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第24話 二人の聖女
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サウザン帝国の帝都に入ってきた。
双子の兵士と聖女一行の後ろには、帝国の軍隊が続いている。
はからずも、凱旋行進のようになっていた。
帝国の兵士達は、尊敬の眼差しで聖女を見つめている。
たった一人、魔王軍の中に飛び込んだ聖女。
一切の武器を用いず、拳と投げ技だけでそれを打ち倒し、さらには和解して見せたのだ。
あれは、兵士達が知る戦争とは全く違うものだった。
「聖女様、さすがです……!」
魔導バイクの横を馬で走るのは、帝国の将軍ゴビンである。
「真の聖女というものは、やはり凄まじいものなのですな……。あまりこの国ではおおっぴらには言えませんが、生まれつきの地位ばかりを強調する僧侶どもにも見習ってほしいものです」
「サウザー教の教えですね」
「はい。階級は五つに分かれ、僧侶、王族、戦士、平民、奴隷となります。我ら戦士階級はまだ良いのですが、奴隷ともなれば人としての扱いはされません。ですが、聖女デストロイヤーの話はご存知ですかな? 彼女はなんと、奴隷階級から現れたのです。そして圧倒的な腕力……ゴホン、法力によって僧侶階級へと上り詰めた……。本来ならばありえぬことです」
「聖女デストロイヤー。それほどの方なのですね。楽しみです」
穏やかに言うものの、聖女の全身からは闘気のオーラが煙のように立ち上っている。
聖女はやる気である。
なんなら出会い頭に試合が始まりかねない。
「ええ。我々も、我が聖女と異教の聖女が一堂に会するのが楽しみでもあり……怖くもありますね」
正しい、とシーゲルは思った。
かくして、帝都の中をバイクが走る。
サウザン帝国帝都、ザクサーンはとても賑やかだ。
多くの商店が軒を並べ、人々が途切れもせずに行き交う。
王国よりも遥かに人口が多い帝国の、力というものを見せつけられる思いである。
「人々に笑顔がありますね。栄えている証拠です」
「はい。聖女様がその豪腕……ゴホン、人徳で、政治に介入する僧侶たちの足を折り……ゴホン、説得してくださったお陰です」
「お会いするのが楽しみです」
聖女アンゼリカが実にいい笑みを浮かべる。
それを見て、将軍はスーッと背筋が冷えた。
ヒッ、やられる……!みたいな感覚である。
ちなみに、先行する双子の兵士は気楽なものである。
ミーナが「おなかすいたー」と言うので、二人は屋台の揚げパンを買ってくれたりする。
「うわあ、ありがとうー!!」
「はっはっは、聖女様のお付きの方を空腹でいさせるわけにはいきません」
「帝都ザクサーンの揚げパンはほっぺたが落ちますよ」
「おおおいしー!! あまーい! お砂糖が振ってあるー!!」
ミーナが幸せそうにあげパンを頬張る。
それを、羨ましそうに見るシーゲル。
ちょっと前までの彼なら、ヒャッハーと発して屋台に襲いかかっていた事だろう。
だが、今は誇りある聖女の付き人なのだ。
節度を持たねばならない。
「シーゲル、私達も揚げパンを食べましょう」
「ほほほ、本当ですか聖女様!? ヒャッハー!!」
喜ぶシーゲル。
ということで、一行は揚げパンを食べながら、トロトロと走り帝国の宮殿へと向かうのだった。
「ノーザン王国より参りました。聖伯にして、聖女、アンゼリカと申します」
アンゼリカが立ち上がり、華麗に王国流の礼をして見せる。
「おお、美しい」
宮殿を守る兵士達は息を呑み、「でもでけえなあ」「うちの聖女様と変わんねえぞ」とか言いながら扉を開けてくれた。
聖女とは即ち、他国の僧侶階級である。
最大限の敬意を払うのが帝国流であった。
ザクサーンの宮殿は、まるで黄金で作られたかのように綺羅びやかだ。
巨大な門を潜った後、広大な庭園に出る。
そこここに泉が作られ、南国の草木が色とりどりの花を咲かせている。
ミーナはこれらを、ポカーンとして眺めていた。
「すごいねえ……。お城の中に、大きなお花畑がある……」
「とんでもねえ財力だぜ……。ここに比べたら、王国なんざ貧乏国家だ」
「人の数、資源の数、重ねてきた歴史。どれをとっても、サウザン帝国は素晴らしいものです。だからこそ、魔王軍という脅威が現れても持ちこたえられていると言えましょう」
実際、国力が足りぬために、空白地帯に手出しできなかったのがノーザン王国である。
