の真実。
これらは全て、サウザー教と帝国によって隠されてきたのである。
『人とモンスターは互いに憎み合っている。これは容易には解決できない感情だ。故に……神は人とモンスターから代表者を選び出し、戦わせて、その結果を決着とすることにした』
「なんだって!? 俺達の代表ってのは誰だ!」
「勝手に代表を名乗るなんて! 聞いてないよ!」
わあわあと騒ぐ人々。
『ちなみに今から代表になる気があるなら神はそなたらを戦場へ連れて行く。お前とかお前とかお前とか』
神はマジレスした。
騒いでいた人々は、自分達がいきなり当事者になったので、真っ青になって黙った。
『では、人の代表たる二人の聖女を紹介しよう……』
画面が神の顔からバンして、別の場面を映し出す。
それは、広大なる平原に作られた、サウザン帝国の国旗が描かれた四角い舞台だった。
舞台の四方にはそれぞれ柱が立ち、赤、白、青、白の順に並んでいる。
「ありゃあ、なんだ……?」
『説明しよう!!』
誰かの呟きに、神が応えた。
『これこそは聖戦の舞台! リングである!! 即ち、リングで行われる戦いは全て聖戦! 世界のあり方を決める、世界で最も重要な戦いなのだ! それでは赤コーナー!! 188センチー! 101キロー! ノーザン王国からやって来たチョップの聖女ー! 救国の英雄ー! 聖女ー、アンーゼリーカーッ!!』
映し出された、純白の衣に身を包む、金髪に金色の瞳の美女。
だが……でかい!
彼女は、名を呼ばれると同時に衣を脱ぎ捨てる。
その下から、白と金色のレオタードに似た戦闘衣装が現れた。
鍛え抜かれた肉体。
流れる金色の髪。
まさしく、それは聖女であった。
ウワアアアアアーッと沸き返る帝国の人々。
「あっ、あの女! 巨大化して宮殿で金剛僧兵をぶっ倒したやつだ!」
「聖女アンゼリカ! なんて神々しいんだ……!!」
アンゼリカの存在感と美しさ、そして溢れ出るカリスマに、人々は魅了される。
誰も、いきなり神の口調がアナウンサー的になった事になど気づかない。
あまりにも自然な変化であった。
『サウザン帝国からも聖女が参戦ーっ!!』
「な、なんだと!?」
「ま、まさか」
ざわめく帝国臣民。
彼らにとって、聖女とはただ一人の称号であった。
彼女は最も低い階級から現れ、聖女となってすべての階級を超越した。
一年に一度のサウザー教の集会で、大僧正に足四の字固めを掛けてギブアップさせた姿は、人々の目に今も焼き付いている。
『白き覆面は民のためッ!! 183センチ、94キロー! サウザン帝国、新生サウザー教代表ッ! もう説明は不要でしょう! 救世の乙女、聖女ーッデストロイーヤーッ!!』
白い覆面の聖女が、アンゼリカの傍らに立つ。
黒地に白いラインが入った、セパレートタイプの戦闘衣装だ。
鍛え抜かれた褐色の肌が、陽光を受けて輝く。
ウワアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
帝国全土が沸き返る。
来た、来てくれた!
我らの聖女が来てくれた!!
サウザー教が静かになってしまい、信仰はどうなるのか心配だった国民達。
だが、彼女がいれば何も心配することはない。
聖女デストロイヤー。
彼女こそが、サウザン帝国の聖女であり、英雄なのだ。
『さて、次は青コーナー……!』
盛り上げるような口調から打って変わって、神は重々しく告げた。
『彼女こそが、迫害されていたモンスターの救世主。言うなれば……闇の聖女と言えましょう! 188センチー! 111キロー!! 誰が彼女を産み出してしまったのか! それはモンスターを追い詰め、自らの繁栄のみを考えてきた人間達ではないのかーっ!! 黒き翼を以て、闇の聖女は今、リングに舞い降りたーッ!! 全てのモンスターを救う使命を胸に、戦う魔王! ゴーティリアーッ! 略してゴッチーッ!』
青コーナーに闇が生まれた。
ボンテージ風の戦闘衣装に身を包んだ、黒い翼と角を持つ、危険な魅力を放つ美女。
魔王ゴッチ。
人々は初めて、モンスターの首魁である魔王を目にした。
あまりの事に、誰も声を出せない。
帝国中が沈黙に包まれる……と思いきや。
画面の向こうから、ウオオオオオオオオオオオ!!という大歓声が響き渡った。
誰の声か!
それは、モンスター達の叫びであった。
己の主である魔王が、モンスターの主権を勝ち取るために今、リングの上に立っている!
『ゴッチ! ゴッチ! ゴッチ! ゴッチ!』
ゴッチコールが巻き起こった。
画面からだけではない。
帝国のあちこちからも、この声は聞こえてくるではないか。
人々に紛れてスパイ活動を行っていたモンスターも、闇に潜んでいたモンスターも姿を現し、モンスターの未来を勝ち取らんとする盟主、魔王ゴッチの勇姿に声援を送っているのだ!
『ここで、モンスター側にリザーバーです。聖女二名と魔王一名ではハンデが過ぎる……。故に! ここでっ! ウエスタン合衆国から緊急参戦!! 合衆国が誇る精強なる州軍を、神の業プロレスで一蹴! 人もモンスターも、悪しき者は平等に叩きのめす! 俺が正義だ! 俺が法だ! 殺人狂、死神、墓場の死者、さまよえる亡者、世紀の殺し屋、地獄の大統領ッ!! 198センチー!! 120キロー! 聖女コワルスキーッ!!』
その名を知る国民はいない。
モンスターもだ。
だが、映し出された彼女を見て、誰もが言葉を失った。
でかい。
大柄な聖女達の中にあって、一層大きい。
そして放たれるあの強烈な圧迫感はなんだ。
コワルスキーが、とんでもなく大きく見える……!!
銀をベースに、血の色を思わせる赤の差し色が入った戦闘衣装。
まるで刃のように、見たものを切り裂くような鋭い目つき。
彼女の登場で、帝国がどよめきに包まれた。
『この聖戦は60分1本勝負。実況は神。解説は聖伯領よりお招きしました鉄人テーズさんでお送りします』
「どうも」
『待て、神!! なぜテーズが来ているのだ! 余は聞いていないぞ!!』
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