サウザン帝国の力があるならば、空白地帯を一挙に占領し、そのまま世界を征服してしまうことも可能ではないかと、シーゲルは思えた。
「こりゃあ、王国は勝てませんねえ」
シーゲルの素直な気持ちの発露に、アンゼリカが首を横に振った。
「そうでもありません。強大すぎるが故、この国は一枚岩ではないのです。人を救うはずの神の教えが、政治の道具となっているのですよ」
「へえ……」
難しいことはシーゲルにはよく分からない。
だが、聖女がそう言うならそうなのだろう。
そんな彼らの前に立ち塞がる者がいた。
この国の法衣なのだろう、黄色く染められた衣を纏う男達である。
「おい、止まれ!」
双子の兵士が、ちょっとイラッとした顔をしつつ足を止めた。
「なにゆえ……なにゆえ~、他国の僧侶を宮殿に入れたのだあ? そやつらは神敵なるぞお!!」
甲高い声で叫ぶのは、鶏ガラのように痩せた男だ。
その横には、全身を宝飾品にまみれさせたでっぷり太った男がいる。
「即刻、その者らを処刑せよ! これは最高階級、僧侶からの命令である!!」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
双子の兵士が呻いた。
「その後、宮殿に神敵を招いたお前達も処刑だ! 全く馬鹿者め!! ここは我らの宮殿だぞ? ねえ、大僧正様」
「フォッフォッフォッフォッフォ」
でっぷり太った男が笑った。
「な、何を言ってやがるあの野郎!」
怒るシーゲル。
だが、それに反応してか、大僧正の後ろからムキムキに鍛えられた巨漢の僧侶が何人も現れる。
「おお、やる気だな神敵め!! ここにいるのは、あの忌々しき聖女に対抗するために我らが教えの秘儀を尽くして作り上げた金剛僧兵! こやつらならば、いかな聖女と言えど瞬殺よ! その金剛僧兵に抗う気か! ヒャハハハハハ! やれるものならやってみよ!」
甲高い声で、鶏ガラ僧侶が笑った。
その笑いがピタリと止まる。
眼前にいる大柄な女、聖女と見られる者から、目に見えるほど濃厚な闘気が立ち上ったからである。
一瞬、煙かと思った。
だが違う、煙は光り輝いたりなどしない。
「私の半身のパトロンにも、あなた方のような者がいました。どこにでも現れるのですね。あれは半身も悪いところがたくさんありましたが、今は状況が違います」
「な、何を言っている!!」
「やりましょう、と申し上げているのです。さあ、どこからでもかかっておいでなさい」
双子兵士をやんわりと押しのけて、「ぬおおっ」「我々がまるで紙細工のように跳ね飛ばされた!」アンゼリカが前進する。
「ぬおう!!」
金剛僧兵が全身に血管を浮かび上がらせて吠えた。
どうやら理性があまりないらしい。
戦闘力に全てを振っているのだ。
「来ないと言うならば……私から行きましょう!」
アンゼリカが走り始める……と思った瞬間だ。
「トォーッ!!」
掛け声が響く。
それを聞くと、僧侶たちの顔が一斉に青ざめ、全身が硬直した。
「き、来ました!」
「馬鹿な、今は庭の草に水をやっている時間ではないのか!」
「あの奴隷女め、調子に乗りおって!」
威勢のいい事を言う僧侶たちだが、膝が笑っている。
金剛僧兵達は、想定されている相手との会敵が近いことを察し、唸り声を上げた。
「来ますか、デストロイヤー……!」
どこからか、音楽が鳴り響く。
この世界にはありえぬ、強烈な音楽である。
これが、かつて彼がいた世界で、覆面の聖女と同じ名を持つレスラーの入場曲なのだと、誰も知らない。
だが、直感的に理解できた。
Undercover Of The Night がどこからか流れる中、覆面の聖女が降臨した。
真っ白な覆面に、鍛え抜かれた体躯を輝くサリーで覆っている。
あの二の腕の太さを見よ。
サリーの上からでも分かる、全身の筋肉の起こりは何だ。
「うおおおーっ!!」
何故か天井から降り立った彼女は、金剛僧侶の前に立つ。
「久しぶりね。こちらでの名前は違うのだろうけど、あたしはこっちに来たアイツの名前を使ってる」
「デストロイヤー。会えて嬉しいですよ。ではここは」
「タッグマッチね」
二人の聖女が肩を並べる。
この二人を前に、意思を持たぬはずの金剛僧侶が震える。
根源的な恐怖の震えだ。
「な、何をしている金剛僧侶ども!! お前達にはサウザー教全ての秘儀が詰まっている! サウザー教最強の強化僧侶なんだぞ!!」
「や、やれい! 殺せ! フォフォー……ウグワーッ!!」
一瞬の事である!!
聖女に襲いかからんとした金剛僧侶の眼前に、揃えられた足の裏があった。
聖女デストロイヤー。
生前の全盛期には、誰よりも高く跳ぶと言われた彼女のドロップキック。
それが再現されていた……!!
金剛僧侶の顔面に炸裂する、ハイアングルで美しいドロップキック!
「ウグワーッ!!」
金剛僧侶は一撃で意識を吹き飛ばされ、その体も吹き飛ばされ、後ろにいた大僧正を巻き込んで吹き飛ばされ、大僧正の取り巻き達もまとめて吹き飛ばされ「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」
「ゴングは鳴ったんだろう? さあ、挨拶のドロップキックくらいでおねんねしてるんじゃないよ。あんた達のガッツを今度こそ見せてよ」
宮殿にて!
聖女アンゼリカ、聖女デストロイヤータッグvs金剛僧侶軍団!
突発の変則タッグマッチが始まってしまうのである!
双子の兵士と聖女一行の後ろには、帝国の軍隊が続いている。
はからずも、凱旋行進のようになっていた。
帝国の兵士達は、尊敬の眼差しで聖女を見つめている。
たった一人、魔王軍の中に飛び込んだ聖女。
一切の武器を用いず、拳と投げ技だけでそれを打ち倒し、さらには和解して見せたのだ。
あれは、兵士達が知る戦争とは全く違うものだった。
「聖女様、さすがです……!」
魔導バイクの横を馬で走るのは、帝国の将軍ゴビンである。
「真の聖女というものは、やはり凄まじいものなのですな……。あまりこの国ではおおっぴらには言えませんが、生まれつきの地位ばかりを強調する僧侶どもにも見習ってほしいものです」
「サウザー教の教えですね」
「はい。階級は五つに分かれ、僧侶、王族、戦士、平民、奴隷となります。我ら戦士階級はまだ良いのですが、奴隷ともなれば人としての扱いはされません。ですが、聖女デストロイヤーの話はご存知ですかな? 彼女はなんと、奴隷階級から現れたのです。そして圧倒的な腕力……ゴホン、法力によって僧侶階級へと上り詰めた……。本来ならばありえぬことです」
「聖女デストロイヤー。それほどの方なのですね。楽しみです」
穏やかに言うものの、聖女の全身からは闘気のオーラが煙のように立ち上っている。
聖女はやる気である。
なんなら出会い頭に試合が始まりかねない。
「ええ。我々も、我が聖女と異教の聖女が一堂に会するのが楽しみでもあり……怖くもありますね」
正しい、とシーゲルは思った。
かくして、帝都の中をバイクが走る。
サウザン帝国帝都、ザクサーンはとても賑やかだ。
多くの商店が軒を並べ、人々が途切れもせずに行き交う。
王国よりも遥かに人口が多い帝国の、力というものを見せつけられる思いである。
「人々に笑顔がありますね。栄えている証拠です」
「はい。聖女様がその豪腕……ゴホン、人徳で、政治に介入する僧侶たちの足を折り……ゴホン、説得してくださったお陰です」
「お会いするのが楽しみです」
聖女アンゼリカが実にいい笑みを浮かべる。
それを見て、将軍はスーッと背筋が冷えた。
ヒッ、やられる……!みたいな感覚である。
ちなみに、先行する双子の兵士は気楽なものである。
ミーナが「おなかすいたー」と言うので、二人は屋台の揚げパンを買ってくれたりする。
「うわあ、ありがとうー!!」
「はっはっは、聖女様のお付きの方を空腹でいさせるわけにはいきません」
「帝都ザクサーンの揚げパンはほっぺたが落ちますよ」
「おおおいしー!! あまーい! お砂糖が振ってあるー!!」
ミーナが幸せそうにあげパンを頬張る。
それを、羨ましそうに見るシーゲル。
ちょっと前までの彼なら、ヒャッハーと発して屋台に襲いかかっていた事だろう。
だが、今は誇りある聖女の付き人なのだ。
節度を持たねばならない。
「シーゲル、私達も揚げパンを食べましょう」
「ほほほ、本当ですか聖女様!? ヒャッハー!!」
喜ぶシーゲル。
ということで、一行は揚げパンを食べながら、トロトロと走り帝国の宮殿へと向かうのだった。
「ノーザン王国より参りました。聖伯にして、聖女、アンゼリカと申します」
アンゼリカが立ち上がり、華麗に王国流の礼をして見せる。
「おお、美しい」
宮殿を守る兵士達は息を呑み、「でもでけえなあ」「うちの聖女様と変わんねえぞ」とか言いながら扉を開けてくれた。
聖女とは即ち、他国の僧侶階級である。
最大限の敬意を払うのが帝国流であった。
ザクサーンの宮殿は、まるで黄金で作られたかのように綺羅びやかだ。
巨大な門を潜った後、広大な庭園に出る。
そこここに泉が作られ、南国の草木が色とりどりの花を咲かせている。
ミーナはこれらを、ポカーンとして眺めていた。
「すごいねえ……。お城の中に、大きなお花畑がある……」
「とんでもねえ財力だぜ……。ここに比べたら、王国なんざ貧乏国家だ」
「人の数、資源の数、重ねてきた歴史。どれをとっても、サウザン帝国は素晴らしいものです。だからこそ、魔王軍という脅威が現れても持ちこたえられていると言えましょう」
実際、国力が足りぬために、空白地帯に手出しできなかったのがノーザン王国である。
サウザン帝国の力があるならば、空白地帯を一挙に占領し、そのまま世界を征服してしまうことも可能ではないかと、シーゲルは思えた。
「こりゃあ、王国は勝てませんねえ」
シーゲルの素直な気持ちの発露に、アンゼリカが首を横に振った。
「そうでもありません。強大すぎるが故、この国は一枚岩ではないのです。人を救うはずの神の教えが、政治の道具となっているのですよ」
「へえ……」
難しいことはシーゲルにはよく分からない。
だが、聖女がそう言うならそうなのだろう。
そんな彼らの前に立ち塞がる者がいた。
この国の法衣なのだろう、黄色く染められた衣を纏う男達である。
「おい、止まれ!」
双子の兵士が、ちょっとイラッとした顔をしつつ足を止めた。
「なにゆえ……なにゆえ~、他国の僧侶を宮殿に入れたのだあ? そやつらは神敵なるぞお!!」
甲高い声で叫ぶのは、鶏ガラのように痩せた男だ。
その横には、全身を宝飾品にまみれさせたでっぷり太った男がいる。
「即刻、その者らを処刑せよ! これは最高階級、僧侶からの命令である!!」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
双子の兵士が呻いた。
「その後、宮殿に神敵を招いたお前達も処刑だ! 全く馬鹿者め!! ここは我らの宮殿だぞ? ねえ、大僧正様」
「フォッフォッフォッフォッフォ」
でっぷり太った男が笑った。
「な、何を言ってやがるあの野郎!」
怒るシーゲル。
だが、それに反応してか、大僧正の後ろからムキムキに鍛えられた巨漢の僧侶が何人も現れる。
「おお、やる気だな神敵め!! ここにいるのは、あの忌々しき聖女に対抗するために我らが教えの秘儀を尽くして作り上げた金剛僧兵! こやつらならば、いかな聖女と言えど瞬殺よ! その金剛僧兵に抗う気か! ヒャハハハハハ! やれるものならやってみよ!」
甲高い声で、鶏ガラ僧侶が笑った。
その笑いがピタリと止まる。
眼前にいる大柄な女、聖女と見られる者から、目に見えるほど濃厚な闘気が立ち上ったからである。
一瞬、煙かと思った。
だが違う、煙は光り輝いたりなどしない。
「私の半身のパトロンにも、あなた方のような者がいました。どこにでも現れるのですね。あれは半身も悪いところがたくさんありましたが、今は状況が違います」
「な、何を言っている!!」
「やりましょう、と申し上げているのです。さあ、どこからでもかかっておいでなさい」
双子兵士をやんわりと押しのけて、「ぬおおっ」「我々がまるで紙細工のように跳ね飛ばされた!」アンゼリカが前進する。
「ぬおう!!」
金剛僧兵が全身に血管を浮かび上がらせて吠えた。
どうやら理性があまりないらしい。
戦闘力に全てを振っているのだ。
「来ないと言うならば……私から行きましょう!」
アンゼリカが走り始める……と思った瞬間だ。
「トォーッ!!」
掛け声が響く。
それを聞くと、僧侶たちの顔が一斉に青ざめ、全身が硬直した。
「き、来ました!」
「馬鹿な、今は庭の草に水をやっている時間ではないのか!」
「あの奴隷女め、調子に乗りおって!」
威勢のいい事を言う僧侶たちだが、膝が笑っている。
金剛僧兵達は、想定されている相手との会敵が近いことを察し、唸り声を上げた。
「来ますか、デストロイヤー……!」
どこからか、音楽が鳴り響く。
この世界にはありえぬ、強烈な音楽である。
これが、かつて彼がいた世界で、覆面の聖女と同じ名を持つレスラーの入場曲なのだと、誰も知らない。
だが、直感的に理解できた。
Undercover Of The Night がどこからか流れる中、覆面の聖女が降臨した。
真っ白な覆面に、鍛え抜かれた体躯を輝くサリーで覆っている。
あの二の腕の太さを見よ。
サリーの上からでも分かる、全身の筋肉の起こりは何だ。
「うおおおーっ!!」
何故か天井から降り立った彼女は、金剛僧侶の前に立つ。
「久しぶりね。こちらでの名前は違うのだろうけど、あたしはこっちに来たアイツの名前を使ってる」
「デストロイヤー。会えて嬉しいですよ。ではここは」
「タッグマッチね」
二人の聖女が肩を並べる。
この二人を前に、意思を持たぬはずの金剛僧侶が震える。
根源的な恐怖の震えだ。
「な、何をしている金剛僧侶ども!! お前達にはサウザー教全ての秘儀が詰まっている! サウザー教最強の強化僧侶なんだぞ!!」
「や、やれい! 殺せ! フォフォー……ウグワーッ!!」
一瞬の事である!!
聖女に襲いかからんとした金剛僧侶の眼前に、揃えられた足の裏があった。
聖女デストロイヤー。
生前の全盛期には、誰よりも高く跳ぶと言われた彼女のドロップキック。
それが再現されていた……!!
金剛僧侶の顔面に炸裂する、ハイアングルで美しいドロップキック!
「ウグワーッ!!」
金剛僧侶は一撃で意識を吹き飛ばされ、その体も吹き飛ばされ、後ろにいた大僧正を巻き込んで吹き飛ばされ、大僧正の取り巻き達もまとめて吹き飛ばされ「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」
「ゴングは鳴ったんだろう? さあ、挨拶のドロップキックくらいでおねんねしてるんじゃないよ。あんた達のガッツを今度こそ見せてよ」
宮殿にて!
聖女アンゼリカ、聖女デストロイヤータッグvs金剛僧侶軍団!
突発の変則タッグマッチが始まってしまうのである!
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